切り裂け!ヒートソード!! 3
そうして迎えた当日
件の競技場には多くの人が集まっていた
その殆どは主にマスコミ関係者かマスコミかのどちらかであるが、競技場の入り口で集まり困り果てている
「何でここにコイツらがいるんだよ」
「襲ってくる様子はないですが、通れる気がしませんね」
そう記者が言い陸上競技場の入り口に目を向ければ、そこには入口を封鎖する手を後ろに組んだ複数の無貌の姿があった
無貌は前を向いたまま動く気配を見せないが、通す気配も見せない
「他の入り口はどうだ?」
「ダメです。どこも完全に封鎖されてます」
記者の言葉は、全ての入り口を無貌達が塞いでいる様子で、中に入る手段は完全に無くなった事を示していた
チクショウ!と叫び、記者は手すりを蹴り八つ当たりをする
そんな様子をトウヤは上空から眺めていた
「うわぁ、なんかいっぱい人集まってるし・・・なんか荒れてるなぁ」
荒れてるとは言っても記者の様にただ近くのものに八つ当たりをする程度であり、それ程大きく暴動が起こっているわけではない
もちろん、その対策もギルドと役場でなされており、入り口は無貌が塞いでいるので問題はないとされ、競技場周辺を冒険者や警備員が固め交通整理や保安活動を行っている
どうやら祭りと勘違いしているのか、馬鹿騒ぎを行い捕まっている人間の姿もちらほら見えた
「なんか・・・改めて申し訳無くなってくるな、まぁ行くか」
そして、身体を傾けると競技場のグラウンドへと向かう
地上が近付いた瞬間、フレアジェットを切り地面に降り立てば、ただっ広いグラウンドの中1人の怪人の姿が見えた
「時間より少し早いが、よく来たなフレアレッド」
「5分前集合、社会人の常識だろ?」
そう言い笑えば、怪人、ゲキコウへと近付いて行く
一方のゲキコウは腰に刀を下げた状態で、ただその姿を見つめる
僅かな緊張が2人の間に走った
「なぁゲキコウ」
その緊張を破ったのはトウヤだった
どこか言いにくそうな顔付きで口を開いたトウヤはそのまま言葉を続けていく
「俺達戦わなきゃダメなのか?」
その言葉に僅かにゲキコウの眉がピクリと動く
「確かにお前も組織の命令があるのかもしれない、だけどこれだけ街の事を、人の事を思っているお前と戦いたく・・・」
「フレアレッド、貴様は何か勘違いしている様だな」
「えっ・・・?」
「俺は確かに牙無き者達のために今日まで戦って来た。だがな、それ以上に私を救ってくださった方の為に戦っているのだ」
ゲキコウの声は徐々に熱が籠って行く
そこに含まれるのは今この場にいない主君への羨望、尊敬、そして、忠義
彼は思い出す、今はこの場にいない主君のことを思えばこそ、その言葉はさらに熱量を上げて行く
「あの方は私が洗脳術式を受ける前に自身を失わぬ様にと連れ去ってくださった。あの方がいるおかげで俺は俺を保っているのだ、何より・・・あのお方の目的が、その熱き心が俺を、俺達を突き動かしてくれたのだ!」
目の前に立つトウヤに、ゲキコウは刀を抜き構えながら答える
その目に強く感情を宿しながら
その目はここにはいない主君を思い
例え彼はラーズの犬と言われ馬鹿にされようとも気にする事はない
それこそが彼の誇りだからだ
ラーズの元に立ち、共に覇道を歩む事こそが彼らの正義なのだから
故に、彼は言う
「我が主君、ラーズの為に我らは戦う!彼の方の悲願達成のため例え泥を啜ってでも前へと進もう!腕が落ちようとも、足が砕けようとも我らは前へと進もう、それこそが我らの忠義だ!ヒーロー、人の命の、営みの守護者よ・・・その大義を守る意思があるのであれば俺を倒せ、我らは同じ様で非なる目的を持った提灯と釣鐘なり、ならば俺を倒して貴様も前へ行け!!」
それはある意味で激励の言葉であり、ラーズへの宣誓の言葉だった
どこまでも誇り高い従僕の決意の表れである
その姿にトウヤは圧倒された
何処までもラーズに使える自身を誇りに思う気高き従僕の姿に、トウヤは震えるのだ
だからこそ、トウヤは構えた
忠義を胸に刃を構える者に失礼のない様に
その決意に当てられ口紅が塗られた口が弧を描き獰猛な笑みを浮かべる
「なら・・・俺はお前を倒す!みんなの日常の為に、お前達を放っておけない!」
「そうだ、それで良い!!フレアレッド!!!」
