第2話 やったぜついたぜベガドの街!

サラと別れベガド行きのバスに乗り暫く経った頃、トウヤは窓の外に見える光景に圧倒されていた


「あれがベガドの街!!スゲェ!」


まだ遠くではあるがそれの存在感に圧倒される

およそ20m程の大きさの城壁とそれからはみ出る程の大きさの城

20mという大きさの建築物自体はおよそ5階建てのビルと考えた際そう珍しい物ではないが、その大きさの城壁とそれよりも大きな城というのはある種観光地に来た時のような感動をトウヤに与えていた


「そうだろ坊主!あのベガドの街はスゲェだろ!」


「スゲェなおっちゃん!だけどあれよりもでかい街があるって本当かよ」


「本当だとも、後俺はまだ20代だからおっさんじゃない」


無精髭を生やした乱れた髪の小袖に袴を履いた男がそう言うと、トウヤは見えねぇと言い笑った

この男はトウヤがサラと別れた次の停留所からバスに乗ってきた

トウヤの隣に座ると彼へと話しかけてから今の仲へと至った


彼と話した内容曰く

・新大陸は旧大陸から原初の魔王討伐の為にやってきた初代勇者により開拓された時である

・ベガドの街含めたこの大陸の都市のほとんどは防護結界によって守られている。ベガドの街の結界は旧式な為巨大な城壁が立っている

・新大陸の技術は何代にも渡る勇者により改革がなされ発展した。

このバスの上に控えているのはその集大成である魔導強化装甲服の旧式を着込んだ護衛兵士である。

・今この大陸は魔王軍と戦争中である


との事だった

確かに彼から手渡された土で汚れどこか湿っている数ヶ月前の新聞には数日前に北の要衝を突破されたと書かれており、同じく僅かに汚れと皺のついた数日前の新聞には勇者召喚の儀式についてと、とある街の防衛が成功し魔王軍へと甚大な損害を与えて撃退したと書かれている


あぁテンプレ展開ってやつねとトウヤは内心思いながらも新聞に一通り目を通していたが、それとは別にこの世界の技術レベルに僅かに困惑もしていた

大口径銃の銃弾すら効かない魔獣を粉砕した自身の着用した魔導強化装甲服、それが軍隊にも配備されている。

性能面ではテンプレ的に考えると自身のものよりも性能は劣るのだろうと予想は付くが、それでも言ってしまえばパワードスーツが正式に量産され運用されているのである

それも銃弾すら弾くシールド付きの物がだ

今乗っているバスもそうだが、この世界の技術レベルはどうなっているんだ?勇者何やったんだよと


だがわからない事を考えた所でわからないから一旦頭の隅に置いておく事にした

ベオテの森で学んだ事である。


「坊主、あれ見えるか?あの等間隔に突っ立てる三又槍みたいなの」


「ん?お、おぉ見えるけど、あれがどうかしたの?」


「あれはなぁ、この街の第・・・何個めかの防御結界のひとつなんだよ、非常時はあれが起動して2重3重の防御結界が展開されるんだ」


「非常時・・・非常時ってなんの非常時だよ」


「そりゃこの世界には大型魔獣やら魔王軍やらの襲撃があるんだから、備えるに決まってんだろ」


あぁと言って納得したような表情をするトウヤに対して、男は僅かに呆れたような顔をする

大型魔獣、それはトウヤの戦った中型魔獣とは比べ物にならないほど巨大な魔獣である

それぞれが強大な力を持ち、山を蕩かす程の熱線を放ったり、或いは強力な剛力を持って大地を捲る様な正真正銘の化け物である


そんな事を思い出しているトウヤを他所にバスは重厚な城壁の下へと潜ろうとしていた


バスの中が僅かに仄暗くなる

ランタンのような形の電灯に照らされた通路の中でバスの駆動音が響く


「なぁ坊主」


どこか物々しい様子で男がトウヤへと声を掛ける


「何があろうとも諦めるんじゃねぇぞ」


「な、なんだよ急に・・・」


「まぁ聞け、この世界は残酷なんだ何でもないただの隣人が、いつの間にか怪人に変わってたりする。革命を目論むクソみたいな革命家気取りのテロリストもいれば、勝手に民意だなんだと宣って人命を奪ったり助けるつもりとか言って人から日常を奪う外道もいる。だから気を付けろよ・・・この世界は甘くないぞ」


