貧民街にやって来た! 2


トウヤが施設に戻ると、そこには先ほどと変わらぬ3人の姿があった

何か話している様子だったが、トウヤの姿を見るといの一番にフィリアが近付いてくる


「さっきの子供、どうだった?」


「いやもう散々ですよ、膳を持って行ったらあの子の連れの子供達に石とか木を投げられました。取り敢えず膳は置いて来ましたけど」


そう笑いながら言うと、あらまぁという声と共に後ろから声を掛けられた

目を向けるとそこにはエプロン姿の妙齢の女性が1人立っている


「おや、お兄ちゃんもしかして悪ガキどもに捕まってたのかい?全くどうしようもない子達だね」


「悪ガキどもって、もしかして有名なんですか?」


「有名も何も、こっちがご飯配ってるのになんでか人の食べかけばかり持って行って、新しいのよそって持って行くとやれ施しは受けないーだの、俺達には誇りがあるーだの言って石を投げつけて来るんだよ、正直めんどくさくて誰も相手したくないんだよ」


「あーなるほど、昔の私に似ているな・・・それは」


そうプリプリと怒る女性を他所に、オータムがそう独りごちり隣で聞いていたエオーネが思わず吹き出してしまう


「確かに、ここに来たばかりの貴方って誇りがどうとか自分の力を過信し過ぎて酷く偉ぶってたものね」


「それも君にこっ酷くやられるまで治らなかっと来たものだ・・・今考えただけでも恥ずかしいよ」


そう言い力無くははは、と笑う

一方それを聞いたトウヤとフィリアは今の温和な彼との違いに大層驚いた


「オータムさん、意外と昔やんちゃしてたんですね」


「まぁね、まぁそれはさておき、あの子供達の事をどうにかしないとね」


あまり掘られたくない過去なのだろう、少し無理矢理ではあるがオータムは話を件の子供達の事に変えようとした


「多分無理だと思うよ、何せこれまで何人も何とかしようと言いに行ったのに石投げて来るだけで碌に話が出来なかったんだから」


無情にもそれは無理と女性に否定される


「それなら大丈夫ですよ」


そして、彼女の意見もまた笑顔で持って否定された

その言葉はトウヤから発されたものである

一同はトウヤに顔を向けたが、各々思う事は同じであり、いずれも石投げられて追い返されるのにどうやって話をするのか?という事についてであった


「何するつもりなの?」


無表情ながらも心配げに話をしてくるフィリアにトウヤは笑顔で答える


「話をするだけですよ、頑張って近付いて」


その笑顔にエオーネとオータムは一抹の不安を覚えたのであった






翌日、子供達を見つけた場所へ来たトウヤは胸にボランティアバッチを付けると早速件の子供達を探す事にした

少し街を練り歩けば、少し茶色がかった清掃されていない街並みにテントの様な布切れが散見できたり、路上で寝ている人達の姿がある

そんな中辺りを見回しながら歩いていると路地裏から声が聞こえた

もしやと思い角から路地裏を覗いてみると日の当たらぬ路地の中に複数の小さな人影が動いている

その中に昨日石を投げつけて来た少女の姿も確認出来たので早速話しかける事にした


「よう!昨日ぶりだな」


ゴミ箱を漁る子供らに声を掛けると、バッと顔を此方に向け警戒心を露わにしている

何人かはゴミ箱の中にあった適当な物を手に持っていたりしているが、トウヤは構わず彼らに近づく


「そう警戒するなって、今日は話があって来ただけだよ」


「みんなやれ!!」


にこやかにそう話すが、リーダーであろう少女の号令と共に一斉に物を投げ始める

路地は奥が行き止まりな事もあってか、必死になるがあまり中にはゴミ箱内にあった鋭利なガラス片を投げ付ける子供もいるが、全てトウヤの前に展開された不可視の結界により防がれ弾かれた


