第10話復路一路ー1
「ボルトに続き、ルーカスが死んだか」
皇の柱の玉座で白仮面は一人呟いた。そこに幾人の仲間からの緊急連絡が入る。白仮面は仲間の要請に従い賢人会回線を開いた。
『あの、白仮面様。お話が……』
「皆までいうな、分かっている」
そう言って白仮面はジュードの言葉を遮ると通信の繋がっている全員に向けて言う。
「皆も、もう気づいたと思うが生態リンク認証の結果からボルトとルーカスが死んだことが分かった」
その言葉を聞いてざわめくエルロイド達。彼らには信じられなかった。たった二人の侵入者に高度な兵器を持ったエルロイドが負けてしまうなど。
『くけけ。それ、本当なんだろうな。本当は侵入者なんて居なくて、あんたが邪魔になった二人を殺す口実にした……そんな話しなんじゃないのか? エルロイドが他の星の劣等種族に負けるなんてありえないだろ。くけけ。彼奴らはあの間抜けさでも、あの戦争を生き抜いた男達なんだから』
「私を疑うのか、マルコ」
強い口調で白仮面はマルコに言う。それにマルコはひょうひょうとした風に答える。
『ああ、そりゃそうだろうさ。今までは立場が立場だから言わなかったが、そもそも、自分のことを白仮面なんて名乗ってる時点で、あんた、頭おかしいもんな、そこんとこどうなのよ、ジェスター・スライ(・・・・・・・・・・)さんよ』
マルコのその問いに白仮面は呆れたように肩をすくめた。
「やれやれ、この仮面は私の趣味だ。そして趣味が、頭がおかしいと言われるものなのは仕方ない。甘んじて受け入れよう。だが、それとこれとは話しが別だ。私を君たちが殺せないように、私も君たちを殺せない。……それは皇の柱が機能する限り、絶対の法則であることはここに居る全員が知っていることだろう?」
『……まあ、そうだが……』
その白仮面の返答にマルコが口ごもる。それを見たレヴィンが話しを引き継ぐ。
『別にあなた本人が手を下さなくても貴方には子飼いネズミが居る。あの薄汚いネズミにさせれば不可能では無いのでは? 統率官?』
『……それこそ、元の話しの正当性に帰結する話しだ。私の子飼いのネズミはこの星の現住種族。いわば劣等種族だ。それにボルトとルーカスは敗れた……そう言いたいのかね? それは侵入者である異星人二人がボルトとルーカスを倒すことと大差の無いレベルの話しだと私は思うが』
『……っ!……ですが、貴方に疑いがあることは事実だ。フィリップ、ゼスタ、クラウスもそう思いますよね?』
『ま~。ちょびーっとは思うかも』
『……っち。レヴィン。何、俺を同格扱いにしてるんだお前は、お前なんざに意見を求められる筋合いはねぇ』
『あ~。また面倒なことに。正直、興味ないよ~』
『ちょっとみんな何を言っているんですか! 白仮面様がそんなことするはず、ないじゃないですか! 白仮面様はボクの英雄なんです!』
白仮面はそのやり取りを聞いて、ため息を吐いた。
「なるほど、疑われているのは分かった。……ならば次は私がもう一度出撃しよう。そして侵入者を捕らえることで、その真を証明しようでは無いか」
『な、だが。もし貴方が死んでしまえば……』
「今更、私の話を信じたのか? だが、それでも、私が負けるはずない。私は統率官、この星のエルロイドを束ねるリーダーにして、最も強い男なのだから」
『……』
「では出撃する」
『……待ってください! ボクは白仮面様のこと、信じてます! ボクをお供に付けてください』
「……ならばジュードには私の留守の間、皇の柱を守って貰おうか、あそこを壊されるわけには行かないのでな。私を信じているなら見事、侵入者を打ち倒すことを信じて待て」
『はい!』
「残りの面々も一応準備はしておけ、いつでも出撃出来るように皇の柱の周囲で待機していろ。……話しは以上だ」
通信を切り、白仮面は息を吐く。
「路はいくつも分かれている。だが、いずれ一つの路へと繋がる……。ネズミは放った。奴らのたどる先、それは破滅だ」
☆☆☆
ノーマの案内で進んだ新たな基地。そこでカイト達一行は疲れた体を癒やすための休息を行っていた。カイトはそこで一人、寝そべりながら、あることを考えていた。
(あの時……白仮面は蹴り飛ばしたソラの素顔を確かに見たはずだ。数年前の子供の姿とは言え、敵軍の英雄で、リーダー的存在だったソラをだ。なぜ奴はあの場でソラを殺さなかった? ソラは最優先で殺すべき相手だっただろうに)
敵軍の総大将が、子供の姿とは言え、英雄を殺さずに放置した。これは明らかにおかしい、そして意図が読めない。
(もし、わざと見逃したのだとしたらその理由は何だろうか。過去世界で殺すことになるから気にも止めなかったか、単純に気づかなかったか、あるいはあの白仮面は俺やソラに関係がある……)
「兄さん、また考え事?」
