遊園地の罠 4
しかして、夜の帳が下り、街中が眠りにつく時間
彼らは動き出した
「トウヤ、準備は良い?」
「ええ!準備万端です!」
すでに変身したフィリアとトウヤは、遊園地の前に来ていた
セドはヒーロー全員が出張る訳にも行かず、もしもの為に待機している
2人の任務は単純だった
フィリアが怪人の相手をしている隙にトウヤが人質の救出を行うというものだ
「それじゃ、行こ」
「はい!」
銀髪を揺らし無表情のままフィリアそう言えば、トウヤは気合いの籠った返事をする
そして、2人は遊園地の中へと歩を進めようとした
「ちょっと待ってくれ!」
不意に後ろから掛けられた声に、2人が振り返ってみればそこにいたのは赤いボールの鼻に紅を入れた白塗りの顔をした人物
「お前・・・あの時のピエロ!なんでこんな所に・・・」
なぜこんな所に彼がいるのかと疑問を浮かべながらトウヤが驚きの声を上げる
「あなた、誰?」
初めてあったフィリアはピエロを訝しげな眼差しを向けている
「俺はサーカスでピエロをやってるリゴンだ!あんたら座長をとめに来てくれたんだろ?なら正面から行っちゃダメだ!」
「なんで?」
「そんなもん正面から堂々と入ったらバレるに決まってるだろ!こっちだ来てくれ!」
そう言うとリゴンは早くと腕を振りジェスチャーしながらトウヤとフィリアを案内しようとする
その事に2人は僅かな不安を抱きながらも、ついて行く事にした
「なぁなんでこんな所にいるんだよリゴン」
遊園地の外周を歩きながらトウヤがリゴンに尋ねる
先の行方不明事件を受け、遊園地が営業中止処置となり、スタッフは全員町の宿に半軟禁状態にあった
しかし、彼だけは宿の外に出て来てこうして自分達を案内している
あまり疑いたくは無いが、何か考えているのではとトウヤは考えたのだ
その問いにリゴンは至極当然の如く答えた
「そんなの座長の後をついて来たに決まってるだろ・・・俺もう色々ぐちゃぐちゃになってわからないけど、あの座長がこんな事するって信じたく無いんだよ!」
感情を荒ぶらせながらリゴンはそう言う
「なんで、後をつけたの?」
「あれは何かの間違いだって・・・俺の見間違いだって信じたいからだよ、確信を持って言いたいんだよ!」
歩みを止めて振り返ると、フィリアの目を真っ直ぐ見つめながら、感情を徐々に昂ぶらせていく
「だっておかしいだろ!なんであの座長が・・・クソッ!」
言い切れぬ思いにリゴンは悪態をつく
尊敬しているからこそ、恩を感じているからこそ信じたい、しかし、疑いを持ってしまう
今までの自分が見て来た事が、周りで起こった事件が、彼の心に疑念を呼び、尊敬の念と疑念とが責めぎあう
乱れていく感情の中で、リゴンはその全てを吐き出す様に言葉を続けていく
「座長は貧民街で燻っている俺を拾ってくれたんだ・・・サーカスに向かい入れてくれたんだ・・・それなのに・・・」
「リゴン・・・」
彼にとって、サーカスとは居場所なのだろう
座長とは何よりも耐え難い恩人なのだろう
そこ事がわかりトウヤが悲しげな声を上げると、リゴンは彼の腕に勢いよく掴みかかる
「頼む!座長を止めてくれ!あの優しい座長だからあんた達に止めて欲しいんだ!きっと何か事情がある筈なんだよ・・・頼むよ・・・」
目に涙を浮かべながらそう叫べば、徐々に崩れ落ちていく
そんなリゴンを見て、トウヤは少し離れてしゃがむと肩を優しく叩く
「大丈夫だ、きっと座長さんも言えばわかってくれる。俺たちが止めてみせる」
「すまねぇ・・・」
力無くリゴンがそう言うと立ち上がった
涙を拭うと、その目に迷いを宿す事なく、真っ直ぐにトウヤを見つめる
「足を止めてすまねぇ、行こう!」
「おう!」
「うん」
そして、改めて歩を進める
リゴンに案内されてたどり着いたのはサーカスの裏口だった
扉の代わりに布が垂れ下がり、風に吹かれるたびに僅かに揺れている
「此処からなら見つからない筈だ・・・」
小声でそう言うと、後ろにいるトウヤ達は声を出さずに頷きでもって返事をした
ここからは敵地となる
そう思えばトウヤは僅かに緊張を宿す
まずリゴンが先に中に入り、トウヤがそれに続いた
中に入ってみればそこは物置となっているのだろうか、様々な道具が置かれている
足音を立てず、息を潜めながら歩いていくと分かれ道に行き着いた
真っ直ぐ進めばサーカスの会場
左に曲がれば、立ち入り禁止となっている倉庫に辿り着くと言う
おそらくシリ達は件の立ち入り禁止の倉庫にいる
そう思い道を曲がろうとすれば、会場の真ん中に誰か立っているのがわかった
「あれは・・・」
トウヤが小さく呟けば、人影は僅かに動き自分達へと向き直る
そして、会場の電気が一斉に点灯した
「・・・!!」
暗闇から急に明るくなった事により目が眩み一同は目を腕で覆うが、次第に目が慣れていき光の中に立つ1人の男の姿を見る事になった
「座長・・・?なんで・・・」
「そんなの決まってるだろぉ?来ると思っていたからさ、お前がいるのは予想外だけどな、リゴン」
そこに立っていたのは座長、ツ・キョゼだった
彼は仰々しく手を広げれば、大仰な動きでトウヤ達に礼をする
「ようこそおいで下さいました。ベガドの街のヒーロー様方、私当サーカスの支配人ツ・キョゼと申します。以後お見知り置きを」
そう言うや否やツの身体が変貌していく
これまでの怪人とは違い、脂肪が内から湧き出る様にして四肢が、腹が肥大化していく、顔は次第に白くなり緑の模様が浮かび上がる
鼻は膨らみ緑色に染まっていき、手足の先が尖り足首や手首からはまるでポンポンの様に麦色の毛が伸びていく
「お前は・・・!」
そこにいたのは勇者護衛の際にビヨロコとクーラと共に現れた上級怪人の一体
ピエロ型の怪人だった
「久しぶりだなぁ・・・フレアレッド!」
言葉と共に怪人は自身の掌から一つのボールを出現させる
「これは挨拶代わりだ、受け取れ!」
それをトウヤ達目掛けて投げつけた
攻撃が来たと身構えるトウヤ達だが、身構えた瞬間、ボールは変形しトウヤに対して伸びて引っ付く
「・・・!なに!?」
驚きの声をトウヤが上げた瞬間、ボールは元に戻ろうとして、トウヤの身体を引き寄せながら元の丸いボールの姿に戻り、引っ張られたトウヤはそのまま会場へと引き摺り出された
「トウヤ!」
「座長、何を!」
フィリアが武器を構え、リゴンが声を上げるが怪人となったツはお構いなしにボールを2つ2人に向けて放り投げた
「・・・!ヒートソード!」
それに気が付いたトウヤがすぐさま立ち上がり様にヒートソードを展開しボールを切り落とそうと振るう
袈裟斬りをして一つは破壊に成功するが一つは斬り逃してしまう
「しまった!」
「・・・!」
「うわっ!」
飛んできたボールにリゴンを身を挺して守ろうとしたフィリアであったが、ボールは彼らの後ろ
会場への出入り口で弾け、まるで幕の様に出入り口を覆っていく
「塞がれた・・・!?」
「用があるのはフレアレッドだけだからな、お前らは見逃してやるよ」
分断された
その事がわかればフィリアはクッと歯噛みする
だが、リゴンは通れなくなっているとわかってなお、フィリアの懐から飛び出し壁に拳をぶつけ声を上げた
「座長!座長!!なんでこんな事するんですか!座長!!」
二度三度と壁を叩くが、硬い感触とドンドンという硬い音が伝わってくるのみで座長の元へ行けそうに無い
しかし、リゴンは叩き続けた