「結界魔法なんて狡いぞ!正々堂々戦え!」


「ははは、そもそも戦う気なんてないよ、俺は話をしに来ただけなんだから」


結界魔法を使っている為その場を動けないが、笑顔を浮かべながら話しかけ続ける


「安心してくれ別に取って食おうなんて思ってないよ、俺はただ君たちが安心して暮らせる様に話をしたいだけなんだ」


「うるさい!お前らにそんなの決められてたまるか!」


「もちろん選択の自由はお前らにあるけど、こんな状態だと死んじまうぞ!せめて飯くらい食いにこいよ!」


「うるさいうるさい!!命令するな!」


「命令じゃない、これはお願いだ!こっちとしてもお前らに死なれたら後味悪いし」


止まらない不毛な言葉の応酬

宥めようと掛ける言葉は全て裏目になってしまう

どうしようか、そう悩んでいるとまた声が掛けられた


「何の権限があってそんな事言ってんだよ!死ね!!」


「そりゃヒーローなんだから、それくらいするよ!」


「・・・みんな待って!」


不意に集団の中から声が掛けられる

どうしたのかと思っていると1人の少女が前へと出て来た。それは先日トウヤのパンを待っていた少女だった

先日とは打って変わり、堂々とした立ち振る舞いの彼女はトウヤをジッと見つめた後口を開く


「ねぇ、貴方ヒーローなの?」


「おう!とは言っても、数日前になったばかりだけどな」


そう言うと彼女はふーん、と顔を伏せ考え込む様な仕草をする

そして、次に顔を上げた時、満面の笑みをトウヤに向けた


「良かった!それなら安心ね!」


「おい、シリ!何勝手に決めて」


少女は前へ歩み出て来たシリという少女の発言に不満がある様で少女の肩を掴み怒りを露わにする


「チリ待って、私に任せて」


シルが声を上げた少女、チリの目を見てそう言う

しばしお互いの目を見つめあった後、チルがそっぽを向き後ろへ下がった


「ありがとう」


「勘違いするんじゃねぇよ、まだ納得したわけじゃ無いからな」


「わかってる」


そう言うとシリは笑顔を浮かべ改めてトウヤに近付くと見上げる様にして相対する


「お兄さん、貴方を信用するね、それで私達は何をしたら良いの?」


「何って、そりゃ普通に飯食いに来てくれたら良いだけだよ、食いかけのパンじゃ足りないだろ」





その日、ボランティア施設の食堂は大いに賑わっていた


「あんた本当に連れて来れるなんて・・・驚いたねぇ」


食堂に勤める女性は騒ぎの中心を見て大いに感心した様に声を上げる。そこには件の子供達が長椅子に座り食事をとっていたのだ


「あんた一体何やったんだい?」


今まで何を言っても来る事が無かった子供達を、どうやって連れて来たのかと尋ねるとトウヤは胸を張り満面の笑みで言った


「話し合いをしただけですよ」


「話し合いねぇ・・・まぁ面倒く事が無くなって一安心だよ、ご苦労様ありがとうね」


言葉を受けへへっとトウヤは笑う


「なぁ・・・本当にこれで良いのか?」


椅子に座り楽し気に食事をとっている子供達の一団、その中で食事を手に取る事なく俯いたままのチリが隣に座るシリへと不安げな面持ちをしながら声をかけた

そんな彼女とは反対に楽し気な様子で食事をとるシリは何処か子犬を彷彿とさせる彼女の様子を面白く思ったのか、口元を手のひらで隠しながらクスクスと笑う


「な、何がおかしいんだよ!」


「だって、今のチリ可愛いんだもん」


「かわっ!?」


可愛いと言われ狼狽えるチリを肴に、シリはパンに指を押し込み毟り取りながら言った


「それに・・・くれるって言うなら貰ってもあげても良いじゃない、その方があっちも気持ち良いでしょ?私達を弱者と言うなら利用すれば良い」


むしり取られたパンは、配られた際の外観はすでに残しておらず一口で食べれそうな程に小さくなっている

それを彼女は残り僅かなスープの入った皿へと押し込み、パンはスープを吸って端が少しだけ茶色く染まる


「そうして全てを毟りとってあげるの、私達は弱者なんだからその権利はあるのよ」


濡れた皿の上にパンを擦り付けながら口角を上げ、子供とは思えない妖艶な笑みを浮かべる






それからしばらく時間が経った


「よう!また飯食いにこいよ!」


「うるさい帰れ!」


トウヤは彼らに食事に来させる習慣をつけさせるために暇があれば声を掛けにいく

ヒーローとしての仕事都合で施設に行けない日が多かったが、積み重ねの結果次第に彼らはトウヤが来る前には食事をとりに来る様になった


そんなある日の事だ

早朝の路地裏でチリは珍しく狼狽えているた

それは先程自分たちの寝床に飛び込んできた1人の男児の発言から端を発しており、彼曰く同じ寝床で寝ていた妹が熱を出したがどうすれば良いのかわからないという事であった

同じく男児の声に起こされたシリと共に急いで兄妹の寝床に行けば、確かに顔が赤く火照り魘される女児の姿がある


「おいおい、大丈夫か?」


「大変、すごい熱を出してる」


シリが女児の頭に自身の頭を付けると、彼女の体温が自身のものよりも高いことがわかった

その状況にチリが慌てる

病院に行こうにも健康保険などないこの国では医療は高額であり、コツコツゴミ拾いで貯めてきた程度の金ではどうする事も出来ないし、栄養価の高い食材も自分達では手に入らない