「おっちゃん・・・あんたもしかして・・・」


俺が異世界から来たのを知ってるのか、その単語が喉元まで上がってくる


「和国から来たばっかなんだろ?あっちも鬼との戦いや、蒙古や漢が妖怪とか言う奴らと戦争してるって話だが、こっちもこっちで内外問わず荒れてるからな、気を引き締めとけよ」


「あ、あーもちろん!これ以上ないくらい気を引き締めて行くよ!」


それを聞くと男は本当かよと呟き笑う

その表情を見てそんなわけないかと思いトウヤも僅かに寂しさを覚えながらも笑う


やがてバスが止まる。

他の乗客が降りるのを待った後に、トウヤは先に立ち上がった男の跡をついていく


見慣れる街に辿り着いた

ここがどんな場所かは男から話は聞いていたが、自分の目で確かめるまではどこか落ち着かない

プレゼントを開ける時の様に興奮冷め止まぬそんなトウヤに男が徐に振り返り言った


「頑張れよトウヤ、負けるんじゃねぇぞ」


口元に弧を描きながら男は静かに微笑む

そして、男に答えるようにトウヤは言った


「おう!もちろん!!」


男はどこか懐かしげに僅かに目を細め再びトウヤへと背を向ける




バスの軋む音と共にトウヤはベオテの街へと降り立った

目の前に映る僅かに黒ずむ石灰の如き灰色の壁を他所に、トウヤは身体を捻りバスの中から見えていた光景に目をやる


灰色の3階建ての建物が多く建ち並ぶメインストリート、バスが2台は余裕で通れる大通りには多くの人が歩き日常を謳歌している

ある者は道に面したテラス席で食事し、ある者は格子の間から下にいる知り合いと笑い合う

そんな大通りの奥に見える区画を区切る重厚な壁と門の周りには多くの露店とそれに並ぶ人々の姿も見えた

何よりも目を引くのはその壁の向こうに見える巨大な城の頂

何処かで見た事のある風景だが、そのどれもが自分の知る姿とは違っている

そんな矛盾の様な感覚がよりトウヤの興奮を高めていた


これからどんな事が起こるのだろうか、うちから湧き上がる好奇心という衝動に突き動かされ、トウヤは期待と共に歩を進め目的の場所へと歩き出した



目的の建物は大通りに面していた

木製の作りで入り口にかけられた門札には「冒険者ギルドベガド支部」と書かれていた


それを確認するとトウヤは緊張の面持ちで重く感じる木製の扉を開ける

チリンチリンという小君良い音が扉の動きに合わせて鳴り響く

僅かに木の匂いを感じながら入ると目の前には多くの人が行き交う現代では珍しい木製のエントランスだった

手前には長椅子が2列ほど並べられており、壁際には机が何個か置かれている

奥には横に長い受付があり、飛び出た天井からは看板が紐で繋がれ垂れ下がっており、それぞれ2・3等級冒険者受付、1等級冒険者受付、特殊事案受付、依頼受付と書いていた

左側を向けばお馴染みの依頼が貼り付けられているであろう大きな掲示板が立っており、前には人だかりが出来ていた

受付の奥には事務所だろうか、机と事務仕事に勤しむ者の姿が見て取れる

他には左側には2階へと向かう階段と幾つか個室のような物があるのがわかった


さて、ここまで見たトウヤだが、何か妙に現実に引き戻されるような何やら冷めるような感覚を覚えた


「なんか・・・市役所みたいだな・・・」


そうボソリと呟き残念がるトウヤではあるが、残念ながらこの世界における冒険者ギルドとは言ってしまえば公的機関が国、各自治体又は民間からの依頼を受け、冒険者資格を有しいている者へと仕事を卸す斡旋所の様な役割を担っている

