切り裂け!ヒートソード!! 2

「トウヤくん無事だったんだね!いやぁ良かった良かった」


途中で正気に戻ったトウヤは、自分の足で立ち上がるとギルドの中にそそくさと逃げ込んだ


そこで待っていたのは心配した様子を浮かべているゼトアの姿だった


「すみません、ご心配おかけしましたがこの2人のおかげで何とか家から出る事が出来ました」


「そうなのかい?ありがとう、君たちのお陰で助かったよ」


いえいえ、と手のひらを横に振るう篝野とシリ

やけに息ぴったりだなと思いながらトウヤは眺める


「トウヤ!お前無事だったのか!!」


「心配したのよ!」


「ラーザさん!シスさん!お久しぶりです!!」


横から掛けられた声に反応してみれば、そこに居たのはいつもの2人だった


「お久しぶりっですって・・・まあ確かに久しぶりではあったけど」


「お前大変なことになってるじゃねえか、家とか出るの大変だったんじゃないか?」


「いやまぁ結構大変でしたけど何とかなりましたよ、記者が朝っぱらから家に無理やり押し入られそうになるし、めっちゃ圧掛けられたりしましたけど・・・」


「あーだよなぁ・・・ご愁傷様」


「お父様も記者連中だけは許さないって憤慨していたものね・・・」


トウヤの言葉に2人は口々に声を掛ける


「もし、泊まるとこがないってんならうちに来いよ、客間はいつでも空いてるし」


「そうね!トウヤくんならいつでも大歓迎よ」


「その必要はないから安心して欲しい」


ラーザとシスの提案が家に泊まる様に提案を持ち掛けた瞬間

彼らに向けて声がかけられた


一同が振り向けばそこには1人の男が立っている


武人然とした筋骨隆々な身体つきに鋭い目つき

内から溢れる気迫は彼が只者ではない事を如実に示した


「誰だよあんた」


警戒心を露わにしたラーザがそう問いかけてくれば、男の身体が変貌した

筋肉が硬化しまるでボディアーマーの様に身体の節々に攻殻を形成、僅かに焼けている褐色がかった肌は色素を失い灰色となる

顔は鬼の様な形相となり、肌を食い破り6本3対の角が後ろに向けて伸びていた


そんな怪人の姿が現れる


周囲の人間は突然の出来事に驚愕し混乱が生まれた

トウヤもまた怪人が現れたことに驚きながらも、急ぎ倒すべく変身しようとする


『空間魔法、アクティベート』


「変身!」


「あぁいや待たれよ、此処で戦えば被害が出るし今日は挨拶に来ただけだ」


「え・・・?」


怪人の言葉に思わず耳を疑った

まさか戦った後の被害のことも考えたり、挨拶に来るだけの怪人がいるとは思えなかったからだ


だが、同時に確かにこの怪人からは敵意の様な物は感じられず、まさに自然体といった様子であった事から多少の疑惑を覚えど信用する事にし、擦り合わせたブレスレットを離した


「話がわかる様で助かる。私はラーズ様が配下が1人ゲキコウと申す、新聞各社への対応は大変失礼した。私の浅慮が招いた結果だ、まずこれから謝罪させて欲しい・・・申し訳なかった」


頭を下げてくる怪人の姿に、まさか怪人に謝罪の言葉をもらう日が来るとは思わなかったトウヤは困惑してしまう


それと同時に疑問も浮かぶ


「あぁ・・・いや、そりゃまぁ良いけど何でこんな事したんだよ、俺あんた達から狙われるくらいの罪を犯したのか?」


新聞を見た時から抱いていたどうしてこんな回りくどい真似をしたのか、という疑問もそうだが、何故この怪人に自分が狙われたのか?という疑問であった


脳裏に浮かぶのは記者たちの言っていた何か罪を犯したに違いないという言葉

それに学園で生徒を守れなかった事から来る責任感情が合わさり、もしかしたら自分が気が付いてなかっただけで何らかの罪を犯したのか?という自責の念に苛まれ掛ける


だが、怪人はその言葉を否定した


「いいや違う、君はヒーローとしてこの街の守護者として存分にその力を振るい、弱者を守ってくれた。だから君が罪を犯したのではない、私達が罪を犯すのだ」


「どういう事だよ?」


「詳細は隠させてもらうが、組織にとって取り組みを阻止して功績を立てすぎた君は邪魔になってきたという事だ」


路地裏での人間狩りの阻止、スポンサーの依頼である勇者の捕獲、学園での誘拐活動の阻止と事態の公表された事による活動妨害、数ヶ月の間にこれだけの事をし、上級怪人を討伐できる様になったという成長速度


たった数ヶ月でこれだけの事をしたトウヤを、組織としてはこれ以上強くなる前に倒しておきたいのだ


「だが、ラーズ様も私としても無辜の市民を巻き込んで戦うという事はしたくない、それ故に組織からも許可を取り、予め注意喚起として報道各社に情報を送ったのだが、どうも伝え方が悪く違う方に捉えられた様だ、すまない」


「あぁそういう事なら特に気にしないよ」


謝ってくるゲキコウにトウヤは気にしてないと顔の前で手を横に振り、動きと声でそう伝える


「そうか、それならば良かった。それで戦いの場だが、郊外を考えていたが移動式遊園地が来るようなので競技場を使う予定だがそれで良いか?」


「あぁ良いぜ日時は?」


「明後日、すでに予約もしている」


「予約・・・」


その言葉にトウヤは思わず苦笑してしまう

まさか怪人との戦いで予約している競技場を使う事になるとは思っていなかったという事もあるし、そもそも取れたことも意外だった


最も、人間体で予約すればバレる事はないのだが、もし仮にバレていても役場にしてみれば怪人との戦闘で通行止めをしたり、戦闘の余波で被害が出るよりもマシだろうと考えての配置かも知れない


だが、意外と街の事を考え律儀に布告をし、郊外や競技場の使用まで考えているこの怪人を、いつもとは違い憎めない自分がいるのも確かではあった


そこまで伝えると怪人はトウヤに背を向ける


「では明後日、ベガド競技場に昼13時に待っている。それではな」


そう言うと怪人は人間体に変態しながらギルドの外へと歩き去っていく


「なんか・・・変な怪人だな」


「まぁ怪人にしては嫌に律儀というか・・・礼儀正しいというか・・・」


「なんか、怪人にしては良い人でしたね」


ラーザとシスが溢した言葉に、トウヤもまた同意するのだった








それから暫くして、トウヤは工房に来ていた

理由は明後日の戦いの為に、あの怪人についての話を聞いておこうと思った為だ


工房についてみれば、僅かに荒れ入り口付近にゴミが多く落ちているのが目に入る


荒れた周囲には何かを置いたであろう後が残っており、どうにも自身の家の様に何者かが、それも自分の考えている人物達が来たのだろうという事をトウヤに予感させた


扉を叩き中にいるであろうダーカー博士に声をかける


「博士、俺です。トウヤです。入りますね」


そう言い扉を開けてみれば、開口一番に疲れた様子で机に寄り掛かるダーカー博士の姿が目に映る

次いで眉間に皺を寄せて椅子に座るセドと、特に表情を浮かべずにこちらに目を向けるフィリアの姿があった


この様子の原因に当たりをつけながらも、敢えてトウヤは聞いてみる


「あの・・・何かありましたか?やっぱ記者さん達もここに?」


そう聞いてみれば一同は声を発さずにただ静かに頷く


「すみません・・・俺のせいでご迷惑をおかけして・・・」


「いや良い、トウヤ、お前に落ち度など無いよ」


「あのゲキコウとか言うやつ・・・何だってこんな・・・あー!思い出しただけで腹立ってきたよ!」


どうやらトウヤの考えていた通り、あの記者達はここにも来た様だ


話を聞いてみれば、工房故に無視もできなかったので、ダーカー博士とセドで話をした様で根掘り葉掘りと聞かれた挙句、あらぬ疑惑までぶつけられたそうだ


曰く、ヒーローと悪の怪人が共謀している

曰く、勇者と共にいた事から、王族との繋がりを疑われ不正に工房が関与している

曰く、子供を囮にして怪人討伐を行った

などである


悪の怪人ってなんだよとは思いながらも、ラーズ一派が正義の怪人呼ばわりされている事を聞き何とも言えない気持ちになった


「まぁこう愚痴を話しはしたが、あんたが気にする事はないよ、あのゲキコウとかいう奴の所為なんだからね」


「だがトウヤ、お前明後日競技場に行くならそれまでに身体を慣らしておけよ、特に相手は翼斬りの異名を持つゲキコウだ」


「翼斬り・・・何ですそれ?」


「時速520km近くで高速飛行する有翼人種飛行隊をたった1本の刀を使い5分足らずで全滅させた事からついた異名らしい」


「刀で武装した飛行隊を全滅させたって・・・」


思わず固唾を飲む

有翼人種飛行隊、先のベガドの街の防衛戦で見かけた有翼種の人種からなる飛行部隊であった

武装は20mm軽機関銃と手投げ式手榴弾であるが、機関銃の弾頭は特殊加工された徹甲弾であり、高速で空を飛んでいる為、上級怪人と言えど油断ならない相手であるのは確かだ


それを相手にして5分で全滅させる程の実力


あの堂々とした立ち振る舞いは確かな実力があってのものだとわかれば、思わずトウヤは身震いする


「俺・・・勝てるんですかね?」


「勝て、お前なら行ける」


弱気なトウヤの発言に間髪入れずにセドが言う

そこには何の疑いもなく、ただ当たり前の事実を述べるかの様な様子で言ったのだ


「なんかすごい信頼してくれてますね、俺のこと」


「当たり前だ、ビヨロコとクーラを撃退し、レオの仇も討ったお前ならゲキコウに勝てる。これはお前の実績が齎した信頼であり結果だ、そこを過小評価してどうする?」


「ハハッはっきり言いますね」


その様子にトウヤは思わずトウヤハ笑ってしまう

そして、同時に感謝した

自分をこれだけ信頼してくれていることに


「大丈夫、私も信じてる」


もちろん、それはセドだけではない

フィリアも言葉には出さないがダーカー博士も同じ気持ちだった


だからこそ、トウヤはその信頼を裏切りまいと力が入り気持ちを昂らせる


「なら、俺も頑張らないとですね!」


「おうその調子だよトウヤ、そ、れ、と・・・あんたに試してもらいたい武器があるんだが、どうだい?丁度ゲキコウと戦うには丁度良いと思うんだが?」


「なんですか?良いですよ使ってみます!」


気持ちが上振れした所為か、ダーカー博士の言葉にトウヤは笑みと共に力強く返事をした


博士の笑みに気がつく事なく

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