走る稲妻!新たな力、ライトニング! 2
教会からの帰り道、トウヤはダーカー博士からの呼び出しがありそのまま工房へと戻る事になった
「博士どうしたんだよ急に呼び出して」
そうトウヤが尋ねて見ればダーカー博士は楽しげな声を上げながらトウヤに話しかけてくる
「いやね、アンタのブレスレットのメンテナンスをしてたら、学習型術式が面白い道具を提案して来ていたんだ」
「提案って・・・そんなこと出来るのかよ!?」
学習型術式といってもただ使用者に合わせて変化する術式かと思っていたトウヤは、告げられた言葉に驚愕する
そして、そんなトウヤに対してダーカー博士は自信満々と言った様子で答えた
「あぁ出来る。何せ私が作った術式だからね、とは言っても説明すれば長くなるから省くが、何はともあれアンタにもついに強化装備が出来るってわけだ」
強化装備
それは軍用MRAの各パッケージ装備と同じヒーロースーツ用のパッケージ装備である
セドとフィリアにもあまり使われていないが支給されているそれを、トウヤも晴れて支給される形となったのだ
「マジすか!?俺にも強化装備が支給されるんですか!?」
「あぁマジだよ、ただし!もうちょっと調整が必要だからもうちょっと待っていてくれ」
「わかりました。楽しみにしながら待ってますよ!」
博士の笑顔にそう笑顔で伝える
いよいよ自分にも強化装備がもらえると興奮が隠せないでいた
まだフィリアやセドの強化装備を見たことがない彼であったが一体どの様なものなのだろうか
翼が付いたりするのだろうか、バッタが出て来たりするのだろうか、いちごが降って来てそれを装備するのだろうか
想像すればするほどのいろんな考えが頭に浮かぶ
そんな時だった
彼の通信機が音を立てながら震える
「はい、浅間です」
『トウヤくん今どこにいる!?』
通信の相手はギルドのゼトアだったが、彼の様子はいつもと違い焦っている様だった
その様子に異変を覚えトウヤに緊張感が走る
「今工房ですが、何かあったんですか?」
そして、彼から伝えられたのは驚くべき事態であった
『現在南、西、北エリアで怪人が大量に出現しているんだ!フィリアとセドが急行したが手が足りない!悪いが南側に向かってくれ!!』
「・・・!了解!」
普段も怪人が2〜3体程度であれば普通に遭遇するが、大量に出現したという程なのだからそれ以上と言うことだろう
しかも、それが今回は3ヶ所同時である
何か嫌な思惑を感じながらもトウヤは市民を守るために急ぎ向かう事にした
「やばい事態かい?」
ダーカー博士も異変を感じ取ったのか、トウヤにそう問いかけてきた
「街中で怪人が大量に出現してるらしいです。俺ちょっと行って来ます!」
「おう、気を付けて行っておいで、負けるんじゃないよ」
「はい!」
気合を込めた返事をすれば、ブレスレット同士を擦り合わせる
『空間魔法、アクティベート』
「変身!」
『音声認識完了、アクシォン!』
そうして、赤に黄色の魔力布をたなびかせたヒーローが光の中から現れる
「しゃっ!!」
気合いの声を上げると、工房の扉を力任せに勢いよく開け放ち外へと飛び出す
バキッという音共に
「あっ・・・!?」
ダーカー博士が思わずそう叫ぶが、トウヤは気がつく事はない
「フレアジェット、レディ!」
『イグニッション、プレパレーション』
「イグニッション!!」
そして、トウヤは現場へと急行した
「扉壊れるから変身する前に開けろと言っておかないとな・・・」
残されたダーカー博士はそう独りごちるのであった
現場に到着したトウヤが見たものは凄惨なものだった
破壊の限りを尽くされた大通り、散らばる馬車の破片や散らばる人々や動物の姿があったのだ
すでに一部の冒険者たちによって救助活動が行われていたが、それでも間に合っていない様子だった
「なんだよこれ・・・手当たり次第かよ・・・」
その光景を見て歯噛みする
そして、通信機を取り出せば他の現場の状況を確認するべくギルドへと連絡を入れた
「ゼトアさん、浅間です。南エリアには怪人の姿はなく全て終わってました。他のエリアはどうですか?」
『あぁトウヤくんか、他のエリアも何体か怪人を倒した後に終わったと報告が入って来ているよ』
その言葉にトウヤは流石あの2人だと思う
「しかし、今回の戦闘は何なんですかね?なんかいつもよりも破壊活動メインにし過ぎてるというか・・・」
『確かに不気味だね、普段はもっと少ないのに・・・何らかの目的を持って行動しているのは確かだろうけど、一体何が目的なんだ・・・?まぁ一度ギルドに来てくれ、また話し合おう』
「わかりました」
そう言うと通信が切れる
「目的か・・・」
ゼトアの言っていた目的、だがトウヤは思う、今回の破壊活動は果たして誰の目的なのだろうか?
