第9話 切り裂け!ヒートソード!!

太陽が顔を出し始め少ししたくらいの早朝

その日、目を覚ましたトウヤは起きてからベッドの上で伸びをすると微睡、ぼーっとする


ベッドから出れば、毎日のルーティンとして外の郵便受けに入っている新聞を回収しリビングに向かうと、机に新聞を置きキッチンで黒いカフェインたっぷりの液体を作るべく豆とそれを挽く道具の準備を始めた


豆が砕けていく感触を楽しみながらも、粉をポットの上に置いてある網の上に敷けば、保温ポッドに入ったお湯を中に注いで行く


ほろ苦い香りがほわりと香り、部屋に充満するのを感じながら、トウヤはポットとカップを持ち机に持っていく


それらを机に置きカップに液体を注げば、新聞を開きながらカップを口元に運んでいく


目覚ましのいっぱい、それはとてもほろ苦く




「ブーーーッ!!なんじゃこりゃあ・・・!?あっ・・・」



黒くなった机と絨毯に目を向け、別の意味でもほろ苦いものが込み上げてくる




机を拭き、絨毯のシミになった吹き出した黒い液体達を眺めながら、急ぎ液取りの札を貼り付ければシミになった黒い液体達が水玉となり浮き出て来た

それを器用に雑巾で捕まえていけば、そこにはシミひとつない絨毯の姿がある


「これでよし・・・しかし、なんだよこの記事」


改めて新聞に視線を向けてみればそこにはこう書かれていた


ヒーローフレアレッドに宣戦布告!

3大怪人ラーズの配下、ゲキウコが告げる戦えヒーロー!


「ゲキコウ・・・誰だそりゃ、ってか俺に直接言いに来いよ・・・」


そうぶつくさと文句を言いながらカフェインたっぷりの黒い液体を飲む


そうしているとリンリンという音が鳴る

呼び鈴が鳴らされているようだ


「はーい、今行きまーす」


そう声を張り上げると、カップを置き玄関まで歩いていく


誰だろうと思いながらもドアスコープに目を当てれば暗い闇が広がっていた


「あれ?なんか真っ暗だな・・・」


その事に違和感を覚えながらも相も変わらずなり続ける呼び鈴に誰かがいるのは間違いなさそうだと思えば、念のためにu字のドアロックを掛けたまま鍵を開け扉を開く


「アサマさん!今回の報道の件をどの様にお考えか教えてもらっても良いですか!」


開口一番に飛び込んできたのは帽子を被った眼鏡をかけた男の姿だった

男は叫ぶ様にそう言うとさらに後ろから数人の声が聞こえる


「アサマさん!ヒーローとして今回の勝負受けますよね?」


「ラーズと言えば街の掃除やとも呼ばれる大怪人ですが、何か心当たりがあるんですか!」


捲し立てられる様に次々と舞い込んでくる老若男女の声にトウヤは瞬時に嫌気と共に尻込みする感覚を覚えた


どうやら新聞での報道の件を受け街に駐在する報道各社がトウヤの家に突撃してきたらしい


その事がわかると急いで扉を閉めようとするが、扉が最後まで閉まらない

見れば扉の隙間に足先が捩じ込まれ閉まるのを阻止していた


「ここまでやるか・・・」


「え?何か言いましたか?今なんとおっしゃいました!?」


「あぁ、いや何も言ってないですよ・・・」


内心困り果てながらも笑顔を浮かべる

もしここで困った顔などしようものなら彼らの良い様に記事が書かれる可能性があった

反応しようものなら都合の良い様に記事を書かれる可能性もあり得る


ーーめんどくせぇ・・・


内心悪態をつくトウヤではあるが、それを決して表に出すまいと思い


「すみません、ちょっと用事があるので失礼しますねぇ・・・」


そう言い家の奥へと引き返す事にした


背後からは「逃げるんですか?」「それでもヒーローか!」等と声を掛けられるが総じて無視する


「かなり愉快な事になっているな、坊主」


不意にかけられた声に苦笑を浮かべる


「いや本当に、なんでこうなったんだろう・・・な・・・あ?」


しかし、何故声がするのか

異変に気が付き顔を向けてみれば、自身のとは違うカップに液体を入れ優雅に飲んでいる男、篝野の姿があった


「結構うまいな、この・・・この・・・コーヒーもどき?」


「なんで此処にいて、なんで勝手に飲んでるかだけ教えてもらっても良いか?俺頭が爆発しそうだよ」


朝から色々なことが起こり過ぎて訳が分からなくなったトウヤは、もう何も驚かない

ただ悪い意味で脱力した姿勢で、疲れた目を篝野へ向けるばかりであった


そんな彼は、トウヤの様子などお構いなしと言った様子で席を立てば棚に置いてある焼き菓子の缶と皿を一枚手に取り、それを机に並べトウヤの分も合わせて3つ、カップに液体を注ぐ


