第10話 遊園地の罠
スケアーランドは移動遊園地!
メリーゴーランドにバイキング、たくさんの美味しいお菓子がたーくさん!
みんなの街に楽しいを届けにいくね!
それがチラシに書かれている文言だ
「メリーゴーランドとバイキングってこの世界にもあったんだなぁ」
「なんか言ったか?トウヤにいちゃん?」
「あぁいやなんでもない、行こうか」
「おう!」
「みんな!逸れちゃダメだよ!」
その言葉にチリが元気よく返事をし、シリが子供達に声を掛ければ同じくらい元気な声が響く
ここはつい先日このベガドの街にやってきたスケアーランド
移動遊園地と呼ばれる物であり、それは日本人であるトウヤにとってはあまり聞き馴染みのないものではあったが、ベガドの壁を越えその姿が目に入った時驚いた
多数の屋台が並んでいるのはいつも通りとしても、その内容がいつものとは大きく異なり甘い菓子系をメインにした物が多かった
物品販売も行っており一目見ただけでもオリジナリティ溢れるピエロの人形や動物のぬいぐるみが多数置かれている
だが、トウヤが何よりも驚いたのは遊園地の代名詞たるアトラクションがある事だ
メリーゴーランドやバイキング、ジェットコースターまである
そして、何より目を引いたのが
「デッカイテントだなぁ・・・」
「これの中でいろんな催し物があるみたいですよ、躾けた魔獣のショーとか曲芸とか」
甘く長細い溶かした砂糖の付いた小麦粉菓子を頬張りながらトウヤが呟くと、バネと先端にボールのついた装飾が2本付いてるカチューシャを頭につけて揺らしながらパンフレットを見ているシリがそう答えた
「へー、サーカスみたいな事もやってるんだなぁ」
「あ、お兄さん、今日これから魔獣使いのショーがあるみたいですよ?行ってみませんか?」
「お、良いなぁ魔獣ショーか・・・どんなのだろ、行ってみるか!」
「はい!」
「なんか盛り上がってるなぁ」
盛り上がる2人を尻目にチリはそう呟くのであった
暗い、暗いテントの中
男が中央に立ちスポットライトの光を浴びている
男は言う
「この世の中には様々な出来事が起こる」
腕を広げ男は叫ぶ
「今宵、私達が魅せますはその出来事のほんの1ページ」
男が宣言する
「皆様に楽しんでもらえる様に精一杯努めさせていただきます。それではショーの開演です!!」
スポットライトの光が消えれば、テントの中を色とりどりの光が行き交う
流れ流れ、その中で幾つかの集団が奥から飛び出してきた
彼らは縦横無尽に地を駆け巡りながら踊る
手懐けられた魔獣の集団が、火の輪を潜り、ある時は中型魔獣の作り出した雷の雨の中を、背に乗せた人達と共に駆け巡った
中型魔獣の翼から舞い散る特殊な粉は、ある程度の志向性と高い伝導性を持ち、客席の頭上で雷の輪を、花を咲かせる
隙間の時間にはピエロ達が集まり、面白おかしく喋り合い動けば客席からは笑い声が湧く
曲芸集団が空中ブランコにぶら下がれば、客席が歓声の渦が作り出された
そうして、ショーの最後には芸を見せてくれた全員がテントの中央に並び立ち
最後までショーを見てくれた観客に礼をしショーは終わりを迎えた
「面白かったな!」
「ええ、思ってた以上にレベルが高くて驚いちゃいました!」
「あの雷を出す魔獣とかすごかったよなぁ!」
外に出てきたチリ達は興奮冷めやらぬと言った様子だった
元いた世界でサーカスを見たことのあるトウヤではあったが、さすが異世界と言った様子で出てくるのは魔獣や魔法をふんだんに使ったらショーである
言葉には出してないがその感動と言える感情を噛み締めていた
「おや、あなた達・・・ひょっとしてショーの観客席にいた」
そう不意に声をかけられ振り返ってみれば、そこには1人の若い男がゴブリン族と思わしきピエロを連れ添って立っていた
「そうですけど・・・あなたは?」
少しばかり不審に思いながらも、トウヤが返事をすれば男が名乗る
「これは失礼しました。私は当サーカスの座長を務めますツ・キョゼと言います。以後お見知りおきを」
「あぁこのサーカスの、そんな人がどうしたんですか?」
サーカスの座長と聞き警戒心を和らげたトウヤは、何の用かと聞き返した
すると男は終始笑顔のまま語り出す
「いえ、子供をたくさん連れている方にお声がけをしているのですが、このあとお時間はありますか?よろしければバックヤードツアーを開催しているのですが、ご参加してみませんか?」
バックヤードツアー、所謂普段見ることのできない裏側を見る事が出来るツアーである
その言葉を聞き、シリが目を輝かせ、チリ達は小首を掲げバックヤードツアーとは何かトウヤに問い掛けた
「良いんですか!?」
「ええ良いですよ、それではこちらです。着いてきてください」
「ありがとうございます!みんな早く行きましょ!」
そう言うとシリは意気揚々と男の後に続いて歩き出す
「なんか、生き生きしてるな」
「意外とこう言うのに興味あったんだなぁシリって」
「みんな何してるの!早く行こ!」
「んじゃ行こうか」
「シリも待ってるみたいだからな」
