第4話 唸れフレアナックル!
その日冒険者ギルドの待合席で1人の少女が銀色の髪を揺らしながら所在なさげに座っていた
誰かが入って来た瞬間ゆっくりと顔を向けては戻しを繰り返して早1時間
そんな少女の様子を窺っている特別事案対策冒険者の受付に座る女性は、同じく様子を伺っているゼトアに声を掛けた
「フィリアさんあの様子で1時間くらい居座ってますけど、確か集合時間まであと30分くらいありますよね、幾ら何でも早く気すぎじゃないです?」
「まぁ彼女にとっても初めての後輩だからね、きっと楽しみなんでしょう」
ゼトアに言われ受付の女性はフィリアの顔を見るがあいも変わらず無表情なのをみるとほんとかなぁと独りごちる
「お疲れ様です」
そんな2人に声が掛けられる
目を向けてみればそこにはトウヤがいた
「おや?トウヤさん、まだ約束の時間まで30分ありますけど随分お早い到着ですね」
「あはは、実はヒーローとしていよいよ活動するんだと思うとなんだか落ち着かなくて、ちょっと早めにきてしまいました」
そう恥ずかしげに笑いながら頭を掻くトウヤをゼトアは微笑ましく思いながら見ていた
「そうですか、なら今後のヒーローとしての活動も頑張って下さい、応援してますよ」
「はい!!」
「・・・ねぇ園長、新人ってこの人?」
突然横から声が聞こえてきて、驚きのあまり思わず肩が跳ねる
励ましく動く心臓を抑えながら声のした方は顔を向けるとそこには1人の少女がいた
丸い童顔で銀色のミディアムショートの髪を垂れ下げながらこちらを吸い込まれそうな瞳に好奇心を輝かせながら下からのぞく様にしてトウヤを見ている
思わず見惚れてしまう、そんな魅力が彼女にはあった
「お待たせフィリア、この子が新しいヒーローのトウヤ君だよ」
「そう、よろしく」
「あ、はい、よろしくお願いします。フィリアさん」
物静かに挨拶をしてくる彼女にトウヤも頭を下げて挨拶をする
フィリア・リース
火、水、氷、風、雷、土の六属性魔法の中で治癒魔法に長けた属性である水属性を操るヒーローであり、この街のヒーローの1人である
その戦い方は凶戦士の様だとラーザから言われているのを聞いたので、トウヤはてっきり筋肉隆々の大男だと思っていたが、まさかこんな可愛らしい少女とは思っておらず度肝を抜かれた
そんな彼女がトウヤをジッと見つめている
「あのどうかしました?」
「妹がお世話になった。ありがとう」
「妹・・・?」
誰のだろうか、そうトウヤが考えているとゼトアが口を開き言った
「それはサラさんの事ですね、ベオテの森でトウヤさんに助けてもらったと言ってましたよ」
「え!?サラのお姉さん!?」
「そう」
喉元まで出かかった似てねぇ!という言葉を寸前で飲み込む
そうしているとフィリアはトウヤの手を取り引っ張ってくる
「ダーカー工房まで案内する。ついて来て」
「え?ちょちょ待って待って転けそうだから!」
転びそうになりながらも引っ張られていくトウヤを他所に、ゼトアと受付の女性はその姿を笑顔で見送る
「いってらっしゃーい」
「フィリアくん、きっと後輩が入るから楽しみだったんだね」
「そう言うものですかねぇ」
うんうんと頷くゼトアの言葉に苦情混じりで受付の女性が返す
復興中のベガドの街は、今日も平和であった
フィリアに引かれるがまま街中を歩いていくと、2人はとある建物の前に辿り着いた
そこにはダーカー工房と書かれた看板が立てかけられているのをトウヤは見つける
その文字を見てトウヤはほんの僅かに心が重くなるのを感じた
「ここがダーカー工房、あの人とまた会うのか・・・なんかちょっと怖いんだよなぁ、なんか観察するとか言ってたし」
初対面の際、特に彼女と何かがあったわけでは無いが、自分が異世界人だと気が付いているのでは無いかと言う不安と、言われた言葉が主な原因ではあった
そんなトウヤの内情を知らぬフィリアは、構わず入り口にトウヤを案内しようとする
「こっち」
「え、ちょっと待ってください、俺まだ心の準備が・・・」
そう言い止めようとするがすでに遅く、扉は開いていた
フィリアが中に入るのを見て、トウヤも覚悟を決め中に入る事にする
中は調度品の類はなく、椅子とテーブルの置いてある質素な部屋だった
