第3話 ベガドの危機!?魔王軍侵攻!

晴天の空の元、暖かな陽光が降り注ぎ穏やかな春の風が流れている

色鮮やかな草花は流れに乗りその身体を思い思いに揺らしていた

そんな草花を根が残らぬ様に丁寧に抜いては背中のカゴに入れといった作業を延々と繰り返す人影が幾つかある


トウヤ達一行もその一つだ

ラーザ達の元でヒーローとしての研修の前に冒険者としての研修を受ける事になり3日が経った

彼らはとある依頼で今ベガドの城壁の外へと来ている

依頼内容はこの季節になると定期的に行われる草抜きだ

この暑い夏になる前になると必ずと言って良いほど出回る街からの正式な依頼である


一概に草抜きと言ってもその重要度は高い

景観を整えるというのもそうだが、この大陸では草花にすら魔力がベオテの森ほどでは無いが豊富に宿る

魔力が豊富に宿るという事は虫型の魔獣が誘因され易くなり、またそれを目当てとした小型種に分類される魔物や魔獣もまた街の近くに来やすくなるのだ


故にこの様に冒険者ギルドに一斉除去を目的とした数日に及ぶ歩号制の短期依頼が降りてくるのだ

低ランクで比較的受けやすいにも関わらず、公的機関からという事もあってか、難易度のわりに高い報酬に多くの冒険者がこの依頼を受けにくる

また難易度も低いので新人冒険者の良い研修の場として使われる事が多い

今回もその様に使われているのか、ベテランに引率された新人冒険者の姿がチラホラ見えた


斯くいうトウヤ自身も、その様な経緯からラーザ達に連れて来られたのだ


トウヤは自身の膝上くらいはある草の根元へと手をかけ、身体強化魔法を発動した後に一気に引き抜く、根がしっかりしているのか土を掘り返し撒き散らしながら抜けた草を、傍に降ろしていた籠へと入れる


「これいつまで続けるんだ・・・」


嫌気がさしたのか、ぼそりとそう呟く


朝の日が出た頃合いにラーザとシスに呼び出され、新人冒険者用の宿舎を出たトウヤは何が何やらわからぬ間にシスに渡された籠と手袋を持って、朝食を取りながら依頼の説明を受け城壁の外へとやって来た

着いた時にはすでに数十人の冒険者が集まり作業を始めており、トウヤ達もその中に加わり草抜きを始めた

そこから日が頂点に上がるまでずっと草を抜いては籠に入れ、満杯になったら計量に行き、空になった籠を持ってまた草を抜くを繰り返していた

強化魔術の練習になると言われてはいたがこれほど長時間作業するとは思っていなかったので、それなりにくたびれて来ていたのだ


んー、と身体を大きく伸ばす

それなりに籠の中身が溜まったのでもう一度計量に行こうかと思い振り返って籠に手を掛けた


その時だった


湿った様なグチッという音とガサリという草がかき分けられた音が背後から聞こえた


何事かと思い後ろを振り返ってみれば大きな水滴の様なものがゆっくりとではあるが周りの草花を溶かし取り込んで行っている光景が目に入った

よく見ればジェル状の不定形の身体の中に整っていないギザギザとした形の結晶が身体の中心に見える


「うわ、出たよスライム・・・これで何回目だよ」


スライム

それは魔力生命体と呼ばれる種類の魔物であり、土壌から発生した魔結晶と呼ばれる魔力が結晶化した物質を核に、半液体化した魔力の身体を形成し発生する

土壌の魔力含有量が多いこの大陸ならではの魔物であった

数も多く、普段は腐肉などを食べる森の掃除屋と呼ばれる魔物ではあるが畑などに入ると農作物に被害を与える事から、害獣として駆除される事が多い

今回の広域に渡る雑草抜き依頼でも、伸び切った雑草目当てに街に近付いて来ていたようだ


一匹でも残しておくと体内に新たな魔結晶を生成し、延々と増えていくので早々に処理をしなければならない

トウヤはうんざりとした表情をしながらも、腰に下げた棍棒を抜くとスライムへと歩き出す、次いで身体強化魔法を発動した後に棍棒へと魔力を供給すると、内蔵された術式が仄かに光を放ち硬化術式が作動し、表面の魔力伝導率の高いコーティング材を伝い手元から先端へと向かう薄い魔力の流れが棍棒を包み込む

スライムの目の前まで来ると草を貪ってるスライムをよそに棍棒を大きく振り上げ叩き込んだ


べチャリという水気を含んだ音と共にスライムの身体はひしゃげた

内部の魔結晶は棍棒の表面で流れる魔力により削られ、ついで棍棒の質量とトウヤの強化された膂力により完全に押し潰された


核となる魔結晶を失った事で半液体魔力の身体は、グズグズと音を立て気化していく


彼自身、最初は驚きながら戦々恐々といった様子で処理をしていたが、朝から昼にかけての数時間で特に抵抗して来ないスライムを十数匹とそれなりの数を処理したおかげか、幾らでも湧いてくるスライムにやっかみを覚える程慣れてしまったのだ


