⑬
「炎上って……どうして」
「愛莉ちゃん。――まさか、リプライだったらみんなのホーム画面に表示されないから大丈夫だとでも思ったのか……うちらの大学のミスコンは注目されてるんだから、愛莉ちゃんのアカウントをわざわざリプライまでチェックしている人なんていくらでも居るんだよ、どうしてそんなことも分からなかったんだ!それともアイコンさえ変えればどうにかなるとでも思ったのか、浅はかすぎるだろ」
「いえ、だって……あの、アイコン?あたし、変えましたっけ?」
だって。愛莉は個人用のアカウントでしか炎上するような内容は投稿していないはずなのだ。それにその個人用アカウントを知っている人は数少ない。――そんなこと、口が裂けてもセンパイには言えないけど。それにアイコンを変えたって、なんだ?
大島センパイが、共用PCの画面で、愛莉のミスコン用のアカウントを見せてくれた。――大量のリプライが来ている。
「他者に対する攻撃的なメッセージ、ミスコン候補者として失格ですよ」
「性格悪いんですね、顔にもでてますよ(笑)」
「うわ、ミスコン候補者が化けの皮を脱いだwww」
「その調子で服も脱いじまえw」
「ってか、こいつの個人用のアカウントも見つけたwもっとやべえぞwww」
――どうして?
そして、気づいた。このアイコン、違う。
「センパイ。――これ、あたしの、ミスコン用のアカウントなんですよね」
「そうだ。――他にもアカウントがあるのか?」
「い、一応」
知られたくなかったけど、この際仕方がない。
自分の過去の投稿を辿る。――確かに、紛れもなく、これはミスコン用のアカウント。だけど、アイコンは個人用のアカウントのそれだったし、アカウント名も、元々は『山口 愛莉 ミスコンentry no.5』というものだったのに、『あいり♪』という個人用アカウントと同じものになっていたのだ。
もしかして。愛莉は自分のスマートフォンから、今度は個人用のアカウントを見た。
アカウント名:『山口 愛莉 ミスコンentry no.5』
そして紛れもなく、アイコンは白いワンピースで微笑む自分だったのだ。
引っ掛かった。――あの時、やっぱり夏希にパソコンを貸したのがダメだったのだ。慌てていた愛莉はあの時、個人用のアカウントからログアウトするのに失敗した。――おそらく、夏希は過去の閲覧履歴を使ったのだろう、簡単に愛莉の個人用のアカウントに入り込むことが出来たのだ。
そして、ある人――桜に、誹謗中傷のリプライを送り続けていることに気づいた。夏希は驚いただろう。そこで、考えたんだ。
二つのアカウントの外観を交換すれば、愛莉はアカウントを間違えて投稿する可能性がある、と。
もちろん、成功する確率はそれなりに低い。夏希は愛莉のミスコン用のアカウントには普段からログイン出来るから、共用のパソコンから愛莉のミスコン用のアカウントで変な内容を投稿するのが一番楽である。だけど、どの端末から投稿したのか、ということは簡単にわかってしまうから、それは避けたかったのだろう。愛莉のスマートフォンから誹謗中傷の投稿をさせるには、確かにこの方法がそこそこ手っ取り早いのだ。
全部、終わっちゃった。――何故か、笑みがこぼれる。あたしは狂ってしまったのかな、と愛莉は思う。
確かに夏希は愛莉の二つのアカウントにトリックを仕掛けた。だけど結局、その爆弾を爆発させたのは紛れもなく愛莉だ。愛莉の、汚い心だったのだ。過去の友達に酷い言葉をかけようとさえ思わなければ、今回の件は起きなかったのだから。
面白い話だ。愛莉は思った。――あたしより、幸せにならないで。桜にも、夏希にも、あたしよりは不幸せで居て欲しかった。だけど、二人の不幸を願えば願うほど、愛莉は自分が惨めに思えた。それでもやめられなかった。そして、終いには自分で、自分を不幸にした。
面白い話じゃないか。――勧善懲悪かな?
『あたしより幸せにならないで』 fin
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