「いや聞けよ、てかいつの間に追加の湯入れたりしたんだよ、あと焼き菓子の場所もなんで知ってるんだよ!」


徐々に声を大きくして荒げるトウヤに、篝野は清々しい笑みを持って返す


「なんか見つけた」


「見つけたじゃないよ!人の家のもの勝手に漁るな!!」


「おいおい、なんか今日めちゃくちゃピリピリしてないか?記者連中にも聞こえちまうぞ?なぁ・・・?シリ」


彼の言葉にえ?と驚いた顔をすれば、隣接するリビングのソファの肘置きの影に動く、小さな頭を見つけた


声をかけられてバレてしまったと観念したのか、シリは申し訳無さそうにしながらもトウヤの前に出てくる


「あ、いや・・・えっと、その・・・」


「こいつが今朝の新聞見てトウヤの事が心配っていうから連れて来たんだよ」


「シリ・・・あぁーごめんな、そうだったんだな」


朝から驚き、嫌なものを見て、また驚き心をイラつかせる

そんな感情の乱れが連続する今のトウヤに人の優しさは深く染み入った


しゃがみ込み目線を合わせれば、トウヤは満面の笑みで感謝を口にする


「ありがとうシリ、心配してくれてさ」


「あぁ・・・いえ、トウヤ兄さんには私達もお世話になりましたから当然です」


トウヤの言葉に、シリはそう微笑み返してくる


「良い子だねぇシリちゃん、ここでお兄さんと一緒にコーヒーもどきでもどうだい?」


「いや、それ勝手に飲むなよあと食うな、んでもってシリはともかくおっさんはどうやって入って来たんだよ」


「なんか俺に対して当たり強くないか?」


「そら勝手に入って来て、好き勝手飲み食いしてたら印象悪くなるだろ、あんたは空中海賊かなんかかよ」


「お、良いねぇ空中海賊、だが俺の役回りは言うなれば影の立役者だからちょっと違うんだよなぁ」


「・・・もうなんか疲れたよ」


「あの・・・元気出して下さいトウヤ兄さん」


会話がいつも以上に噛み合っている様で噛み合っていない篝野との会話はこれ以上ないくらい疲弊したトウヤの精神を更に削る


シリはただ、その様子に声を掛けるくらいしか思いつかなかった




家の前で待機している記者たちは中から聞こえて来た怒声を最後に、なんの会話も聞こえなくなったのを不満に思っていた


3大怪人の一角たるラーズの配下が新聞記事を通してヒーローに宣戦布告

それも相手はまさかの新進気鋭の若手ヒーローであるフレアレッド


ラーズ一派が普段から標的にしているのが汚職や殺人など何らかの罪を働いたものだったので、トウヤが何らかしらの罪を働いたのではないか?という疑惑の目が向けられたのだ


ヒーローが何らかの罪を働いていた

もしそうであればこれは社会を揺るがす重大事件であり、権力の監視を行い、裏に隠された真実を表に引き摺り出す事を使命とする者にとっては放っておかない事態である


それ故に各新聞社は我先にと、動き出し予め調べていたトウヤの家にまで詰めかけてきた


「きっとあのヒーローは影で何かやっているに違いない!我々マスメディアの力で持ってそれを暴くぞぉ」


「この記事は売れますねぇ!」


最も、彼らにしてみればそんな疑惑や紙の上にしかない使命よりも、香ばしい金の匂いに釣られた面が大きくはあった


手を擦り合わせながら記者は舌舐めずりをする


その行為から最早、剣よりも強いペンを握る情報の伝達者としての側面ではなく、ペンよりも金を握りしめた愉快犯としての側面が強く出ているのを感じさせた


「いやぁ・・・すごい悪趣味だな、さすが文屋だやる事がえっぐい」


「やっぱり何も喋らないで正解だった・・・」


そんな記者たちの姿を篝野とトウヤは通りを挟んだ向かいの建物の影から盗み見ていた

何処か中を見れるところはないかと細い建物の隙間に目を通してみたり、ある者は窓を覗き見ようと顔をベタ付けしている


まるで菓子に群がる蟻の様な様相にシリは思わず震え上がった


「なんであんな事してるんですか?」


「そりゃあれが仕事だからな、大人にも色々とあるもんなんだよ」


何処か悟った風に語る篝野ではあるが、トウヤは内心あんたも人の事言えないだろとツッコミを入れる


何故彼らが向かいの建物にいるのかと言えば、簡単に言えばトウヤが知らぬ抜け道があった

ただそれだけである


「此処が安かった理由これだったのか・・・」


そう思い起こせば、篝野が家から逃げる事を提案した直後、レンガ作りの暖炉の炭置き場、そこの床を持ち上げれば現れたハシゴ

そこを降りて歩いていけば今いる場所に繋がっていたというオチではあるが、防犯上売りに出すことすら憚られるレベルの欠陥に、その事実の認識に追い付いた脳が、これまでの事も併せて処理の限界を迎えた様で、トウヤは空を眺め頭から煙を出しながら茫然とした


ついに事態が、彼の脳のキャパシティを超えたのだ


「おいおい、固まってる場合じゃないぞ、急いでギルドに避難しようぜ、ちょっと足を足を持ってくれるかなシリちゃん?」


「わかりました」


そうして、身体強化魔法を使用した篝野とシリにエッサホイサと担がれながらトウヤはギルドへと向かった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る