言ってしまえば日雇い専用ハローワークでありどうしてもシンプルな作りとなり、似てしまうのだ


そんな何処か冷めた気持ちを胸に抱きながら近くに立っているネームプレートを首から下げている職員らしき男性へと声をかけた


「すみません、ヒーローになりたいんですけどどこの受付に行けば良いですかね?」


「特別事案対策冒険者志望の方ですね、あちらの特別事案受付で受付を済ませて各種書類へのサインと軽い試験をお願い致します」


「あ、どうもありがとうございます」


ますます市役所っぽいなぁ、などと思いながらにこやかな表情で礼を告げ受付へと向かう


「すみません、ヒーロー志望で来たんですが」


「特対者志望ですか?かしこまりました。それではこちらの書類にそれぞれ生年月日とお名前、住所、住所がない場合は空欄でお願い致します。それと・・・」


受付の女性へと声をかけ各種書類とそれに対する説明を受けた後、壁際の机で各種書類を記載していった

生年月日や各種情報についてはサラと出会った時に持っていた自分のと思しき入国許可証の情報をそのまま書く


書類への記入と注意事項、主に戦闘時に発生した被害の各種責任の所在であったり、戦争または戦闘時に発生する徴兵に関する説明等が書かれた項目にサインをして受付へと提出した


