第15話Break Down World(大切な過去)-3


 「こっちかな?」


 皇の柱に侵入したソラは端的に言うと迷子になっていた。そもそも、どこに制御装置があるか分からない。塔の設計から見て、上層階にありそうだが、その行き方も分からないソラは当たりをさまよっていた。


 「駄目だ。まるで分からない。みんなの為にも早く見つけないといけないのに……」


 焦りながら走り続けるソラ。そんなこんな走っているとある部屋から声が聞こえてくることに気付く。


 「誰か居るのかな?」


 ソラは慎重にその部屋を確かめに向かった。


☆☆☆


 「ここか」


 拷問部屋から逃走した後、少しの間、体を休めたカイトはついに制御室だと思われる皇の柱の最上階に来ていた。自身の頬を叩き、気合いを入れるとカイトはその扉を開ける。


 その先では白仮面が玉座に座りながらこちらを見下ろしていた。


 「やっと来たか、待っていたぞ」

 「ああ、あんたのおかげでな。ここまでやってこれた」


 カイトは吐き捨てるように言う。そして白仮面にそのことを聞いた。


 「あれを、拷問部屋での仕掛けをしたのはお前だろう? なぜ、あんなことをした! あんなに慕っていた部下を切り捨てるなんて、お前には人としての情はないのか!」


 カイトは怒っていた。あのエルロイドは敵で、カイトを拷問した憎い相手だが、その生き方には同情の余地があった。そしてそんな中でも精一杯頑張っていたのに、それを無にするような裏切りを行った白仮面を単純にカイトは許すことが出来なかった。


 「……痛みも慟哭も思いも、形のないものはいずれ消え去るのが定めだ。そのようなものに価値はない」

 「じゃあ、お前にとって価値のあるものってのは何なんだ!」

 「それは、ただ一つ、目の前にある事実。故に私はどのようなものを犠牲にしてもその事実を作る!」


 そう言うと白仮面は、玉座からいくつもの兵器をカイトに向かって投げ渡した。カイトはそれをキャッチする。


 「それを使え。何、仕掛けはしていないさ」

 「……」

 「どうした、拾わないのか? 私を倒さなければ革命を成功させることは出来ないぞ?」


 カイトは手元の兵器から白仮面へと視線を戻し、言う。


 「別にお前を倒さなくても、足止めが出来ればそれで充分なんだ。これ以上、お前の力を借りるつもりはない」


 それを聞いた白仮面は一瞬きょとんとした後、笑い始めた。


 「ははは! そうか! そう言えば、そうだった! お前はまだ信じてるんだったな、確か」

 「何の話しだ……」

 「良いだろう、ここで話しておこうか、お前達はこの皇の柱にある制御室にたどり着き、制御権を奪えば、エルロイドに勝てると思っているな? あれは嘘だ」

 「……」


 唐突に告げられた真実。だが不思議とカイトの動揺は少なかった。考えていた最悪の可能性の一つが来てしまった。カイトはそう思っていた。


 「驚かないか、薄々は気付いていたんだな。まあ、確かに都合が良すぎたか、絶望にくれるレジスタンスの元に届いた過去の英雄からの手紙、そしてそこに書かれた逆転への方法。私も怪しいと思うぞ? 自分で送っておいてなんだがな」

 「あの手紙は、ソラが書いたものでは無く、お前が書いたものだったのか。何故、そんなことをした?」

 「……そうだな。まずは皇の柱と統率官のことについて話そうか。皇の柱は守人計画と呼ばれる侵略作戦を管理するためのツールの一つだ。実際の星に投入することになるのは、ある程度殲滅が進んだ戦争の中期になるが、実は戦争が始まった時から宇宙に存在し、戦争を行うエルロイド達を管理している。その役目は参加者との生態リンクだ。前にも言ったが侵略した星に住むことができるエルロイドは侵略戦争に参加したエルロイドだけだ。皇の柱は本来計画に参加していないエルロイドを生態リンクにより識別することができる。もし、識別により、登録のされていないエルロイドが発見されれば直ぐさま討伐出来るようになっていたり、参加者が指定人数を下回っていた場合、本国に迅速に情報を送ることが出来るようになっている。……もっともハーフであるお前達は完全なエルロイドではないため、その識別に引っかからなかったようだが……まあ、それは良いだろう。……続けるぞ? 皇の柱には参加者の識別以外にも重要な役割がある。それは兵器の配布だ」

 「兵器の配布?」

 「エルロイドが使う兵器は基本的に二つのパターンに分けられる。それは本国から持ち込んだ、そのエルロイド個人の兵器と、エルデン本国が戦争の参加者に提供する一般的な兵器の二つだ。お前達はルーカスと戦ったな? その時に奴隷化を付けられた少女を見ただろう。あの奴隷化の装置はルーカス個人が持ち込んだものだ。だからこそ、ルーカスとその子分しか使用できない。……このように個人の兵器を持ち込むものは居るが、エルロイドにも格差はある。侵略戦争に参加するのは基本的には後が無い者達だ。だから、基本的に自分の兵器を開発し、持ち込むことが出来る者は少ない。多くの者がこのビームセイバーのようなエルデン本国から支給される量産品を扱うことになる」


 「だが、ここで一つの問題が出てくる。……量産品とは言え、それなりに高性能な武器を、後の無い者達に配布する……これはかなり危険なことだ。それを用いてエルデン本国が強襲される可能性はゼロでは無い。そのためにエルデン本国は支給品の兵器に枷を付けることにした。それが皇の柱を利用した配布兵器の一括管理だ。……もし、エルロイドが反乱を起こした場合。全ての配布兵器の使用が出来なくなる。こうすればいざという時も安心だと言うことだな。これが主な皇の柱の役割だ」


