遊園地の罠 3
今日も青い空の下、シリは手に持つチケットを眺めながら昨日の出来事に思いを馳せる
遊園地の楽しいアトラクション達、サーカスの様々な催し物、バックヤードツアーでの普段は見えない裏側の散策に体験
それは娯楽の少ない貧民街からあまり出る事がなく、自身よりも年若い子供達の世話をする彼女に取って年相応の子供らしくいられた時間であった
家族の為と、自分を隠してきた少女にとってそれは何よりも甘い菓子のようなものだったのだ
それ故だろう
「お嬢さん」
その菓子を疑わず求めてしまう
「チリ!!」
いつものボランティア施設で子供達と食事をとっていたチリは突然自分にかけられた声に肩を振るわせ驚く
見ればトウヤ、もといフレアレッドが食堂の入り口に身を乗り出しながら立っているのが見えた
「な、何だよトウヤにいちゃんかよ・・・驚かせないでくれよ」
そうチリが安心した様な声を出せば、トウヤはズンズンとこちらに早足で近付いてくる
「お前・・・何ともないのか?他のみんなも無事か!?怪我とかは!?」
「な、何だよ急に・・・大丈夫に決まってんだろ・・・」
困惑した様な様子を見せるチリの姿にトウヤは胸を撫で下ろす
そして、チリの顔を見つめ真剣な声で言う
「良いか?おばちゃんや施設長にもお願いしたから今日は此処にいろ?」
「なんで?いや、別にふかふかのベッドで寝れるから良いけどさ、此処のベッドで寝たら家のベッドだとなんか物足りなくなるんだよなぁ」
「まだ言うわけにはいかないがお前達が怪人に狙われている可能性があるんだ」
「はぁ?何でそんな事になってるんだよ!」
驚きと共にドンとテーブルを叩きながらチリは立ち上がる
突然怪人に狙われていると言われても納得出来ないのは当然であった
「あー何処かでお前達が目を付けられてたみたい・・・だ・・・」
全てを言うわけにはいかず、言っても問題ない部分だけを掻い摘んで説明するがそこで違和感を覚える
「なぁ・・・シリは何処だ?」
いつもならばチリと共に子供達の世話をしている少女の姿が見えない
「なんか散歩に行ってくるって言ったきり帰って・・・来ない・・・帰って来てない!!」
事の重大さに気が付き、チリがハッとなり叫ぶ
トウヤとチリ、2人はみるみる自身の顔が青褪めていくのがわかる
「まずい、シリを探しに行かないと・・・!チリ、お前は此処でみんなを守るんだ!俺がシリを探してくる!頼んだぞ!」
そう言うと、とある場所へと通信を飛ばしながらトウヤは食堂を飛び出した
「ゼトアさん!!俺が連れて行った子供の1人が行方不明になってます!」
『そうか、トウヤくん・・・こちらもつい先程嫌な情報が入って来た。バックヤードツアーに参加したと思われる家族の行方がわからなくなって来ているんだ、ひょっとしたらその子もすでに・・・』
その言葉に頭に強い衝撃が走った様な感覚がする
そして、同時に1人の少年の姿を思い出す
連れ去られ、自身の前で怪人化した少年の姿を
「俺、サーカスの方に行ってみます!」
『な・・・!?待つんだトウヤくん!それはあまりにも危険過ぎ・・・』
そこで通信を落とした
嫌だ、もうあの様な事態は引き起こしたくない
そう思えばトウヤの足はあのサーカスへと進路を変え走っていく
トウヤが遊園地付近に到着した時、すでに何らかの騒ぎが起こっているのに気がつく
見れば2つの集団が遊園地の入り口で言い合いをしている様子だった
「ですから!ここの営業許可は降りてるはずです!なんで今更・・・」
「怪人テロが多く発生している状況なのだ、暫くの営業中止処置もやむを得ない事態だ」
「だからと言って急すぎます!あなた達も変な噂に踊らされてるじゃないでしょうね?」
聞けば片方は遊園地の運営サイドの人間、片や街の役所の人間だろうか、何やら怪人騒ぎによる一時営業中止処置の件で揉めているのがわかる
その中でトウヤは見覚えのある人物を見つけ、彼もまたトウヤの存在に気がついた様だった
「おや、トウヤくんではないか、その格好・・・こんな所でどうしたのかね?」