「ん、ああ」
ソラのその問いに、カイトは生返事をする。するとソラは頷きながら話しかけてくる。
「まあ、自分が未来で……いや、過去か。なんかもうこれ面倒くさいけど。……取り敢えず戦死することになるって聞いたらやっぱり気になるもんね」
「え、そう言えばそうだったな」
「もう、そのことについて考えていたんじゃなかったの? 自分のことなんだからしっかりと考えてよ~」
「分かってるって、……今からでもノーマに聞きに行くよ」
そう言って、何度もカイトの身を案じて色々行ってくるソラをいなしながら、カイトはノーマの元にたどり着く。
「なるほど、自身の死についてですか。……実は僕も詳しいことは知らないのです。ですがちょうど良いタイミングでした。これから行く別のレジスタンスのアジトにそのことについて最もよく知る人物が居ます」
「最もよく知る人物?」
「【オルトス・ヴァーミリオン】ね。私も会ったことは無いけれど、地球防衛軍の最大の出資者で実質総大将みたいな役割の方だと聞いたことがあるわ。過去の世界で、私もソラも、ソラから聞いた、ソラのお兄さん。貴方の死の真相について調査しようと何度も接触を図ったのだけれども、地球防衛軍の内部抗争とか、立場の違いとかで結局、合うことのないまま終わってしまったわ」
「流花は過去の世界でソラと行動を共にしていたのか」
ふと湧いて出た情報にカイトが食いつく、英雄となってリーダーをしていたことは聞いていたが詳しい個人の交友関係まで聞いたことは無かった。
その質問に一瞬、流花は悲しい顔を見せると話しを続けた。
「……ええ、私とソラ、それと美玲は同じ時期に地球防衛軍に志願した同期よ、みんなでソラのお兄さんのことを聞くために地球防衛軍で必死に戦功をあげたの」
「美玲?」
聞き慣れない名前を聞いたソラは思わず呟く、それを聞いたノーマは遮るように会話を始めた。
「いや~。君たちの世代は本当に優秀だったよ。だからこそあれは残念だった。でも、ここで話しても時期的に止めることは出来ない。だから、そんな話しよりもオルトスと他のレジスタンスの話しをしよう」
流花は何か言いたそうにしていたが、押し黙りノーマの進行に任せる。クラックが話しを引き継ぎ残りのレジスタンスについて話し始めた。
「残りのレジスタンス達は、機材の故障により、自由になったオルトス殿によって解放されていった者達だ。彼らはオルトス殿に従い、組織だった行動を取って、戦争後期に作られた地球防衛軍の基地【アリアドネ】に潜伏している」
「そのアリアドネってのはどんなものなんだ?」
「アリアドネは戦争前から秘密裏に建設が進められていた地下基地を改造したものだ。とある事情により、本来使っていた地球防衛軍本部が使えなくなった後、基地の機能が移された。移されるまでに進められた改造によって、地下深くにある基地は、迷路のような複雑な道で隠されており、それ自体が地上から位置を特定させない、防空壕の役割を果たすため、圧倒的優性を誇るエルロイドの戦闘機による攻撃を行えず、エルロイド達は地上戦をするしかない。そして暗く複雑な地下通路はエルロイドの武器を使わせないように、俺たちがゲリラ戦をするのにはうってつけってわけだ」
「でも、強力な威力を持つ兵器を使えば、地盤ごと壊されちゃんじゃ……」
「その点は問題ない。エルロイドは大規模破壊兵器は使わないんだ。理由は単純、自分達が住む予定の星だからね、できる限り壊したくはないんだろう。戦いの中でそれを僕たちは理解していたからこそ、アリアドネに本拠を移したんだ」
そう言うとノーマは地図を出し、ソラとカイトに見せる。
「例によって、この基地は現在放棄されている。本来、僕たち地球人はもう居ないものだからね。その隙をついて、オルトスは現在、レジスタンスの仲間とこの基地の改修を進めているんだ。来たるべき、決戦の時の、最前線基地にするためにね。ここには、最後の戦いで使われた、皇の柱への直通地下通路もある。ここにたどり着ければ、僕たちはもう勝ったも同然だよ」
誇ったように笑顔でいうノーマにカイトが待ったをかける。
「ちょっと待った。なぜ皇の柱に付くことが勝ちに繋がる」
「あ……」
思わず口が滑ったという表情を見せるノーマ。ソラはカイトの疑問に頷いた。基地があったところで勝ちに繋がるわけでは無い。状況が良くなるだけだ。それを勝ったも同然などというのは一体どういうことか。
二人が不審がっている様子を見た、クラックはノーマを小突いた。
「なあ、やっぱり隠し通すのは無理だろう。いくら手紙にそう書かれてたからって。ちょっとぐらい情報共有をしないと」
「……確かに、勝利条件の共有は必要ですね、そろそろ潮時ですか」
「なに、なんの話し?」
