遊園地の罠 5

地面へと叩き落とされたトウヤはガハッと息を吐き出す


「おいおい、どうしたんだよヒーロー?ソンジシを倒したんならこの程度じゃ無いはずだろ?ほら、立ち上がって見せろよ」


煽る様に手をくいくいと動かす

そんな姿を見せ付けられながらも、トウヤはなんとか冷静さを保ち続けていた

しかし、それは怒りを通り越したが故の冷静さである為、ちゃんとした意味で言って良いかは甚だ疑問である


ーーこいつの攻撃はボールを使った攻撃、厄介だな


ツ・キョゼの攻撃は大きく分けて2つある

1つ目は掌から生み出したボールそのものをぶつける攻撃


2つ目はボールを変形させる攻撃


この怪人との戦いで最も厄介なのは2つ目のボールを変形させる攻撃である


先程までの戦闘である程度の法則がある事をトウヤは見抜いていた

それはボールをそのまま変形させる点の攻撃、ボールを地面にぶつけたり、ボール同士をぶつけて弾けさせる面の攻撃である


しかし、それがわかっていても対応が追いつかない


ゆっくりと立ち上がりながら相手の出方を伺う


怪人はこちらを見つめ笑顔を浮かべるばかりで自分からあまり攻撃はしてこない

その事からもカウンター狙いである事もわかった


しかし、攻めねばこの怪人を倒す事はできない

攻防一体の戦闘スタイルにトウヤは攻めあぐねるが、そこでトウヤが選んだのは至極単純な答えだった


「なら・・・こいつで!」


『ライトニング!!』


取り出した円盤を腰の突起に装着し、機械音声と共にブレスレットを擦り合わせた


『モードチェンジ!ラーイトニングフォーム!!』


トウヤの身体が光に包まれ、足が肥大化していく

そうして、光を振り払えば肩と胸部のST合金製物理装甲が無くなり、代わりに足先が尖り膝から下を覆う様にして纏われた20式電化装甲脚を装備したトウヤの姿が現れる


「これで!」


バチバチという音と共にトウヤの身体が電流へと置換される


攻防一体の戦闘を行ってくるというのであれば、相手が反応する前に攻撃を当てれば良いのだ


電流へと置換されたトウヤが真っ直ぐ怪人目掛けて突撃する


「ヒヒッ、情報通り・・・真っ直ぐにしか進めなさそうだなぁ」


いやらしい笑みを浮かべた瞬間怪人は自身の足元にボールを投げ落とす

地面にぶつかり弾けたボールがまっすぐ聳り立つ壁を形成しながら怪人の身体を上へと押し上げる


「逃すか!!」


それを見たトウヤはすぐさま元の身体に戻り、怪人の上目掛けて電流へと姿を変え飛び上がる


「ほれ、ほれほれ!ほれぇ!!」


そんなトウヤの姿に待ってましたと言わんばかりの勢いで飛び上がった怪人がボールを投げつけてくる


まずは手前に2つ、合わさり弾けたボールが先ほどと同じ逆円錐形の形を作り電流となり進むトウヤ目掛けて迫ってきた


すぐさまトウヤは身体を再構成させて、迫る逆円錐形の物体の目をに足をかけると今度は地面に向けて飛び去る


地面に降りた後、すぐさま移動すれば今度は円柱状の物体がトウヤを押し潰さんと複数迫っていた


それを見るや否や再び身体を電流とかし、再構成した後に電流になりを繰り返し交わし続ける


「おいおいどうしたぁ!ヒーローさんよ!!」


煽る様な怪人の声を聞きながらもトウヤは必死に攻撃の隙を伺った


「・・・!これだ!」


再び身体を再構成すると、トウヤは迫る円柱に向かって飛び上がる