部屋には埃が舞っているのか太陽光の反射を受け煌びやかに輝いている
窓辺には蜘蛛の巣が張っており、本当に人が住んでいるのかと疑いたくなる惨状だった
だがそんな惨状も特に気にしていないのか、フィリアは平然と部屋の奥へと歩いていき扉を開く
トウヤも慌てて追いかけると、先ほど彼女が開けた扉の奥の光景が目に入る
その先には下へと続く階段があったが、光の介在を許さないと言わんばかりの暗黒が広がり、ともすればどこまでも続く様な印象も覚えた
トウヤの下を覗く目も何処か恐れを宿している
「真っ暗ですね」
フィリアの後ろから階下を覗くトウヤがそう呟くと彼女は振り返り彼の目を見て言った
「怖い?」
「怖く無いです!」
そう、とだけ呟くと彼女は階段を降りて行った
トウヤは自身のプライドにかまけた発言を呪ったが、階段の途中でフィリアがこちらへ不思議そうに顔を向けて待っていたので、大人しく彼女の後をついて行く
階段を一段、また一段と降りていけば、目の前に鉄製の重厚な扉が現れ呆気ないほどすぐに終わる階段だったのが見てわかった
フィリアは階段の途中で待っていたのではなく、扉の前まで来たから待っていたのだ
それがわかるとむず痒い羞恥心に襲われる
コンコンと音が聞こえ、ついでフィリアが声を発する
「博士、連れて来た」
その言葉を境に重厚な鉄扉が部屋の中の光を溢れ出しながらギギギと音を立てて開かれて行き、中からギルドであった時と同じ姿をしたダーカー博士の姿が現われた
「お、やって来たね、さあ入っておいで」
ダーカー博士が手招きをしながらそう言い2人は部屋の中へと入って行く
そこは様々な実験器具や工具の置かれた作業部屋だった
先程の部屋とは違い物が整理され虫どころか埃一つない
ふと、トウヤは壁にかけられた設計図へと目をやるとそれが自身の持っていたブレスレットの物だとわかった
「待たせたねトウヤ、あんたのブレスレットの調整終わったよ」
「あ、ありがとうございます」
そう言って渡された一組のブレスレットを手に取り腕に嵌める
ほんの数日感ではあるが、久々に手に取り嵌めてみると何故か懐かしい気持ちになった
そんな感慨に浸っているとダーカー博士がウキウキとした様子で話しかけて来た
「立ちながらですまないが、使ったことがあるから一通りはわかると思うけど一応説明するよ、このブレスレットは私の作った試作4号魔道具だ、ブレスレット内部には試製魔法陣破壊型空間魔力増幅陣、長いから破陣式って呼ぶけど、それが備わっている。それが発動する事によって膨大な魔力が放出されて空間魔法が発動して、別空間に収納されている5式試製強化魔導装甲服があんたを包み込つ形で現界する、ここまでは良いかい?」
「あぁはい、なんとなくわかりました」
そう言うと彼女は満足げに頷き説明を続ける
「この装甲服は人工スライム製の弾性に優れたスーツにST合金製物理装甲と私の作った結界術式があんたを守る。逆に攻撃面はバロン式身体強化魔法が組み込まれてるから最大18tの拳を放つ事が出来るから、普通の人に触る時は気を付けな」
それを聞くとトウヤはこれってそんなに危ない物だったのかと思わず青ざめてしまう
「さて、ここからが本題だ」
そう言うと彼女は机に向けて置かれていたキャスター付きの椅子を2つ転がして来て座り、トウヤにも座る様に促した
遠慮なくその椅子に彼が座ると話の続きを喋り始めた
「これで相手をするのはテロ組織の作った怪人と呼ばれる連中だ、忌々しい事に奴らは攫って来た人間を改造して、身体に身体強化術式や魔物の特性を盛り込んだ部位を埋め込んで暴れ回っているのさ」
「魔物の特性・・・ですか?」
「そう、例えばスライム系であれば伸縮自在な触手や溶解液、蜘蛛系であれば糸と脚、ハチ系であれば毒針や羽と言った具合の改造さ」
それを聞き思わず怖気がした
攫って来た人に対してその様な尊厳を破壊し戦わせる様な非道な連中がいるのかと、そして同時に攫われた人達の事を思うと悲しい気持ちになってくる
だからこそ絞り出す様な声で言った
「ひどいな・・・」
「あぁそうさ、非常に腹立たしい、そんな技術をあんな非道な事に使ってるなんてね、だからこそあんたみたいなヒーローが必要なんだよ」
