第30話Break Down World(幸せな未来)ー1
「ソラ、遅かったね」
「あ、流花。まあね」
「準備は終わってるわよ。もうみんなも集めておいたから」
そう言って流花は去って行く。それを見てソラは思った。
(流花には兄さんのことは黙っておこう。自分を救ってくれた相手が、この世界を諦めて、未来の世界に行くために、世界を滅ぼそうとしている……なんて知ったらツライだろうし。流花が白仮面と出会う前に、僕が兄さんを説得して、元の兄さんに戻せばいいんだ)
ソラはそう決意する。そして今、自分がすべきことを見据えて壇上を見た、そこにはソラが言って流花に用意して貰った様々な放送用の装置がセットされている。そこを目指し、ソラは壇上に上がった。
ソラは周囲に立つ、この支部の地球防衛軍兵士達を見渡すと。セットされたマイクに向かって語り出す。
「地球に住む。地球人のみんな。この放送が聞こえているかい? 僕は地球防衛軍日本支部三軍。英雄部隊と呼ばれた部隊の、部隊長をやっている、ソラ・アオヌマだ」
☆☆☆
その放送は地球防衛軍のインフラを使い、全国に放送されていた。
『地球に住む。地球人のみんな。この放送が聞こえているかい? 僕は地球防衛軍日本支部三軍。英雄部隊と呼ばれた部隊の、部隊長をやっている、ソラ・アオヌマだ』
誰もがその放送に気付き、耳を傾ける。
『現在、地球は危機的状況にある。対話の通じない異星人、エルロイドの侵略……それにより、各地は戦火に巻き込まれ、多くの命が無慈悲に失われた。何も知らない一般人も、守ろうと立ち向かった軍人も、隣に立つ友も、共に過ごした家族も、愛した相手も、奴らは僕たちの守りたいものを次々と奪っていった』
人々は失った仲間を思い浮かべ、涙を流す。
『だが、そんな状況にあっても、僕たち地球人には何も出来ない。圧倒的な差は歴然だ。正直に言おう。このままでは地球は負けることになる。先のアイギスでの一件や、少し前に起こった裏切り者の爆破で心が折れた者も多いだろう』
その言葉に人々が俯く。開戦当時から薄々分かり始めていたことだった。地球はエルデンには敵わない。このまま皆殺しにされて終わるのだと。
『……だけど。みんなはそれでいいのか?』
諦めていた人々の元にそんなソラの言葉が届く。
『勝てないかもしれない。もう無理かも知れない。そんなことで諦めるほど、僕たちが守ろうとしているものは軽いものだったか!? それは違う! もっと尊い大切な思いだ! 楽しかった日々、人を大切に思う気持ち、そう言った守りたい何かは! 自分の全てをかけて守るほど! ずっとずっと重い! 僕たちの仲間達もそれを守るために命を賭けてきた。きっと彼らもこの戦いが絶望的だと思っていただろう。だが、それでも戦い抜いた。なぜだ!? それは僕たちに伝えるためだ! 希望の火を! 思いを! 繋ぐためだ! 大切な何かを守ろうとする意思を! 今も君たちに残っているだろう、残された思いが! 希望の残り火が! 誰かから託された大切なものが!』
その言葉に人々が自分の胸に手を当てる。
『それを絶やしてしまっていいのか、受け継がれた思いを無駄にしていいのか? ……そんなこと許されるはずがない! 必死で生きた人々の思いを無かったことにするなど、出来るはずもない! だからこそ僕たちは例え、未来が無くとも、戦い続ける! 未来へと繋げ、それを残すために、抗い続ける!』
そう言うとソラは一旦、勢いを落ち着かせる。
『無理にとは言わない。だが、希望を胸に掲げているのなら、火を灯し続けているのなら、集え! 日本に! 僕たちは決して諦めない! 思いを受け継ぎ! 地球を! 仲間達が命をとして守ろうとしたこの星を守ってみせる! その先が先の見えない暗闇であろうとも、その道を希望で照らし、進んで見せる! 僕たちは……エルロイド達に決戦を仕掛ける!』
それと同時に詳細なデータが人々に送られた。ソラは一呼吸を置くと言う。
『僕からの連絡は以上だ。これで放送を終了とする』
そこで放送は切れた。人々はそれぞれの思いを抱え、立ち上がった。
☆☆☆
演説の余波はエルロイドにも届いていた。三派閥に分かれ、つぶし合っていたエルロイド達に、エルデン本国からの通信が入る。
『アスタを侵略中のエルロイド達よ。何をやっている?』
若々しい青年のエルロイドがそこには移っていた。だが、その青年の瞳は時を経て、さび付いた鏡のように、何も写さず深い闇を抱えていた。それを見た、一人のエルロイドが叫ぶ。
「国主様……」
怯えを含んだ声をあげるエルロイド。青年はそれをまるで興味もないと見向きもせずに会話を続ける。
『アスタでは、アスタの英雄、ソラ・アオヌマとやらが、大々的な演説をしたようだ。愚かにも我らエルデンに逆らうと言っている。そして、それに合わせて各地の軍が活性化しているとの情報も入っている』
そう言うと青年はぎろりと全てのエルロイドを睨み付けた。
『もう一度、言おう。お主達は何をやっている?』
「そ、それは……」
ゴクリと貴族派のエルロイドが息をのんだ。それに合わせて他の派閥のエルロイドも押し黙る。それを見た、青年は淡々としながらも、冷酷にその言葉を言う。
