やったぜ着いたぜベガドの街! 2
そんな時だった
部屋の外から何やらドタドタと慌てたような走る音が聞こえ今いる部屋へと近づき、扉が勢いよく開かれた
トウヤを含めた4人が開かれた扉に目を向けると、そこには大きく呼吸を乱しながら立っている1人の女性いた
女性は呼吸を落ち着かせた後、呆気に取られていたゾトアへと顔を向ける
「すまない!!先程の道具の件だが私の勘違いだった!!どうも最近忙しくて忘れてしまっていたが道具の試用試験のために1人雇っていたんだ!!」
「え?そうなんですか?では彼は盗人では無いと?」
「なぁそうなのか?」
「ダーカー博士って結構変わってるから適当言ってるかもだけど合ってるの?」
「すみません、実は俺森にいる時に変なもん食ったみたいで森にいる前の記憶が無いんですよ・・・」
ラーザとシスがトウヤへと耳打ちしてくるが肝心のトウヤはと言うと
助かったけど、なんかまた訳がわからない事になったなぁ
と心の中で苦言を放つ
そこからは早かった
ブレスレットが盗品でないと分かった以上トウヤを留めておく必要は無くなったので、ゾトアを含め4人が退出した後、職員の女性が部屋へと入って来て出来ていなかった残りの手続きを進めていく
そして、最後の手続き
魔力波長の登録へと至った
「それでは此方のスキャナーに指を置き魔力を放出して下さい、量はそんなに多く無くて良いですよ」
先程の受付の職員に差し出された長方形の箱
中心には幾何学模様が彩られた魔法陣の様なものが仄かに青白い光を放っていた
そこに人差し指を置き魔力を放つ、特に光輝くと言った大きな変化はないが、少し立つと箱の上からカードが飛び出してきた
それを取り出した職員はカードを確認するとトウヤへと手渡してくる
貰ったカードへ目を向けると、そこにはトウヤに関する情報が載っていた
「これは冒険者カード、身分証明書の様なものだと思って下さい。もし紛失した場合はお声がけをお願い致します」
「おお・・・こんななのか、なんか光ってるし」
トウヤが手に取った瞬間、幾何学模様の線が光を波打たせ始めたカードに思わず感嘆の声が漏れる
そんなトウヤの様子に職員が少し楽しげしながらも話しかけて来た
「そのカードには魔力認証機能が備わっているんです。本人確認をする時も光っている状態で見せていただければ、それだけで本人だと確認出来ますよ」
「マジかよ、すげぇな・・・」
これが異世界の技術ってやつか、と驚きの声を内心あげている
彼のイメージの中では異世界とは中世並みの文明レベルであるという認識があったのだが、その考え方は改めた方が良いのかも知れないと先ほどのバスや装甲兵を思い起こしながら改めて思った
「それではこれから冒険者の仕事についての説明と研修を受けてもらう予定でしたが、その前にダーカー博士がお話があるとの事でしたので先にお呼びさせていただきますね」
そう言って職員の女性は博士を呼びに部屋から退出していく
ダーカー博士、先ほどトウヤの事を庇って嘘をついてくれた人だ
自分に何のようだろうか、幾つか思い浮かぶ理由を内心思い浮かべ上げる
そうすると呼びに行った職員と入れ替わる様にダーカー博士が入ってくる
それを見たや否やトウヤは立ち上がる
「先ほどはありがとうございました!俺本当に何も覚えてなくて・・・」
「あぁ、良いよ別に、私は自分の研究と開発が出来れば良いからね」
ヨイショと呟き向かいの席へと座る
すると、博士は顔を伏せ何かを考えこむ様な仕草をした後にトウヤへとニヤリと笑いながら向き直りゆっくりと口を開く
「ねぇ、あんた何者だい?」
「・・・それはどういう意味でしょうか?」
まさか自分が異世界人であるとバレたのだろうか?とドキリとするが、よくよく考えてみれば言ってしまっても構わないんじゃ無いだろうか?とも思えてくる
唐突に言い出すなら何言ってんだと思われそうだが、今なら言い易いよなとそう考えながら先ほど誤魔化した言葉を取り消す様に口を開こうとした
「あ、いや!やっぱり良いや、あんたは私の工房に嫌でも所属することになるんだし、ゆっくりとアンタを観察しながら解き明かすことにするよ」
「え・・・?」
