「なんかさ」

「……え?」

「夏希ちゃん、最近サークル楽しそうじゃん?」


 愛莉が楽しくなさそうに、そう言った。久しぶりに二人は一緒にお昼を食べていた。なぜだろう、最近愛莉のことを見ても、逃げようとか隠れようとか思わなくなっている。――逃げるのは、そっちでしょ?みたいな。


「そーお?……ま、最初は誘われて入っただけだったからやる気も無かったけど、最近活動内容とかやっとわかってきた所だし」

「ふーん。ま、別にそんなことはどうでもいいんだけど」


 ……話を振ってきたのは、そっちじゃないか。ま、別にそんなことはどうでもいいんだけど。


「愛莉はミスコン活動、どう?」


 こういう子には、相手に話題を振ってあげれば機嫌が直るの。――なんでだろう、こんなことを考えるなんて自分、余裕有りすぎじゃない?


「……うん、うまくいってるよ。こないだなんか、スポンサーしてくれる化粧品メーカーの人たちとミスコンメンバーとで雑誌に取り上げられたの」

「わお、なんかよくわかんないけどすんごい華やかな世界。『スポンサー』『雑誌に取り上げられた』、なんて言葉、大学生が使うもんじゃないわー」

「そんなことないよー」


 口ではそう言いつつ、満更でもない様子。上げて上げて。


「愛莉ってさ。スカウトされて広告サークル入ったんだったよね。さっすが、見る目あるよねー。大島センパイだったっけ?スカウトしてきたの」


 落とす。


 ほら見て。愛莉の視線がうろうろしているのが見てとれる。本当に分かりやすい。――今までこんなやつに翻弄されてきたのか。なんだかばかみたい。――だけど、こうして小さな復讐をして楽しんでいる自分も、バカだ。


「そ、そうね」


 この子はもっとバカ。どうして嘘を重ねれば重ねるほど、自分がみっともなくなっていることに気づかないのだろう。


 ――自分の口で、言いなさいよ。『私をミスコンに出させてくださいお願いします、とセンパイに頭を下げてサークルに入りました』って。そう言って高らかに笑ってやりたい衝動を夏希は抑えていた。


「いやー、やっぱ持つべきものは美人の幼馴染みよね」

「どうして?」

「愛莉のお陰で、自分にあったサークルを選べた」

「……誉めすぎだって」


 いくらでも、誉めてあげるよ。誉め殺しにしてあげる。


「……じゃあ、うちこれから授業だから。またね」


 今日のところは、このくらいにしておいてやろう。そう思いながら夏希は学食のトレイを手にし、立ち上がった。


「……ね」


 愛莉が夏希を呼び止める。


「今日、なんか雰囲気違うよね」

「……そう思う?姉にちょっと服を借りたの」


 ついでにちょっとだけ、メイクもしてもらった。夏希と違って女子力高い系の姉は快く夏希のイメチェンに付き合ってくれたのだ。


「うん。……いいんだけど、なんというか、いつものボーイッシュな方が似合うかなって」


 別にボーイッシュにしていたわけではない。ただ、ファッションとかに無頓着だっただけ。……へぇ、愛莉のやつ、そうやってめてくるのか。だって今日のこのファッションは大島センパイのお墨付きなのだ。


「今日の夏希ちゃん、かわいい。ってかさ、絶対夏希ちゃんがミスコン出たら良かったのにって思っちゃう」


 大島センパイがそう言ってくれたから、あんたにどうこう言われたって私には関係ないのよ。夏希は心の中で目の前の哀れな女の子を嘲笑する。


「うーん、愛莉やっぱりそう思う?」

「うん、絶対そう」

「でもね」


 調子にのってしまった。


「大島センパイは、こっちのほうが良いって。――男の人って、全くファッションとかわかってない」


 どうしてここで、大島センパイの名前を出してしまったんだろう。――後悔したのは、しばらく後の話。

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