忌々しげに顔を歪めたダーカー博士は、トウヤに向けてそう言い放った
だが、同時に疑問が湧いてくる
「でもそうならなんで王国軍とかがMRAで対応しないんですか?」
それは先のベガド防衛戦を見たからこそ湧いてくる疑問ではあった
スライムローパーすら一撃の元粉砕し、街の窮地を救った彼らであれば対応出来るのではないかと
しかし、ダーカー博士から帰って来た言葉はある種トウヤの期待を裏切る結果になった
「最新式のMRAは稼働時間は内蔵された魔結晶でだいぶ長いけど、それ以前に性能差で負けてるんだよ、体内で魔結晶を生成出来るほど膨大な魔力を持つ怪人は、MRAでも簡単に対処出来ないほど強化されているし、何より出現場所がわからない以上対応しきれないんだよ」
MRAは魔結晶により動く装甲服であり、基本的に内蔵された魔結晶以上の魔力消費は出来ないのだ、それ故に身体強化術式をより強く長く発動できる怪人に軍配が上がる
また、怪人によるテロは場所を選ばず大陸中で行われている
それ故に軍では対応し切れないという事情もあった
トウヤにとってはあの圧倒的な力を見せたMRAが怪人に負けるという事実が信じられないほどの衝撃だった
「だからこそ、私たちみたいなギルドに登録している工房が独自技術でヒーローの装備を作ってる訳だ、もちろん報酬がない訳じゃないけどね、性能を見せつければ同盟軍にだって売り込みに行けるからある意味でwin-winの関係なのさ」
「売り込める技術があればの話」
「うっ・・・!?」
先程まで部屋の中を物色していたフィリアがそう言い放つと痛いところを突かれたのか、ダーカー博士の動きが止まる
「あんまり痛いとこつくんじゃないよフィリア」
そう言いこほんと咳払いをする
「まぁそんな感じで先魔、先天性魔力過剰障害を持ってる奴にこうやってヒーローをやってもらっている訳だ、何か質問は?」
ダーカー博士の問いにトウヤは首を振り何も無いと言うと彼女は立ち上がり言った
「普通の冒険者になるのであればここまで過剰な装備を持つ必要はない、でも、あんたには力がある。だからそいつを使いな、くれぐれも使い方を誤るんじゃないよ」
「わかりました。俺頑張ります!」
そう彼女が言う
力の使い方を間違え、その力に溺れ他者を害する者は多い
だからこそ、彼女はそう言い放ったのだろう
それを理解したトウヤは彼女の期待に沿うべく返事をした
「あんたには期待してるだ、色んな意味でね」
怪しい笑みを浮かべそう言い放つ彼女の姿にトウヤは再度震え上がる
自分の何が彼女をそう思わせているのか、該当する事が一つしか思い浮かばない以上彼はやはりこう思うのであった
ーーーやっぱこの人苦手だ
場所は変わり、ダーカー工房から移動してフィリアとトウヤは街の中央広場で食事をとる事にした
多くの民衆が昼食をとりにやって来て思い思いの時間を過ごす中、2人が広場の屋台で昼食について考えていると事件は起こる
それは一つの悲鳴からだった
金切り声が広場中に響き渡り、人々がそこに目を向ければそこには3体の無貌の人型が屋台の一つに襲いかかっていた
並べられた商品をぶち撒け、屋台を破壊し店主へと殴り掛かる
一瞬の静寂の後喧騒が生まれた
人々が逃げ惑う中、トウヤとフィリアは顔を見合わせる
「フィリアさん、あれが例の怪人ですか?」
「違う、でも倒すべき敵」
「了解!」
『空間魔法、アクティベート』
その言葉を聞くや否やトウヤは腕にはめたブレスレットに魔力を流す、流された魔力をスイッチにブレスレットが起動状態に入る
「変身!」
『音声認識完了、アクシォン!』
変身するとトウヤの全身を光が包み込む、腕を振るうとその光がガラスの様な音を立てて砕け中から雫頭の赤い強化装甲服を纏ったトウヤが現れた
ベアトの森では魔力供給が足らず低供給状態での変身であったが、魔力の扱い方をラーザとシスの元で覚えたトウヤは最初からこの状態での変身が可能となったのだ
ついでフィリアも中指と親指の腹を合わせる
するとパチンという耳触りの良いが響き渡り彼女の指輪に内蔵された空間魔法の術式が作動する
『空間魔法、アクティベート』