八方塞がり、如何にもこうにもならない状況にチリは頭を抱えるしかなかった


「チリねぇちゃん、シリねぇちゃん、妹は大丈夫なのか・・・」


そんなチリの様子に気が付いたのだろう、男児が不安げな面持ちでチリを見上げる


「大丈夫だ、俺がなんとかしてやる!」


「チリ・・・」


男児の不安を吹き飛ばす様に威勢よく啖呵を着るが、シリにはそれが自身の不安も払う為の啖呵に見えた

だが、現実問題どうしようもない、彼女達が考えられる2通りの方法はどう足掻いても自分達には出来ない事だ

だからこそ、彼女は第3の方法を考え出した


「薬屋に行ってくる」


「まさか貴女」


「それじゃシリ、こいつら頼む!」


「待ちなさいシリ!」


何をするのか察しが付いたシリがチリへと声を掛けるが、その声を意に介さず彼女は走り出した

例え自身が罪に問われようとも、大事な家族が助かるのであればなんだってやる

そんな思いが彼女を突き動かした


「おわっ!?」


路地裏から出て角を曲がった時、彼女は何かにぶつかる

何事かと上を見れば髪がボサボサの無精髭を生やした男が驚いた様な顔付きでこちらに視線を向けていた


「おっと、おいおい大丈夫か?」


「あ、あぁ、大丈夫」


それを聞いた男はチリに視線を合わせると笑顔で言う


「そうか、そりゃ良かった。あんま走り回るんじゃねぇぞ危ないから」


「わかったよ、でも俺急いでいるからじゃな!」


そんな男の言葉を流しつつチリは薬屋へと走り出そうとした

だが、そんな彼女の腕を男は掴んで来る


「おいおい待て待て」


「な、何するんだよ!離せよ!俺急いでるんだから!」


男の手を引き剥がそうと腕を振るうが、単純な大人と子供の力の差により振り解けずにいた

そんな彼女を宥める様に男は声を掛ける


「あぁ待てっての、お前今からどこに行くつもりなんだ?」


その言葉に心臓が跳ね上がった

慌てて男の顔に目をやれば、何事かと疑問符を浮かべた男の顔が目に映る

ならばきっと自分の考え過ぎなのだろう、この男が知ってる訳が無いと思い平静を装いながら口を開こうとした


「薬屋に行くんだろ?」


彼女が言葉を発する前に男の言葉が被せられる

やはりこの男は知っていたのだ、自分が今からどこに行くのかを


「・・・なんで知ってるんだよ」


だからこそ、彼女は逃げる隙を窺いつつ話に興じる事にした

どうせこの後に言われる言葉はわかっている

彼女が相対した大人達から耳にタコが出来る位言われ続けた定型分、それを予見しながら男の様子を窺う


「まぁなんだって良いだろうそんな事、お前なもし言ったら後悔する事になるぞ、やめとけそんな事」


ほら見たことか、彼女は思う

彼女が生きていく為にやってきた行為の悉くを、この言葉で止めようとして来た

こちらの事情を知らず、ただ体裁を整える為だけにやめとけと言うだけの大人達の定番のフレーズ、それが彼女がこの言葉に思うイメージである


だが、こちらにも事情があると彼女は思うと男に言葉を返した


「辞めとけって言われて辞めるバカがいるかよ」


「あのなぁ、別に他に手段がない訳じゃ無いだろ」


「手段がないからこうやってるんだろ!」


そう言われて思わず頭に来たのか、チリが叫ぶ

もし金があるのであれば医者に罹って治してもらう、だが金がない以上はどうしようもないではない

そんな彼女の叫びを男は真正面から受ける

そして、一言だけ発した


「手段はそれだけなのか?」


「はぁ?」


哀しそうな目を向けながらそう呟く男、だが発言の意味がわからずチリは混乱する


「良いか?こういう時こそ大人を頼れ、身近な人を頼れ、別にお前らだけで悩む必要は無いんだよ」


「あんた・・・何言って」


「おっちゃん、そこで何してるんだよ?」


男の背後から声が掛けられた

チリとその男に取っては聞き馴染みのある若い男の声

チリは思わずその男へ助けを求めた


「にいちゃん助けて!このおっさんが」


「おうトウヤ、良いところに来たな!この嬢ちゃんお前に要があるってよ!」


被せられる様に発せられた言葉は、チリにとっては意外な物だった

だが、同時に最悪な部類に入る物でもある

よりにもよってこのタイミングでこの男に、トウヤに借りを作りたく無かったのだ

だが、トウヤはそうなのかと言うと笑顔で近付いて来る


「どうしたんだ?俺が出来る事ならなんだって聞くぞ」


「え、いや」


もう逃げられない、仮に逃げても男が事情を話せばトウヤはこちらを捕まえにおって来るだろう

短い葛藤の中、彼女は諦め、どうせ無駄だと言う負の期待の中事情を喋る


語った後のトウヤの顔は何とも言えない困惑した様な表情だった

それはトウヤの考えから来る表情であり、彼にとって風邪とはそれ程危ない病気では無いからだ


「衛生環境も悪く、栄養価の高い食事を摂れないこいつらじゃ自然治癒に期待するのも酷な話だからな、トウヤどうする?」


見かねて篝野が説明口調でトウヤへと話し掛ける

それを聞き合点がいったという表情を浮かべたトウヤは暫し悩む様に腕を組む


「そうだなぁ、とりあえずその子の所に案内してもらって良いかな?施設には救護所もあった筈だしそこに行って診てもらおう」


「あれ職員用で金取られたと思うけど良いのか?」


意地悪げに笑いながら篝野が言う

この世界での医療費というのは兎に角高い、トウヤの元いた世界の基準に置き換えれば風邪の治療にも1万5000円以上は掛かる

だが、トウヤはあっけらかんとした様子で答えた


「それで1人の命が救えるなら安いもんだろ」


「それでこそヒーローだ!」


それを聞いた瞬間、篝野は下心の無い満面の笑みになりトウヤの肩へと手を伸ばし組んで来る


「さて嬢ちゃん、こいつの腹は決まったがお前はどうだ?」


「え?」


発言の意味がわからず硬直していたチリは、名前を呼ばれてどうすれば良いのかわからずあたふたしていた

その混乱した様子に思わず笑みを浮かべつつ篝野は再度声を掛ける


「その寝込んでる子供の元に俺たちを案内するか、薬を手に入れる何かしらの方法を考えるかどっちが良いかって話だよ」


それを聞き押し黙ってしまう

だがすでに彼女に選択の余地はなかった


「・・・こっち」


チリが路地裏を指差して歩き出す

それに2人もついて行く


「おーこりゃ大変だなぁ、ひっどい熱だ」


「よし、急いで連れて行こう」


倒れた女児をトウヤが背負い、篝野は横からがんばれーと気楽そうに声を掛ける

そんな2人を眺めながらシスとチリは2人で並んで立っていた

ピリついた空気が流れるシスの横で、チリは申し訳無さそうに顔を伏せ時折ちらちらとシリの顔に目をやるが、チスの方に一切目を向ける事なく終始笑顔で立っているが間違いなく怒っているのがチリにはわかったのだ


