第6話城下決闘ー3
「ふん、さすがに来るわけがないか」
ボルトは放送で指定した建物の前にいた。この場所はボルトがエルデンで通い詰めていた思い出のある道場を再現したものだ。そしてその周囲は見晴らしの良い広場となっている。誰かが来れば直ぐに目に入る状況だ。
ボルトがこの場所を指定した理由は見晴らしが良くて不意打ちされる危険性が少ないことと、無意識ではあるが、思い出の道場を背後に侵入者達と渡り合うことで自身が軍人であると言う認識を再び持ちたかったからなのかも知れない。出来ればこの場所で侵入者達を捕らえたかったが、来ないものは仕方がないと、残っていた数機の機械兵達にも捜索に回るように命令を出す。
「……私もそろそろ移動するか」
なぜか名残惜しい気がして少し長く居座り続けてしまった。機械兵達も既に移動しているし、自分も移動しよう……そう思ったとき、ボルトの目に人影が映る。
「まさか、本当に投降しようというのか……?」
相手は馬鹿なのか? ボルトは一瞬そう思った。投降しろと言われて投降する奴なんてほとんどいない。あれはただ相手に自身の軍人としての意向を示したかっただけだ。もちろんあれで投降すれば探す手間も省けるし、放送したところで大した手間にはならないからこそ行ったことだったが、本当に投降するとは思っていなかった。
だが、同時にボルトは納得もしていた。ボルトはエルデンを誇りに思っている。だからこそ、エルデンに勝てるものはいないと判断している。冷静に考えれば投降し、生きる望みに賭けるのが普通だ。それが例え、どこかからやってきた侵入者であってもだ。
そう考えている間に侵入者は近づいてくる。ボルトはリスクを考え、一定の距離が開いたところで止まるように言うと、相手はその場で止まりこちらに声をかけてきた。
「あんたが放送に出ていたボルトだな。投降しに来た」
「ほう、思ったより若いな、子供か。このようなものが白仮面を出し抜くとは……。まあいい、投降しに来たことは構わないが、一人少ないようだが?」
「少ない? もとから俺一人だが?」
「何、そんなはずは……」
ボルトは一瞬考えた。本当に一人なのか? 白仮面の連絡ミスという可能性もあるし、あるいは侵入者はそれぞれ別々のグループに属しているということも考えられる。あるいは仲間ではあるがそれを偽っているか……そう考えたところでボルトの視界に、金属の棒がこちらに向かって放たれているのが見えた。ボルトはすぐさま腰に手を当てるとそのままの位置で認証を行う。
<血族認証……確認、エルロイド。ビームランスの使用を許可します>
腰から伸びた閃光が侵入者……カイトが伸ばした金属の棒に突き刺さり先端を切り飛ばす。
「うえ、あっさりと」
「大人しく投降する気は端から無かったようだな!」
直ぐさま後ろに飛び退き、あまりに呆気なく切れた先端を見て呻くカイトに向かってボルトは槍を振り回しながらそう言う。するとカイトはにやりと笑って言った。
「ここにいるのはもうお前だけだ。俺を投降させたいなら、この決闘に勝って捕らえてみな」
「……エルロイドに勝てると思っているのか。ふん、愚かな。良いだろうその勝負乗ってやる。エルデン王国軍第十三師団副団長ボルト・マーセナリー! 推して参る!」
その言葉と共にボルトが一歩踏み出し、その勢いのまま槍を繰り出してくる。さっきの一撃で金属の棒でも直接ビームの部位に当たれば簡単に切られてしまうことを理解したカイトは棒の長さを利用して相手の持ち手に当てるようにして攻撃をそらす。そして身を低くして反らした攻撃を避けながら持ち手を変えてボルトに近づいていく、目的はもちろん。
(腰につけた予備の装備!)