棍棒を下に向け魔力供給を止めると、重力と先端に向けて流れた魔力の流れに乗ってスライムの残骸がボトボトと地面へと落ちていく


数十匹を処理しても尚汚れの付いていない棍棒を腰にしまうと、再び作業に戻ろうと籠に手を掛けた


「おーい!トウヤ、そろそろ飯にしようぜ」


声の方に目を向けると、籠を背負ったラーザとシスが手を振りトウヤを呼んでいる姿が映る

ようやくか、と独りごちるとその声に返事をし籠を背負ってラーザ達と合流する



昼食は城壁内の門の近くにズラリと並ぶ屋台で取ることになった

草抜きに参加している冒険者をメインターゲットにしているのであろう屋台にはタンパク質や炭水化物といったいかにも現場労働といったメニューの屋台が並んでいる


トウヤはサンドイッチを購入するとラーザ達と合流し、屋台の向かいにある植木の近くで食事を始めた


「ラーザまたこんなにお肉ばっかり食べて、ちょっとは野菜取りなさいよ」


「お前こそ、体力仕事の時くらい肉を食え肉を、野菜ばっか食べてるとばてるぞ」


食事中も相変わらず行われる仲睦まじい掛け合いに、またかと思いながらサンドイッチを頬張る


「やーやー、みんなやってるー?」


「みんなお疲れ様」


そんな彼らに、少女特有の高い声がかけられる

一同が声の方向に顔を向けるとそこにはバーで知り合った茜と雫の姿があった

なぜ彼女達がこんなところにいるのか疑問になった一同は彼女達へと問いかける


「なんでお前らがここにいるんだ?」


「まさか草むしりに参加しに来たの?」


「いや、冷やかし」


そうあっけらかんと言い放った茜に一同はコケる


「冷やかしってお前なぁ、別に良いけど忙しいんじゃ無いのか?」


「そうよ、仕事の方は良いの?1等級冒険者なんだから指名依頼も入ってるでしょ」


「そこは大丈夫、昨日全部終わらせたから」


「マジかよ、中型魔獣の巣の破壊とか無かったか?アレも終わらせたのか」


驚きを通り越して引いているラーザの様子に茜はニヤリと口角をあげしたり顔をする

冒険者の等級には幾つか種類があり、5等級から1等級までがある

1等級冒険者には常に名指しの高難易度依頼、民間用ライフルの弾丸すら弾き高熱の火焔放射を行うフィーゼル以上の魔獣や魔物の討伐依頼が常に舞い込んでくるのだが、それを全て終わらせたと言ってのけたのだ


