私の二十歳を、あなたに見せたい
第4話 私の二十歳を、あなたに見せたい ①
初めて出会ってから、もう7年になるでしょうか。びっくりですね、今の私は、あの時のあなたよりも、年上なんですよ。
あの日あなたは、まだまだ子供だった私に、自分の貴重な時間を使うことを約束してくれた。先生と生徒ではなく、人間としての繋がりを求めていた私に――仕事で忙しい両親の間に生まれ、しかも友達と衝突することの多かった私がどれだけ嬉しかったか、想像つきませんよね?……いえ、やっぱりあなたならわかるかもしれません。ぼーっとしているように見せかけて、頭も良く、相手の心を的確に読むことの出来るあなたなら。
しかしあなたは、私にとって「お手本となる大人」とはとても遠い位置にいる人でした。6歳も年下の子供相手に、むきになってゲームをするなんて信じられないし、本当は私に「勉強しなさい」と言わなければいけない立場なのに、雑談に容易くのっていた。あの楽しかった日々を思い出す度、このことを知ったらママは「家庭教師代返せ」と怒り出すだろうな、と思うのです。今、私も社会勉強の一貫として塾講師のアルバイトをしていますが、もう少し上手くやっています。
あんなぐだぐだな授業で私の成績が上がったのは本当に不思議です。的確に私の弱点を掴み、指摘してくれる。お陰で効率良く勉強が出来るようになった気がします。でもそれだけじゃない。私はダメな大人のあなたに、憧れたんです――最初は中の下か、それ以下の成績だった私が医学部に現役で合格するなんて、と両親は感激しております。そう、大学は違いますが私はあなたと同じ医学部に通っております。あなたに憧れたから、入学したんですよ。
あなたとの別れはいつか来るということは分かっていました。6年通う医学部の5年目の秋ごろ、実習の忙しさと医者の国家試験の勉強のせいで、あなたは私の家庭教師を降りた。お互い、学生でいられる時間は限られている――分かっていたからこそ、きっとあなたは最後の日もいつも通り過ごし、まるで来週も来るかのような笑顔で、
「じゃあね、またなんかあったら相談して」
と言って去っていったのでしょう。
だから、あなたとの別れは私にとってはまるで唐突な事のように感じたのです。
あの日以来、志望学部を医学部に決めたということ、そして合格したことを報告した以外には、メールのやり取りすらしていない。――あなたも忙しかったでしょうし、私もいつまでもあなたに甘えていてはだめだ、そう思ったからです。だけど時々不安になるのです。
桜先生、私に約束してくれたあの時の言葉は、あなたの本心だったのですか?――
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