「変身」
『音声認識完了、エクスチェンジ』
機械音声と共に彼女が光に包まれると別空間に収納された戦闘服が今着ている服を置換する
そして、フィリアが腕を払うとトウヤの時と同じ様にガラスの砕ける音と共に青いドレス調の戦闘服が顕になった
両手にはトンファーの腕に沿って刃が伸びるダガーを装備している
赤と青、2人のヒーローはお互いが変身し戦闘準備を整えたのを確認すると現在進行形で破壊活動を行う者たちを止めるために走り出す
まず最初の一手を切ったのはフィリアだった
彼女は身体強化術式を起動すると足を止め、半身を捻り右腕を大きく振る
するとダガーの刃が細いワイヤーを引き出しながら柄から離れて前へ飛翔する
飛翔した刃は右腕の動きに連動して左から半円を動きながら真正面の人型の1体を捉え、ワイヤーがその身体に巻きつく
巻き付いたのを確認するとそのまま思い切り自身へと人型を引き飛ばした
飛んだ衝撃でワイヤーが撓み拘束が解けたが、空中でどうすることも出来ずにワタワタと手を動かす
そんな人型を待ち構えていたフィリアが空いている左腕で殴り掛かる様に伸ばしダガーで切り裂く
何も無い広い空間に落ちた身体が上下の半分に分かれた人型は、もぞりと蠢いた後に小さな爆発を上げた
対してトウヤは首から黄色の魔力布をたなびかせながらそのまま走り抜け別の人型へと殴り掛かる
「セイヤー!!」
トウヤの気合いの雄叫びと共に繰り出された身体強化術式による強化を受けた凡そ10tの拳は、人型の頭を粉砕しそのままの勢いで身体が宙を舞う
やがて人型の内部は攻撃によって破損した強化術式にから発生した魔力の逆流による負荷に耐えきれず、人型の身体は蠢き爆散する
残りの1体も相手取ろうとそちらへと顔を向けると、いつの間にか人型の懐に入り込んでいたフィリアが手に持つダガーで人型を切り裂き上空へと蹴り飛ばしたところだった
上空へと飛ばされた人型もまた魔力の逆流現状により人工筋肉が痙攣し蠢き爆散する
突如として現れた無貌の人型3体を処理すると辺りを見回す
周りには戦闘に巻き込まれない様に離れた位置からこちらを見守る民衆がいるだけで他にあの人型がいる気配はなく、静寂だけが残っていた
それを確認するとフィリアはもう一度パチンと指を弾くとまた光が彼女を包み込み、光が霧散すると元の服装に戻っていた。トウヤもまたスーツを解除する
それを見た民衆達もまた、昼食をとりに戻っていく
「お疲れ様、どう?」
「どう?どうってその、戦ってみてですか?」
「うん」
どう?という主語のない言葉に悩みながらも当たりをつけて聞いてみれば正解だったらしい
さも当然と言わんばかりの態度で答えられる
どこかその態度に対して釈然としない思いを抱きながらもトウヤは答えていく
「そうですね、装甲服のおかげでしょうけどなんか思ってたより柔らかいというか」
「簡単だった?」
「あ、そうですねそれです」
そう伝えるとフィリアは考える様に顔を伏せた
何か間違えた回答をしたのかと焦るトウヤに顔を上げたフィリアが聞いた
「戦ってる最中、何か気を付けた?」
「気を付けた事ですか?」
聞かれた内容に今度はトウヤが考える
初めての戦闘で相手を倒す事に精一杯だったトウヤには、何かに注意して戦うとなると負けない様に、その一点のみだった
だが考えてもそれしか出て来なかったのでそれをそのまま答える事にする
「負けない様に戦う事です」
「負ける?なんで?」
「相手がどれだけ強いか分からなかったからです」
「そう」
それだけだった
たたでさえ無表情なのに、主語もないので何を聞きたくて何を言いたいのかがわからない、煮え切らない思いがトウヤの胸中を燻る
「あの・・・」
「お前らありがとうな!おかげで俺達の屋台は傷つかずに無事に済んだ!」
言い出そうとした瞬間、背中からドンという音と軽い衝撃が走る
見ればそこにいたのはいつも昼食を買いに行っていたサンドイッチ屋の店主だった
余計なものが何一つもない輝く頭越しに笑顔を浮かべている
そんな店主はトウヤ達へと話しかけた後何かを思い出した様に屋台へ戻ると、何かを両手に持ち戻ってくる
見ればそれは長方形の形をした紙に包まれたサンドイッチだった