「オータムも帰って来たみたいだよ?」


「もう帰って来たの!?あの人確か大型の巣の偵察依頼じゃ無かった?」


「やっぱすげぇなあの人、人の域超えてるよ」



大型魔獣

その単語を聞き、トウヤは以前あった講習での内容を思い返す


「大型・・・って確か街すら破壊出来るヤバい魔物ですよね?」


「お、よく覚えてるな、そうだよ、たった1匹で小さな街くらいなら簡単に破壊出来る力を持っている強力な魔物、昔は侵攻を許したら街が何個も破壊されてたらしいぜ」


「今は防御結界や兵器の進化でそんな事無いんだけどね、でも魔王軍とかは大型魔獣とかを何匹も使役して攻めてくるらしいからまだまだ油断ならないんだよ」


「へぇー、魔王軍って凄いんですね、そんなのを何匹も使役できるなんて」


「また戦争始めてるし、北方の国も幾つか何十匹の大型魔獣や将軍との戦闘の末占領されたみたいだからね、ほんと油断ならないよね」


「まぁ私達1等級は召集かけられたらそんな戦場に駆り出されるから他人事じゃいられないんだけどね」


うんうんと思案顔で頷く茜、それに捕捉する様に困った様な様子の雫が告げた

公的機関に所属する冒険者は有事があれば召集される

それが戦争であれ災害であれ、国に所属している以上は避けて通れぬ責務であった


「マジっすか、お元気で、俺お二人のことは忘れませんから」


「いやいや、まだ召集あったわけじゃ無いし君も呼ばれると思うよ」


「俺もですか!?」


まさか自分も召集されるとは思っていなかったのか、トウヤは驚く


「冒険者である以上は仕方ない事だよ、それに参加したとしても1等級も5等級も関係なくみんな後方配備だろうしね」


「流石にMRAや魔物やゴーレム、あと魔人がひしめく戦場になんか居られないからなぁ」


「MRA?」


「魔導強化装甲服の頭文字をとってMRA」


「あぁ、なるほど」


意外と安直だなぁ、と思いながらも納得した様子で頷く

正直彼にとってはその前に発された魔人がひしめく戦場という言葉も気になったが、茜が3人に話を聞いて欲しそうに声を上げてきた


「そういえば聞いてよ!雫ってば酷いんだよ!記念日のことすっかり忘れて・・・」


そうして穏やかな時間が流れていく




ーーーーーーー


ベガドの街の中心には巨大な城が存在している

そこは町役場であり、街の運営に携わる自治体の本部となっている


そんな城の一角、とある会議室ではこの街の責任者達が一堂に介し、長方形の大型テーブルを囲んでいた


「オータムから報告が上がった大型種の巣についてだが、どうやら近隣住民の報告通り異様なまでに数が減っていた様だな」


老練の冒険者ギルド長がそう呟き読んでいた報告書を机に置く

ふむと唸り報告を聞いていた人物の1人、ベガド防衛隊の司令官が口を開く


「神父、そういう事がありえないことは重々承知しているがあえて聞きたい、大型種の集団が巣を離れて別の地に行く事はあり得るのか?」


問いかけられた神父と呼ばれた長耳、眼鏡をかけたエルフ族の男は首を横に振る


「今回魔法生物学のの専門家として呼ばれた身としてお答えしますが、条件が揃えばあり得ますが、今回ではその条件に当てはまらないため本来であればあり得ない事です」


そう神父は言い切り、説明を続ける


「まず大型種の主な主食は中型種の魔獣です。これが枯渇すれば新たな新天地へと移動する事がありますが、まだ中型種は巣の周辺に多く生息しており、今回調査を行った巣はムロイのものです。ムロイは植物型の魔獣であり、戦闘時を除き食事をそう多く必要としていません。また環境の変化も確認されていませんので考えられるのは現状では一つしかありません」


「なんらかの人為的な介入か」


「そうです」


人為的な介入、その言葉が意味する事実を理解してかその場がざわめく


「では、まさかとは思いますがこんな南方の地まで魔王軍の魔の手が迫っていると?」


「なんという事だ、急ぎ関係各所に連絡を」


混乱する会議の場、不確定な情報ではあるがあの魔王軍であればあり得ない話ではないという考えから各々が会議を放棄し対策を練ろうとする


「みな、落ち着け」


静かに、だが確実に耳に入り頭の中で反芻される叱咤の声が、会議室内の喧騒の波をピタリと止めた

別々の方向へと顔を向けていた一同が声の主へと顔を向ける


「不確定な情報で我々が怯え混乱していてどうするのだ」


そこには泰然として厳かな態度のオールバックの初老の男性が、目前に置かれている資料へと目を向けペラペラと捲っていた

男はこの街の最高責任者である町長である

その名をラスという

彼は捲る手を止め、神父とギルド長へと目を向けると再度口を開く


「ギルド長、神父、王国政府へ今回の事案と見解を纏め報告する。資料の作成を頼みたい」


「ハッ!承知いたしました!」


「畏まりました。謹んでお受けいたします」


その言葉を聞き両名は畏まりながらも先ほどの動揺が嘘の様に覇気のある声で返事をする

ついで彼は司令官へと顔を向けた


「司令官、今から間に合うかわからないが防衛体制の見直しと作戦計画の立案を・・・」


その発言を遮る様に甲高い音が鳴り響く、音の発信元は司令官の持つ通信結晶であった

司令官はラスへと目配せをすると、ラスが頷いたので通信結晶に出る


「何事か」


『先ほどレーダー観測員より、街の南東1km圏内に高魔力反応と他多数の反応が接近中との報告あり!現在エルフ第三偵察隊が精霊魔法による目視確認を実行中です!』


「なんだと・・・!?今すぐ司令部へ向かう!防衛隊は緊急配備、警報を鳴らせ!シェルター解放と司令部権限により冒険者も召集、入りきらない民間人の避難場所への誘導と保護を急がせろ・・・!それと王国政府への応援要請もしておけ!」


その報告を聞き司令官は声を荒げる

そして、ラスは司令官の通信内容で全てを悟り間に合わなかったかと独りごちたのだ


ーーーーーー


城の一角にはこの街の防衛を担う防衛隊本部が存在していた


防衛隊とは、文字通り各街に存在する街の防衛を担う組織であり、テロ発生時のヒーローの出動要請や魔獣災害発生時の司令部として機能している


防衛隊本部には投影魔法により投影された街その周辺のミニチュアモデルを写し出し薄暗い室内を照らしていた


現在そこはこれまでに無い程の嵐の如き喧騒に包まれている


「司令官到着!」


その一声と共に慌ただしい状況の中でも全員が立ち上がり司令官へと敬礼を行う

だがそれも一瞬であり、司令官が返礼を行うとすぐ様喧騒が生まれる

席へと座ると補佐官へ現在の状況を尋ねた


「防衛結界は1から3までの全てを展開済み、各防衛隊の配備も完了しております。街の方は緊急警報を発令し、冒険者ギルドへも要請を行い民間人の避難誘導を開始しています。ヒーローも1人帰還していたので城壁外にいる冒険者と共に商人の避難誘導を依頼しています」


「高魔力反応の正体は分かったか?」


「こちらを」


「ありがとう」


手に持つ報告書を司令官へと手渡し報告を続ける


「偵察隊の報告によれば高魔力反応の正体は消息がわからなくなっていたムロイの内一体と判明、その他はスライムローパーと丙式ゴーレムの部隊で総数およそ250体、他遠方よりさらに別の魔獣30体ほどが接近中です。こちらを」


丙式ゴーレムとスライムローパー、丙式ゴーレムは魔王軍がかつて主力としていた岩人形であり、スライムローパーは全高180cmはある現在も主力として用いられるスライムの亜種である。スライムローパーの特徴は人工的に作られた魔結晶と人工的に成形された丸太のように太い6本の触手が特徴であり、弾性に優れた皮を持つ


