第〇三一話 緑の魔石

 糸を使った実験でゴーレムは人型にこだわらなくても良いことが分かり、魔通信の魔道具を分解することで、色付き魔石の利用法と複数の魔石を利用する方法を学んだ。


 最終的に二十メートルのゴーレムを作るにあたり、視覚や聴覚を共有しないと操作が難しいのではないかと考えたので、 今回は魔通信の一部の機能をゴーレムで再現できないか試してみよう。


 魔通信は音を飛ばしていることから、ヒントになると思い分解したのは正解だったな。


 聞き取ることができれば良いだけなので、取りあえず喋ることは考えなくてもいいとして、形をどうする?


 取りあえず魔通信の受話器を半分にして、受話口と送話口に分け送話口をゴーレムに取り付ければいけるか?


 いや、受話口と送話口の二つは繋がっていないからそのままゴーレムにつけてはダメだな。


 受話口と送話口のそれぞれに緑色と黄色の魔石を入れるとしてどうイメージする? 二つで一つ……そうか。

 

 我が手によって生まれし者。

 汝の名はウズン、我が意志の下にあれ。

 汝に仮初めの命を与えし対価として我が魔力を汝に分け与えん。

 汝は我が命令を忠実に従え。

 我が敵は汝の敵、我が友は汝の友。

 秘められし力、今解き放たん。魔石の脈動、その身に巡り力と成れ。

 二つで一つの星が織りなす旋律、汝の魂に響き、力を宿せ。

 今、汝の目を開け、汝の心を燃やせ。

 ウズンよ、汝我の呼びかけに応じ起動せよ。



 それぞれの魔石は魔力に変換され、混ざり合って二つにした受話器に吸い込まれていく。


「ウズン、起動!」


 といっても、ただの受話器なので何も起こらない。


「リリアナ、これを耳に当ててみてくれ」


 リリアナに受話口を渡す。


「畏まりました」


 受話口を耳に当てたのを確認して送話口に話しかける。

 

「リリアナ聞こえるか?」


「――! ルシャ様、聞こえます!」


「次は部屋の外で試してみてくれるか?」


「畏まりました」


 リリアナが部屋の外へ行くのを確認して話しかける。


「リリアナ聞こえるか?」


「…………」


 部屋の外で何か言っているようだが、一方通行なので聞こえないな……普通に受話器が二つあれば、離れていても会話できるな。


「ルシャ様、これはすごいです! 魔通信よりも音がきれいに聞こえます」


「そうなのか? 今度はこれを使ってリリアナが話しかけてみてくれ」


「畏まりました」

 

 その場で良かったのだが、リリアナは送話口を持って部屋の外へ向かった。


『ルシャ様、聞こえますか?』


 受話口からリリアナの声が聞こえる。魔通信を使ったことがないので違いは分からないが、確かに傍で喋っているのと遜色ない。


 スマホや電話の声は本人の声ではなく、コードブックに載っている合成音だったが、これは間違いなく本人の声が届くのだな。


「ルシャ様、聞こえましたか?」


「まだ、魔通信を使ったことがないので、違いは分からないが、ここで会話しているのと変わらない感じだったな」


「魔通信の部品をそのまま利用しているのに、何が違うのでしょうか?」


 リリアナの疑問はもっともだな。魔通信の部品を流用している以上、原理は同じはず。しかし、結果的にゴーレムの方がきれいに聞こえている。何が違う?


「……そうか、もしかしたら、魔石を魔力に変換することで効果が違ってくるのかもしれないな」


「確かに魔力に変換したほうが魔石の力を十分に発揮できそうですね」


「ゴーレム自体の性能が上がったのは魔石の形のせいだと思ったが、魔力に変換したのも理由に含まれるのかもしれないな」


「そういえば、まだ魔力に変換する詠唱だけで、変換前と性能を比べていなかったですね」


「早速、試してみよう」



 ◆ ◆ ◆

 


 砕いた魔石がまだ残っていたので、同じぐらいの魔石を使い、二体のゴーレムを生成して違いを試す。


「魔石を魔力に変換しただけで、動きがここまで変わるのか?」


「全然違いますね。通常のゴーレムも魔石を魔力に変換するだけで、弱点がなくなるだけでなく、かなり使えそうです」


「素材の手に入りやすさを考えて、マリオネット人形を使ったり、ぬいぐるみを使っていたのが裏目に出たな」


「額に魔石を埋め込むタイプのゴーレムの機能を停止させるには、魔石を破壊するので、頭部の石は壊れてしまいます。それに対し、魔力に変換したタイプのものは元の素材に戻るだけなので、繰り返し実験できるのではないでしょうか?」


「そういえば、そうだな。しかし、いちいち解除するのも面倒だから、手に入りやすい同じ素材のマリオネット人形を性能検証用にたくさん購入したほうが良さそうだな」


「マリオネット人形なら片付けも楽なので良いかもしれないですね」

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