勇者護衛の時でも、これ程の量の怪人が出現し無かったのに、何故このタイミングで?
そう考えれば嫌に気持ち悪い不気味な感覚に囚われる
「あ、あの・・・」
「ん・・・?」
考えていると、後ろから声が掛けられた
見れば市民の1人が冒険者の肩に掴まりながらトウヤに何かを差し出して来ている
見れば、それは一枚の折り畳まれた紙だった
「これは・・・」
何が何だかわからないトウヤがそう尋ねれば男は怯えながら口を開く
「な、なんか拳銃を持った怪人が赤いヒーローがここに来たらこれを渡せって言って渡して来たんだ・・・」
「拳銃を持った・・・怪人・・・?」
聞き覚えのあるフレーズに思わずトウヤの血の気が引く
嫌な予感を覚えながらもトウヤは男から紙を受け取れば、男はそのまま冒険者に掴まりながら去っていく
「・・・まさか今回の目的って・・・俺?」
トウヤは自身の中でグツグツと湧き上がる感情を覚えた
まさかその為だけにこんな破壊活動を?、そう考えるだけで怒りでおかしくなりそうだったが、頭を振るい冷静さを保とうとする
「とりあえず、ギルドに行こう」
もし予想通りであれば、これは1人では手に負えない案件だと悟り
ギルドへと向かうのであった
ギルドに到着したトウヤが、すでに到着していたセド、フィリア、ゼトアと共に紙を開いて見ればそこにはこう書かれていた
明日再度怪人騒動を起こす
その時1人で南広場に来い、それまでに街中にこのことを知らせたり、不穏な動きを起こせばこの街を破壊する
明らかに罠であろう事が予想出来た
だが、だからとて放っておくことも出来ない
「この怪人は確実にトウヤくんを狙いに来ているね」
「でも、なんで?」
「さぁな、怪人の考えなどわからん・・・」
口々にそう言うが、トウヤにはひとつだけ心当たりがあった
「多分・・・自分達の計画を邪魔された仕返しなんじゃ無いですかね?」
「仕返し?勇者誘拐や学園での事件を邪魔されたからか?馬鹿げているが・・・もしそうならば・・・」
「許せない・・・」
セドとフィリアから激情が湧き出る
自分達の計画をされた仕返しの為に街を破壊する
確かに彼らならばそれを平気で実行するだろう
だが、たかだか個人の感情の為に怪人を大量動員し街を破壊するなど許せるはずも無い
「奴らの居場所がわからない以上、下手な手は打てない・・・トウヤ、絶対にやつを仕留めろ」
セドもあの怪人には思うところがあるのだろう、その言葉には強い感情が乗っていた
その言葉を前にトウヤは力強く頷く
「おう、任せろ!」
そして、一同は解散し、翌日セドとフィリアとトウヤは戦闘態勢を整えたままその時を待った
そうしてその時は訪れる
「街の西側で怪人報告!数17!」
「街の北側でも報告がありました。数21!」
「来た・・・みんな聞こえていたな!」
その言葉を前に各エリアに分かれて展開していた全員が答えた
『今目の前、すぐ止める』
『こちらもだ、ここが1番数が多い様だな、今回は全力で行かせてもらうぞ』
「トウヤくん!そっちはどうだい?」
ーーーーーーー
怪人出現の報が届く少し前、南側エリアに展開していたトウヤは不気味さを覚えていた
いつもであれば喧騒という程でもないが、ある程度人の話し声が聞こえて来る場所
それなのに今日に限ってその声が殆ど聞こえてこない
だからこそだろう
背後から向けられた拳銃に気がつく事が出来たのは
突如飛んできた銃弾をトウヤは蹴り弾く
「嘘だろ、背後から奇襲かけたのに銃弾蹴り飛ばしやがったよ」
「お前・・・」
声の主へと目を向ければそこには奴がいた
シリ達が危うく怪人にされかけ、レオを唆し怪人にした元凶
黒い髪を束ねたハット帽の様な頭、腕や足から伸びる紐に両手に持つ拳銃
まるでカウボーイの様な外見を持つ怪人
トウヤはその姿を見るや自身の頭が沸騰しそうになるのを感じる
「おいおい、そんな怖い目で見るなよ、ビビってちびりそうになるぜ?えぇ?」
「お前だけは絶対に・・・」
「絶対に・・・なんだって?」
