ミス・キャンパスの隣

第2話 ミス・キャンパスの隣 ①

 大学の入学式。桜が舞い、新入生たちは浮かれている。親御さんたちも、大事な娘や息子の新たな門出を嬉しく思っているのだろう。


 別に、そんなのどうでもいい。高橋たかはし 夏希なつきはどこか冷めたスタンスでいた。第二志望の、私立大学の医学部。高い学費で親に迷惑をかけていることや、国立の医学部に合格するという自分の目標を達成することが出来なかった悔しさから、どうしても他の新入生のような気分にはなれなかったのだ。


 テンションが下がっているときに限って、さらにサイテーな気分にさせられる事が起こったりする。その事を夏希は、自分の肩に腕が回る感触で察知してしまった。


「わー!夏希ちゃん。嘘でしょ?久しぶり!小学校卒業以来、だよね」


 嘘でしょ、と言いたいのはこっちだ。


 「黄色い声」という言葉がある。音に色をつけるなら、ふわふわと甘い、「ピンク色」という描写が似合うこの声の持ち主が誰か、すぐにわかった。――山口やまぐち 愛莉あいり。幼馴染みだ。


               ✳✳✳


 愛莉は同じ大学の文学部に所属しているという。――よかった。学部が違うなら、教室で一緒になるタイミングは少ないだろう。夏希は少なからず安堵した。愛莉はそこまで勉強のできるタイプではなかったから、医学部医学科には来ないだろうとは思っていたものの、看護科ならもしかすると有り得るかもしれない、と内心ひやひやしていたのだ。


 もう、「あの可愛い女の子の隣にいる子」って呼ばれるのは、たくさんだ。

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