「それでは準備が出来次第お呼びしますので椅子にかけてお待ち下さい」


そう言って受付にいた女性は事務所へと向かっていった

トウヤは受付の目の前の長椅子へと腰を下ろす


「なんか、コレジャナイ感すごいなぁ」


ヒーローと聞かされ夢を身過ぎていたのだろうか、受付でもらった書類にサインして提出するという何気ない日常感に僅かに嫌気がさしていた

異世界に来た以上はテンプレ展開の様に水晶割って驚かれて強敵を倒して英雄になる様な展開を期待していたが、現実はあまりにも味気無かった

夢は夢のままで良いとは言うが、まさしく今その意味を噛み締めている


「トウヤ・アサマさーん、準備が出来ましたのでこちらへどうぞ」


準備が整ったのか先程の職員から呼び出しが掛かった

短く返事をし、受付へと向かうと職員の指示により事務所内の個室へと案内される


個室に入ると目の前には円錐の台に嵌められた水晶が机の上に鎮座していた

その光景に期待で僅かに胸が膨らむ


「それではこれから魔力測定を行いますので、こちらの水晶に今出せる魔力を全力で流してください」


「任せて下さい!こんな水晶割ってやりますよ!」


「・・・割れないとは思いますが、その場合は破片に気を付けてくださいね」


先程夢想していた事が叶いそうな事態にトウヤは興奮していた

職員の言葉に必要以上に意識を向けず目の前の水晶に全力で向けた

水晶へと手を乗せ気合を込める為に何度か深呼吸を繰り返す

サラに教えてもらった魔力の流し方を思い起こし、ふん!という声と共に魔力を流した


流れた魔力により水晶が眩く光輝く

思わず目が眩む程の光に目を瞑るが負けじと魔力を流した

そうして光が収まってくると割れた水晶がどんな割れ方をしたのかと目を開け確認しようとする


「お疲れ様です。魔力量は・・・白、規定値は超えてますね、それでは次は面接がありますのでこの部屋でお待ち下さい」


「あ・・・はい・・・」


サングラスの様な黒い保護メガネをかけた職員は淡々と水晶の反応を確認していた

次に告げた言葉に呆然としながらも返事をした

職員が部屋から退出した後、すぐさま銀色の髪を短く切り揃えた年若い丸眼鏡をかけた男性職員が入って来た

入って来た職員の髪色に驚きながらもトウヤが挨拶をすると職員はにこやかに、よろしくお願いしますね、と返しトウヤに席に着く様に促した


「それでは本日面接を担当させていただくゼトアと言います。本日はよろしくお願いします これから軽くご質問をさせていただきますが、あまり緊張しなくても大丈夫ですよ」


「はい!ありがとうございます!」


物腰柔らかに朗らかな笑顔でそう声を掛けたが、トウヤとしては就活時を思い出しどうしても緊張してしまう


「元気ですねぇ、ではまず・・・長いから俗称で言いますね、何故ヒーローになろうと思ったのですか?」


「森で魔物に襲われた時に助けてくれた子がいて、その子の様に誰かを守りたいとそう考えたところでヒーローの話を聞いたので志望させていただきました!」


「そうですか、とても良い出会いをされたんですね、それでは魔物を倒した経験は?」


「その時に襲って来た魔物、なんか燃えてるクマを倒しました!」


「燃えてるクマ・・・フィーベルの事ですか?それはすごい!」


「いやいや、こいつのおかげでですよ!」


興奮する職員にトウヤは調子が良くなりカバンから変身ブレスレットを取り出した


「・・・あーそれを一体・・・どこで?」


「カバンの中に入ってたんですよ!でもこいつのおかげで助かりました」


「そうでしょうね、少し・・・お待ちいただいてもよろしいですか?」


ブレスレットを見せた瞬間、職員の反応が何かを言い淀む様な訝しむ様子へと変わっていき部屋から出ていく

そんな様子を見送りながら腹でも痛くなったのかな?とトウヤが考えていると、しばらくしてから大剣と長銃で武装した2人の男女を連れゾトアが部屋へと戻って来た


「すみません、面接に必要な書類を忘れていて急いで撮りに行ってました。あぁ彼らについては気にしないでください」


出ていく時とは打って変わり、面接が始まったばかりの時の様に朗らかな笑顔で話しかけてくる

気にするなと言っても武装しているせいかどうしても気になるトウヤがチラリと2人組へと顔を向けると、2人は笑顔を浮かべ軽く手を振って来た

何やらとんでもないことになりつつある事にトウヤは僅かながら気がついた

だが、そんなトウヤの心配は他所に面接は続く


「では、改めてご確認させていただきます。その道具を何処で手に入れましたか?」


「・・・気が付いたら鞄の中に入っていまし・・・た」


そういえば何故このブレスレットは鞄の中に入っていたのだろうか、この衣装と鞄の中身の事について気にしなくなっていたが、何故?いつの間に?

トウヤが思考の海に潜り込んでいる最中もゾトアはなるほど、と呟き何かを考え込む様な仕草をする

まだ面接は続いているのだ


「それでは動作不良等の確認の為にブレスレットを一度預らせていただいてもよろしいでしょうか?」


「あ、はいお願いします」


ゾトアから差し出されたトレーにブレスレットを置くとそのトレーを持ったまま再度部屋からいなくなる


「どうなんの俺・・・」


訳もわからないまま小さく呟く

扉を開いたら異世界に来て着た覚えのない格好に見知らぬカバンを持っていたが、もしかしたら盗品が混じっていたのかも知れない

自分は異世界転移ではなく異世界憑依をしてしまったのか?