怪人がそう言うと片手をスッと上げる
何事かと思い警戒すれば、遠くから爆発音が聞こえた
まさかと思いスーツの通信機能を使ってみれば、通信越しに悲鳴の様な声が聞こえてくる
『トウヤくん!そっちはどうだい!』
ゼトアの焦るような声が聞こえた
「こっちは目の前にいます。すみません、戦闘に集中したいので切りますね」
『わかった。気を付けてくれ!』
プツリと通信が切れれば、目の前の怪人がクツクツと笑い出す
「今回こそは邪魔は入らねぇ・・・お前を気兼ねなく殺せるよ」
「やれるもんならやってみろ!」
そうして戦いは始まる
初手はお互いに武器を構えた
怪人は拳銃を、トウヤはフレアシューターを
同時に放たれた弾丸と熱線は互いにぶつかり合い熱線が弾丸を溶かし怪人の胴体に命中する
「ガアァッ!イテェ!」
続け様に放たれる熱線に怪人は苦悶の声を上げるが、横に転がり躱わすと二丁拳銃を構え斉射した
咄嗟に放たれた弾丸を横に交わし、そのまま走り逃げるトウヤはすぐさま次の手を打つ
「フレアジェット、レディ!」
『イグニッション、プレパレーション』
機械音声がそう告げれば、吸気音が聞こえ出す
「イグニッション!!」
走っているトウヤの身体を、背中から吹き出した燃焼ガスが宙に持ち上げていく
「またそれかよ!クソがよ!」
悪態を吐きながら連射する怪人に構う事なくトウヤは上空へ上がると、そのままフレアシューターを連射した
「ガアアアア!クソッ!」
高速移動しながらの為か精度は良く無いが、上空から熱線が怪人の周囲に降り注ぐ
一方的に撃たれている為か、怪人は苛つき声を荒げ腕を振り回す
「ならこっちも本気を出してやるよ!」
そう言うと腰からアタッチメントを取り出し拳銃に取り付ける
何かやばい、そう直感したトウヤは動きを変えた
それまで円を描くように怪人の上空を高速で飛翔していたトウヤだが、降下し建物の影に隠れる
「どこだ!出て来い!」
周囲から響く音を頼りに怪人が辺りを見渡す
「・・・っ!そこか!」
振り返り拳銃の引き金を引く
だが、そこにはただ戦闘の余波で崩れた木箱があるだけだった
「セイヤー!!」
トウヤはその隙を付いた
建物と建物の間からフレアジェットの勢いのまま怪人の背中へと飛び蹴りを喰らわせる
後ろを向いていた怪人はその攻撃をモロに喰らう事になった
「ガアアアア!」
再び怪人は悲鳴をあげ地面を転がる
「トドメだ!」
『オーバーパワー、アクティベーション!』
ブレスレットを擦り合わせればフレアレッドのスーツの色が赤から黄色へと変わり、緑へと変わった魔力布をたなびかせながら一目散に倒れ伏す怪人へと近付く
『腕分集中!一撃粉砕!』
「セイハー!!」
拳を引き、倒れ伏す怪人へと拳を振るう
「馬鹿め」
だが、その拳は当たることはなかった
拳を振り切る前に怪人が拳銃を構えたのだ
そこから放たれたのは1発の弾丸では無い
数十発にも及ぶ弾丸を3秒間の間に放射したのだ
「しまっ・・・!!」
拳を大きく振おうと無防備に晒した胴体に無数の弾丸が殺到する
その1発1発が鋭い痛みを伴う弾丸
先日学園での放たれた特殊弾頭だった
フレアジェットの勢いのまま飛び込んだトウヤは弾丸の勢いにより急制動を掛けられる事になる
ガハッと身体の空気が無理やり外に押し出され、急に勢いを殺された事により首が勢いよく前へと振られ、次いで吹き飛ばされ落とされた衝撃で地面に強く打つ
明滅する視界の中、怪人の高笑いが響く
「アヒャヒャヒャ!!上手くいった上手くいった!!そう何度も同じでは喰らうかよ!」
それはブラフ、と言うにはあまりにもおざなりではあったが、対策をしていたのは本当であった
そうして、倒れ伏す拳銃をトウヤへと構えれば容赦なく引き金を引く
撃ち込まれた弾丸によりST合金製の物理装甲と防御結界が火花を散らし、トウヤは痛みから悲鳴を上げた
ヒヒッと笑う怪人が引き金を離せば、トウヤは苦悶の声を上げながら痛みにより悶える
