「……え、なにいってんの?私、ミスキャンパスなんて出られるようなツラじゃないし、それに私が入ろうが入らまいが、愛莉には関係ないじゃん」

「あたしのことを、一番よく知ってるのは夏希ちゃんでしょ?――だから、あたしの魅力とかそういうのを、宣伝して欲しいの」


 愛莉のことを、よく知っている?ふざけんな。愛莉の魅力?そんなの知らない。だって――


「ねー、一生のお願いだから」


 よくある話だけど、愛莉の「一生のお願い」は、けして「一生のお願い」ではない。もしそうであるならば、愛莉は100生くらいしていることになる。


 それでも首を縦に振らない夏希に、愛莉は魔法をかける。――言葉の魔法。女子ならよく口にする言葉だけど、夏希にとってそれは神経毒か何かのように、身動きを取れなくするのだ。


「ね?あたしたち、親友でしょ?お願い」


 昔から、そうだった。愛莉の「あたしたち、親友でしょ」という言葉に、いつも夏希は縛られてきたのだ。どうしてこの言葉を聞くだけで、彼女の言うことをきいてしまうのだろう。


 そして愛莉は、よくわかっているのだと思う。――夏希は、愛莉の引き立て役に最適だということを。


                 ✳✳✳


 翌日、夏希は広告サークルの部室にいた。


「……昨日、山口愛莉っていう子が新歓を受けていたと思うのですが。私は彼女の友達で、その……愛莉がミスコンに出るって聞いたので、その応援に……」


 普通ならサークルの方から勧誘してきて、それにのせられる形で入部する新入生が殆どであろう。自分からサークルに突撃するなんて。そう思うと夏希はしどろもどろになってしまう。


「……ミスコンにでる側じゃなくて?宣伝?」


 サークルの代表と思われる先輩が、怪訝な顔をする。――確かに、宣伝する側に女子は殆どいない。女子で広告サークルに赴く人は大体がミスコン参加希望者なのだ。


「……すみません、ダメだったら、本当に大丈夫なんです」


 申し訳なくなって、夏希は帰ろうとした。――元々、別に入りたかった訳ではないのだ。断られたのなら、愛莉だって諦めてくれるだろう。


「まって、誰もダメだなんて言ってないじゃん」


 ――ダメだと言ってくれ。


「……ただ、勿体無いな、って思っただけ。でも宣伝部として入りたいなら、それでも大歓迎だよ」


 ――ほーら。勿体無いな、だって。こういう口達者な所、さすが広告サークル代表って感じよね。夏希は若干の胡散臭さを覚えつつ、斯くして愛莉と共に広告サークルに入ることとなった。

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