③
「学生のよう……なんですか?先生が?」
雅にはよくわからない。だって、桜先生はずっと雅にとって「先生」だったから。
「だってさ、今まで学生だった人が突然『立派な社会人』に変わっちゃったら怖いでしょ」
「まあ、確かに」
「特に私の場合、学生時代も割とクズだったからね、社会人としては多分生ゴミ以下……」
「あの、曲がりなりにも私、桜先生に憧れてたんですけど……先生って生ゴミなんですか」
「どうなんだろ……そりゃ人より勉強はした方だし、今だって仕事は結構頑張っている方だとは思うけど、やっぱり『生きる』のは下手だよね」
確かに、桜先生は家庭教師としてはクズでしたね、という言葉は流石に飲み込む。……案外、許してくれそうだけど。
「だってさ、私、大学時代SNSのトラブルで、とある大学のミスコン中止にさせちゃったくらいの問題児だよ」
「あ……、なんかSNSがどうとか言ってましたよね。……ミスコンが?中止に?どうして」
桜先生は、大学1年の時の事件のあらましを語ってくれた。――もう生徒と先生の関係じゃないから、少々ゲスいお話をしても大丈夫だよね、とか言いながら。
「でもそれってミスコンの候補者が悪かっただけじゃないんですか。桜先生は別にミスコン潰してなくないですか」
誹謗中傷のコメントを勝手に桜先生に送りつけて、勝手にアカウントを間違えたんだったら、それは明らかにその人の自業自得でしょ、と思ったのだ。それに、その人は中学時代にも先生にひどいことをしているのだ。
「まあ、そうかもしれないけど……私だって、さっさとSNSの投稿やめてアカウント削除すれば良かった訳だし。もう少し、上手くやれたはずなのよ」
「どうして、そうしなかったんですか?」
桜先生は、なんかヤバい事になったらあっさりとアカウントを消しそうなタイプだから、確かに意外だ。
「まだ出会ったばかりの頃にさ、今の私がその子より幸せであって欲しいって思った、って話したじゃん?」
「覚えてる」
あの日の話か。
「だから、私の幸せを見せつけてやりたかった、ただそれだけだよ」
「理由がそこそこゲスいですね」
「女なんて、そんなもんよ」
桜先生はそう言って、笑った。そうですか?あんまり考えたことがない。雅がそう言うと、桜先生はそれは良かった、と嬉しそうな顔をした。
「あ、でも」
雅は先日聞いたある話を思い出した。
「そういうこと、案外皆さん考えるらしいですよね」
それは、雅の行きつけの化粧品カウンターの、お気に入りの店員さんのお話だった。
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