その様子を怪人は楽しげにじっと舐め回すように見つめた
そうして、はーっと満足したような声を漏らす
「良いもん見れたぜ、スカッとしたよ・・・じゃあな」
再び拳銃を構えトウヤに狙いを済まし引き金を引いた
だが、大人しくやられるトウヤでは無い
仰向けに倒れながらもフレアジェットを展開して、床を滑るようにして移動する
弾丸は地面の家屋保護結界に当たり火花を散らす
「クソッ!避けるなよ!」
叫ぶ怪人は再びトウヤへと狙いを済ませる
それに気が付いたトウヤは素早く起き上がると高く上へと飛び再びフレアジェットを起動した
「クッ、近付けない・・・!」
肩のフレアジェットを起動し右へ左へと避け、時折後ろに飛び距離を離した後に大きく円を描き近づこうとするが、未来位置に撃ち込まれる弾丸の雨に思うように近付けずにいる
フレアシューターを撃ち込もうにも放たれる弾丸を避けるのに必死でそれどころでは無い
『トウヤ、苦戦している様だね』
そんな時、トウヤにひとつの通信が入る
ダーカー博士の声だ
「なんだよ博士!今話してる暇はわっと!」
避けるために下に降りたが、片方の拳銃を下に撃ち放たれた事により急制動を掛ける
そのまま上と下から迫る弾丸の雨に挟まれる形となってしまうが、後方に退き建物の影に入った
幸い建物は強力な家屋保護結界により守られている為、如何に怪人といえど破壊は難しい
「おーい、隠れてないで出て来いよざーこ!」
怪人の嘲笑う声が聞こえる
そんな声を意に返す事なくトウヤは通信先に話しかけた
「それで、なんの様だよ博士」
『いや何、例の物の実戦テストにちょうど良いなと思ってな』
「いや何、例の物の実戦テストにちょうど良いなと思ってな」
声が耳元と前からとで二重に聞こえる
まさかと思い顔を上げて見れば、そこには通信越しにいるはずの人物が目の前に立っていた
「ダーカー博士!?なんでここに!」
「これを渡しに来たんだよ、ほれ」
そう言って投げてきた物を掴めば、それは丸い装着口の付いた円盤上の物体だった
それを裏返したりしながらトウヤは尋ねる
「何これ・・・?ん・・・?まさかこれが!?」
「あぁそうだよあんたの強化装備さ」
「なんか・・・やたらコンパクトだな、どら焼きみたい」
どら・・・焼き?、ダーカー博士には何を言っているのかさっぱりだったが、馬鹿にされていることだけはわかった
「なんか腹立つな、まぁ良いとりあえず行ってこい」
「え?これどうやって使うんだよ」
「そんなの腰の横に嵌めるとこあるからそこにガッと嵌めれば良いんだよ」
えぇ、と思わず困惑の声が漏れ、今が戦闘中だということを一瞬忘れてしまう
「おーい!!早く出てこいよ!つまらないだろ!!早くしないとこの街ぶっ壊すぞ!」
いつまで経っても出てこないトウヤに怪人も流石に我慢の限界が来たのか喚き散らかす
「ほーら呼んでるぞ、良いから行って、こい!」
「えっ、ちょっと!?」
どうやらダーカー博士も博士の方で早く使ってほしいらしく、トウヤの背中を無理やり押し建物の影から押し出す
「お、やっと出てきた。何持ってんの?それ?でっかいクッキー?」
「どいつもこいつも!トウヤ!早くしな!」
怪人の煽る様な声に博士が青筋を立てながら反応しトウヤを急かし立てる
そんな博士の勢いに押されトウヤは意を決して腰の突起に円盤をはめ込み捻るとガチャリと音を立て繋がった
『強化装備認証、装備名:ライトニング!』
「それで、こうか!?」
そうして繋がり機械音声がなる円盤にブレスレットを擦り合わせれた
そうすればトウヤの身体が光に包まれ、足が肥大化していく
光を振り払う様に足を大きく振るえば、光がガラスの砕けた音共に振り払われ新たな姿が現れた
『モードチェンジ!ラーイトニングフォーム!!』
肩と胸部のST合金製物理装甲とは無くなり、代わりに装備されていたのは足先が尖り膝から下を覆う様にして纏われた20式電化装甲脚だった
「おお!なんだこれ!?スゲェ!」
思わず叫び足をあげマジマジと装備を見てしまう