『この、捨てられた能無し共が。お前達にワシが目標をくれてやろう。あの放送を行った人物。ソラ・アオヌマを討伐したものに統率官の地位を与える』
「な!?」
『これが、理解出来たのなら、さっさと仕事をするのだな』
驚くエルロイド達を残して、連絡は一方的に切れた。
カイトは通信を切り、自身の手帳を捲る。
「記述に狂いはない。この戦いで英雄は、私の手によって死ぬことになる。そして世界は次の段階へと移り変わる。……さあ、始まりの終わりを、始めよう。待っているぞ、ソラ。お前がここに来ることを」
☆☆☆
地球防衛軍の日本支部にはアリアドネや様々な経路を利用して、続々と地球防衛軍が集まっていた。ソラはそんな中で見知った人物を見つけ、話しかける。
「ピエールさんも来ていたんですか!」
「おお、ソラ殿。あんな放送をされては、軍人として私も出ないわけにはいかないですよ! アイギスで死んでいった部下達に報いるためにも、エルロイドに一泡吹かせてやろうじゃないですか!」
笑顔でそう言うピエールに、ソラも笑顔で声を返す。そこに流花がやってきて、ソラに他の地球防衛軍とのやり取りの結果を伝える。
「ソラ、日本から遠い支部から連絡があったわ。時間的にたどり着けそうにないから、自分たちも一番近くのエルロイドの施設に攻撃を仕掛けて、エルロイドの援軍が来ないように足止めをしてくれるそうよ」
「そうか、それはありがたいな」
少しでも敵の数が減ればそれだけ戦いは楽になる。同じ場所に駆けつけなくても、同じ思いを持ち戦ってくれているというのは嬉しいものだった。
「それで、ソラ殿? 我々は何処で決戦を仕掛けるのですかな?」
「ピエールさん見てないの? ちゃんと放送で情報を流したはずだけど……」
流花が呆れたように言う。それを見てピエールは頭を掻きながら笑った。
「ははは、私はクローゼットの中にいながら放送を聞いたもので、詳しく見てないのです。いやはや、いきなりの放送でしたから、最初は敵の攻撃かと思いましたよ」
「相変わらずだね、ピエールさん……僕たちが決戦を仕掛けるのはあれだよ」
ソラはそう言って皇の柱を指さした。
「皇の柱とエルロイドに言われている施設だ。この侵略作戦を管理するための機能があるらしい」
「なるほど、そこを壊せば戦争に勝利出来ると!」
「いや、そう上手くはいかないよ。どうせ予備もあるだろうしね。ただ、宇宙から落ちてきた、あれを破壊出来れば、きっとみんなを勇気付けられると思うんだ。希望の火を再び燃え上がらせるには、格好の獲物だと思ってね」
そう言い切るソラを見て、流花は笑う。
「なんか、様になってるじゃない。英雄様?」
「……冗談は止めてくれよ。僕はただ、昭人の思いも、美玲の思いも。無駄にしたくないだけだ。英雄なんて器じゃないよ」
「そういう風に思えることこそ、英雄らしいと言えますが、この際、どうでもいいことですな。今回の戦いのリーダーはソラ殿である。それさえ分かればいい」
ピエールがうんうんと頷く。そこに一人の兵士がやってきてソラに告げた。
「全軍、準備が完了したとのことです」
「そうか、わかった」
ソラは頷くと全員から見える壇上に立ち、深呼吸すると全体に聞こえるような大声で言う。
「この(・・)地球を! 僕たちは守ってみせる! 全軍……出撃!!」
☆☆☆
一方、その頃、エルロイド達も決戦に向け、準備を進めていた。
「やれやれ、面倒なことになっちまったぜ……」
皇の柱でルーカスはため息を吐きながら呟いた。今、ここにはかなりの数のエルロイドと機械兵が集まっている。敵がここを目指しているという情報がリークされたからだ。よってここは戦場となり、危険度も高い。
「こんなことは子分に任せて、俺はもっと安全策を取りたいんだけんどなぁ……」
正直、ルーカスは乗り気ではなかった。自身の手駒である奴隷(うらぎりもの)達は何者かの手によって全滅させられ、子分もアイギスで大勢失ってしまった。派閥抗争で基本的な戦力も減っていることから、このままの状態で決戦をするのはリスクが高いと考えていたのだ。
ソラ・アオヌマを倒せば、統率官を得られるのは確かにうまみだが、この大規模な戦闘の中で、一個人を探すのは難しい。単純に言えば、別の奴に取られる可能性も高いだろう。
ルーカスは統率官を諦めて、生き残りを優先させようと考えていた。
(死んだら何もならねーからな。他の奴らが頑張っている間、のんきに見物でもするか。……ん? あれは……?)
その時、ルーカスは端の方で隠れて通信をしているゼスタの姿を見つけた。ここからではよく見えないが、通信相手はエルデン本国の人間に見える。ゼスタは通信を終えると、足早に何処かに去って行った。
「へぇ~。面白そうじゃね~か」
後ろで準備が完了し、今回の指揮官であるボルトがかけ声を上げる声が聞こえる。
「下等な劣等種族共を駆逐し、この星を我が手に収めろ! 全軍行くぞ!!」
他のエルロイドが出撃するなか、ルーカスはゼスタの後を追った。
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