「……あたしも、夏希ちゃんのこと、大好き、だよ。親友だもん」 


 もちろん、そういうことではないと頭ではわかっていた。――だけど。そういうことだと信じたかったんだ。


「そうじゃなくて」


 拓真は少し赤い顔をしていた、気がする。


「恋、ってやつ……かな」

「……」

「俺さ。夏希のことが一番好きなんだ」


 一番、という言葉が妙に耳に刺さったのだ。――あたしたちは、いつも3人で一緒。3人はみんな同じように仲が良い、そう思ってたのに。拓真君にとって、一番は夏希ちゃんで、あたしは、二番目……なのかな。そう思うと、愛莉は耐えられなかった。


「どうして……どうして夏希ちゃんなんかが好きなの」


 夏希は親友なのに。ついそんな言葉が出てしまう。


「あたしの方が、元気で、可愛いっていつもみんなには言われるのに」


 当時から愛莉はおしゃれに興味があった。それに対してお母さんが厳しかった夏希ちゃんは全くおしゃれとは無縁だった。髪の毛はショートカット。必ずズボンをはいていて、スカートをはいているのを見たことがない。――本当は、とても可愛らしい顔立ちをしていたのに。そしてどちらかというと社交的な愛莉と対照的に、夏希は引っ込み思案な性格だった。だから愛莉の言葉には嘘はなかった。


「親友のふりして、愛莉は夏希のこと、そんな風に思ってたんだ」


 拓真は愛莉をにらみつけた。


「違うの、あのね」

「夏希のこと、悪く言ったら俺、愛莉と友達やめるから」


 拓真はそう言い捨てて、足早に去っていった。


 この時初めてわかったんだ。女の子が何人かいれば、みんなが平等になんてなれない。誰もが彼女らを比べ、順位をつける。――1番しか取ったことのない子は、その事の重大さに気づかない。愛莉自身がそうだった。地味な格好をさせられている夏希といつも一緒にいて、殆どの人が愛莉を、「ふたりのうちの、可愛い方」と呼んでいた。それを大事なことだと、その時まで認識していなかったのだ。


 幸せの量は、残念ながら限りがあるみたい。愛莉たち女子は、この世の中に存在している幸せを奪い合うのだ。全員で、分け合えばいいじゃないかって?他のみんなには可愛いって言われていたんだから、拓真ぐらい夏希に譲ってあげればいいじゃないかって?


 ごめんね。それは、ムリ。――全部、自分のものじゃないと幸せじゃない。そういう女の子も、居るんだよ。

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