それは聞いてない、と思い目を見開き驚き声が出ない言葉の代わりに博士の顔を見てそれは本当かと目で語りかける
その表情が愉快だったのか、笑いながら博士は答えた
「当たり前だろう?私の工房で作った道具を今の私に何の断りもなく使ってたんだし、誤魔化してやったんだよ?ならウチで働くのが筋ってもんだろ?」
「まぁそれはそうですけど・・・」
「んじゃ決まりだ、このブレスレットは一旦私が預かって調整やら何やらさせてもらうよ」
「え、ちょっとまっ・・・!」
トウヤの静止も虚しく博士はブレスレットを手に取ると早々に立ち去っていく
「お?話終わった?なら今後のことについて説明するけど良いか?」
博士が退出するのを見ていたのであろう
ラーザとシスが扉を開けて入ってくる
「なんか博士楽しそうだったけど、何話してたの?」
「いや所属の事については話したけどその他は特には」
「うーん、そっか、まぁこれからの事についてお話しさせてもらうね?」
シスの口から語られたのは、冒険者としての心構えと主な仕事内容についてだった
冒険者とは生命の危機が常に伴う死と隣り合わせの仕事であるその為常に緊張感を持って仕事をする事が大切であるという事
そして、冒険者ギルドとは、新大陸開拓時に設立された民営ギルドであり、主な仕事は開拓地の調査、魔物の討伐、資源の回収、護衛と多岐にわたる
トウヤの志望する特別事案対策冒険者はこの開拓者としての冒険者から派生した対テロ事案を含めた国内における治安維持を行う為の国所属の冒険者であるのだが、その人数は国内ではそう多くなく教育担当となる者は2人いるのだが、現在は他の街へと応援に行っていて今は不在なのでラーザとシスの2人が帰ってくるまでの3日間、教育を担当する事になった
「他何か質問はある?」
「変身用のブレスレットを博士に持って行かれたんですけど、武器ってどこで買えますか?あと値段ってどれくらいなんです?」
「それならギルドの方に申請すれば研修用の棍棒を借りれるから買わなくても良いよ、ヒーローとして活動するなら自前の武器は無くても良いし」
研修用の武器の貸し出し、そんな物もあるのかと驚くが何故棍棒なのかというのが気になった
「なんで棍棒なんですか?」
「そりゃ剣を使えない奴もいるからだよ、棍棒なら殴るだけだけど剣だと魔物を斬るには練習がいるし整備コスパが高いんだよ、その点で言えば剣よりは安いし整備コストは低い、しかも、マーガン工房製の金属棍棒だから魔力さえ込めれば魔物を簡単に倒せるからな」
「マーガン工房?」
「マーガン工房はね、大陸同盟軍や王国軍に武器を卸してる大陸一の武具工房なの」
王国軍は兎も角として、大陸同盟軍が何かはわからないが、読んで字の如く、この大陸における軍隊なのであろうことやそこに武器を卸せる程の武器屋である事が凄いこともなんとなくだがトウヤにも理解が出来た
棍棒である理由についてもそうだ、冒険者とは魔物を狩る仕事を請け負うこともあるし不意の遭遇もあり得ない事ではないだろう
その際に魔物を切れないのであれば意味はない、もし今剣を持ってもベオテの森で遭遇した燃えるクマ、フィーゼルと戦う事になっても銃弾すら弾くあの魔物を自分が狩れるとは思えない
そう考えるとトウヤは自分が変身出来るブレスレットを持っていて本当に良かったと改めて思う
そうトウヤが思案していると、シスが何かを思いついた様にラーザへと笑い掛けた
「ねぇラーザ、折角だからエオーネに紹介しない?なんか面白そうだし」
「お、それ良いな、森で記憶喪失で倒れてたダーカー工房の新入りかぁ、良い話のネタが入ったし今日飲みに行くか、トウヤ!お前もこいよ、紹介するぜ!」
「ん?ちょっと待って、俺ひょっとして酒の肴にされかけてます?」
彼女の提案に面白そうだと笑い乗っかる事にした様だ
ラーザはノリノリでトウヤを何処かへ案内しようとするが、トウヤにとっては見知らぬ誰かの酒の肴になるなどごめんだった
だがラーザの様子やすでに仄かに青白く光る小皿の様な形の何かを耳に当て喋り出していることから、行くのは決定している様子だった
「すみません、O5414のbarエオーネに繋いで下さい、はい、お願いします」