「ほらよ、お前ら昼飯まだだろ?守ってくれた礼だ、遠慮なく食え」
「ありがとうございます!」
そう言って差し出された物を、トウヤはありがたく受け取ろうと手を伸ばす
だが、横から伸びてきた手に掴まれ静止する
見ればフィリアが彼の手を掴んでいた
そうしてトウヤを後ろへとやり、前へと出てくる
「ごめんなさい、賄賂になるから受け取れない」
そう告げると店主は驚いた様に目を見開く
ヒーローは特別事案対策冒険者、つまるところ治安維持を主な仕事とする公務員である
それ故に安易に誰かから物を受け取る事は出来ないのだ
だが、店主にはそんな気持ちはなかった
純粋な感謝の気持ちで渡したのに心外だと、店主は抗議の声を上げようとする
「なっ、俺はそんなつもり・・・!?」
「だから、気持ちだけ貰う」
そう言うとフィリアは懐からがま口の小銭袋を取り出して中から数枚の硬貨を取り出すと、店主の持つサンドイッチの1つを手に取り空いた手にその金を握らせる
「私はみんなに助けてもらったから、今度は私がみんなの生活を守る、それが私の今の仕事」
「だから、ヒーローかどうかに関わらず受け取るわけにはいかないってか・・・相変わらず言葉数少ないから何言ってんのか分からなかったけど、俺が別の街に行って見ない間にしっかりした子になったんだな、フィリアちゃん」
「おじさんは変わってない」
違いない、そう言うと男は笑い出す
2人がどれ程の付き合いなのかはトウヤにはわからないが、家族の様な、そんな親しみを2人に感じた
「んじゃ、これからも頑張れよ応援してるよ」
「ありがとう」
「そこの兄ちゃんもだぞ!この子、無表情で口数少ないし主語が無いから何言ってるか分からないと思うけど、この街からこんな小さい時からヒーローやっていてこの街の事ならなんでもわかるからなんでも分からない事は聞いてやってくれ!」
「わかりました」
話す男の姿は、まるで我が子を自慢する父親の様であった。
その姿はとても微笑ましく思え羨ましくもある
「よっしゃなら頑張れよ、ほらお前も受け取れ金ならもう貰ってるから」
金ならもう貰ったという店主の言葉を聞き、隣に立つフィリアへと顔を向けると、頷きを持って返事をされた
グイと差し出されたサンドイッチをトウヤも嬉しそうに受け取ると、歩き出したフィリアの後に続き、中央広場に設置されたベンチへと腰掛ける
「すみません、いただきます」
フィリアへと礼を言い貰ったサンドイッチの包み紙を剥がしてみると、少し焼いてあるのだろう焦げ目のついた白い食パンに挟まれた色の良い緑の葉物野菜とその隣に分厚い肉、その上にかけられた濃い色のソースが掛かられていた
トウヤはそれを見て堪らず口いっぱいに頬張る
白いパンに歯を立てれば野菜の折れる瑞々しい耳触りの良い音が聞こえ、次いで分厚い肉の柔らかい食感が舌に伝わった
口に含めば濃厚な僅かに辛いソースが空いた腹を刺激する
「やっぱり美味いっすね」
「そうだね」
そうして2人は食事を堪能した
1人は食事を楽しみ、1人はこうしてまた食事出来ることに、守り守られている事を実感しながら、思い思いの感想を抱きながらサンドイッチを頬張る
そんな2人の姿を広場のカフェから眺める1人の女性の姿があった
女性は手に持つストローを回すと鉄製のコップに入ったアイスコーヒーが、氷達がお互いの表面とコップの内側をなぞりカラカラと音を立てる
「あれがフィリア・リース、なんか思ってたより手強そう、さすがラスが治める街なだけあるね、隣は新しいヒーローかな?元気があってなんか可愛いなぁ」
持っているストローの動きを止め口をキュッと摘みながら、妖しい笑みを浮かべ独りごちた
コーヒーは氷が溶け切り湯気が揺らめきながら上がり始める
さて、と言い立ち上がった
傍に置いていた荷物を取ると彼女は再度2人へと顔を向ける
「スポンサーからも追加依頼があったしこれから楽しくなりそうね・・・」
楽しみにしててね、そう呟き楽しげに立ち去っていく
彼女の座っていた席の机には空になり、僅かに蕩けたコップだけが残されていた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます