⑨
ふーん。桜、医学部に行ったのね。しかも確かこの大学、夏希でも受からなかった難関大学だった気がする。ま、あの子はがり勉だったし、当然か。医者になりたいみたいなことは中学生の時から言ってた気がするし、良かったんじゃないの?はいはい、おめでとう。
どうしてだろう、桜が楽しそうにしているのが、本当に許せない。中学生の時、桜が自分の力でいじめに打ち勝とうとしているのが、なぜかとても腹立たしかったのと同じ気分になるのだ。その理由が、今ならわかる。
――愛莉には、きっとそれが出来ないから。
付き合っているのかどうかはわからないが、桜と拓真はどうやら大学のサークルで出会い、仲良くなったようだ。――それも、ムカつく。全部、腹立たしい。
そして、愛莉は桜のアカウントに、個人のアカウントと、ミスコンのアカウントの両方で友達申請を送った。桜は――楽しい大学生活を呑気に送ろうとしている桜は、愛莉の事を覚えているのだろうか?
✳✳✳
意外なことに、友達申請はあっさりと受け入れられた。
「こんにちは!中学の時の同級生のあいりだよ♪覚えてる?」
――ミスコンのアカウントで、メッセージを送った。そう、愛莉はミスコンに出ているのだ。
「こんにちは。桜です。覚えていますよ、よろしく」
とてもあっさりした返事が返ってきた。どうして、ミスコンについてなにも言わないのだろう。すごいね、ミスコン出るの?がんばって。その一言も言えないのか。――羨ましいのかしら。だから、あえてなにも言わない?一瞬、そんな理由を期待した。しかし少し考えて、桜の事だから興味がない、という可能性があることに気がついた。きっとそうだ。あの子は良くも悪くも、他人に無関心なのだ。
そういうところが、とてもムカつく。
愛莉の友達申請を受け入れてからも、桜は通常通りに、好きなようにSNSへの投稿を続けていた。
「サークルのコンサートに来てくださった皆様、ありがとうございます!発表に参加したのは初でしたので緊張しましたが……」
桜は拓真と同じ混声合唱のサークルに所属しているようだ、ということが分かった。SNSには、コンサートに来た人たちへのお礼のコメントと共に、楽しそうな笑顔を浮かべた、桜の写真。――沢山のサークル員に囲まれて。
負けじと愛莉も、ミスコン用アカウントでツイートをしようとした。あたしだって、桜なんかにに負けない、楽しい大学生活を送っているんだから――
「この前、ネイルサロンに行ってきました!」
自分の顔の横に、綺麗にネイルをされた手をかざし、自撮りをした写真を添付する。そして投稿――しようとして、やめた。
広告サークル以外のサークルには入っていない。学部の友達とはそこまで仲良くなれなかった。幼馴染みの夏希とは、疎遠になっている。昔はあんなに仲が良かったのに。
適当にお昼を一緒に食べるような友達はそれなりにいるけど、青春の一コマを共に過ごした、といえるような仲間は、愛莉にはいないのだ。
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