ゲキコウの足の筋肉が僅かに膨らむと、両手に持った刀を肩に担いだ状態でゲキコウの身体が、まるで鉄砲玉の様に勢いよく前へと飛び出る
「キエエエエ!!!」
猿叫にも似た声を上げるゲキコウの身体は瞬時にトウヤの前へと現れた
そして、左足を1本踏み出せば、地面についた瞬間轟音が響く
肩に担がれた刀をまるで祈る信者の如く天高く掲げれば、全身の筋肉を使い一気に振り下ろす
「チェストォォ!!!」
ゲキコウの全てを込め振り下ろされた刀は、空間に僅かな撓みを生じさせ、そこに刀が乗り空間を一条の細い切れ目を生じさせた
本来であれば技術的な極致に到達したものにしか起こり得ないそれを、ゲキコウは今ここで成し遂げたのだ
怪人としての力を使い擬似的に剣聖の技のほんの僅かな一端を再現する
刀は黒い空間の線を描きながらトウヤへと振り下ろされ、地面へと激突する
決して刀が出して良い筈がないほどの爆音が競技場内に響く
上がる土煙は地面を大きく抉り、刀の直線上に切れ目を生じさせた
「これこそが忠義の力なり・・・聞こえるか、アサマトウヤ」
ゆっくりと立ち上がり顔を横に向ければ、そこにはトウヤの姿があった
彼は何があったのかわからずと言った具合で肩で息をしながら困惑を露わにしている
実際、彼には何があったのかわからない
気が付けば頭上に刀があり、無意識のうちに爆発的な推進力のフレアジェットを肩部から発動させて立った状態から無理やりに横に飛んだのだが、それでも爆音と刀の圧からか耳鳴りが止まらず、身構える事なくフレアジェットを噴射したせいで肩が痛む
「むろん、今のはいつでも出せる訳ではないし、あの1回が最後だろう・・・あれで決める筈だったのだがな」
「それは、残念だったな」
思わず唾を飲み込む
眩暈がする身体を無理やり立ち上がらせれば、未だ続く耳鳴りと耳が塞がった様な感覚に違和感と恐ろしさを抱く
だが、それでもトウヤは挫けない
あれを出せるのが1回だけと聞いて安心したのもあるが、それ以上に挫ける訳には行かないのだ
「そっちが奥の手を見せてくれたなら、こっちも見せないとな」
そう言うと右腕を振るうと、空間魔法によりとあるものがトウヤの手に収まる
「1本の棒・・・?」
そう、それは1本の棒だった
全長100cmはあろうAN耐熱合金製特殊戦棒
それの端から30cmくらいの所を持ち片手で横に構えるとトウヤは、空いた左手を右手につける様にして棒に触れる
そして、ダーカー博士に言われた言葉を思い返す
『良いかい?コイツの持ち味は一撃必殺だ、だから一撃でも良い、なんとか差し込みな』
「わかったよ、博士・・・行くぞ」
小さく気合いの言葉を唱え、左手に魔力を集中させ戦棒へと流しこむ
流し込まれた魔力は戦棒内に滞留し、その魔力を燃料に戦棒に刻まれた術式が展開した
左手を置いている棒が俄かに赤く輝く
それを確認した瞬間、トウヤはゆっくりと戦棒をなぞる様に左手を左に移動させる
赤い光は左手を追う様に灯っていく
左手が離れれば実に刃長70cmの赤く輝く熱線の刃が戦棒に纏われたのだ
「それは・・・一体なんだ・・・」
見た事のない美しい輝きを宿す、魔導工学の光にゲキコウは目を奪われる
「ヒートソード!!」
大きく振るい片手で刃先を下に構えられた70cmの光の刃は、触れても居ないのに地面を焦がす程の熱を発生させている
その刃を見てゲキコウは震えた
「まさか・・・俺の最後の相手になるかもしれない相手が、魔導工学の結晶たる新たな武具とは・・・ハハッ!素晴らしいぞ!ハハハッ!ラーズ様、ラーズ様ご覧になっておりますか!私は今歓喜に震えております!」
それは歓喜の震えだった
新たな脅威をいち早くラーズに知らしめることが出来たことへの歓喜、敵の新たな力の一端に触れる事ができる歓喜の震え
故にゲキコウは笑う
未だ人の形を残す唇を歪め、この時ばかりは武人として笑うのだ
「相手にとって不足なし!来い!フレアレッド!」
刀を片手で構え直して突撃してくるゲキコウを前にトウヤもまた走り出す
お互いに駆け寄れば、己の武器の射程に入る瞬間を見逃さまいと、一瞬一瞬に意識を集中させる
そして、刀の必中圏内に入った頃、ゲキコウは刀を振るう
「チェストォォ!!」
気合いの声と共に振られた刀は止まらずそのまま振り抜かれ宙を斬る
「なんだと!」