そう笑い合いながら2人は子供達を連れて歩いて行く
ついて行った先には既に何人かが集まっており、種族も有翼人種にオーク族、半獣人族、黒人に白人と様々な人種が集まっていた
「なんか、たくさんの人が集まってるなぁ」
「これ全員がバックヤードツアーの参加者なんですか?」
「ええ、そうですよ、全員参加者になります」
ツ・キョゼの言葉にシリはへーと声をあげた
「それでは皆様ここで待っていてもらってもよろしいでしょうか?私はツアーの準備をさせていただきます」
そう言うとツはトウヤ達の元を後にする
「言っちゃったな」
「楽しみだなぁ、バックヤードツアー!私こういうサーカスの裏側とか結構気になってたんでさよ!確か色々と体験とかも出来るんですよね!」
興奮気味に声を上げるシリ
その姿を見てトウヤは楽しんでもらえて良かったと微笑ましく思う一方で、ほんのわずかにだが彼女の勢いに圧倒される
「・・・ん?」
そんな彼女から視線を外してみれば、1人の男がトウヤに視線を向けているのがわかる
それはたまたま目に入った。と言うわけではなく、トウヤが視線を合わせても逸らす事がない事からトウヤを狙って見ているのだとわかった
「あの、何か用ですか?」
トウヤが男に対して声を掛けてみれば、笑みを浮かべ近付いて来た
「ああ、失礼しました。どうも職業柄気になる人の事はつい注視してしまうんですよ、アサマトウヤさん」
「俺の名前を知っているのか?」
「ええもちろんですよ、あ、申し遅れました私こう言うものです」
そう言い差し出された名刺にはベガド通信社という文字が見え、思わずトウヤは顔を顰める
それはつい先日の出来事があったからだ
「あんた・・・記者なのか?」
警戒心を露わにした様子でそう言えば、記者は飄々とした雰囲気で喋り続ける
「おっと、勘違いしないでくださいよ、今回の狙いは貴方ではなくこのサーカスなのですから」
「このサーカスが狙い?それは・・・どういう?」
「まぁヒーローの貴方にはその内情報も回ると思うから良いか、実はね?この遊園地が来た街では子供の行方不明事件が多発するらしいんです。それもこのテントに入った子供の」
「ハァッ!?」
思わず声を大にして反応してしまう
トウヤの職業柄、その原因として考えられることはひとつしかない
ならばここに長居するのは危険だと
トウヤの思考は瞬時にそう結論付けた
だが、男はそんなトウヤの反応が心底可笑しかったのか笑っている
「おいおい、あくまで噂だよ噂、そう間に受けるなって、その事が本当かどうか調査する為に俺が来たんだから何も無ければそれでよし、だろ?」
「いやまぁ・・・だけど、もし本当ならあんたは大丈夫なのか?」
もしそれが本当ならばこの男の命は無い
その事を心配してトウヤは声をかける
しかし、男の反応はそんなトウヤの心配などお構いなしという様子だった
「もし本当なら俺はジャーナリストとしての本懐を遂げるのみさ、ペンは剣よりも強し、その心意気は騎士にも劣らぬだ」
そう言い笑う男の姿に、トウヤは何も言えない
「なぁにいちゃん、何話してるんだよ?」
男と長々と話しているトウヤに疑問を抱いたのか、チリが話しかけてきた
「おっと、お嬢ちゃんごめんな、お兄さんを長話に突き合わせちまったよ、それじゃあなヒーローさん、もしもの時は頼んだぜ」
「・・・おう、その時は任せろ!」
「頼もしいねぇ」
そう言うと男は元の位置に戻って行く
自身の職に誇りを持ち行動する
トウヤは男の背中には確かに、仕事人としての矜持を感じた
それから程なくしてバックヤードツアーが始まった
ツの引率の元、集まった客はサーカスの裏側へと足を踏み入れたのだ
そこで待ち構えていたのは練習に明け暮れるサーカス団員達の姿だ
彼らは皆一様に己の才を伸ばすべく、努力している
「あれ見てよ!魔獣がご飯食べてる!」
「ショーには出なかった演目だな、こりゃすごい」
「見て!ピエロさん達が魔獣と遊んでる!」
この光景を見たツアー参加者達は皆口々に目の前の光景の感想を言い合う
だが、そんな中でもトウヤは先ほどの言葉が引っ掛かってしまい集中出来ずにいた
ーーもし、あの話が本当ならこの中に怪人がいるって事か?
浮かび上がる疑問はある意味で毒のようだった
じわりじわりと、トウヤの思考を犯して疑心暗鬼にさせる
だが同時に、自身の側で目を輝かせて目の前の光景のシリを見る
楽しげにはしゃぐチリや子供達を見た
そして、考えてしまったのだ
もし何かあれば俺が何とかすれば良いと、子供達の楽しげな様子を言い訳に、この平穏な時間を享受したいとそう思ってしまった
それ故だろうか
記者と話をする事なくその場を立ち去ってしまったのは
帰り際に渡されたチケットを快く受け取りシリに渡してしまったのは
ピエロの顔に何処かくらい影がかかっていても、僅かな違和感を抱きながらも帰ってしまっのは
その所為だろうか
翌日、記者が遺体となり見つかった
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