⑦
秘密が、バレたんだな。そう思った。そして夏希にあの事実を教えたのは、きっと大島センパイだ。
色んな人に好かれていた夏希だったが、中でも部長の大島センパイの夏希に対する扱いは特別だった。宣伝部の一員としての能力も認めていたが、それだけじゃない。
「夏希ちゃんがミスコンに出ればいいのに」
確かに、大島センパイがそう友達に話しているのを、愛莉はある時、聞いてしまった。
夏希も、きっと大島センパイの好意に気づいているはずだ。――そして、愛莉じゃなくて、夏希を特別扱いする大島センパイのことが、夏希もきっと、好きなのだろう。大島センパイは、夏希に自信を与える。その証拠に、最近夏希はおしゃれをするようになった。
「大島センパイが、こっちの方がいいって」
そう言って微笑む彼女は、本当に嬉しそうだったのだ。だから愛莉はもうひとつ、その場かぎりの嘘をつくしかなかった。
「あたし、大島センパイと付き合うことになったんだ」
✳✳✳
大学入学と同時にSNSを始める子は多い。――愛莉もご多分に漏れず、日常をつぶやくためのアカウントを作ったが、別にだれと繋がりたいわけでもなく、放置していた。
しかしミスコン活動をするようになってから、SNSに触れる事を余儀なくされた。候補者はミスコン宣伝用アカウントをひとりひとつずつ持つことが義務付けられ、日常生活の事や(しかもやたらキラキラ系女子を演じさせられる)、ミスコンの活動についてこまめに呟くことになっていた。ちなみに、5人の候補者のアカウントを監視し、変なことをつぶやいていないか、変なリプライが来ていないかをチェックするのが、夏希の役割だった。
最初はめんどくさかったSNSだが、しばらく使っているうちに愛莉にも少しその楽しさが分かるようになってきた。例えば、
「行き付けのカフェでほっと一息」
最後にハートマークをつけ、買った飲み物を持って微笑む自分の写真を貼り付け、投稿する。そうすれば、主に自分の大学の生徒から、時々他大の男子から、
「超可愛い」
「天使かよ」
みたいなリプライが来る。――まるで、人気アイドルにでもなったような気分だ。女子からも
「かわいいー!どんな化粧品使っているのか教えてください♪」
といった声がかかる。……どの程度本気なのか、わからないが。少なくともそれだけですこしは愛莉の自己承認欲求が満たされるのだ。
SNSは発信するだけじゃない。受信する側としても、なかなか面白いものが見られたりする。
普段教室で顔を合わせている友達の、知らなかった一面を知ることが出来る。今まであまり話す機会がなかった友達とも、結構簡単にリプライを送りあったりすることも出来る。――顔が見えない分、逆に気楽だったりするのだ。
そして一番面白いのが、既に縁の切れてしまったような過去の友達の、現在の様子を知ることだった。
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