④
4月はあっという間に過ぎた。広告サークルの活動も忙しくなってきて、夏希たち1年生も、もう新入生扱いはされなくなってくる。広告モデルやビジネスモデルの考案のための、大学間での話し合いに参加させられた時は、夏希も流石に気が引けた。
「1女ちゃんは、なんにも提案しなくていいから。――広告サークルの宣伝部として、とりあえず経験を積んどくのは悪いことじゃないぞ~」
サークル代表の大島センパイに軽い調子で誘われ、最初は夏希も断っていた。だけど、
「たのむよ~。こんなこと、君にしか頼めないよ。夏希ちゃんは期待の1女ちゃんなんだよ?」
――そんなこと言われちゃあ、参加せずにはいられないじゃないか。
はじめは嫌々参加した話し合いも、実際にいろんな大学の広告系サークルに所属する学生たちの様々な意見を聞いたり、社会人の方々と交流する機会があったりしたのは、刺激的な経験だった。――その後の飲み会は、ちょっとめんどくさかったけど。
宣伝部ではない愛莉は、この話し合いと飲み会に参加していなかった。夏希は、愛莉の隣にいる子、ではなく『高橋 夏希』としてみんなに認識されていたのだ。
「夏希ちゃんは、ミスコン参加者じゃないの?」
都内の他の広告系サークルの男の子に、飲みの席で声をかけられた。私の名前、覚えててくれたんだ。
「いや、どちらかというと裏方ですよ」
「それマジ?うっわ勿体無いな」
「お世辞が上手いですね。――それに私、そういう柄でもないですし」
「ふーん。そういうもの。――どうして、わざわざ宣伝部に?」
「ミスコンに出る幼馴染みに誘われたんです。私のプロデュースをしてくれ、と」
「へえ。その幼馴染み、可愛いの?」
愛莉は、可愛い。
「か、可愛いですよー!多分、あの子を見た男子の100人中75人くらいは一目惚れすると思います」
「確かに、一目惚れってなかなかしないもんな。――それが75%なら大したもんよな」
その時だった。
「おー!お前、早速俺らのサークルのかわいこちゃんに声をかけてんのな。夏希ちゃんはわったさんぞー」
大島センパイの声だった。――大分、酔っている。
「そりゃかけるでしょうよ。――なに?しかもこの子、ミスコン参加希望者じゃないのな」
「宣伝部の期待の新人だ!……この子、キャッチコピーとかのセンスも大したもんなんだぜ」
「あの、適当に誉めすぎですって」
「適当じゃないよーん」
確かに、この間ちょっとしたイベントのキャッチコピーを部内で募集していたとき、夏希の意見が採用されたのだ。
「しかし、この子の幼馴染みがとんだ美女らしいじゃん。勧誘したの、どうせ大島だろ?――めざといなあ。写真見せてくれよー」
「まあ、ミスコンに出るような子はみんなある程度可愛いけど……ん?幼馴染みって、山口愛莉のこと……だよな?」
大島センパイが夏希のほうを向いて、不思議そうな顔をする。
「はい、愛莉です。――センパイが、勧誘したんですか」
愛莉はミスコンに出ることを提案され、広告サークルに入部したと言っていたはずだ。
「いや?山口はミスコンに自分から立候補して出場することになったのだが?」
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