②
マンションの入り口まで出迎えてくれた雅さんの御母様は綺麗な方だった。数々の家庭教師をクビにしたモンスターペアレントだ、と警戒しつつも桜がよろしくお願い致しますと頭を下げると、こちらこそ、と返事をした。
「雅は本当に難しい子ですが、なんとか少しでも勉強する習慣をつけてくれたら……」
モンスターは御母様ではなく、娘本人のようだ。
もはや高級ホテルのようにも見える立派なマンションの一室に案内される。御母様が、ドア前のインターホンを鳴らす。
「雅ー、開けてくれるー?」
「……はい」
それから十数秒ほど経って、彼女は中から現れた。
――少し、不機嫌そうな表情をした雅さんはお母様似の美人さんだった。中学一年にしては少し小柄だが、それでも十分な存在感を感じられた。
「はじめまして。今日から家庭教師をすることになりました、山本 桜です」
桜が挨拶をすると、雅さんは黙ったまま、ペコッと頭を下げた。なかなか無愛想だが、この塩対応は予想済。まだ何かしらの反応が得られただけマシだ。
「山本先生すみません……雅!挨拶くらいちゃんと」
「あー、いえいえ!誰でも最初は人見知りするものだと思いますので」
……まあ、きっと雅さんは人見知りをしているわけではないのだろう。それくらいは「人の心が分かっていない」と言われたことのある桜にもわかる。
✳✳✳
「……先生、すみません。私、これから仕事がありますので家を離れるのですが、雅をよろしくお願いします。――あ、そうだ」
御母様がハンドバッグからシンプルなA5サイズのノートを取り出す。
「――このノートに、今日教えてあげてほしい内容が書いてありますので……」
そう言って私にそれを手渡す。
「ありがとうございます、大変助かります」
受け取ったノートにはお母様の丁寧な字で、本日のノルマが書いてある。――たいしたノルマじゃないな。桜は思った。
御母様が家を後にし、いよいよ桜の初・家庭教師がスタートした。
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