「ねぇチリ、何でこんなことしたの?」


シリの言葉にチスの方がビクリと上がった


「いや、その」


彼女の怒気に当てられ、チリはしどろもどろになる


「何で薬を盗みに行ったの?」


「そうしなきゃあいつ死んでたかも知れないんだぞ」


「そうかもだけど、今あの人の信用失ったら私の考えてる計画がうまく行かなかったかも知れないんだよ?」


「ごめん」


肩を下げ謝る

そんなチリの様子にシリは大きくため息を吐くと、顔をそっと近づけて耳打ちした


「もうしないでね」


優しい声音で発されたそれは、チリにとっては最終警告の様にも聞こえる


「おーい、早くいくぞ」


「はーい、それじゃ行こチリ」


「う、うん」


差し出されたシリの手を取りチリは共に走っていく


ーーそうだ、邪魔されてはならない


ひとつの悪意を持って、トウヤ達の元へと駆けていく


ーーこれはチャンスなのだから


幼い悪意は芽吹く

幼いが故に拙い、脆く崩れやすい悪意

その悪意の先に起こる結末をまだ彼女は知らない

そして、悪意を向けられている事を露とも思わずトウヤは子供達と談笑しながら施設へと向かう


「ねぇこれからどこにいくの?」


そう言ったのは女児が心配だからとついて来た路地裏の子供達の1人である男児だ

彼は背負われている女児に心配そうな顔を向けながらもトウヤにそう尋ねた


「今からこの子を治しに行くんだ、大丈夫、そう心配そうな顔するなって」


男児に笑顔を向けながら快活にそう答える

すると男児は何とも不思議そうな顔でトウヤを見つめた


「ねぇ、何でいつも僕たちの事気にしてくれるの?」


彼らは幾らか事情はあれどみな路地裏を住処とする浮浪児である

素行不良も相まり最初は助けてくれ様として来た大人達も次第に足が遠のいて行った

だから、何度も訪ねてくるトウヤが不思議でしょうがなかったのだ

そんな男児の言葉にトウヤはさも当然の様に語ってみせる


「そりゃ、人の為に何か出来ることがあるならやるのは当然だろ?」


「なんで?」


「何でってそりゃ・・・何でだろうな」


解答に困ってしまい思わず笑みを浮かべてしまう

彼にとって人の為に何かをするのは当然、それ自体が一つの答えだから答えようが無いのだ


「実利がある訳じゃない、それをやったからと言って必ず礼を言ってもらえる訳でもない、それでも・・・多分憧れてんだよな、先輩達に」


今トウヤの頭に浮かぶのはこの世界に来てから出会った人達の姿だった

冒険者として、ヒーローとしての姿を学び、自分の事を気に掛けてくれる先輩達、森で出会い魔法を教えてくれ、自身の命を投げ出してでも助けてくれようとしたサラ

彼の行動指針には彼らの姿があった

何かしらの利を考えての行動かも知れないが、それでもその背中にどうしようもなく憧れてしまったのだ


「つまり優越感に浸りたいだけって事かよ」


チリが忌々しげにそう呟く

自分達を気にしてくれてるのも、こうやって助けてくれているのも全て自分の満足感の為だと

だが、トウヤは彼女に頭を向け笑いながら言う


「まぁどう思ってくれても良いよ、献愛とは時に苦痛を伴うもの、俺だって自分勝手な都合を押し付けたくは無いし、そう思われるのも覚悟の上だよ」


「何でそんな・・・」


「言っただろ、先輩達に憧れて自分もそうなりたいって思っただけって・・・だからさ、助けてほしい時は無理せず助けって言ってくれよ、全員が助けてくれる訳じゃ無いけど俺みたいな奴もいたりするんだから、諦めず人に頼れよ、あ!もちろん人は選べよ!明らかに怪しいやつとか、それ利用しようとする奴はいるからな!」


トウヤは慌てた様に注釈を付ける

気取っている様で純粋にチリ達を心配しているその姿は人によっては不快に映るかもしれない

