広告サークルの部室には、共用のパソコンが置いてある。普段は夏希が使っていることが多い。候補者たちのアカウントの管理だけじゃなく、サークルホームページ、サークル公式SNSアカウントの編集など、いろんなことをやっている。夏希は本当に優秀な部員だった。実際、サークルのホームページの閲覧数やSNSの投稿のシェア数は着実に増えていた。


 夏休みのある日、愛莉はミスコン関係の用事で大学に来ていた。他の候補者も居たのだが、二人は昼食をとりに行き、一人は公式ホームページに載せるためのスナップ写真を外で撮られていた。もう一人は、用事があるとかでそもそも大学に来ていなかった。愛莉は部室に一人残された。


 最近、暇さえあればスマートフォンばかり見ている気がする。桜の投稿は気になるし、それに意地悪なリプライをするのも楽しい。そして自分の投稿にたいする他の人の反応が今まで以上に気になるようになったのだ。


 だからその日、昼にも拘わらず、すでにスマートフォンの充電が切れかかっていたのだ。部室に、愛莉以外の人は居なかった。だから、サークルの共用パソコンを使ったのだ。


 ミスコン用のアカウントを開く。前回の投稿――シェア数、6。この投稿にいいね、と言っている人は、30人ほど。学部の友達とお昼御飯にちょっとおしゃれな店に行き、写真を撮ってもらったときのもの。まずまず、といった所だ。だけど他のもっと人気のある候補者はシェア数が2桁いってたりするし、リプライ数だってまだまだ少ない。


 少し、あせる。――だけど、不思議と悔しさはあんまり感じない。なぜだろう。夏希や桜より上に立ちたいという気持ちはこんなにも強いのに、ミスコン候補者に対してはあまりそのような気持ちは生まれない。なんだか狭い世界で生きているんだなあ、と愛莉は自分で思う。


「今日の昼食。キラキラ女子大生のまね(笑)」


 桜の投稿が目にはいる。おしゃれな店での昼食を写真におさめている。大学生のアカウントによくある投稿内容だ。桜自身は写っていなかったけど、向かい側に、他の人がいるのはわかった。――指先が写っていたから。


「キラキラ女子大生の真似って(笑)」

「もっとキラキラしていこうな!」

「今度一緒に行こうや」


 そして、沢山のリプライ。全部、友達からのものだ。サークルに、学部。そしてそれは愛莉に対するリプライよりはるかに多かったのだ。有名人でもないのに、どうして。


 愛莉はアカウントを個人用のものに切り替えた。


「幸せアピールですかぁ?中学生の頃は出来なかったもんね。今の友達が中学時代のあなたを知ったら、どう思うかな(笑)」


 ――そういえばこの前、拓真から愛莉にメッセージが送られてきた。


「あいりって、俺の幼馴染みのあいりですよね。友達に攻撃的なリプライ送るのやめてくれる?」


 拓真はいつも愛莉の味方になってくれない。自分のそれまでの行為を振り返れば、そうなるのは当然のことなのに、どうしても疑問に思ってしまうのだ。私たちは、幼馴染みなのに。つい、心のなかで拓真を責めてしまう。


 拓真とは反対に、当事者の桜は愛莉のコメントを無視し続ける。――本当に、見ているのだろうか、と疑うぐらい。しかもコメントが不快なら、愛莉のアカウントをブロックだの何だのするだろう、と思っていたのに、それすらもしないのだから不思議だ。


 リプライ、送信。――なんだか、ちょっと虚しい気分。愛莉はぼんやりとパソコンの画面を眺めた。その時、背後でガチャ、とドアノブを回す音がした。


 焦った。――こんな画面を見られたら、愛莉はどうなってしまう?慌ててブラウザの閉じるボタンを押し、パソコンを乱暴に閉じる。


「……ごめん、パソコン、使ってもいい?」


 夏希だった。

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