第29話侵蝕乖離-3


 しばらくたった後、ソラは流花を呼び出し、後始末をした。


 全てを聞いた流花は「そう」と短く言ったあと。「美玲の分も頑張らないとね」と涙を流した。

 そんな流花にソラは今後の計画を伝えると、ノーマに事態を伝えるために司令室に入る。ノーマはソラの報告を淡々と受けると、一言呟いた。


 「そうかい。美玲君が……それは残念だった。しかし、どうして彼女は君に、自らを殺させたんだろうね? ソラ君を殺し、そのままエルロイドのペットとして生き残れば、革命が起きる未来まで生き延びられただろうに」

 「……それは生きているって言いませんよ。……これで失礼します」


 ソラが部屋を出て、少し歩いていると突然基地から爆発音がした。複数箇所から聞こえるその音の一つにソラが近づくと。人であったものがそこにはあった。それを見て、ソラは理解する。誰かが奴隷化(スレイブ)を解除したことで、連帯責任の爆発が起こったと言うことを。


 (一体誰が? 僕と同じように調査をしている者がいたのか? 裏切り者の。……裏切り者か、そう言えば……)


 ソラは思い出していた。アイギスの時に後回しにしていた未来の裏切り者のことを。


 (この爆発で奴隷化による裏切り者は全て死んだはずだ。……なら、未来にいた裏切り者は自分の意思で白仮面に協力していたことになる。……あの時の状況を知っているのは流花、クラック、ノーマ、僕、兄さんの五人だけ。レジスタンス内部にいてもあそこまで正確な情報は分からないはずだ。だが、この中で裏切り者となる人物がいないことも既に考えたことだ。じゃあどうやって僕たちの詳細な居場所を知った?)


 信じた五人の中から裏切り者を探すのは難しい、そこでソラは発想を逆転させ、五人の中で裏切り者が居ない場合の白仮面の行動について考える。


 (レジスタンス内部に協力者がいれば、大まかなタイミングは分かるはずだ。後は機械兵やエルロイドを使った人海戦術を使えば……)


 「待って、これっておかしくない?」


 そこでソラは違和感の正体に気付いた。白仮面はあの時、自分たちを待ち構えていた。やろうと思えば、エルロイドや機械兵と共に待機して、ソラ達を囲み、その時点で始末出来ていたはずだと気付いたのだ。


 「白仮面には僕たちを殺すつもりはなかった? そして同時に僕たちのことを他のエルロイド達に知られるわけにはいかなかった? そう言えば初めて会ったときも簡単に僕たちのことを見逃した。もっと追い詰めるやり方はあったはずなのに。どうしてそんなことを……」


 考えれば考えるほど、白仮面が取った行動や、未来で起こった出来事の不自然さが目立つ。ソラ自身もどうして気付かなかったんだろうと思えるほどだ。


 「レジスタンスが機材の故障により、標本体を脱したのもおかしな話だ。あんなミスするか? それもちょうど良く手紙まで届いて、とんとん拍子で話が進み過ぎている……」


 未来で直接体験したから、違和感がなかったんだ。こうして起こった出来事として纏めると、出来すぎてる。……まるで、革命を成功させるように誘導するような……。


 「それが白仮面の目的か? なら何故白仮面はそれを目的にする? 地球人の味方をするようなことを……。そう言えば、僕は白仮面が何者なのか、詳しく知らないな。直接戦った兄さん、な、ら……」


 そこでソラはあることに気付く、地球人の味方をするエルロイド。五人しか知らない正確な居場所の把握。まるで未来を見てきたかのように革命を成功させるための誘導。その全てを満たすことができる人物の可能性に。


 「まさか、白仮面の正体は……。しまったノーマが危ない!」


 ソラは来た道を戻り始めた。もしソラの想像が合っているなら、これを引き起こした人物も分かる。きっとその人物が、あの未来を実現するために動いた結果なのだ、これは。

 だとするなら、きっとこの混乱に乗じて動き出している。順番的に次はノーマだ。


 「ノーマ!」


 ソラが扉を開けるとそこには既にノーマの姿がいなかった。ソラは部屋を飛び出すとノーマの居場所を探すために施設の外に出る。


 (もし、ノーマが既に浚われたのなら、施設の外に脱出しようとしているはずだ。相手はエルロイド。僕より手間取るはず。なら僕が直接外に出て周囲を確認すれば……!)


 外に出て周囲を確認する。そこには車があった。あれだと思ったソラはそこに向かって走る。だが、車は走り出してしまった。それを見てソラは考えた。


 大切な選択だ。もう追いつけないと諦めて受け入れる(・・・・・)か、まだいけると抗って(・・・)声をかけるか……いや、何を悩む必要があるか。選ぶ答えはもう決まっている。自分の進むべき道はもう決めた!


 そう思ったソラは、迷う事無く叫んだ。


 「『待て! 白仮面。……カイト兄さん!』」


 その言葉で車が止まった。しばらく話し声が中から聞こえると、一人のフードを被った人物が降りてくる。そして、その人物をおいて車は猛スピードで走り去っていった。


 ソラは車にはもう追いつけないと判断して、降りてきたフードの人物をよく見た。そしてその正体に気付く。


 「君は物資襲撃の時の……」


 ソラのその言葉にフードの人物は頷く。


 「そうだよ。僕はあの時に出会ったエルロイド。名前はジュード。……君、今、白仮面様のこと、カイト兄さんって言ったよね? 前から疑問だったんだ~。なんで君をわざわざ白仮面様は助けようとするのか、仲間を見捨てずに残った時も、要塞の中に舞い戻った時も、明らかにそこまでする必要はなかった。エルロイドを減らすための部隊が必要なら、他の部隊でもいいはずだからね。そのことをオルトスに聞いても話を濁すし、何かあるとは思っていたんだ」

 「僕を助けた。やっぱりそうなのか……」


 ソラの考えは確信に変わった。それを見たジュードがソラに対して言う。


 「何か、思い当たることがあるみたいだね。折角だから教えてくれないかな? 気になっているんだ、君と白仮面様の関係が」

 「いいよ。僕も話したいことがあるんだ」

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