だが、チリにとってはその姿に好感を持てた

不器用ながらもカッコつかない何処か頼りない様子でも、そこにあるのは嘘偽りのない人の姿なのだと

そこまで思い至るとチリは再度トウヤへと話しかけた


「なぁにいちゃん」


「ん?どうした?トイレにでも行きたいのか?」


「バカ、違うよ」


デリカシーの無い発言だった。だが、それはきっとこちらを子供として気遣った結果なのだろうと、チリも笑って流す


「にいちゃん名前なんていうの?」


「俺?浅間灯夜だよ」


「違う違う、ヒーローとしての名前だよ」


「あー、ん?」


ヒーローとしての名前?何だそれは、そうトウヤが思い頭を悩ませているとクスクスとシリが笑いながらトウヤへと笑いかけてくる


「お兄さんチリはね、異世界の勇者が広めたヒーローの物語が大好きなんです。アイアンスーパーとかマンオブマンとか、仮面セイバーとか、だからヒーローとしての名前があるなら聞きたいし、無いなら考えてみたいんですよ」


「あ、バカ!違うってそんなんじゃ・・・ねぇし」


「ほー!へー!そっかそっか、そっかぁ」


恥ずかしそうに反応するチリであったが、違うと言い切れないのか言葉尻が萎んでいく

それを見聞きしたトウヤは嬉しくなり満面の笑みで反応してしまう

そんな反応をしたトウヤに恥ずかしさを隠す為かチリはキッとトウヤを睨みつける


「そうだよ!悪いかよ!」


「良いや悪くないよ、めちゃくちゃ嬉しいよ、そうだなぁ名前ないから考えてほしいなぁ、誰か考えてくれないもんかなぁ」


「誰が考えてやるか!知らね!」


チラチラとチスを見ながらわざとらしく言ってみせるがそれをわかっているのか、チスは拗ねてしまう

流石にからかいすぎたかとトウヤが思っていると他の子供達がトウヤの横に走り寄って来た


「なら、僕たちが考えてあげる!」


「お!良いのか?」


「良いよーどんなのが良い?」


「そうだなぁ、炎と赤い見た目だからそれ関係が良いかな?」


そう告げると子供達は思い思いに考え出す

その様子を微笑ましく思い笑顔で眺める


「フ・・レ・・」


そうしているとか細い声で何かを呟く声が聞こえた

声の方に振り返ってみればチスが顔を俯いているのが見え、隣にはニマニマと笑顔を浮かべているシスの姿もある


「どうしたチス?」


不思議そうにトウヤが名前を呼ぶと、チスは赤らめた顔をゆっくりと上げ恥ずかしそうに先程の発言を繰り返した


「フレアレッドって・・・どう」


おそらく名前であろう単語を聞き、トウヤの思考は止まる

次いで訪れたのは父性にも似た嬉しさの感情だった

抑えられない感情に顔が改めて笑顔になる


「お前、なんだよ考えてくれてたのかよ!」


「うるさいうるさい!で?どうなんだよ!」


「そりゃ良いに決まってるよ!みんなはどう思う?」


「チリちゃんの名前が良い!」


「良いと思うよ!」


「チリねぇちゃんが考えた名前ならそれで良いよ」


そうトウヤが周りの子供達に聞いてみれば概ね好印象だった

どちらかと言えば、チリが考えたから良いという意見が多くはあったが、それで名前が纏まっているのであればそれで良いかとトウヤは思う


「なら、決まりだな!俺のヒーローとしての名前は今日からフレアレッドだ!よろしくな」


「良い名前もらったなトウヤ」


「お、おっちゃんもそう思うか?」


先程まで聞くに徹していた篝野もまた、その名前に異議はないのだろう

祝福の言葉をトウヤへと送る


「おお、だがあんまり騒いでやるなよ、背負ってる子が可哀想だ、それに施設もすぐそこだしな」


彼の指摘の通り、彼らは今ボランティア施設への道中でありトウヤの背中には今もぐったりとした女児の姿がある。ある程度であれば良いが先程のトウヤの様な騒ぎ様では背負われている女児もしんどいだろう