ペラリペラリと報告を聞きながら報告書に目を通していく

旧式の魔法兵器が混じっているとはいえ、運営実績がある国はひとつしかない、部隊編成を見てもこれは間違いなく魔王軍であると司令官は確信した


「応援部隊はどうか?」


「現在第6基地にて準備中、応援には第66有翼人種飛行隊と第7空挺団が来る模様です」


3枚の防御結界と壁上の砲兵隊、歩兵隊、旧式ではあるが3機のMRA

250匹程度の軍勢ではあるが、大型種がいる以上は油断は出来ない

だが、王国軍の応援部隊、第7空挺団と第66有翼人種飛行隊という精鋭部隊が応援に来てくれると聞き、司令官は胸を撫で下ろす


「ボギーが射程に入るまで凡そ5分!」


「各部隊へ通達、凡そ5分でボギーが砲兵の射程に入る。攻撃準備後命令あるまで待機」


「こちらHQより各歩兵隊へ、ボギーが砲兵隊の射程に入るまで凡そ5分、攻撃命令があるまで攻撃準備後待機されたし、繰り返す・・・」


「MRA小隊へ通達、現在ボギーは5分後に砲兵隊射程に到達する模様、小隊各機は砲兵隊に合わせ砲撃を開始せよ」


「HQより砲兵隊、ボギーは5分後に射程に入るので入り次第砲撃を開始する。各員命令あるまで砲撃準備後待機されたし、繰り返す・・・」


レーダー観測員が報告を上げる

それと共に各隊のオペレーターが通信を行い司令官からの指示と状況を知らせる


そこまで準備した上で、補佐官は今回の襲撃について気持ち悪い違和感が浮上して来るのを感じた


「司令、今回の襲撃についてですが」


「あぁだいぶ奇妙だな」


「えぇ、前線から遠く離れたこの国になぜ攻撃を仕掛けるのか、そもそも攻撃するにしても首都ではなくここである意味がわかりません」


戦争が始まり早数ヶ月、大陸同盟軍と魔王軍の最前線は未だ国をいくつか挟んだ遠く離れた地、海路からの侵攻も考えられたがそれならば港町や海に近い都市を優先で狙うはずである

しかし、彼らはここに来た

その補佐官が抱いた違和感はそれであり、同時に司令官も同じ疑問を持っていた


司令官が息を吐きながら椅子の背もたれにもたれかかる。ギシリと椅子の背もたれが軋む音を上げる


「何か奴らにとって重要なことがあるのだろうな、もしかしたらこの都市の中に」


可能性の話ではある

だが、同時にその様な重要なものがあっただろうか?という疑問も湧く


どちらにせよ都市の中にそれがあるとすれば用事するに越したことはない

補佐官へと指示を伝えようと顔を向けると、彼女は余裕のある笑みを浮かべる


「聴音班の配置は完了しています。一応グラウンドバスターも設置させてますのでもしもの際は使用可能です」


補佐官からの報告を聞き、手際が良いな、やはり彼女を補佐官にして正解だったと司令官は笑う

だが、すぐに司令官はその笑みを消した

相手が魔王軍である以上何があるかわからない、故に気を引き締めて慎重に行動するのだ


「ボギー、射程範囲内に到達!大型種は未だ姿見えず!」


観測員からの報告が司令室に響く

多くの者が強張った表情で次に来るであろう司令の言葉を待っている


「MRA並びに砲兵隊は攻撃を開始せよ」


「HQから砲兵隊へ砲撃を開始せよ、繰り返す、砲撃を開始せよ」


「MRA全機へ砲撃開始、繰り返す砲撃開始」


その言葉を契機に盤面は動き出す




ーーーーーーーーーー


『砲撃を開始せよ、繰り返す、砲撃を開始せよ』


「野郎どもぶっ放すぞ!撃て!」


指令が届いた瞬間、各砲台が攻撃を開始した

砲術士が砲台の拉縄を引っ張ると砲台内部の術式が瞬時に起動し、砲身内に砲弾を形成する

砲弾の形成が開始した少し後に射出術式が起動し、砲弾生成地点下部から指向性爆発魔法が発動された

爆発魔法は砲弾形成が終了すると同時に起爆し砲弾を一気に前へと押し上げる

この間凡そ1秒であった


雷の如き砲声が鳴り響き、砲撃の衝撃により砲台そのものが僅かに跳ね上がり壁の上に累積した砂塵が舞う

複数の砲台より目標を打ち砕かんと数十発の砲弾が打ち出され、真っ直ぐに軍勢の真っ只中へと飛び込んでいくと激しい着弾音と共に地面を抉り掘り返し土煙が上がる


砲弾が直撃した丙式ゴーレムの岩の身体は砕け辺り、舞い上がった土や岩と共に辺りへと降り注ぐ

周辺にいたスライムローパーの柔軟でいて硬質の身体は着弾時の衝撃や石礫により撓み、身体を構成するジェル状の魔力が引きちぎられ核たる魔結晶が破壊されて地面のシミとなる


