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他人を陥れたからって、自分が幸せになれるわけじゃない。そんなことは、その後の学校生活で嫌というほど分かった。
薄っぺらな友情を結んでいた友達は、皆愛莉から離れていったし、もちろん「親友」の桜とも、その後関わることはなくなった。どうしてだろう。ひとりって、こんなにも辛いんだ。なのに愛莉は、自らひとりになってしまうような行動を取ってしまうのだ。――やはり自分には幸せになる才能が無いのかもしれない、と思ったりもする。
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大学の入学式で夏希を見かけたときは驚いた。――昔と変わらない、どこかつまらなそうな表情、理知的と言えば聞こえはいいが、野暮ったいメガネ、そして艶はあるけど全く染めたりパーマをかけたりしていないショートカットヘア。彼女は本当に、なにも変わっていなかった。
夏希は医学部、愛莉は文学部。この大学の場合、学部間の偏差値の差が大きい。医学部は最も入学が難しく、文学部は比較的簡単な部類だったため、決して夏希に追い付いたとは言えない。だけど、愛莉は昔から賢かった夏希と同じ大学に通えている、その事実に心からの喜びを覚えたのだ。
広告サークルの存在を知ったのは、新歓期も少しずつ終わりに近づいている頃のことであった。同じ学部の男子が見学に行ったのだと言う。美人がいっぱい居て超楽しかった。そんなことを言ってその場に居た女子を呆れさせていたっけ。そもそも愛莉は広告サークルがミスコンの運営を担っている事自体知らなかった。
小さい頃から可愛いと言われることが多かった。幸い、お洒落も大好きでメイクも上手い。――もしかしたら、これならあたしも何かを掴むことが出来るんじゃないかしら。そう思ったのだ。勉強も部活もいまいち頑張れなかった愛莉も、きっと、これなら。
現実はそう甘くない。一般的には可愛いと言われていても、ミスコンとなれば規模が違う。既に勧誘されていた4人のミスコン候補者はまるでベールを纏っているような美しさだった。残りは一枠。――4人に匹敵するような美人を、サークルはなかなか見つけられずに居たようだ。
美しさを競う場に自ら赴く事って、女子の間では暗黙のタブーと化している気がする。だけど、それでもいいかなって思ったのだ。何かを自分の力で掴んでみたい。そんな気持ちもあった。それに愛莉は他の候補者から見下されたって、別に良いのだ。――ミスコン活動に一生懸命で、キラキラしている自分を、もっと普通の誰かに見てもらいたい。いや、「誰か」じゃない。
夏希に、見てもらいたい。――あの時拓真に選ばれた、夏希に。
だから愛莉は、勇気を出してサークルの代表の大島センパイに頭を下げたのだ。
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愛莉はミスコン候補者になり、さらには夏希を無理矢理ミスコンの宣伝部に入れることにも成功した。――近くで、あたしを見ていてもらいたい。そう思って提案したことだった。そしてもちろん、自分がミスコンに自ら立候補したということは、秘密にした。どうせすぐにバレるのに――
皮肉なもので、何をやっても優秀で真面目な夏希は、多くの先輩から重宝された。それこそ、ミスコン候補者の愛莉以上に。そして最初は義務感から活動していた夏希も、周りからちやほやされるうちにサークルが楽しくなってきたようだった。やりがいがどうの、って口では言っているけど、果たしてどうなのか。愛莉はそんな意地悪な事を考えたりもした。
1度、夏希と二人で昼食をとる機会があった。愛莉はミスコンの候補者がどんなに楽しい活動をしているのか、どんなにキラキラした毎日を送っているのか、精一杯アピールしたつもりだった。夏希は、それを楽しそうな表情で聞いた。
おかしい。以前の彼女なら、またなんか自慢してるよとでも言いたげな、つまらなそうな表情で愛莉の話を聞いただろう。愛莉もそれを期待していた。どういうことだろう、と疑問に思った。
「愛莉ってさ。スカウトされて広告サークル入ったんだったよね。さっすが、見る目あるよねー。大島センパイだったっけ?スカウトしてきたの」
そういう彼女の目は楽しそうに光っていた。
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