第8話 走る稲妻!新たな力、ライトニング!
学園での事件から数日が経過した頃
この日非番だったトウヤは1人barエオーネにいた
今は店の中に客はおらず、ただ1人エオーネがグラスを磨く音だけが響いている
手元にあるグラス、その中に浮かぶオレンジと赤の酒を眺めながらトウヤは考えていた
「あの時、どうすれば良かったんだよ・・・」
レオを助け出す事はできず、危うくケイトまで殺すところだった
だが、助かったとは言っても、目の前で幼馴染が怪人に変貌し自分の首元に喰らい付いてきたという記憶は、今後の彼女の人生に暗い影を落とすことになるだろう
あのカウボーイ風の怪人も結局は倒すことが出来ず逃がしてしまっている
もしあの時倒せていれば、もしレオを倒す覚悟をしていれば
今からでは変えられないもしが頭の中で浮かび消えることなく、トウヤの頭の中で浮かび続ける
「あんまり考え過ぎない方が良いわよ」
「えっ?」
そう声をかけてきたエオーネに目を向ければ、彼は相も変わらずグラスを磨き続けていた
「良いこと?終わった事、なってしまった事は変えられないの、だから重要なのは今回の一件を受けてあなたがこれからどうするか、それが1番大切なの」
「俺が・・・どうするか・・・?」
「そう、あなたが悩む気持ちはわかる。それでもそれで止まってはダメよ、死んでいった者達の為に、その犠牲が無駄にならないように行動しないと、ね?」
美しく小首を傾け、誰もが見惚れるウィンクをしながらそう語りかけてくる
確かにそうだと、トウヤも頭では理解出来た
しかし、感情がまだ追い付いておらず、未だあの学園に囚われている状態だった
その様子を察してか、エオーネはひとつの提案を彼に持ち掛ける
「もし感情の整理が付かないなら、一度教会にでも行ってみなさい、あそこは誰もが罪を告発する場、きっと貴方の考えも感情も纏まるはずよ」
「教会ですか・・・」
「そ、第5デアテラ教会」
ーーどんな人の悩みも受け入れてくれる教会よ
それは貧民街に近い街の広場にあった
教会というにはあまりにも平屋造りなそれは、ともすれば現代家屋に近い外見をしている
唯一それが教会だとわかるのは、玄関に飾られている女神デアテラを表す桜をかたどったエンブレムと第5デアテラ教会という立札のみであった
玄関扉は開け放たれており来るもの拒まずと言った雰囲気を感じる
「ここが・・・教会?」
イメージと異なる教会の姿にトウヤは思わず困惑を顕にする
玄関から左に向いて見ればステンドグラスではなく側面一面に透明な引き戸のガラスが見え、そよ向こうにはミサのようなものを執り行うのであろう聖堂とその最奥には190cm程の大きさをした手を組み微笑む女神像の姿がある
「外から丸見えなんだ・・・」
本当にイメージと違う、そう何処か物怖じにも似た感情とは裏腹にトウヤの身体は玄関扉から教会の中を覗き込むように視線を向ければ中には2階へと続く階段と、真っ暗な奥へと続く道、左の聖堂への通路が見えた
暗いなぁと思いつつもトウヤは一言、お邪魔しまーす・・・、と言いながら中へと入る
そうして目指したのは聖堂だった
外からも見えていたが椅子一つない聖堂には最も高い魔力色であり、勇者の魔力の色であることから女神に近い神聖な色とされる紫の絨毯が引かれただけの寂しい内装の聖堂には、ただ1つ女神像だけが微笑んでいる
トウヤはその女神像に対してしゃがみ手を組めば、感謝の言葉と共に亡くなった犠牲者の冥福を祈った
「おや、これはこれは・・・」
祈っていると背後から声が掛けられた
若い男の声
振り返って見れば金色の髪を後ろで結った長耳の男が立っていた
「あなたは確か・・・マインさん?」
「ええそうですよ、貧民街でのボランティア以来ですかね?浅間灯夜さん、お久しぶりです。何か悩み事ですか?」
温和な笑みを浮かべながら長耳族の男、マインは尋ねてきた