真っ当にやり合えば負けるのは確実。勝つためには相手と同じ装備を得なければならない。初手の奇襲が失敗した以上。ボルトの装備を狙うのはカイトに取って最優先事項だ。だが、白仮面の時と同じように当然その考えはボルトにも読まれている。
「武器か! 無駄なことを!」
ボルトは体を反らすように動かし、回転する勢いを使って蹴りを繰り出そうとする。
だがそれは
「もう知ってるんだよ!」
白仮面に同じ方法で吹き飛ばされたカイトはしっかりと対策を行っていた。腰の物を取ると見せかけて大きく伏せて蹴りを躱す。蹴りが不発になったことで背後ががら空きになったボルトに棒による付きを放つ、だがそれはボルトが持ち手を回転させ、後ろに伸ばしたビームランスによって切られた。カイトは苦し紛れにもはや持ち手部分のみとなった棒をボルトの腰に向かって投げた。ビームランスの一撃によって先端が尖っていた棒は、腰と装備を繋いでいる物を切り裂き、装備をはじき飛ばす。
「っち」
「よし! 今だ! ソラ!」
想定と違ったが武器をボルトの手から話すことが出来た。カイトはソラに向かって声をかける。するとソラは閃光弾を放り投げた。その光がボルトの目を焼く。
「く、仲間か、こそくな真似を……」
続いて攻撃が来ると思ったボルトはその場から飛び退く、その予想通りにソラが放った手榴弾がボルトのいた場所を抉った。
そしてボルトが防御に徹している間にカイトは先ほど飛ばした武器を拾うために走る。
ボルトは腰についている武器の中から一つを取りだしそれを額に付けた。
「行かせぬ、エルロイドの技術を舐めるな!」
<血族認証……確認、エルロイド。仮想義眼の使用を許可します>
すると突然ボルトは目が見えているのと同じように動き始めた。まだ目が見えないはずだと想定していたカイトはその行動に度肝を抜かれる。
「あの兵器が目の代わりを! くそ、ソラ! 最後の一発を!」
どういう性能か調べるために手榴弾、閃光弾共に一発を消費してしまった、これが最後の武器だ。ボルトの動きを止めるために放り投げるが、強化された脚力から繰り出されるボルトのスピードに追いつかず爆発した瞬間に通り抜けられてしまう。だが、その時、カイトはなんとか落ちていた装備を拾っていた。そしてそれを使い、振り向きざまにボルトの頭をたたき切ろうとする。
それを見て、ボルトは心の中でほくそ笑む。ボルトは知っていた、エルロイドの武器はエルロイドにしか使えないことを、それでも装備の取り合いを演じた理由は、それをすることで相手が装備を取ることに躍起になり、今のような生じた隙につけ込み倒すためだ。ボルトは届かない攻撃を無視して侵入者を貫こうとする。
だが、その時、やっと回復した彼の目に想像もしていなかったものが映った。爆風により、吹き飛ばされ解かれたフード。そして露わになったその姿。自分と同じような、この星の原住民とは違う長い耳、その特徴はまさしく……
「我らが同胞!?」
その瞬間、たった一瞬だけボルトは完全に硬直してしまった。彼は軍人だった。これがルーカスのような他のエルロイドだったら、自分の星に勝手にやってきたエルロイドだと、素直に処分しただろう。だが軍人としてエルロイドを守ってきたボルトはその信念から攻撃を躊躇してしまった。そしてそれが勝敗の結果を分けた。
「死ねえええええ!」
エルロイドは全て敵だと思っているカイトからの容赦ない一撃がボルトの首を叩き落とす。首を失ったボルトの肉体は力を失ったように後ろに倒れた。
「兄さん!」
気が抜けて座り込んだカイトの元にソラが駆け寄る。それを見たカイトはぐっと腕を握りソラに見せた。
「ぎりぎりだったが、何とかなった。この通り、此奴の装備品も奪えたしな」
そう言ってビームセイバーを見せるカイト。そんなカイトをソラは叩いた。
「いた、何すんだよソラ」
「もう、かなり危なかったじゃないか! 危険なまねは止めてっていつも言ってるよね? だから別の方法を考えようって言ったのに」
「終わりよければすべてよしだろ? ともかく疲れた、此奴の装備を全部いただいてさっさと安全な場所に行こう。装備はソラが……」
「兄さんが使うの」
ソラが使え、そう言う前に被せるようにソラに否定される。
「いやでも、俺よりお前の安全を……」
「また、そんなことを言って、こうやって前線に出て危険なまねをするんでしょ? ならこれは兄さんが使って、その方が有効だし、何より僕が安心できる」
絶対に曲げないという意思の強い目を見たカイトは思わずため息をついた。
「お前は言い出したら聞かないからなぁ……。分かったこれは俺が使うよ」
「ふふん。それでいい」
にっこりと笑うソラと共にボルトの装備をはぎ取りカイトに付ける。さすがに服は体格差があるため付けられないがほとんどの装備を手に入れることができた。
「俺にはこの剣があるから、この槍はお前が使え、……じゃ、行くか」
ソラに槍を渡し、カイト達は再び歩き始めた。
☆☆☆
そんなカイト達を見つめる一つの機械があった。小型なコウモリのようなその機械からもたらされた情報を見たルーカスは思わずうなった。
「しかし、昔遊びように作ったこの盗撮機がまさか役に立つとは思わなかったな。それにしても侵入者の一人はまさかエルロイドでボルトのじじいが負けちまうとは」
相手がエルロイド。それはつまりエルロイドが持つ、優れた兵器を使えると言うことになる。そして今、彼らにはボルトから奪った数々の武装が装備されている。だが、それを見たルーカスは逆に勝利への確信を深めていた。
「わざわざボルトの装備を奪った。ってことはあれが全ての装備だってことだよな?くくく、これは俺にも付きが回ってきたのかもしれねーな。ボルトの装備は対人用。つまり奴らは身一つだ。戦艦兵器を持ってはいない。なら俺は負けない」
そう言ってルーカスはゆったりとした席に座る。その前にはいくつもの画面と空の景色が映し出されていた。
「これに乗りながら嬲り殺しにするだけだ。それだけで奴らは何も出来ない。奴らはこの俺の戦艦。要塞戦艦グラムの敵じゃ無い」
ルーカスは笑いながら進路を追跡を行っている監視装置のある方へと向けた。
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