「大丈夫だって、そんな胸糞悪い言い方なんて誰もしないし結構良い店だからお前も気にいると思うぞ、それにお前がどんな風にフィーゼル倒したのかとか色々聞いてみたいことあるしな、逆にこの国や大陸のことなんでも聞いてくれて良いからな!」
笑い掛けながらそういうラーザに、そういうことならと、内心不安を抱きながらもトウヤは彼の誘いに乗る事にした
「ラーザ、エオーネのお店空いてるって、丁度茜達も来てるんだって」
「お、そりゃ良いな、なら行くか!」
「おー!」
そうして一同は店へと歩き出した
ーーーーーーー
ダーカー工房、それは10年ほど前に当時10代であったアイン・ダーカーにより創設された工房である
技術の公開は行っていないが、開発された技術は今では街で唯一の2人のヒーローの強化装甲服に使われ、そのヒーローが所属する工房として町役場からは新技術の公開を期待の眼差しと共に待ち望まれている工房である
そんなダーカー工房の作業室の一室で独りごちていた
「術式、材質、始動魔力、どこからどう見ても私の作った物だね、でもどうして・・・」
それは彼女の目の前の机に置かれている青年が持っていたブレスレットについてだった
チラリと目を横に向ければそこには乱雑に物が置かれている棚の一つに全く同じブレスレットが置かれていた
紛失物として届け出していたブレスレットだが、数日前にこの棚の中から見つかっていたのだが、取り下げを忘れてしまいそのままになっていたのだ
しかし、今日になって術式、刻印、材質、果ては込められた始動魔力まで全く同一の物が出てきた
始動魔力とは魔法を用いて作られた魔具を作成後やメンテナンス後に起動する際に用いられる魔力を指す、この始動魔力の残滓がダーカー博士の魔力と一致すること
さらには魔力残滓からしてこの魔具を点検してから約数1年ほど経過している事もわかった
「私がこれを完成させたのは先週、仮にその後フルで使ってもこんなに磨耗するわけがない」
謎、何故こんなにもところどころ摩耗しているのか、何故魔力残滓が何年も使い古された様に薄くなっているのか
更に言えばもっと気になっている部分が2つある
胸の奥が締め付けられる様な高鳴りを覚え、感情に抗うことなく身体を動かしその内の一つを見るために、ブレスレットを手に取り裏側へと顔を近付ける
「この裏の文章、魔力ペンで何回も何回も何回も丹念に、丹念に塗り重ねられてる」
息がしだいに荒くなる
胸の締め付けは強さを増し、背中に力が入る
「学習型術式にはなんども何かを教育した形跡があるし、嗚呼あんたは一体何者なんだい?」
恍惚とした表情で身悶えする
この短期間で如何様にして術式の改変を行なったのか?
何故森の中にそれもベオテの森にいた?
本人は記憶喪失と言っていたが何処からどこまでが本当なのか?
謎が謎を呼び更なる探究心を呼び起こす
「楽しくなってきたねぇ」
楽しげに発せられた声が部屋の中で余韻と共にじんわりと薄くなり消えていく
その姿を見ていた男と共に
ーーーーーーーー
「なんか、凄いとこにありますね」
大通りから外れた薄暗い路地裏にひっそりと建物の間に挟まれた3階建ての建物の1階にその店はあった
barエオーネと名前が一文字ずつ貼り付けられた焦げ茶色をしたクラシックな扉には
【現在ホームパーティ中】と書かれたやたらファンシーな可愛らしい掛け看板が掛かっており、時折楽しげな笑い声が扉越しに聞こえてくる
そんな店の前でトウヤはそう呟いた
「まぁ結構寂れたとこにあるよね」
「あら、寂れてる場所にお店を立てていてごめんなさいね、元貴族様のあなたには少し物足りないかしら?」
シスの言葉に反応する様に後ろから声を掛けられる
後ろを振り向けば見えたのは広い胸板だった
「エオーネ、出掛けてたの?」
「ちょっと買い出しにね・・・あら?この子もしかして新米さん?」
上から声がするのでトウヤはゆっくりと上を見上げるとそこには褐色の濃い化粧をした美しいバズカット頭の男?エオーネがいた
「まぁ正確にはヒーロー見習いだけどな、教育担当が今不在だから俺らで面倒見ることになったんだよ」