これが強化装甲かと、感動を覚えた
だが、そんなトウヤの様子に腹を立てるものが1人いる
「なーんか姿が変わったかと思えば・・・俺を無視するな!!」
下ろしていた拳銃を素早く構え、引き金を引けば弾丸はトウヤ目掛け飛翔する
それに遅まきながら気が付いたトウヤは、目の前にまで迫った弾丸に思わず目を瞑り反射的に上半身を捻った
その瞬間だった
トウヤの身体が電流へと変化し、上半身だけを素早く移動させたのだ
それにより至近まで迫っていた弾丸は何も無い虚空を穿つ事になった
「・・・ん?お?お!?」
「・・・ハァッ!?」
「よっしゃあ!」
その光景を見た反応は三者三様だった
困惑する者、驚く者、喜ぶ者
トウヤは自らの手を身体をマジマジと確認し異常がない事を確認すると、怪人見て獰猛な笑顔を浮かべる
「これなら・・・行ける!!」
足を大きく広げ構えを取れば、前へと身体を傾け弾ける様に飛び出す
それに気が付いた怪人が、我に帰ると拳銃を構えた迎え撃とうとするがすでに遅い
トウヤの身体は、今度は全身を電流に変えると一瞬のうちに怪人の懐に潜り込み身体を再構成する
「セイヤー!!!」
振り上げられた足が力む暇すら与えず怪人の胴体を薙ぐ
殴られた時よりも強烈な痛みが怪人を襲うが、怪人は怯む事なくトウヤへと拳銃を向ける
だが、その瞬間には再度電流へと姿を変えたトウヤが真っ直ぐ後ろへと下がり、今度は左に動き姿を現し、右に動き姿を現しと変則的な動きで持って怪人を翻弄し再び蹴りを入れて来たのだ
完全に動きについて来れていない怪人の姿にトウヤは直感した
「これなら!」
腕に魔力を集中させれと再び身体を電流へと変化させる
だが、それでも学ばない怪人ではなかった
この短い戦闘の中で怪人は学んだのだ
ーーこいつ、真っ直ぐにしか進めないんだ
その事に気が付けばあとは簡単である
懐に飛び込んできた憎きヒーローに特殊弾頭の雨霰を食らわせるのだ
しかし、トウヤは懐には入り込まなかった
「後ろだと!?」
電流とかしたトウヤもまたその弱点に気が付いていた
それ故に怪人の考えを読み背後に移動したのだ
そうして魔力が込められた拳を怪人の脇腹に突き立てる
「ウォリャァ!!」
ドゴォンという轟音と共に突き立てられた必殺の拳
これで全てが終わったのだ
そう思った時だった
怪人が脇から拳銃を突き出し背後にいるトウヤに狙いをつける
「ハァッ!?」
思わず驚きの声を上げるトウヤだが、すぐさま電流とかし横に移動し弾丸を躱わす
しかし、なぜ倒せなかったのか?、トウヤの中にひとつの疑問が浮かんだ時、通信術式がダーカー博士からの通信を受信した
『すまん、言い忘れてたがその強化装備付けてると上半身の力が弱まるから必殺技は打てないぞ』
「それ早く言えよ!!」
体勢を立て直した怪人から放たれる銃弾を交わしながらトウヤは声を荒げた
その時、ガランという落下音が響く
怪人とトウヤがその方向に目を向ければ1人の男性と子供と思わしき男児の姿があった
なんでこんなところに、トウヤはそう思うがこちらに向け背中を向けている事からおそらく家に隠れていたが、戦闘が激化し離れようとした結果物音を立ててしまったのだろう
その親子を見た瞬間、怪人の目の色が変わる
そして、そんな怪人を見てトウヤは思い出す
かつて助けられなかった親子の姿を
「やめろ!!!!」
言い切る前に怪人が親子に拳銃を構え引き金を引く
撃ち出された弾丸は真っ直ぐ親子へと向かい飛翔し、その直前電流と化し親子の前に立ち塞がったトウヤの蹴りにより弾丸を弾く
「・・・!まだまだぁ!!」
片方の拳銃から撃ち出された何十発の銃弾が一挙にトウヤ達の元へと殺到する
以前ならば避けられない死が親子に降り注いでいた事だろう
だが、トウヤはもう2度と同じ過ちを繰り返すつもりはない
足を片方あげれば、より強化された視覚から殺到する銃弾の姿をしっかりと確認し、ひとつひとつを蹴り落としていく
動かす時は電流へと変化させ、銃弾を蹴り弾く際は元に戻す