流花がそんな二人を見て、疑問の声を上げる。ノーマは意を決すると、懐からとある便せんを取り出した。そこにはパソコンによって作られた文章が記載されていた。
(ページ番号が1か、便せんは一枚なのに)
カイトはそう思いながらも便せんに目を通す。
「これは……!」
最初に声を上げたのはソラだった。それもそのはず、この手紙の差出人欄にはソラ・アオヌマとの記載がされていた。
カイトも驚きつつも内容を読み進めていく、内容は簡単に言うとこうだ。最後の戦いで白仮面に負けて負傷したソラは、一命は取り留めたものの、表だって戦うことは出来なくなってしまった。結局、最後まで復帰出来ず、人類の終演を見たソラは、過去の自分がこの世界にやってきて、この世界を救うことを思い出し、そのための準備をすることにした。自分が経験した未来での世界の出来事を書き連ねることによって再び世界を救うことが出来るようにしたのだ。そしてここには皇の柱は星にいる全てのエルロイドの兵器を管理するデバイスで、その使用権を奪うことで全ての武器の使用を止め、エルロイドに勝利することが出来たと書かれていた。
「……なるほどな」
確かにあの塔は特別製だとカイトも思っていた。もし、この話が本当なら地球人の革命にも勝機はある。というより
「これが真実じゃないと勝てないか」
「まあ、そういうことでもある。戦中、ソラ君は、負けることを最初から考えるわけにはいかないと言って、未来での決戦の詳しい話しはしてくれなかったから、正直、この手紙だけが頼りなんだ」 「どちらにしても俺らには後がない。あの塔を制圧すれば勝利する……そう信じて突き進むだけだ」
カイトはそれを聞いて、深く考える。どちらにしても自分たちも白仮面が持つ異次元ワープ研究を強奪するために塔に行く必要はあった。目的地が同じなら、例え信憑性が薄かったとしても問題はない。
「よし、俺たちもそれを信じて動こう。俺か、ソラ。どちらかが塔にたどり着いて装置の制御権を奪えば良いんだな。もっとも手紙で記している以上、作戦を成功させたのはソラの方だと思うが……」
「このとおりの未来になるとは限らないよ。未来なんてきっとちょっとしたことで変わっちゃうんだから」
「……そうだな、まあ、その辺のことを深く突っ込むと、またノーマがタイムパラドックスだって訳の分からない話をするから、ここまでにしとくか」
「ちょ、酷いよカイトさん!」
ノーマが、またあの話はリーダーがと言いだし、それをソラとクラックが励ましている。その微笑ましい光景を見ながらカイトは呟いた。
「未来はちょっとしたことで変わる…か」
『来訪者、一つ聞こう。理想の未来にたどり着くためにはどうしたら良いと思う?』
『方法はあるさ。単純なことだ。それは可能性を消すことだよ。あらゆる理想の未来を阻む可能性、その全てを一つ一つ潰していく、そうしてあらゆる可能性をそぎ落とし、たどり着いた世界こそが理想の未来、世界となるのだ。色を全て取り除いていき、美しく濁りの無い色になる、この白(・)のようにな』
カイトは白仮面が言っていた話しを思い出していた。
(可能性を潰すことで、理想の未来を目指す……。今の俺たちの状況はどうだ? 俺たちはこの手紙によって、塔の制御権のことを知った。そしてその可能性を信じ、目指すことになった。だが、それは同時に他の可能性を潰した(・・・)ということではないだろうか? 別の方法があるかも知れない。もしかしたら制御権が奪えないかも知れない。そんな対応を話すことも無く、今、俺たちはただひたすらに塔の攻略のことに頭を悩ませている。まるで目の前で答え吊されて、一つの路しか見えないようにされたみたいだ。いくつもあった選択肢は、複数合った路は、いつの間にか、気づかない間に、一つの路へなっている。……そう感じるものの、だけど結局、それしかないんだ)
言い知れぬ歯がゆさを抱くカイト。それを見た流花が問いかける。
「どうかしたの? ソラのお兄さん?」
「いや、なんでもない」
「ほんとに~? ちゃんと悩みがあるならいってよね」
ふくれっ面になりながら、納得いかないと言った態度を表す流花をカイトは無視していると。旧式の地球製通信機に連絡が入ってきた。
『こ……レ……スタンス…部』
「通信が悪いな」
「まあ、見つからない為だから仕方ない、こちらノーマ。救世主はやってきた。今夜にもそちらの基地に移動する」
『本…か! そ…は、わか……オルト…に伝…る。明…また、会おう』
そう言うと通信は切れた。
「取り敢えず報告は完了だ。一休みしたら移動しよう。監視装置が少ない以上。深夜の方が見つかり辛いからね、ここから基地までそれなりの距離がある。しっかりと休息は取ってくれ」
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