「馬鹿かよ!お前の力じゃそいつは押し返せねぇよ!」


無論その事はトウヤにもわかっている

凄まじい勢いで迫る見るからに重量のある柱、とてもではないが真正面からは押し返す事は出来ないだろう


さて、ここでライトニングフォームの欠点について説明せねばならない

ライトニングフォームはトウヤの身体を電流へと置換し、高速で移動して戦うフォームであり、メインとなるのは主に蹴り技である

しかし、このフォームには欠点があった

それは元の身体への再構成はどこでも出来るが、電流へと身体を置換するには足裏のどこかが接地していなければならないのだ


その欠点を踏まえた上でトウヤは敢えて選択する


迫る円柱にトウヤは迫っているように見えたがギリギリその範囲から僅かに逸れていた


身体の近くを円柱が通り抜けたと同時にトウヤは足を上げ、円柱の側面へと足を掛けたのだ


そのほんの僅か一瞬で、トウヤは自身の身体を電流へと置換した


「なんだと!?」


一気に上へと上昇するトウヤの身体は、狙いを定めさせない為に、円柱を巧みに利用して再構成と置換を繰り返しながら右に左にとジグザグに動く


焦った怪人が迎撃の為に新たな円柱を呼び出すが、それすらも利用してトウヤは空中から落ちてくる怪人の元へと迫る


「セイヤーー!!!」


最後の円柱を蹴り上がれば、雄叫びと共に怪人の身体に向かい一気に蹴りをお見舞いしようとする


だが、その攻撃もまた怪人が手に持つボールを弾けさせた事で防がれてしまう

出来上がったのは四角い壁


飛び蹴りを見舞おうとしたトウヤの脚は怪人ではなく壁に突き刺さったのだ


すぐさま体勢を立て直そうと電流に置換しようとしたその瞬間、壁の上を通り1つのボールが投げ込まれた


それは形を変えてトウヤに向けて伸びる


「しまっ・・・!」


言い切る前に形を変えたボールがトウヤの脇腹にぶつけられる


身体をしならせてトウヤの身体は地面へと落とされた


短い悲鳴と共に落ちた身体を痛みから悶えさせれば、地上に降りて来た怪人の声が響く


「惜しかったなぁ・・・えぇ?ヒーロー、これで終わりだ」


そう言い掌からボールを6個作り上げた


作り上げられたボールをお手玉の様にくるくると回しながらも怪人は2つのボールを手に取ればそれをすぐさまトウヤ目掛けて投げ付けてくる

空中でぶつかり合い弾け、円柱を生み出しトウヤの元に迫った


しかし、それが当たる事はなかった

トウヤの真横に突き刺さった円柱に思わず唾を飲めば、その姿を見て怪人は笑っている


「フヒヒヒヒ!!さぁてどれが当たる球でしょうか!?」


遊んでいるのだ

すでに勝機がない様に見えるトウヤの姿に慢心し、怪人はトウヤをすぐには殺さずに、まるで瀕死の虫で遊ぶ子供の様に遊んでいる


「ほれほれ!次だ次行くぞ・・・ん?」


そんな怪人の声が突如で途切れ、そして、次第に顔が愉悦の色と変わっていく


「おーい、そんなところで何やってるんだよリゴン?」


「リゴン!?」


痛む脇腹に顔を歪めながら、腕で身体を必死に起こして目を向ければ、確かにそこには歩いて来るリゴンの姿があった


「何してるんだ、リゴン!逃げろ!」


震える手を伸ばしながらトウヤが叫ぶ

しかし、リゴンはその言葉に聞く耳を持たず手に4本のナイフを、柄を指で挟むような形で持って歩いて来る


そして、ついにはトウヤの傍を通り過ぎて怪人の前に立つ


「座長・・・これだけは聞かせてほしい・・・」