その事を理解したトウヤはそれもそうかと納得し、声を落として喋ることにした

そうして施設に着いた一同はトウヤと篝野、シリとチリが着いていくことになるが、他の子供達は受付で待ってもらうことになる


「さて、お前らちょいと受付のとこで待っていてくれ、俺とトウヤで医務室に運んでくるから」


「すぐ薬もらってくるからちょっと待っててくれ」


そう言うとトウヤと篝野、付き添いのシリとチリの4人はスタッフに連れられて奥の医務室へと向かう

そこはベッドが4つある部屋であり、部屋で待機していた女医の指示通りにそのうちのひとつに女児を寝かしつける


「先生この子治りますか?」


「えぇ大丈夫、ここで2〜3日安静にしてればきっと良くなるわ」


マスク越しに女医が笑い掛けてきた

その言葉を聞き、チリは良かったと肩を撫で下ろす


「あ、篝野さんにトウヤじゃない!ちょうど良かったちょっと皮剥き手伝って貰っても良いかしら?」


偶然通り掛かったのだろう、開けっぱなしの扉の向こうには恰幅の良いエプロン姿の女性がトウヤへと声を掛けてきた

トウヤはわかりましたと返事をすると、両手首に付けていたブレスレットを外し医務室の机に置くと女医に声を掛ける


「すみません、ちょっとこれ預かって貰っても良いですか?」


「良いよ、そこ置いといて」


「ありがとうございます。それじゃごめんちょっと言ってくる」


「気を付けて帰れよ」


そう言うと2人は医務室から出ていく

残されたチスは女児の傍らに立つ


「チーちゃん」


「もう大丈夫だからな、トウヤにいちゃんが病院連れて来てくれたから、もうすぐ良くなるから」


普段は活気溢れる女児の弱々しい姿に胸が痛む

ここに連れて来たから大丈夫とは自身に言い聞かせるが、それでも心配になりソッと頭を撫でる


「チリ、そろそろお邪魔なると思うし帰ろっか」


「あ・・・うん、わかった。それじゃ明日も来るね」


1人置いていくことに尾を引かれるが、いつまでいても邪魔になると思い帰ることにした

小さく振ってくる手に、また同じ様に手を振りかえす




それから施設を出た子供達は一同帰路に着く

施設に女児を預け一安心といったところだろうか


「良かったね、助けてもらえて」


先頭を歩くチリにシリが笑い掛けて来る

その言葉に頷きながらチリは答えた


「うん、本当に良かった。シリほんと凄いよ、こういう時のためにトウヤにいちゃんと仲良くなってた方が良いって言ってたんだね」


安堵の言葉と共に自身の親友の先見の明に胸が熱くなった

いつも自分を助けてくれたそんな彼女ではあるが、また助けて貰ったなと改めて感謝の念を送る


「シリ、本当にありがとう」


「え?違うよ?」


「え?」


「これなんだと思う?」


そう言って彼女が袖を捲るとそこにはブレスレットが嵌められていた

何処かで見覚えがあると思うと、嫌な予感がチリを駆け巡る

それはトウヤがつけていた変身ブレスレットだ


「なんでシリがそれを持ってるんだよ!それはトウヤにいちゃんの」


声を荒げそう言うと子供達は何事かとチリへと目を向ける。だがシリはその視線を意に返すことなくクスクスと笑い出し、歳に似つかわしくない妖艶な笑みをチリに送る


「なぁに?トウヤにいちゃんって、貴女いつの間にそんなに絆されたの?」


「そんなの今は良いだろ!自分がやった事をわかってるのか!」


放たれた言葉を一喝し、チリは彼女のやった事の重大さを問いただす

ヒーローの使用する道具を盗む行為、それはこの世界に於いては重罪であった

各工房の最新技術を用いて作成された武具はそれだけで機密の塊である

それを安易に机の上に放り出したトウヤもトウヤではあるが、だからとて盗み出すのは許される事ではない

だが、そんな彼女の焦りも意に返す様子もなくシリは表情を変えずにチリへと笑いかける


「大丈夫、もう話は通してるから」


「通してるって・・・まさか!」


「そう、その通り」


背後から声がする

粘つく悪意を伴った高い女性の声が


まさかと思いゆっくりとチリが振り返って見ればそこには、長髪の勝気な目をした女性とフードを被った5人の集団がいた

それを見た瞬間、再度シリへと顔を向け睨み付ける


「お前、まさかあのフードの男と会っていたのか!?」


「えぇそうよ、取り引きをしたの」