いつの間にか背後にいたフレアレッドが刃を震えば高熱の熱線の刃がゲキコウの身体を火花を散らしながら焼き斬った
剣技ではゲキコウに敵わぬ事がわかっていたトウヤは剣技以外の体捌きで勝負に出たのだ
己の武器の長さを特性を理解した上で振られたゲキコウの刃は、確かにトウヤの胴体を捉えていたが、トウヤはその刃の動きを見ていた
刃が揺れ動く瞬間、それを見た瞬間トウヤは己の身体を低く側宙させ刃の上を通り抜けたのだ
しかして、後ろを取る形になったトウヤはその刃を振るい今に至る
傷口はヒートソードの熱に焼かれ傷口は焼き塞がれていた
その痛みの中、ゲキコウはトウヤが体勢を立て直す前にと右足を後ろに下げ刃を横に振るうが、またしても刃の上を飛び避けられ、着地した瞬間、脇腹に深くヒートソードを突き刺される
「ウグッ・・・オッ・・・グゥッ・・・」
痛みに苦悶の声を上げる
身体深くにまで刺さったヒートソードに焼かれ臓腑が熱されていく
だが、まだゲキコウの戦意は途絶えない
「まだだ・・・まだ、俺は!」
『オーバーパワー、アクティベーション!』
「なら、これで終わりだ!」
『オーバーソード、一刀溶断!!』
そんな彼に対して機械音声の死刑宣告がなされた
刺しこんだ状態でブレスレットを擦り合わせたトウヤは、ヒートソードに魔力を集中させる
集まった魔力より強力な熱線を纏い、さらにはゲキコウの体内へと高温の魔力を流し込む
無理やり高温の魔力を流し込まれゲキコウの身体を巡る術式はボロボロになっていく
「・・・見事だ」
自身の最後を悟り、ゲキコウがトウヤにボソリと言葉を送る
それは紛れもない勝者への賞賛の言葉
「ゲキコウ・・・」
「だが忘れるなフレアレッド、貴様は組織の邪魔をし過ぎた・・・ビヨロコとクーラのお気に入りを殺してしまった・・・今も・・・奴らの魔の手は迫っているぞ・・・だからこそ、負けるなよヒーロー」
そして、ゲキコウは最後の力を振り絞るとトウヤを押し離した
手に持ったヒートソードごと押し離されたトウヤはゲキコウに目を向け声を上げる
「ゲキコウ!!」
だが、すでに彼に言葉は届かない
送り込まれた高温の魔力は、次第にゲキコウの身体の節々から火を上げさせる
しかし、彼の顔に苦痛はない
「ラーズ様、私は先に行かせていただきます。どうかあなた様の悲願成就を、ラーズ様に栄光あれぇ!ラーズ様バンザーーイ!!!」
そうして両手を祈る様に上げた瞬間、ゲキコウの身体は爆散した
まるで神に祈る様に
こうして激闘の3日間は終わったのだ
太陽が顔を出し始め少ししたくらいの早朝
その日、目を覚ましたトウヤは起きてからベッドの上で伸びをすると微睡、ぼーっとする
ベッドから出れば、毎日のルーティンとして外の郵便受けに入っている新聞を回収しリビングに向かうと、机に新聞を置きキッチンで黒いカフェインたっぷりの液体を作るべく豆とそれを挽く道具の準備を始めた
豆が砕けていく感触を楽しみながらも、粉をポットの上に置いてある網の上に敷けば、保温ポッドに入ったお湯を中に注いで行く
ほろ苦い香りがほわりと香り、部屋に充満するのを感じながら、トウヤはポットとカップを持ち机に持っていく
それらを机に置きカップに液体を注げば、新聞を開きながらカップを口元に運んでいく
「やっぱ良いなぁ、こういうの・・・」
社会人になる前から憧れていた生活
朝のブレイクタイムにトウヤは落ち着き独りごちる
そうしていると、呼び鈴が鳴らされた
「おっと、はーい」と良い玄関に向かえば外からは元気な声が響く
「トウヤにいちゃん、早く行こうぜ!」
「待て待て、てか来るの早くないか?」
「だって俺楽しみなんだよ、遊園地なんて初めてでさ!」
「落ち着けってチリ、遊園地は逃げないんだから、おっとおはようシリ」
「おはようございますお兄さん、今日はありがとうございます。でも良いんですか?みんなも連れてきてしまって」
「おぉ良いよ、どうせいくならみんなで行ったほうが楽しいだろ?」
玄関からは元気な声が聞こえてきて、チリとシリと貧民街の子供達の声が家の中に響く
机に残された新聞には一面を飾る見出しでこう書かれていた
移動式遊園地スケアーランド、本日開演
愉快な赤と緑のピエロ達が君を待っているぞ!
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