「なんだ?言ってみろ」


理性が否定する。これ以上聞くなと

怒りに任せたままナイフを投げ刺せば良いと

しかし、ほんの僅かに残った感情がリゴンを突き立てた


「座長・・・あんたにとって、俺たちはなんなんだよ」


頬を一筋の涙が伝う

友のような存在だった。家族のような存在だった。まるで、親の様な存在だった


だからこそ、確かめておきたかったのだ

もしかしたらと僅かな希望を抱きながら


そして、怪人はその期待に応えるかのように優しい笑顔を浮かべる


その表情を見て、僅かにリゴンの目に希望が灯り


「なんも?お前らみたいなのが俺にとっての何かであるはずがないだろ」


一瞬で希望は砕かれた

罵られるのでも無く、嘲笑されるわけでも無く

ただ、子供に対して浮かべる温和な笑顔で持って無関心だと告げられる


「大体、赤の他人に対してお前らは特別な感情を抱くのか?抱かないよな?もし、答えが必要ならこれが答えだ」


回しているボールの一つをポンとリゴンに向けて放り投げた


「逃げろ!リゴン!!やめろぉ!!」


トウヤの叫びも虚しく

放り投げられたボールは僅かに放物線を描きながら、リゴンへと向かい変形し、その刃をリゴンの肩へと突き立てる


その瞬間、リゴンに走ったのは物理的な痛みではない

憤怒を浮かべながらも、出て来た期待を裏切られた精神的な痛みだった


突き刺された衝撃でリゴンの軽く小さな身体は手に持っていたナイフを散らばらせながら後ろに吹き飛び、ドサリと地面に落ちる


「リゴン!!」


踏ん張り立ち上がると、すぐさまリゴンのそばに駆け寄る


幸い、肩の刺し傷はそれ程酷くはない


「リゴン、しっかりしろ!リゴン!」


だが、リゴンは目を開き表情を浮かべる事なくただ天井を見つめ続けていた


「やっぱり・・・俺たちは・・・」


そうボソボソと上の空のように呟く


「傷は浅いからすぐ治る、大丈夫だ、しっかりしろ!」


そうトウヤが叫べばリゴンはトウヤに目を向け、がしりと彼の肩を掴む


力強く握られる肩、そこにリゴンの感情が強く現れていた


そして、懇願するようにトウヤへと声を掛ける


「頼む・・・なぁ、頼むよ・・・この悪夢を、終わらせてくれ・・・俺たちのサーカスを守ってくれ・・・頼む・・・!」


尊敬する座長の本音を、言葉と行動で示された彼に残されたものは、愛すべき仲間たちと居場所であるサーカスだけだった


それ故に願った

この悪夢の様な夜の終わりを、仲間達の居場所を守ってほしいと


そして、ヒーローもまた、その願いに応じる


「任せろ」


だが、そうは言うがあの攻防一体の攻めを如何にして掻い潜るか


攻める手立てはない、しかして、その攻略法は意外と身近にあるものである

それは時の運とも呼べる偶然の産物であった


トウヤはそっと立ち上がれば、今一度怪人と相対する


上手くいかないかもしれない、だが、これしかない


トウヤは賭けに出る事にした


怪人は未だに笑みを浮かべ2人を見つめている

楽しそうに、次はどうやって遊ぼうかと


そんな怪人の元にトウヤが走る

電流に身体を置換するのでは無く、ただ愚直に己の脚で走った


「なんだよ・・・もう諦めたのか?」


つまらなさそうに怪人が呟くが、そんな事は気にせずただ前へと走り落ちていたナイフを手に取る


ーー拾えそうなのは6本のうち3本だけ、いけるか?