そして、着弾が確認されたと同時に2射目が放たれた

それから繰り返し何度も降り注ぐ砲弾の雨により何体も吹き飛び破片を散らせ、地面のシミとなっていく


そんな状況の中ですら意思のない魔術兵器たるそれらに五感はあれど恐れの感情はなく、命令の通り動く人形である

ただ前へと進み、己が敵を踏み潰し、殴り殺し、溶かし殺すまで止まらない

そして、それを理解してるが故に兵士たちは容赦しない


繰り返される砲撃、それでも数倍の戦力差にモノを言わせ前へと進み続け




突如として光の壁に阻まれる


「ボギー、第一結界に衝突」


「全歩兵隊へ通達、攻撃せよ」


壁の中腹に空いている銃座から、軍用ライフルを覗かせていた歩兵隊が攻撃を開始する

ライフルの撃鉄を引くと、生成された15.5mmの弾丸が防御結界により足止めされてる敵へと無数に迫る

着弾した弾丸はゴーレムの腕を別ち、強固な岩の胸部を抉り制御核を破壊し、柔軟でいて強固なスライムの身体を易々と貫通した


防衛は成功しつつある

戦力は相手の方が多いが結界による防御、都市からの攻撃によりその数を確実に減らして行っている

唯一の懸念点は未だに姿を見せてない高魔力反応源、大型種の魔獣ムロイの存在であった


ムロイ

大型種に分類される植物系の魔獣であり

その大きな特徴は植物種特有でもある黄緑色の植物としての姿を残した巨大な体躯と、顔に当たるひまわりの様な頭から照射される高温の熱線である

鋼鉄の城門も容易に昇華させる強力な熱線砲

だが、昔ならともかく今ならば都市の防御結界で防ぐ事ができた

ならばこちらは防いでる間に大型種を倒せば良いだけの簡単な仕事であり、逆に言えば何故それなのに攻めてきたのか?という疑問が改めて湧いてくる

わざわざ攻めてくるのに何故この程度の規模なのか


「気になりますか?」


「あぁ、やはり気になるな、敵の狙いが」


司令官がそう答えるが、補佐官もまた気になっていたのだ

やはりこの編成には違和感があると、ドロリとした不快な疑惑は不安へと姿を変える


陽動の可能性を考え、聴音班へと声を掛けた


「地中から何か音はするか?」


「いえ、特に気になる音はありません。ただ強いて言うならモグラの動きがいつもよりも激しいくらいですかね?」


観測員の1人が気になる発言をしたのを聞き、司令官が僅かに眉を顰める

モグラの掘り進める音が聴音機に察知出来るほど聞こえるのは珍しい事ではあるが無いわけではない

だが、それは射撃音から離れているのか、右往左往しているのか、近付いてくるのか、どの様な動きを取っているのかによりその意味合いは変わってくる


「モグラの動きについて、詳しく聞かせてくれな・・・」


「森から高魔力収束反応確認!魔力濃度・・・む、紫!」


「紫・・・紫だと!?」


魔力濃度とは文字通り魔法発動時に使用される魔力の濃度であり、それにより魔法の威力が変わる。

種別として使われるのは炎の色温度で、赤、オレンジ、黄色、緑、青、紫、の6種である

その中で最も魔力濃度の濃い紫の反応が出た事に司令官は驚く

本来であればあり得ない事象、ムロイの最高濃度として記録されているのは城門破壊時の白であり、そもそも紫という濃度は歴代勇者と歴代魔王以外では確認された記録が無い


止まりかけた頭を振るい、目の前の現実を直視する

今のままでは確実に防御結界を貫通し街が跡形もなく蒸発する

立ち上がりながら司令官は叫ぶ


「都市への魔力供給停止、第三結界に魔力を集中させろ!」


「もうやってます!あぁくそ!ダメです!間に合いそうにありません!」


『第3小隊からHQ、撤退許可を・・・森燃えてる、地面が溶けてるんだよ!』


『セイバー1よりHQ砲撃許可を、今のうちに倒さないとやばい事になりそうだ、俺たちならあそこまで届く!早くしてくれ!』 


普通ならばあり得ない事態に司令部は阿鼻叫喚の渦に支配される

都市からは第3結界への魔力供給の為に、都市の生活魔力が途切れ、家屋保護用結界や噴水が止まり、地下シェルターや家屋から光が消えた

その混沌をもたらした原因は森にいて、その存在は遠く離れた壁上からも目視で確認できた

出来てしまったのだ


数キロ先の森が突如として燃え上がった

激しい真紅の炎が徐々に、だが燃え移るには早すぎる速度でその範囲を広げていく

強すぎる炎の勢いにより影の様な真っ黒な黒煙が空へと上がる

そして、森の淵に当たる地面が赤熱化し蕩けているのだ

だが兵士たちを怯えさせるのはそれでは無かった、それ自体が怯える原因なのでは無いのだ

黒煙の奥に隠れながらも激しく存在感を示す膨れ上がった怪しく輝く紫の光、森の惨状を作り出したその光こそが怯える原因であった

その光はやがて徐々に真ん中へと収縮していく、まるで自分たちの残りの時間を示す様にじっくりと


「魔力収束を確認、来ます!」


直後、時が止まる感覚がする

実際に止まったのでは無い、認知が止まったのだ、事故に遭う直前に全てが遅く感じる様に


そして、眩い光と激しい振動と共に兵士たちは認識する

光の線が城壁を穿つ光景を、高熱を含む光により友の身体が焼け、燃え上がる光景を

頼もしく思っていた150mm榴弾砲が溶けほつれていく光景を、街を守っていた城壁がまるで泡の様に光により裂け消える光景を







赤のランプが明滅し、激しいサイレン音が響き渡る

振動により本部は棚が倒れ書類が舞っている。

そんな中で机を支えにして、司令官は立ち上がる


本部をぐるりと見渡す

ミニチュアモデルの壁の辺りが赤く明滅している

物が倒れひっくり返る事はあれど、壁に穴が空いていたりといった被害はない


ーーー寸前まで魔力を供給し続けていたのが功を成したか


そう思うがそれで安心できるほど状況は楽観視できる物ではない


第一、第二結界は容易く突破され第三結界は発動機たる壁ごと損傷している

報告を聞けば、砲兵隊と歩兵隊は重軽傷者多数

熱戦が直撃した周辺の砲台は使用不能、MRAは1機蒸発、1機は直撃地点近くにいた為損傷により使用不能、予備を動かそうにも搭乗員が火傷を負い操作不能


熱戦砲のインターバル、不明


放射後というのに陽炎が舞い空気が歪んで見える

現在も直撃地点周辺の赤熱化しドロドロに溶けた城壁の中、多数の兵士が炭と焦げ焼き付いた肉の塊の中からまだ息のある者を探し城壁にこびりつく影の上を走る


あまりの惨状に悲痛な表情を浮かべる

敵戦力を決して軽視する事はしていなかった

だがあまりにも敵が強大過ぎた


そんな状況の中、本部内を駆け回っていた補佐官が司令官が起き上がったのを確認し駆け寄ってくる


「司令、ご無事ですか?」


僅かにオロオロと動揺しながら心配げな表情をする彼女に司令官はそっと大丈夫だ、問題ないと声を掛ける

補佐官はそれを聞き安堵の表情を浮かべると次の瞬間には表情を変え、真剣な眼差しを浮かべた


「司令、敵のインターバルがどの程度かわかりませんがエルフ偵察隊の報告だとまだ猶予はありそうです。」


「各地の被害は・・・甚大だな」


中央に浮かぶミニチュアモデルに顔を向けるとそう言った

城壁の一部の広範囲が赤く明滅している


「応援部隊はどうなっている」


「到着まで残り5分ほどです」


早いな、内心喜びの言葉をあげるが気持ちを切り替える

早かろうとも戦えねば意味がないのだから


「補佐官、ムロイの情報はどれくらい集まっている」


「まだ不確定要素もありますが、通常頭は黄緑色、身体は青緑ですが今回出現したムロイは頭から弱点の首の手前に掛けて鈍い黄色に、他は青緑色でした。また青緑色の身体の部分は僅かに焦げていることが分かっています」


「焦げている?」


補佐官の報告に驚きの声を上げる


「はい、おそらく自身の攻撃により自壊しているのかと」


その言葉に司令官は僅かに考え込む

当たり前の話だが、自身の攻撃で傷を負う生物など不完全にも程がある

しかし、今回はそれが功を成すのかも知れない

そこまで考え司令官は口を開く


「・・・わかった。これより大型種をムロイ変異型と呼称する。その情報を応援部隊に回してくれ」


「了解しました」


敬礼をすると補佐官が通信員へと駆け寄る

もはや都市の防衛能力ではあのムロイ変異型を止める術はない

故に祈る様に司令官は上を仰ぎ見るようにして、呟く


「頼んだぞ」





ーーーーーーーーー


都市南東の上空

澄み切った青い空の元、大きく羽ばたく人影があった


それは背中に鷹の様な猛々しい翼を備え、身体には緑色の飛行服を身に纏ってはいるが、手や首元からは鳥の体毛の様な物が見え隠れしている

両手には四角い箱に短い銃身が2本横並びに出ている様な見た目の、マーガン工房製軽機関銃を装備している

顔には嘴がついており、鋭い目が何か凝視する様に目を細めている


「こちらスピアー1、みんな聞こえるか?」


『感度良好!』


『バッチリ聞こえます隊長』


顔に沿って横から嘴の近くに取り付けられた無線機で連絡を取ると隊員達の騒がしい声が聞こえてくる


「ベガドの様子が確認できた。都市から送られてきた情報通り、都市の城壁は破損、手前の森が黒煙を上げているが変異型はすでに前進を開始している。第7、これなら降下できそうだ、変異型もコチラに気が付いた様子は無い」


スピアー1の後方に彼が報告をあげた物があった

彼の様な有翼人種により構成された飛行隊の編隊の中に、1羽だけ大きな鳥、丸みを帯びた体躯の巨大な魔獣が木製の貨物室を掴み飛行していた


貨物室の中には白い細身のMRAが6台ほど背中を割り前傾姿勢で駐機している

彼の報告が響き渡る室内の中で1人の男が前へと歩み出て来る

スピーカーから報告が流れ終わると男は部隊へと顔を向けた


「聞いたな、現在ベガドは魔王軍と思わしき勢力と戦闘中だが、1匹だけ普段と様子の異なる奴がいる。まずはそいつの駆除から始める。俺がE型装備で先に降下しやつをしとめる。他はH型装備にて降下、残存する敵部隊とスピアー隊が追い詰めてくる第二陣の撃破だ、良いな!」


その男、隊長がそう聞くと応!と彼の前に待機する部隊員が猛々しい返事をする


「よし、搭乗!」


その言葉と共に各々が自身のMRAへと背中から滑り込むようにして乗り込んでいく

額に魔力を集中すると起動用の魔法陣が反応し起動状態へと移っていく

魔結晶供給機関へと火が灯ると各部へと魔力供給がなされ各部に備え付けられた術式が起動する

乗り込んだ背部の装甲が閉まると凡そ190cmはあろうかと言うMRA達がゆっくりと立ち上がっていく


彼らは貨物室の後方へと向かっていくと後方右側のスライドドアが開かれ冷たい風が流れ青い空が顕になった

隊長機が壁に掛けられた近接戦用のハルバードを手に取るとドアの付近まで近付く

降下長が待ての姿勢で手を出してまま下へと目を向けている

流れる白い雲、やがてその切れ目から目標の姿が確認出来ると貨物室を運搬していた魔獣の動きが止まり僅かに室内が揺れる


「よし、行け!!」


降下長のその声が合図だった

隊長は物おじすることなく飛び降りた

身体を真っ直ぐ伸ばしビューという風切り音と共に落ちていく、そして、腰の左右についた丸い魔道具が作動し


その姿は空へと溶けた










それはほんの僅かな反応だった

ほんの一瞬だけ上空で魔力反応があったのだ重たげに頭を上げて、ムロイ変異型は空を見上げるが、遠くに小さな点の様な鳥達が見えるだけで他は何も見えない


何も気になる物が居ないのを確認すると頭を下ろす


まだ目の前の憎き怨敵はまだ撃破出来ていない、だからこそもう一射で自身もろとも吹き飛ばす

そうして再び筒状花の部分へと魔力を集め始める



その時だった


突如として首元に衝撃が生じ、くの字に曲がる

首への衝撃だけで13mはあろうその巨大な体躯は地面へと叩きつけられた


「かった!!!なんだこいつ!」


その正体は徐々に顕になっていく、まるで周りの風景が、絵の具がボロボロと剥がれ落ちる様にして白いMRAの姿が顕になってくる


着地前に身体強化の術式を全開にして、落下の運動エネルギーと共に振り下ろしたハルバードはムロイ変異型の黄緑色の首に刺さりはしたが切断する事は出来なかった


さてどうしようかと隊長が考えていると、突如大きな揺れが襲う

首裏にへばりついた異物を振り払わんとムロイが暴れているのだ

咄嗟に切り刺さったハルバードを持つ腕に力を入れて振り落とされない様に踏ん張る


「このやろう・・・」


足裏についた固定用の爪を作動させてムロイの体表へと突き刺す、爪はムロイの青緑の皮膚を食い破り隊長をしっかりと固定する

そうしてそのままハルバードを今一度大きく振り上げ術式を発動させる

術式へ供給される魔力の仄かな光が身体中央から線状に全身へと駆け巡り包み込む

内部では人が出せる限界を超えた魔法出力により強化された筋肉が膨れ上がっていた


「暴れんなぁぁ!!」


雄叫びにも似た声と共にハルバードを首の切り裂かれた傷口にもう一度その刃を滑り込ませる様にして振り下ろした

傷口に叩き込まれたハルバードは途中で何度か止まり掛けたが、力任せに強引に押し込むとムロイの筋繊維がブチブチと音を立てながら切り込まれる


首の半分以上が裂かれたムロイはプラプラと垂れ下がる頭を揺らしながら力無く崩れ落ちた

ムロイ変異種の撃破を確認した隊長はその上から飛び降りる

倒れた時の砂塵が舞い周囲の視界が遮られる中、ハルバードを地面に立てながら隊長は通信を開く


「こちらロア、ムロイ変異型の駆除にせい・・・」


そんな報告を上げている隊長の背後から砂煙のカーテンを割きながら1匹のスライムローパーが姿を現した

スライムローパーはその勢いのまま、目の前の微動だにしない敵に振り下ろし押し潰さんと強靭なしなやかさと膂力を持った触手の1本を振り上げる



その時であった

スライムローパーの上から人型の何かが降ってきた

その何かはスライムローパーの身体を自身の重量と勢いで持って踏み付け、弾性のある皮を引き裂き、中の液体魔力を飛散させて核を潰したのだ


重厚な落下音と共に大量の砂塵を再度巻き上げながら、人型の影を揺らしながら隊長へと向き直る


「隊長、油断大敵だぜ?」


「来るとわかってたからな、ナイス着地だ」


MRAの中でニヒルに笑う男に隊長は声を掛けた

そんな掛け合いと同時に上空から発砲音が聞こえてくる

それはH型換装パックに備え付けられている70mm速射砲の射撃音であった


上空へと目を向ければ背中に装備された降下用の風魔法を使用しながら緩やかに降りてくる4機のMRAの姿があった

彼らは両手に装備された軽機関砲をもって、残存しているゴーレムやスライムローパーを撃破していっている


やがて小隊各機が地上にて本格的な殲滅戦を開始した

背部に備え付けられた120mm無反動砲が火を吹くと敵を纏めて吹き飛ばす

70mm速射砲を撃ち出せば貫通し射線上の敵を薙ぎ払った

時折ゴーレムの投擲した岩が飛んでくるもMRAの防御結界により阻まれダメージはない

そうして一方的な蹂躙が展開される


『こちらシープドッグ、そちらの状況はどうだ?』


隊長機が目の前のゴーレムをハルバートで両断したところで通信が入る

シープドッグ、即ち牧羊犬ではあるが誰の事かと一瞬頭をひねるがなんて事はない

第二陣の誘導を担当しているスピアー隊の事だった


「牧羊犬・・・あぁスピアーか、殲滅はあらかた終わったぞ、そちらの誘導はどうだ?」


彼らは第二陣として都市に迫っている30匹の狼型魔獣マードグを第七空挺団の方へと追い込んでいる最中であるが通信が来たという事はもう近くまで来ているのだろうか、と隊長は予想を付ける