それは前に行くためでは無い、彼に言葉を届けるために叩き続けたのだ
「なんでだよ・・・!座長!あんたが言ってくれただろ?このサーカスは全てを受け入れるって、ここでみんなと一緒に色んな人に笑顔を届けに行こうって・・・ここがみんなの家だって、そう言ってくれたじゃないか!なんでこんな事するんだよ!!」
塞がれた出入り口の向こうからくぐもって聞こえる悲痛な叫び
この怪人を、ツ・キョゼという男を信じているからこそ出てくる叫びの声にツは
「馬鹿じゃねぇの?」
嗤った
「そんなのお前らを連れてくるための言葉に決まってんだろ」
居場所のない自分たちに贈られた言葉は偽りだった
「お前らみたいな奴らが馬鹿みたいにホイホイきてくれたおかげで、俺はだいぶ楽に仕事が出来たよ」
みんなと一緒に色んな人に笑顔を届けに行こうという言葉も偽りだった
「大体、お前らみたいな奴らをなんで助けなきゃいけないんだ?」
ここがみんなの家だと言ったのも偽りだった
全て全て、全てが偽り
そして、何よりもリゴンを傷付けたのは尊敬する座長からの拒絶の言葉
「嘘だ・・・嘘だ!!座長はそんなこと言わない!!そんな事!!」
「言ってるからお前も傷付いてんだろ?バァカ!!あはははは!!!」
他人の気持ちを理解しようとせず、他人の願いを拒絶する
行き過ぎた個人主義の様な考え方にトウヤは怒りを覚えた
もはや怒りというには生ぬるい
「フレアジェット、レディ・・・」
『イグニッション、プレパレーション』
未だ笑い声が響く会場の中で、静かに呟かれた言葉に機械音声が答える
「イグニッション!!」
背部の足の噴射口から、燃焼ガスが一気に噴き出る
勢いよく押し出された身体で右手に持つヒートソードを突きの姿勢で構えを取りただひたすらに目の前の悪鬼羅刹を討つべく、ヒーローは動き出す
「キョゼェェェ!!!」
「攻撃の時にぃ叫ぶなよ阿呆がぁ!」
掌から飛び出てきたボールを地面にぶつければ、地面で弾けトウヤの眼前に壁が出来る
だが、トウヤは止まる事なくその壁をヒートソードで横一文字に切れ目を入れ、上部分を蹴り押した
ぐらりと傾き倒れる壁を避けようと怪人が後ろに飛べば、傾いた壁を足場に高く飛んだトウヤが手に別の武器を構えている
「フレアシューター!」
『フレアシューター、アクティベート!』
数本の熱線が打ち出され怪人に迫る
後ろに飛び上がり空中にいる怪人には避けられない必中コース
「フヒヒヒヒ!」
しかし、怪人は今度は両方の手にボール出現させれば前へと飛ばす
空中でぶつかり合うボールはお互いに弾け合い、混ざり逆円錐形に伸びていく
それは撃ち出された熱線を飲み込みトウヤへと迫った
壁の向こうから聞こえる戦闘音にリゴンはこれは夢ではないかと、現実を認識する事を拒絶する
「こんなの・・・嘘だ・・・」
思い起こされるのは貧民街での誰も信じられず独り孤独に膝を抱えてた自分自身、サーカスでの思い出、そして最後に、座長のあの優しい笑顔が思い浮かぶ
あれば全部嘘だったのか?
内心に渦巻く疑心は総じて2つの結果に帰結する
そのまま心折れ悲しむか
「・・・許さない」
消えることのない、どす黒い憤怒に変わるかの二択である
「リゴン、大丈夫?」
彼の様子が変わったのに、フィリアは気が付いたのだろう
無表情ながらも心配そうに声を掛ける
「・・・大丈夫です。今は兎に角みんなを助けに行きましょう・・・」
そうフラフラと立ち上がれば、左側の道に歩いていく
その姿にどう声を掛ければ良いのかわからないフィリアは、ただ黙って彼の後についていく
未だ戦いは終わらない
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