不安を浮かべながらもトウヤは意を決する


怪人はそんなトウヤに怪訝な表情を浮かべるが、特に気にする事なく

回していた3個のボールのうち1つをトウヤへと投げつけた


投げつけられたボールはひとつ

それを確認すると、ボールをジッと見つめ変形した瞬間に横に飛んで回避する


投げられたのがひとつだけなのは、長く楽しみたいからという慢心の表れ

そして、怪人が見せたそんな慢心の隙をトウヤはついた


地面に脚がついた瞬間、拾った3本のナイフを身体強化術式をフルで使い投げつける


「そんなの通用すると思ってるのかよ」


そうは言いつつも投げられたナイフの勢いに念の為にと怪人は投げ回していたボールを手に取り、合わせて弾けさせた


そうして生まれた壁に2本のナイフが弾かれ、1本のナイフが頭上を通り抜ける


そこが勝敗の行方を左右する事になった


ナイフに電流が流れ込むと、壁の裏にいた怪人目掛けて飛んできたのだ


電流とかしたトウヤは方向転換出来ない

ならば、中継地点を作ってやれば良い


「セイヤーー!!」


電流となりナイフから飛び出たトウヤは身体を再構成すると、怪人の顔目掛けて右足の蹴りを放つ


「ガァッ!?」


壁に打ち付けられた怪人が小さな悲鳴をあげるが、トウヤの攻めは止まらないし、止めるつもりはない


円盤とブレスレットを擦り合わせる


『ライトニング!オーバーモード!!』


機械音声に合わせ、トウヤの身体はバチバチと青白い電流を上げる


『ライトニング、スペシャルムーブ!』


地面に脚が着いたその瞬間、トウヤの身体は僅かな土煙と雷の残滓を残し消えた

次いで聞こえてくるのは重厚な打撃音


怪人は数え切れぬ程打ち込まれた蹴りに身体を躍らせる


『フィニッシュブレイク!!』


「ハァァ!!」


そうして再びトウヤが怪人の目の前に、現れれば、飛び上がりその頭に最後の一撃を叩き込むと怪人の身体は飛び壁を崩し倒れ込む


「嫌だ嫌だ!俺は・・・もっとあそん・・・で・・・」


醜悪な断末魔を上げ怪人が爆散する


その光景をリゴンはただジッと見つめ、無意識に小さく呟くのだ


「・・・座長、お世話に・・・なりました」


どの様な意図を持って言われたのかは彼自身わからない

しかし、言葉に含まれた感情こそ、その言葉の真意なのだろう


「おわっ・・・た・・・」


怪人が爆散した後、トウヤは変身を解き地面に仰向けに倒れ込む


「お疲れ様」


そんな彼に向けて声が掛けられた

見てみればそこにはフィリアの姿がある


「フィリアさん・・・いつから居たんですか?」


「怪人が爆散した時」


「ついさっきって事ですね、みんなは?」


「ここ」


そうして彼女が後ろに手を回し身体を退ければ、そこにはシリの姿があった

彼女は泣きそうになりながら顔を下に向けている


「あの・・・お兄さん・・・ごめんなさい・・・」


そんな彼女にトウヤは笑顔を浮かべて言うのだ


「無事で良かったよシリ」


その言葉を聞き、シリは泣き出す

それを見て慌てるトウヤとフィリアの姿を眺めていたリゴンは、少しばかり羨ましそうだった



こうして遊園地の事件は幕を下ろす事になった





「え?行方不明者の半分が見つかってない?」


それはトウヤがギルドに戻った時に発した言葉だった


あのサーカスに囚われていたのはいずれも子供ばかり

しかし、行方不明者の中には大人も混じっていて、彼らは未だに発見されていない


セドとゼトアが深刻そうな顔を浮かべている


「警備の隙をついた可能性もあるが、それにしても早すぎる。大人も混じっているのが不可解だ・・・」


「怪人の素体に適しているのは未だ成長しきっていない子供だけ、そうなると今回の行方不明事件」


「犯人が別にいるって事ですか・・・?」


良いしれぬ不気味な感覚をトウヤは覚えた






カツンカツンという音が地下通路に響く


中高年の女性が道を歩き、そうしてその先に置いてあるものを愛おしそうに撫でた


「メーテル・・・もう少しだけ待ってね?すぐにあなたを出してあげる。そうしたらまたみんなでご飯でも食べに行きましょ?」


培養槽に浮かぶ少女の、作りかけの身体を眺めながら女は楽しげにつぶやいた


「おか・・・さん・・・」


それを見ていた少女はただ、目の前の女性に向けて聞こえぬほどの小さな声で、ボソリと呟いた


未だ事件は終わらない

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る