「まぁ!なら新米教育の担当に選ばれたのね!嬉しいわぁ、おしっこ漏らしてた子達がこんなに大きくなって・・・」
「いやエオーネ、あんたと出会ったの3年くらい前じゃねぇか」
「あら?そうだっけ、まぁとりあえず入りましょう、みんな集まってるわよ」
ラーザの言葉をすっとぼけながら男はにこりと微笑むと形の良いヒップを左右に揺らしながら扉へと歩いていく
いつもの事なのか先ほどのすっとぼけを特に気にする事なく、ラーザは行こうぜと声を掛けて一同はエオーネの後に続く
「ただいまー、みんな聞いてよ、ラーザとシスに教え子が出来たのよ!」
扉を潜るとエオーネは店の中全体に聞こえる様に大きな声をかけた
店の中は薄暗く入って右手には伸びる様にバーカウンターがあり、左手には3人掛けのテーブル席が3つほど続いていた
中にいた人数は3人で、女性の2人組が隣同士でバーカウンターに座り、刀を隣に立て掛けた長髪の男性1人がテーブル席に腰を下ろしていた
それぞれが思い思いに時を過ごしていたのだろうが、エオーネの声を聞きこちらへと顔を向ける
「え!?ラーザ達とうとう先輩になるの!?おかえりー!」
「茜、順番逆だよ・・・ラーザ、おめでとう」
活発そうなポニーテールの少女と眠たげな目をしたセミロングの少女がまず声を上げた
それぞれが思い思いの言葉で祝福を送る
その様子を見てテーブル席の男がクスリと笑う
「やっぱり2人とも見ていて飽きないなぁ」
そう言うと、エオーネ達へと顔を向ける
「おかえりエオーネ、おめでとうラーザ、シス、一時とはいえ教育担当に選ばれたんだ、気を抜いちゃいけないよ」
ありがとうございます!がんばります!とラーザとシスが嬉しそうに声を上げる
長髪の男は笑顔のままうんうんと頷くと、トウヤへと顔を向け立ち上がる。
「さて、自己紹介がまだだったね、私はオータム、普段は冒険者として生計を立てさせてもらっている」
爽やかな雰囲気の長髪の男、オータムがそう名乗った
「私は里晴茜!よろしくね!こっちは雨宮雫!」
「よろしくね」
ポニーテールの少女が里晴茜、セミロングの少女が雨宮雫と名乗った
茜は名乗りをあげるとニシシと笑いその活発さを表情で表している
一方の雫は微笑を浮かべ名乗りをあげ、落ち着いた女性であった
もしや先ほど店の外まで聞こえた声は茜のものなのだろうか、1人で騒いでいたのだろうか
そうトウヤは思案しながらも緊張した面持ちで自己紹介をする
「俺は浅間灯夜って言います!ラーザさんとシスさんの元で研修する事になりました。よろしくお願い致します!」
「お、しっかりしてるね!よろしく頼むよ後輩くん!」
「なんでそんな偉そうなんだよ」
「良いじゃん別に、ラーザ達の後輩くんって事は私達の後輩でもあるんだから!」
ラーザが苦笑いをしながら言うと、茜は頬を膨らませて返し一同は笑いに包まれる
そんな彼らの仲睦まじい様子にトウヤの緊張の最も解れていく
そんなトウヤの様子を気に掛けていたのだろう、エオーネはトウヤの様子を横目に見ていたのだが、肩の力が抜けた様子になったのを見て安心した様に口角を僅かにあげながら前出てパンパンと手を叩く
「さて、自己紹介タイムは終わり、みんな今日はお祝いだからアタシの奢りよ、じゃんじゃん飲んで食べて!」
その一声と共に一部が湧き上がる
茜は雫を引っ張り席へと座りメニュー表へと目を向け今からどれを食べようか選び出す
酒類を飲んでみようと冷蔵庫を触っていたエオーネへと声を掛けるが未成年ということもありやんわりと断られ頬を膨らましている
そんな茜の様子を雫は楽しげに見つめており、側から見れば姉妹の様な仲睦まじい様子を見せている
オータムは先ほどまで座っていた席に座り直すと飲んでいた酒を、またチビチビと飲み直し始めた
「さて、せっかくだし私たちも何か食べましょ」
「そうだな、トウヤお前も来いよ」
「それじゃお言葉に甘えて」
トウヤはラーザとシスの誘いに乗り同じテーブルを囲う事になった
そして、これから様々な話に花を咲かせていく事になる
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