その様な疑問がトウヤの胸中をグルグルと巡る


「なぁ、お前何かやったのか?」


「うわっびっくりした!?」


再度思考の海に飛び込んでいたトウヤは不意に耳元にかけられた声に驚き叫んでしまう

その声に驚いたのか自分から距離を離し上半身を逸らしている

どうやら大剣を持った赤髪の男が声をかけて来た様だ


「なっ!そんな驚くこたねぇだろ、なんか余計に怪しく見えて来たな、まさかアレ本当に盗品か?どっから盗んだんだ?」


「やめなさいよラーザ、まだ盗品って決まった訳じゃないのよ?」


そんな赤髪の男の行動を諌める様に長銃を持った栗色の髪を後ろで束ねた女性が声を掛けてくる


「でもよシス、ゾトアさんが怪しいと思って声かけて来たんだぜ?それなら十分怪しいんじゃないか?」


「あのねぇ、アレが本当に盗品かわからないから今ゾトアさんが調べに行ってるんでしょ?まだ確定してないんだから変に疑わないの、大体あんたはいつも・・・」


「あー!うるせぇうるせぇ!こんな場所でんな言わなくて良いだろうが!大体お前だって!」


先程まで話しかけていた同じ部屋にいるはずのトウヤの事など忘れお互いに相手の欠点を濁流の様に吐き出し相手にぶつけ、相手からぶつけられ合う

遠目から見る喧嘩は他人事でいられるがそれを近くで、それも目の前で見せられてはたまった物ではない


「あの、とりあえず落ち着いて落ち着いて!あのなんかわかんないですけどお二人とも仲良さそうで良かったです。だから落ち着いて・・・」


トウヤは先日まで学生であった

バイトの経験は多少あれど大抵仲の良い者同士でグループを作り交流をしていた為、この様な他人の喧嘩を仲裁する事などあまり無かった

もし仲裁するとしても大抵は僅かなおふざけを入れながらの仲裁ではあったのだが今回はそれが悪手となった

特に仲が良い、という言葉がいけなかったのだ


「仲良くない!!」


「仲良くない!!」


「何でアレ見て中が良いと思うんだよ!」


「いやほら、喧嘩するほど仲が良いっていうしそんなお互いの事知ってんだから仲が悪いって事はないだ・・・」


「知ってるだけ!!2人組で冒険者になったのも幼馴染でお互いよく知ってるから組んだだけで他に当てがあるならこんな脳筋バカとなんか」


「あん時お前友達いなかったもんな」


「んな!!今入るから別に良いでしょ!!!あんただって碌な知り合い居なかった癖に!」


「俺はしょうがないだろ!お前とは住む世界違ったんだからあそこじゃそうしなきゃ生きていけないんだよ!!!大体お前はいつもいつも揚げ足取りみたいな事ばっかり言いや・・・」


「いやだから落ち着けって!あんたらの馴れ初め正直知らんから目の前でやられたって困るんだよ!!」


「なら聞いてよ!ラーザったらいつも品が無くて困っているのよ!!」


「おーおー!こっちだってお前のその細か過ぎるお小言には言いたい事がたくさんあんだよ!!」


火に油、それどころか業火に重油である

粘っこくて取れたもんではない、そのせいで本来止めに入ろうとしたトウヤにまで飛び火して燃え上がる事になった


しかも、ただ飛び火したならまだしもラーザを立てればシスが小言を飛ばし、シスを立てればラーザが抗議の声を上げる

彼方を立てれば此方が立たぬと悩んで黙れば激化するという正に四面楚歌の状態であった


「戻りました・・・って、またあなた達は・・・」


「あっ・・・」


「あっ・・・」


だがそんな状態でも垂れてくる蜘蛛の糸はあるらしい

先程まで退出していたゾトアが戻って来たのだ

彼はこの部屋の惨状を見るや否やため息を吐き言い放った

そんな戻って来たゾトアの様子を見た2人は先程までの津波の様な勢いはどこへやら、互いに罰が悪そうな顔を互いに見合わせた


「あなた達の声、部屋の外まで聞こえてましたよ?一体ここを何だと思っているんですか?」


困った様な顔付きで説教をすると2人して小さくなる

互いにすみません、と射座の言葉を述べるとゾトアはうすい笑みを浮かべる


「わかったらもうしないで下さいね、約束ですよ?」


そう子供に言い聞かせる様に語りかける様に2人へと言葉を掛けたのを皮切りにトウヤはある意味地獄から解放されたのだ

最も解放された先が地獄ではない保証はないのだが


「さてトウヤ・アサマさん」


「あ、はい!」


「あなたの持っていたブレスレットですが、どうやら紛失届けが出された物の様でして、これをどこで?」


その言葉に衝撃を受け言葉を失う


「あ、いや!だからこれは気が付いたら持っていて!!」


「ええ、ですが今しがた製造元の工房であるダーカー工房で確認してもらったところ、同工房で作られた紛失物と魔術式、設計、型番が全て一致しました

所々摩耗している部分はありましたが、製作者刻印も一致していますのでアレは確実にダーカー工房の品物です。

もう一度聞きます。アレをどこで手に入れたのですか?」


「早めに言った方が良いぞ、工房からの窃盗は良くて禁錮20年、作成物の重要度と犯人の反省具合によっては極刑もあり得る。もし別の場所で手に入れたのなら教えてくれ」


「そうね、仮にアレをあなたが盗んで無いのであれば入手場所を教えてくれるだけでも良いの、あとは警察が捜査をして真犯人を捕まえるから」


3人はトウヤへと疑惑の目を向け彼の証言を待っている

だがトウヤにはそれを説明する術を持たないのだ、そもそもアレは気が付いたら持っていた物

もし仮に本当の事を話したとて信じられるのか?サラの時の様に記憶喪失と答えるか?何て答えれば良い?

頭の中で様々な答えが出るがトウヤの中の常識が答えを出す事に戸惑いを持たせ、堂々巡りとなり答えられない

その間も3人は訝しむ様な表情でトウヤへと目を向けている

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