「取り引き?あんな胡散臭い奴とか?」


信じられない様な目でシリの顔を見るが、彼女は余裕ある態度でそれに応じた


「胡散臭いなんて酷いわ、彼は話がわかる人よ、あの男のブレスレットを持って来たら私達の生活を保証してくれるって言ってくれたの」


あの男とは十中八九トウヤの事だろう

欲の詰まった目でそう語る彼女の姿に、チリは空いた口が塞がらない程の驚愕の念を抱いてしまう


「お前・・・それ本当に・・・」


「お嬢ちゃん達、お話しするのも良いけど例の物持って来たのよね?」


「はい、ここにあります!」


呆然と立ち尽くすチリを躱しシリが女の方へと走っていく

止めなければ、そう思いながらもチリはどうすれば良いのかわからなくなり、ただチリの背中を見つめることしか出来なかった


女の前に立ったシリは急いで袖を捲り上げると、腕につけたそれを女に見せる


「これ、これで良いんですよね?」


気持ちが昂っているのか、言葉を繰り返しながら女によく見えるようにブレスレットを見せた

それを見せると女は顔を大きく歪め笑顔になる


「あぁ良い子だねぇ、それだよそれ、良い子にはご褒美をあげないと」


「ありがとうございます!!」


あ、まずい

チリの頭にその言葉が過ぎる

今の女に異変はない、だが確実に何かがあるとチリの貧民街を生き抜いて来た直感がそう告げたのだ

そして、直感を信じシリの元へと走り出した瞬間、女の背中が膨れ上がった

服を切り裂き現れたのは1本の細長い触手、それが女の背後から伸びシリの頭上で鎌首をもたげている


「シリ!上!」


チリがそう叫ぶと何事かと僅かに後ろに下がりながらシリが振り返ったので、咄嗟に彼女の手を掴み引っ張った

その瞬間、振り下ろされた触手は空を切り裂き、家屋保護用結界を突き破り石畳へと突き刺さる


それを見たチリは思わず固唾を飲んだ

最新式の榴弾砲すら防ぐ結界が最も容易く貫通する威力、もし直撃していればと嫌な想像をしてしまう


「なん・・・で・・・?」


震えたか細い声が彼女の隣から聞こえてくる

困惑の表情を浮かべたシリが、先ほどとは打って変わり、信じられない物を見るような目で女を見ていた


その光景に思わず、女は笑ってしまう


あはははは、そう甲高い裏声とも取れる声で笑う女

それを見てシリは呆然としチリは叫んだ


「何がおかしいんだよ!」


「だって面白いじゃない、信じてた奴に裏切られた時の驚き絶望する様な顔!最高よ!」


それを聞き思わず身震いをする。異常者、それがチリが抱いたこの女の印象だった


「全部・・・嘘だったの?」


「当たり前じゃない、あんた馬鹿じゃないの?」


ガラガラと自身の胸の中で何かが崩れる音がシリには聞こえた

成功報酬で家族に楽をさせる。こんな暮らしから脱することができる。その夢が全て崩れ去る


「そんな・・・それじゃ私は・・・なんの、ために・・・」


「チリ・・・」


路地裏の子供達、そんな中でもシリは飄々とした雰囲気で常に家族を見守って来た

そんな彼女が力無く項垂れる姿に悔しさを感じずにはいられない


だが、そんな彼女を見て女は笑う、蔑みの目で見つめ高らかに笑う


「何悲劇のヒロインぶってるのよ、本当に笑えてくる。ねぇ?なんで人の行為に悪意を持って答え、欺き、裏切り、他者を利用しようと、出来ると考えてる悪い子供、あんた達は知らないかもだけどねぇ、親から悪い子になるなって言われると思う?」


可笑しそうにニヤニヤとしながら、鼻に付く言い方で問いかけてくる

それをチリはしらねぇよ一蹴した


「そうよねぇ!あんた達みたいなのにわかる訳ないわよねぇ!そんなの簡単よ、悪い事をする子供はね、より悪い大人に騙されてこうやって酷い目に遭うからだよ!ははは!!」


それはチリにとって苦痛の時間だった

騙され、立ち向かおうにも力でねじ伏せられる未来しか見えず、ただ黙って聞くことしか出来ない

何より最悪なのは、女の言ってる事に説得力がある事だった

今のこの現状こそが、彼女の言った通りの事態だからだ


そうして彼女は安心させる様に子供に言い聞かせる親の様に、優しく言葉を発する


「でも安心してね、あんた達もすぐに私の様な大人になれるわ、連れ帰って腕を捥いで目を抉って身体を引き裂いて、あぁは、私の様な大きくて誰にも負けないくらい力が強くて、頭の冴えた大人になってるから」