「ラス町長・・・」
役所の人間に囲まれるように立っていたのはラスだった
「いえ、昨日サーカスに参加した家族の行方不明事件が発生したので捜索に来たんですが・・・町長は何を?」
その言葉に一同に衝撃が走った
「それは本当かね・・・?」
「えぇ、先程ゼトアさんからも連絡が来ましたし俺の連れていた子も行方がわからなくなっているので・・・」
「ふむ・・・ならば、この遊園地の営業中止処置は止むなしと言ったところだと思うが・・・如何かな?」
ラスの鋭い眼光を向けられている遊園地の運営サイドは、ショックを受けた様で言葉を失っている
「・・・わかり・・・ました。営業をすぐさま中止します・・・」
責任者であろう獣人族の女性が、重く暗い悔しさを滲ませた顔をしながら言葉を発する
「うむ、では中の調査をさせて欲しいのだがよろしいかな?それとサーカスの責任者も呼んでくれ、出来れば早急にな」
「あの、俺も行きます!調査に同行させて下さい!」
中への調査、それにはきっと怪人との戦闘が待っている筈だった
それにシリの行方が未だわからない以上、居ても立っても居られずトウヤがラスに懇願する
しかし、ラスの返事は良いものではなかった
「ダメだ、これは町の役場と遊園地運営との問題だ、ヒーローである君にその権限はない」
「しかし、怪人が出てくる恐れがあります!それなら俺も同行した方が!」
ラスの言葉に食い下がるトウヤだが、その言葉にラスが再び目を鋭くさせる
「ほう、ならば怪人が出て来るという確かな証拠はあるのかね?」
「あります。証言が1件ギルドに届いています!ですから!」
「1件だけかね?その報告の真偽の程は?精査はしたのかね?」
「それは・・・」
その言葉にトウヤは押し黙ってしまう
確かにこの遊園地から怪人が出て来た事を見たという報告はそもそも上がっていない
唯一知っているのはあのピエロの男だけだ
だが、その証言が嘘ではない確証はない
彼の言葉を信じられる程、共にいたわけではない
しかし、あの男が見せた願いが嘘ではないと信じてられると、そう思うトウヤの想いがあるのも確かだった
それ故にトウヤはラスの目を仮面越しにしっかりと見つめ返し言う
「あの人が見せた遊園地に対する想い、あの想いは嘘ではないと、俺はそう考えています。」
「・・・なるほど、では証拠不十分な状態ということか」
否定は出来ない
確かにトウヤ個人の信じたいという想いでは確たる証拠にはなり得ないだろう
だが、そんな言葉にラスは笑顔を浮かべる
「面白い、人を信じるその愚直さ、確かに悪くはないが・・・今回の処置はこの遊園地の為を思っての事だ、もし怪人が出たり異常が見つかればすぐに要請する。私のこの言葉は信用出来んかね?」
「ですが、それでは捕まった人達が・・・!」
「今回の処置で相手も動き辛くなる筈だ、ならばそう直ぐに怪人に改造される事も殺される事も無いだろう、その点については安心したまえ」
その言葉こそ確証が無いのではないか
内心浮かんだ心を何とか抑えつつも、此処で言い合っても仕方が無いと思いトウヤもまた、悔しさを滲ませた顔をしながらも渋々受け入れる事にした
「・・・わかりました」
そうして、ラスはトウヤへと近付きポンと肩を叩く
「すまんな、遊園地運営も被害者なのだ、それに怪人をこれ以上刺激するわけには行かん、こちらの調査では此処では怪人には出来ないらしい、テント奥の檻の中に彼らはいる」
耳打ちされた言葉に、トウヤはハッとして顔を向ければニヤリと笑うラスの姿がある
「わかりました・・・!では、私はギルドに戻ります」
「うむ、我々は暗くなれば撤収するがその間に何か見つければ君達に報告しよう」
先程の話と合わせれば、即ち夜であれば来ても良いという事だろう
その事がわかればトウヤは力強く返事をした
「お願いします!」
そして、トウヤは夜になるのを待った
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