それに対して僅かに言い難いという感情を浮かべるトウヤではあるが、それをお見通しとばかりにマインは言う
「大丈夫ですよ、例え聖堂の中とは言え吐き出し辛い事もあるでしょう、懺悔室に案内します。こちらです」
そう言うとマインはトウヤを別室へと案内した
案内された部屋は小さく狭い部屋だ
壁には美しい絵が描かれており、ほんのり明るい
「ここが懺悔室ですか?」
「ええ、そうです。みなさまのここに入られて己の罪を、後悔を告白しています。私のようなものに聞かれるのは心配でしょうが神に誓って悪い様にはしませんよ」
他人に聞かれるのは正直あまりしないのがトウヤの本音ではある
しかし、多くの人がやって来た事であり、懺悔室とはそう言うものだと言う認知から入る事にした
中に入れば神父が背後の扉を閉め、壁越しに隣の部屋に入る音が聞こえる
部屋の椅子に座れば自分1人の狭い空間だからか、安心感が湧いてくるのをトウヤは感じた
ここは悩みをぶちまけて良い場所
その考えと安心感から、トウヤはポツリポツリと喋り出す
「俺、助けたいって思ってた子がいたんです。その子は青春を謳歌し、好きな子のために強くなりたいと努力をしていたとても良い子でした」
ただ淡々と独り言の様に喋り続ける
「でも・・・俺、守れなかったんです。その子は怪人になってしまって・・・それを俺は助けようとしてたのかも怪しくて・・・」
喋れば喋る程、感情が乱れと共に言葉すらも乱れていく
「俺、このままヒーローを続けて良いのかもうわからなくなって・・・それで、来ました・・・」
「なるほど、では我らが神、デアテラ様からのお言葉を貴方に伝えましょう」
そう言えば頭の中に言葉が響く
それは慈悲深く優しい女性の声で言ってくるのだ
その思いは大切だが、だからといって後悔ばかりしてはレオの後悔の念は晴れる事はない、だからこそ、彼の為に前を向いて歩かなければならない
これを糧に前に進みなさい
「これ・・・は・・・」
「我らが女神デアテラ様はどの様な人であろうとも見捨てません、どの様な人にでもお声がけをして下さいます。貴方が聞いた声は私を通してデアテラ様が聞いた話を貴方に直接語りかけてくださったのです」
「なんか・・・すごいですね・・・」
あまりの事態に呆然としてしまう
まさか神本人が出てくるとは思っていなかったからだ
もしかしたら何かしらの魔法なのかもしれないが、出していない筈のレオの名前が出て来たので信じてしまう
「えぇ、貴方は今苦難に遭遇しています。ですが、デアテラ様は貴方が立ち向かうべき壁を乗り越える為のお言葉を掛けてくださったはずです。どうか貴方に宿るデアテラ様のご加護と共にお進み下さい」
「あ、ありがとう・・・ございます・・・」
そう言うと、トウヤは僅かにドギマギしながらも懺悔室を出て教会を後にする
今彼の頭の中に残るのは、たった1つの言葉
ーーレオの後悔の念は晴れる事はありません
「レオ、やっぱお前良い奴だな・・・」
後悔の中死んだ少年は、死んでなお後悔し続けている
それは女神デアテラの言葉を信じるならば、他者を思っての後悔
頬をゆっくりと一粒の涙が伝う
「俺頑張るよ、お前に後悔なんてさせない」
そうして、彼は前へと歩き出す
1人前を向き歩き出したトウヤの姿を、教会の2階からマインは眺めていた
「浅間灯夜くん、あぁやはり見間違いではなかったのですね」
薄暗い室内の中を鼻歌混じりに歩いて行けば、机の引き出しに入れられた書類へと目を通す
「魔力、構成物質共に問題なし・・・あとは待つだけだな・・・」
パサリと机の上に書類を置けば、彼の身のうちから湧いてくる感情に思わず身悶えする
「最高だ!これで漸く私の悲願が叶う!クハッ、アハハハハハ!!アハハハハハハハハ!!」
その感情は喜び、先の事を思えばこその楽しみの感情
そうして男は1人で笑う
たった1人で笑い続けた
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