『こちらは順調だ、もうそろそろ到着する。そちらも準備してくれ』


「了解、お前ら!デザートの時間だ、第二作戦地点へ移動するぞ!」


予想通りの回答、通信が終わるや否やすぐさま隊員達に伝えると各員が自機の脚部へと魔力を集中させる

身体強化魔法により強化された脚はMRA達を高く跳躍させ射撃地点である街道へと向かい出す



使われることの少ない作戦ではあるが、飛行隊による誘導というのは主に残敵を残さないという目的の元、実施される

もしも倒し損ねた魔獣が1匹でもいればそれは野生化し付近を通行する住民に被害を出しかねない

過去には取り溢した魔獣による村への被害も確認された


それ故に行われるのは魔獣の射撃地点への速やかな誘導、集団から離れた魔獣の駆除である


スピアー1は低速で飛行し、手に持つ20mm軽機関銃で持って集団の外側を発砲する

僅かに逸れていた先頭はその弾を避ける為に起動修正を行い、元のルートに戻る

それに後ろから付いてくる魔獣も追従していく


「スピアー3、離れたマードグ1体の駆除完了」


「こちらスピアー6、後方が広がって来た、1人来てくれ」


低速移動ながらも平地を走る速度は70kmにも達する

そんな中、彼らは的確に集団を射撃地点へと誘導していく


「隊長、見えて来ました」


スピアー2からの声掛けで前へと目を向けるとそこには到着した第7空挺団の各機が、群れを殲滅すべく横に長い列を組んでいるのが見えた

その後ろで挙げた腕で円を描き合図する隊長機の姿も


「各機散会、射撃に巻き込まれるな」


それを合図に群を囲う様にして展開していた飛行隊が離脱を開始する

それは射撃準備を整えていた第七空挺団の目にもしっかりと映っていた


「撃ち方始め、1匹も残すなよ!」


隊長の声と共に発砲が開始された

全5機による70mm速射砲の一斉射撃、集団の前列は砲弾が直撃し飛散し、貫通した砲弾により後列にも被害が出る

横に長い横列を組んでいた為、分散して避けようとしても無駄だった

暫くした後、残ったのは物言わぬ肉塊だけなっていた


『こちらスピアー、これより残敵の捜索に入る』


「了解」


「今回の任務、なんかヤバそうに言ってましたけど楽勝でしたね」


隊員からはそうケラケラと笑いながら話す声が聞こえた

それはお調子者の3番機の男からである


「お前な、こういう時こそ油断するなよ、勝って兜の緒を締めろって言葉を知らんのか?」


「おっとこりゃすみません、まぁとりあえず帰りましょうよ」


『第7、66聞こえるか!!』


「こちら第7、聞こえてます」


そんな中、突如として通信機から慌てた様な声で連絡が入る

何事かと思い通信に応じると思わぬ事態が報告された


『こちらベガド防衛司令部、現在ベガドの街に魔法兵器が多数侵入!地中侵攻だ、突然地中から反応が出た、迎撃は失敗!現在冒険者と防衛隊で対応しているが止められない、急ぎ応援を!』


「了解した。これより街へと向かう」


それは思わぬ事態だった

言った側からこの様な事態になったので思わず隊員達は3番機に目を向ける


「な、なんだよ!俺のせいじゃないからな!」


全くもってその通りであった


「はいはい、お前ら換装パックをパージしろこれから市街地防衛戦だ、全速力で街の救援に向かうぞ!」


空挺団各機が各々の追加装備である追加装甲や火砲を外していくと、腰部に分離した状態で下げていたハルバードへと手を掛け組み立てる

そうして準備を整えた後、再び脚部へと魔力を集中しMRAの身体強化魔法を掛けると駆け出していく





時は戻り、空挺団がムロイ変異種を撃破した瞬間に戻る


ムロイ変異種の撃破を確認し、司令部は湧き上がっていた

あれだけ苦戦した街の防御結界を切り裂く化け物を簡単に討伐して見せたのだ

彼らは喜び、全身に溢れる達成感に酔いしれる


そんな中、突如聴音班が声を荒げた


「な、司令!急に都市直下より掘削音、音源6、地中侵攻です!」


どよりと驚愕の音が鳴る

化け物の撃破に湧いていた司令部は一瞬にして現実に引き戻された

そんな中、司令官だけは冷静に指令を出す


「グラウンドバスター発射、迎撃せよ!」


「グラウンドバスター射撃始め!」


街に設置された合計8基のグラウンドバスターが3つの音の発信源へ向けて射出される


地中へ向け射出されたグラウンドバスターは別空間へと転移、その音の発信源の手前で戻ってきてそのまま目標を貫く


「着弾音、音源3消失、迎撃失敗!まだ3体残っています!」


「予測進路は、どこに出てくる」


「・・・スラム街6番地、北大通りの真ん中、それと避難場所、南中央広場のど真ん中です!」


それを聞き司令官は青褪める

そこには避難してきた民衆が大量にいたからであった

すぐさま中央広場からの避難指示と冒険者への迎撃を伝えるも時すでに遅かった

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