自分の投稿を諦めた愛莉は、桜の投稿にリプライを送ることにした。個人用のアカウントを開く。


「へー、桜、合唱サークル楽しそうだね!ってかメイク頑張ったのね、中学生の時と全然違う(笑)」


 投稿。したつもり。打った文字列を消す。アカウントを切り替える。


「え、めっちゃ楽しそう!合唱やってたんだ、がんばって」


 投稿ボタンを押した。――こんなコメントがあれば、端から見たときに、友達思いの優しい女の子っぽく見えるかな?なんて考えながら。




 返事は、1時間ほど経ってから返ってきた。


「とても楽しいよ。本当にこの大学とこのサークルに入れて私は幸せです」



 きっと、桜は本心を言っただけ。それがどうして、こんなにも鼻につくのだろう?この大学と、このサークルに入れて幸せ。そう、あんな難関大学に入ることが出来たのはきっと桜が努力したからであって、このサークルに入って友達に囲まれているのも全部桜自身の力。自分に自信がある人は、本心で生きていける。愛莉のように、「他人から見たときの自分」を作る必要がない。


 でも。愛莉だって頑張っているのだ。恥を忍んで頭を下げ、ミスコンに出させてもらった。そんなにキラキラした毎日を送っているわけではないのに、他の候補者に負けじと笑顔を振りまき、自撮り写真をSNSにアップする。――本当は、みんなの反応が気になって仕方がない。実際、「かわいい」とお世辞でも言ってくれる人が大多数ではあるが、「大したことないね」「自分のことかわいいと思ってるの、すごいムカつくな」という投稿がされることもある。自業自得だと言うだろうか。自分で選んだ道じゃないか、と。そうかもしれない。だけど、それ以外にどうやったら他の女の子より幸せになれるのか、わからないのだ。


 だから、つらくて、苦しくて、我慢が出来なくなった。――愛莉は個人用のアカウントを再び開いた。そして、投稿する振りをして消した文面を復活させる。


 送信。――少し、胸がスッとする感覚があった。


                 ✳✳✳


 SNSで相手を攻撃するなんて、かなりリスクのある行為だ。愛莉はただこの一回だけで止めよう、そう思っていた。


 結局、あのリプライにはなにも反応がなかった。――鈍感に見える桜も、さすがにあれが嫌味だということくらいわかったのだろう。そう思うだけで気分が晴れるから不思議だ。しかし、


「今までお金さえ稼げればそれでいいや、って思っていたバイトだけど、やっぱ頑張ろって思える出来事があった」

「医学部の実習、なかなかめんどくさい……だけど将来医者になれるなら頑張るぞ」


 愛莉の嫌みだらけのリプライにも拘わらず、桜はSNSへの幸せたっぷりの投稿を続けた。別に、愛莉なんかにどうこう言われたって、私は幸せなの。羨ましい?――まるで、そう言われているような気分がした。そう言えば夏希も言っていた。


「でもね、大島センパイはこっちの方がいいって」


 イメチェンをしてきた夏希をけなしたときに、そう言われたのだ。愛莉なんかにどう思われようと、二人とも自分のものさしを見つけて、自分に満足している。そう思ったら、もう止められなかった。


 愛莉は、桜に攻撃的な言葉を送りつけることを日課とするようになった。


 ――もちろん、個人のアカウントで。

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