遊園地の罠 2
記者の遺体が見つかった
それはトウヤがギルドに来た時、オータム達が集まり何やら重い顔つきで話していた時に知る事になった
詳しく聞いてみれば遺体の状態はかなり悪く
全身に打撲痕があり、必死に何か逃げ出してきたかのような様子だったと言う
その事を知り、トウヤはひとつの事を思い出した
前日の記者の言葉
あのサーカスに纏わる暗い話
「オータムさん、その記者って・・・」
居ても立っても居られずオータム達に声を掛けた
「あぁトウヤくん、実は今朝街の南通りの門の付近で記者の遺体が見つかったんだよ」
「その記者・・・ひょっとして俺昨日あったかもしれません」
「そうなのか?いつあったんだ?」
オータムが僅かに驚きの反応を示した後、トウヤに問いかける
その言葉にトウヤは仄かに暗い感情を浮かべながらも答えた
「昨日遊園地のサーカスのテントの中で・・・あのサーカスには悪い噂があるって言っていて、それを調査するって・・・」
「サーカス・・・ちょっと待ってくれ、ゼトア!ちょっと来てくれサーカスのことで話がある」
サーカス、その言葉に何か思い当たる事があるのかオータムはゼトアを呼ぶ
ゼトアもまた、サーカスという言葉に何か思い当たる事があるのか、彼の言葉を聞くと急いでこちらに向かってきた
「オータムさん、サーカスの事って何かあったんですか?」
「トウヤくんが昨日例の記者とサーカスの事について話をしたらしいんだ、ひょっとすると・・・」
その言葉を聞き、ゼトアの顔が次第に険しくなっていく
「わかりました。トウヤくんちょっと一緒に来てもらえるかな?」
「あ、はい、わかりました」
何やらただならぬ雰囲気に僅かにトウヤに緊張が走る
ゼトアはトウヤの声を聞けば、彼に振り向く事なくただ真っ直ぐギルドの奥にある応接間へとトウヤを案内した
そこで漸く振り返れば、トウヤに対して僅かに強い語気で言う
「良いかい?この中にとある人がいるが決して他の人には言ってはならないよ?セドにも、フィリアにもだ、良いね?」
いつになく真剣な雰囲気のゼトアに気圧されながらも、トウヤが頷くと、ゼトアは扉を叩き声を掛けた
「昨日サーカスに行った人を連れてきた。今から入るよ」
そう言うとガチャリとドアノブを回し扉を開ける
蝶番の甲高い音が響くと、中にいるピエロの存在にトウヤが気が付く
「あれ・・・あんた確か・・・」
そこに居たのは昨日ツの隣に立っていたピエロの姿だった
彼もトウヤの姿を見るや否や、驚きの表情を浮かべ彼を出迎える
「あなたは確か・・・昨日サーカスに来ていたお客さんかい?」
「彼に見覚えがあるのか?」
「ええ、例のバックヤードツアーに参加した方の1人です・・・」
「何という事だ・・・トウヤくん、昨日誰とツアーに参加したか覚えているかい?」
「あのちょ、ちょっと待って下さい、何が何だか一体全体どうしたって言うんですか?」
捲し立てるようなゼトアの様子に、トウヤは待ったを掛けた
まずは自分が理解する時間を欲したからだ、そうで無いと会話をしようにも上手く噛み合わない
「トウヤ、君はあの記者からサーカスについての話を聞いている筈だ」
「サーカスの話って・・・あの子供が行方不明になるとか言う噂ですか?」
「もしそれが噂でないならどうする?」
「えっ・・・?」
思わず彼の言葉に困惑の表情を浮かべる
「記者の遺体が見つかった後、彼からサーカスに関する垂れ込みが来たんだ」
「あの、そこからは私に話させてもらってもよろしいでしょうか・・・?」
ゼトアの言葉に割り込む形で、それまで黙っていたピエロが口を開く
ゴブリン族特有の小さな緑色の体色をした彼は、その身体を僅かに震わせながらも恐る恐ると言った様子で喋り出してくる
「実は昨日記者と座長があっているのを見たんです・・・」
話し出した彼の様子は暗い
それは自分達の今後がどうなるのかと、もし襲われたらどうしようという保守的な感情から出るものだったが、それでも放って置けないと思ったのだろう
彼は続けてポツリポツリと話し続ける
「幾つかの都市を巡っている時に不審な噂を耳にする機会は幾つかあったんです・・・人攫いサーカス、そんな事は無いと前ならはっきりと言えたんです・・・」
頭を抱えるようにしてピエロは机に項垂れる
そうして震える唇を律して、乾いた口を動かし続ける
「でも、数日前に見てしまったんです・・・座長がヒーローと戦うのを・・・あの恐ろしい怪人に変貌するのを・・・」
そこまで言えばガバリと顔を上げ、ゼトアへと懇願する様に声を荒げた
「お願いします!座長を止めて下さい!私達はみんなを楽しませる為にこの仕事をやっているんだって教えてくれたのは座長なんです!きっとあの人にも何か事情がある筈なんです。お願いします!お願いします!!」
泣きそうな声で必死に机に頭を下げ懇願して来るピエロの姿に、トウヤは心がチクリと痛むのを感じた
このピエロの男はサーカスの仕事が好きなのだと、そして、座長の事を何よりも信じているのだろう事がありありとわかってしまったからだ
「実は君を呼んだのも、記者が持っていた紙に君の名が書かれていたからだんだ」
「俺の名前・・・ですか?」
何故自分の名前が、そう一瞬考えたトウヤではあったが、記憶を探れば彼との会話で思い当たる言葉を思い出し、ハッとする
「そうだ、アサマさん後は頼みますと」
記者は見事、自身の仕事を見事果たしたのだ
誇り高いジャーナリストとしての、仕事を
彼の持ち物はノートからペンまで全て回収され彼の手元には残っていなかった
だが、唯一残っていた紙片に書き込んだのだ、己の血を使って最後に書き綴ったのだ
その事を知れば、トウヤの心が熱く燃え上がるのがわかる
だが、そんな燃え上がるトウヤの心は次のピエロが発した言葉で冷え上がってしまう
「そう言えば・・・あの子供達は大丈夫なんですか?」
「あの子達・・・?」
「そこの人の連れていた子達です。記者の人が言い争っている時に言ってました。あのバックヤードツアーは標的にマーキングするための物だって」
そう言った瞬間、トウヤに嫌な予感が走った
「トウヤくん!?待て!」
気が付けばゼトアの制止の声も気にする事なくギルドの外に走る
『空間魔法、アクティベート』
「変身!」
『音声認識完了、アクシォン!』
「フレアジェット、レディ!」
『イグニッション、プレパレーション』
「イグニッション!!」
周りを気にしてジェットを噴かすが、それでもトウヤは全速力でシリ達の元へ向かう
「みんな無事でいてくれ!」
そうして赤い彗星が街の空を飛翔する
大切な者達を守る為に
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