その場にいた子供達は皆怯えた

敢えて怯えさせる様に放たれた言葉の通り、目の前で今も触手を振り回す異形の人間、それと同じ様に改造されるのだ、喜ぶ訳がない


行け、女が小さく後ろに控えるフードの集団に声を掛けると、バッとフードを脱ぎ捨て無貌の姿が顕になる

無貌達は女の指示に従い子供達へと掴み掛かった


「嫌だ!そんな姿になりたくない!」


「助けて、お母さん助けて!」


迫る無貌に助けを求めて発された言葉は宙を舞い、無情にも虚しく空へと消えていく


助けなど来なかった。来るはずもなかった

そこは従来より人通りの少ない道であり、もし仮に偶々通りかかった人がいても助けることは無いだろう


「やめて下さいやめて!お願いします助けて!誰か助けて!」


這う様に前へと出たシリがそう叫ぶ

子供達の叫びにより騒がしくなった通りではあるが、相も変わらず人気は無かった


そんな姿を見て女が嗤う


「人からの信用をなくして誰もが離れていったのに誰が助けてくれのぉ?誰がお前達の言葉を信じるの?法律?それとも義務?そんな形の無いものがお前達を守ってくれるとでも思ってるの?あはははは!」


「そん・・・な・・・」


幾ら助けを呼ぼうとも変わらぬ状況、示された言葉に心を揺さぶられる

個ではなく人と人の繋がりがあってこそ成し得ることはある。特にそれが弱者であればある程に顕著になっていく


彼女達は自らを子供であると言う事実に甘んじ、それらを怠った。怠った故の末路であった


その事実を目の前の女に示され、幼いながらも聡い頭で理解してしまい、シリの心は折れてしまう


俯き、現実を否定しようとするが耳に入る叫びは嫌なまでに彼女の頭に現実を突きつけ混乱する


「何してんだシリ!しっかりしろ!」


堂々巡りの思考の中、動かぬ身体を誰かが起こす

力無く起こした者の姿を見れば、チリが彼女の身体を引き上げる様に持ち上げていた


「チリ・・・ご、ごめんなさい、私」


「そんなの良いから!早くここから離れるぞ!」


シリの身体を必死になって引き釣り、離れようとするが、彼女は未だなお力無く項垂れている


「無理だよ・・・もう逃げられない」


「うるさいうるさい!逃げる前から諦めるなよ!それに・・・それに・・・きっとトウヤにいちゃんならなんとかしてくれる!」


こんな状況になっても力を借りようとする己の無力さから悔しさから顔を歪ませながら、チリがそう言う

本当に助けてくれるのか、彼からブレスレットを盗った自分達を助けてくれるのか、今頃事態が発覚して大騒ぎになっているかも、そんな考えがチリの頭を回っている

だが、それでも信じてしまうのだ、きっとトウヤならと


「そんなことさせると思ってるの?」


必死になり周りが見えていなかった彼女の視界は、女の蔑む声と共に状況を認識する


女の背後で漂っていた触手が彼女達を捕えようと真っ直ぐ伸ばされた

その速さから2人同時に避ける事はできない、間に合わない

だからこそ、チリの身体は考えるよりも先に動いた。身体強化魔法を発動させシリの身体を後ろへと放り投げたのだ


宙を舞う小さな身体はやがて石畳の上へと落ちていく

落ちた衝撃でキャッと小さな悲鳴を上げ痛みに身悶えするが、次いで聞こえて来たチリの叫びに痛みを無視して身体を動かす


「チリ!」


見ればそこには触手に巻き付かれ捕らえられたチリの姿があった

全身を締め付けられるように縛り付けられた彼女は痛みにより顔を歪めがらもシリの姿を確認すると叫ぶ


「走れ!シリ!!」


嫌だ置いて行きたくない

そんな叫びにシリは感情を浮かべ顔を横に振る


「立って走れ!このままじゃみんな殺される!!早く!」


みんな殺される。その言葉がシリを動かした

混乱した頭でたた死なせてはならない、そんな思いで震える手で立ち上がり走り出す


「本当に助けが来ると思ってるの?あなた達本当に阿呆よね」


走り去るシリの背中を見送りながら女が言う

どうせ無理、そんな思いと侮蔑の乗った言葉にチリは笑みを浮かべながら言う


「家族のいないだろうお前にはわからないだろうけどな、これで良いんだよ、助けが来なくても家族が1人で助けられたらそれで良いんだよ」


「この、クソガキ!」


先程の女の言葉を、中身を変えて突き付けたチリの言葉は女の琴線に触れる

自身が優位な状況にも関わらず、ただ見下されたと言う思いが、女を激情へと至らせたのだ

女が感情に任せ触手を強く締め上げると、チリのくぐもった悲鳴を上げる

その声に満足したのか女は落ち着いた様な表情を見せると、無貌達へと視線を向けた

見れば無貌達は子供達を荒縄で拘束した後なのだろう、傍で立ち尽くしている


「まぁ良いわ、そう言う事なら私も大人として対応しましょう、お前達!あの逃げた小娘を追え!!」


「なっ・・・!」


「力が無いのにそんな事をベラベラと喋って、本当に残念な子供よね」


悪辣な笑みをわざとらしく浮かべ、覗き込む様にチリを見ながらそう言う

チリはそんな女の事など意に返す事なくシリの走り去った方角へと目を向ける

すでに5体の無貌達がシリを追いかけていた


「シリ・・・!」


チリはシリを思い上げた声は、貧民街の街中へと溶けていく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る