 白仮面は一息つくと続けた。


 「では、ここからは統率官の話しに移るぞ? 統率官は侵略戦争で一番の活躍をしたものがなる立場のことだ。統率官は侵略した星でエルロイドを束ねる必要が出てくる。……もし、皇の柱を弄るだけでその立場を変えることが出来るとなれば、何処かの誰かが反乱を起こし、統率官に成り代わってしまう可能性もあるだろう? だから、統率官の変更は前任者の指名と過半数のエルロイドの承認が無ければ出来ないし、脅してそれを強制しないよう。統率者が死んだ場合、皇の柱の機能が停止することになっている。……しかし、同時に統率官が強権を振るい、残りのエルロイド達を殲滅しないように統率官側にも制限が存在する。……それは、統率官専用の生態リンクにより、他のエルロイド達に直接、手を出すと統率官の権利が統率官の次の功績者に自動で移ってしまうこと。そして、配布兵器の使用の拒否が出来ないことだ。これにより、統率官では無いエルロイド達も自由に兵器を扱うことができ、お互いがそれらを使用不能に出来ないように立場を守り合う環境ができると言うわけだ。……ここまで話せば分かるな?」


 白仮面がその答えを喋ることをカイトに促す。


 「つまり……あんたを倒さないと、エルロイドの兵器を止めることが出来ず、革命は成功しないってことか」

 「ふふ、その通りだ。そしてその事実が分かれば、きっと地球人は立ち上がることすら出来なかった。何せ五人掛かりで手も足も出ないのだ。それを避けて止められるならともかく、倒さなければ止められないのなら、きっと全てを諦めてしまっていただろう。そこに待っていたのは完全な地球人の敗北だ。だからこそ希望を見せる必要があった。諦めるという可能性を潰すためにな」


 そう言うと白仮面は玉座から立ち上がった。そして同時に周りのスクリーンに映像が映し出される。そこではレジスタンス本部がエルロイドに強襲され、多くの被害が出ていた。


 「ネズミに設置させた、カメラの映像だ。また、地球人は滅亡の危機に瀕している。そしてこの皇の柱にいるのは私とゼスタ、お前とソラの四人だけだ。この意味が分からない訳ではあるまい。……この世界で革命を成功に導くことができる英雄。それはソラじゃない。カイトお前自身だ。お前だけが世界を変えられる。……さあ、武器を取れ、私を見事打ち倒して見せろ!」


 そう言うと白仮面は有無を言わさずカイトに襲いかかる。カイトは白仮面から渡された武器を取り、それを迎え撃つ。


 ビームセイバーとビームセイバーがぶつかり、火花を散らす。


 「どうして、戦う!? お前の目的は地球人を救うことなんじゃないのか! なぜ、こんな回りくどいことをする!」

 「そうだ、私の目的は地球人による革命の成功……だが! それを行うために必要な過程があるのだ!」


 お互いがお互いのビームセイバーを弾き、距離を取る。そしてビームショットガンを出し、打ち合う。


 「お前の力があれば、地球をこんなにする前にエルロイド達を倒すことが出来るんじゃないか!」

 「それは不可能というものだ。カイト。地球人はエルロイドに勝つことは出来ない。言っただろう? 第一陣の数が減れば、第二陣が補給されるだけだと。エルデンにはまだ余力がある。……いや、捨てたくて捨てたくてたまらない状態だ。故に、過去の世界で地球がエルデンに勝つことは不可能だった。地球人に未来はなかった!」


 お互いが次々と兵器を認証し、ぶつけ合う。


 「だからこそ! 地球は一度滅びる必要があった! 一度、大切な過去の世界を壊し、新たに幸せな未来の世界を作り出す必要があった! 世界を救うことなど! 世界を壊す対価を払わなければ! 成し遂げることはできない!!」


 白仮面の攻撃でカイトは弾き飛ばされる。だが、直ぐに飛び起きると白仮面に攻撃を仕掛ける。


 「そんな事で諦めて、お前は全てを滅ぼしたのか白仮面!」

 「そんな事だと……!? お前はまだ知らないだけだ! 知れば私の用になる! 現実というのがどれだけ残酷で過酷なのかを! 私は全てを知った時、受け入れることを選んだ! なんてことの無い、これが最良の未来なんだ。この世界こそが、全てが救われる、あの(・・)尊い白い世界! 私はこの世界にたどり着くために、同じ道を辿ってきた! 全てを犠牲にして!」


 白仮面はカイトからの攻撃を受け止める。そして足払いをし、カイトを地面に倒すと、その上にまたがった。


 「これが、終わりの始まりだ。私が倒されることで、攻め込んでいるエルロイドの兵器が使えなくなり、全てのエルロイドが殺される。エルロイドの世界の終わりが始まる! その先は本当の意味での自由を獲得した地球人の幸せな世界だ。そして! 同時にこれはもう一つの終わりの始まりでもある! お前はここで! 全ての真実を知り、辿ることになる! 全てを終わらせるための、長い長い旅を!これは! その始まりだ!」


 そう言うと白仮面は倒されたカイトの顔を押さえつけ、目を反らせないようにする。そして自分の仮面に手を付けた。


 「さあ、知るが良い。何よりも残酷な! お前の(・・・)真実を!」


 そう言って白仮面は仮面を捨てた。それを見たカイトの目が驚きで見開かれる。


 「親父……じゃない!? お前は……」


 仮面を捨てた、その顔はジェスター・スライのものではなかった。だが、知らないものでは無い。よく見知った……そう、その顔は……


 「お、れ……」


 成長したカイトの自身の顔だった……


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