その繰り返しにより銃弾を塞いでいく
それは正しく電流の壁だった
「なっ・・・クソッふざけやがって!!これならどうだぁ!!」
下ろしていたもう片方の拳銃を構え、二丁の拳銃から銃弾を浴びせに掛かる
しかし、放たれる量が2倍になろうとも変わらない
今度こそ守る
その強い信念のもと、トウヤはさらに蹴りを激化させた
あの家族の様な犠牲者を出させはしない
その思いがトウヤに力を与えたのだ
「セイヤーー!!!!!」
そうして、脚に魔力を込めて思いっきり振えば、吹き荒れる暴風が弾丸もろとも怪人を吹き飛ばす
勢いを失った弾丸が音を立てて地面へと落ちていく
それを確認すればトウヤは再度、円盤にブレスレットを擦り合わせる
『ライトニング!オーバーモード!!』
機械音声に合わせ、トウヤの身体はバチバチと青白い電流を上げる
『ライトニング、スペシャルムーブ!』
その瞬間、トウヤの身体は僅かな土煙を残し消えた
次いで聞こえてくるのは怪人の悲鳴と重厚な打撃音
すれ違い様に放たれた蹴りは怪人の身体を穿ったのだ
しかし、猛攻は止まらない
2回3回4回、数え切れぬほどの蹴りを目に見えぬ速度で怪人に食らわせる
そして、怪人を蹴り上げれば機械音声が鳴り響く
『フィニッシュブレイク!!』
そうしてトウヤは怪人の元へ向けて高く飛び身体を電流に変えてせまる
次に姿を現した時には暖まり切り膨大な魔力を充電した右の走行脚を怪人に向け突き出す
「うおおおお!!!」
振るわれた脚は怪人の下顎に突き刺さりそのままさらに高く身体を舞い上げた
「そん・・・な・・・嫌だ!もっとあそ・・・び・・・」
怪人の身体が激しく痙攣し空中で爆散する
これで漸く一連の騒動に方がついたのだ
地面へと着地したトウヤはゆっくりとだが何処か虚な様子で立ち上がれば自身の手が震えているのに気がつく
徐々に胸の内から湧き上がるえも言えぬ達成感を噛み締めながらも、怪人の断末魔から再びアレが改造された子供であった事を思い出し、達成感を抱く自身に吐き気を催す様な感情を覚えた
「これで・・・なっ・・・!?」
不意にバチン、という電流がトウヤの身体を駆け巡り、スーツの各所から火花が散る
あまりの衝撃にドサリと膝を付けば弾ける様にしてスーツが霧散していくのがわかった
「あちゃー・・・戦闘に耐え切れなかったか、調整が必要だな」
「えっ!?これまだ調整必要なの!?」
残念そうなダーカー博士の声に、トウヤが驚愕の声を上げる
博士の方はというと、様当然と言った様子で
「当たり前だろ、調整まだなんだから」
「・・・戦闘中にこうならなくてよかった・・・」
トウヤの力無き声が他エリアから聞こえてくる戦闘の喧騒に飲まれ消えていく
その喧騒もまた徐々に小さくなり
やがて戦闘は終結していく
後日、トウヤは改めて教会に来ていた
彼は中に入ると一目散に聖堂へと向い、膝をつき祈る
今回で亡くなった者達の冥福を、怪人となった子供達の冥福を、そして、何より
「レオ・・・ケイトの怪我が治って、また動ける様になったみたいだ、今じゃもうレオの為に泣いていられないと言ってるそうだ、強いよなあの子・・・」
ポツリポツリと呟いていく
どうかこの言葉がレオに届く事を祈りながら
「レオ・・・仇はうったぞ」
こうして、騒動は一先ず幕を下ろす結果となった
「ラース様!どうか私にいかせてください!」
暗い部屋の中、1人の怪人が目の前に立つ人物に懇願する
「このままではビヨロコとクーラの要請を無視したとならば御身の立場が危うくなります・・・!そんな事・・・断じて許せません!」
怪人は願う
ラースの悲願の成就を
怪人は願う
ラースの為に
熱い忠義の心がひとつ、ここにある
「どうか、フレアレッドの討伐命令を私に!」
こうして、街の情勢はゆっくりとだが変化していく
それは良い意味でも悪い意味でも
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