第〇〇六話 採石場
「……」
「……様」
……誰かが呼んでいる?
「ルシャ様」
リリアナの声が聞こえる……。
目を開けると、心配そうなリリアナの顔が飛び込んできた。……リリアナは俺の味方なのだろうか? ゲームの中では常に暗い感じだったが、ルーシャスとの間に一体何があった? ルーシャスが暴走するとしたら、外的な要因も注意しなくてはならない。邪神を倒す際に活躍できる実力を持つリリアナは外的な要素として最有力候補となってしまう。
リリアナが本気を出せば、今の俺なんか秒殺だ。レティシアが俺を殺す前に倒れるわけにはいかないので、今は強くならなくては。
「馬車の揺れに耐えられなかったようだ」
「リリーの方こそ申し訳ございません。最近ルシャ様の調子があまりにも良かったので、馬車に弱いことをすっかり忘れておりました」
ルーシャスの記憶によれば、両親の帝都行に同行できなかったのも、この体力のなさが原因のようだ。この体力のなさを理解しているリリアナが、どうしてルーシャスの木登りを止めなかったのかも、リリアナを信じきれない原因の一つだったりする。ちなみに落ちたショックで忘れてしまったのか、木登り前後はまったく覚えていない。
「せめて領内ぐらいの移動は耐えられるようにしたいな」
「ゴーレムを動かせるようになれば、きっと改善しますので頑張りましょう!」
そう言ってリリアナは俺を抱きしめる。顔が埋もれて息が苦しいが、ここは男として耐えねばならない。
「それではルシャ様、採石場の責任者を待たせていますので、行きましょうか」
「分かったよ」
名残惜しいが、馬車から降りる。
採石場中央には巨大な石の塊が積み上げられ、形を整えているのだろうか、石を削っている人たちが見える。俺たちが馬車から降りると、爺さんが一人近づいてきた。
「ルーシャス様、お越しになられたこと、深く感謝申し上げます」
「分かっていると思いますが、ルーシャス様の魔力量はかなりのものなので、それ以上は近寄らない方がいいわ」
「心得ております」
「ルーシャス様からお前に聞きたいことがあるそうだ」
「畏まりました。私で分かることなら何なりと」
「それではルーシャス様、どうぞ」
「分かった。ここでゴーレムの不足パーツを作っていると聞いたけど間違いない?」
「頻繁に作るわけではございませんが、たまに依頼があります。ルーシャス様用のゴーレムの不足パーツは私も手伝っております」
「そうなんだね。聞きたかったのは、ゴーレムのパーツを作る際、石はどんな石でもいいの?」
質問すると、爺さんは少し驚いた表情を見せた。
「石など全て同じだと思っているのが普通の人の考えなのですが、まさか石の種類を気にされるとは、さすがルーシャス様でございます」
どうやら一般的な考えではなかったようだ。リリアナ、そのドヤ顔はやめなさい。
「私のスキルがゴーレムだから、いろいろと調べていたのだ」
「そうでしたか! その若さでそこまでのお考えをお持ちとは、シャドウブレイズ領の未来は明るいですな。それで質問の答えですが、私の経験上、火成岩と分類される石が一番適していると思います」
火成岩か、確かマグマが冷え固まって結晶化した石だったな。
「火成岩なら何でもよいのか?」
「――! そこまで調べられているとは、恐れ入りました。できるだけ地中深くにある深成岩が一番丈夫です。ルーシャス様用に作ったパーツは、地中深くでもさらに特別な石で、強い魔物が住処にしていた場所から産出された物を使用しております」
ん? 今、何か気になるワードが出てきたぞ。
「今、強い魔物の住処と言ったが、石の産出に関係あるのか?」
「聞くところによると、ゴレームにした後の動きが違うらしいです。私には分かりませんが、動かせる時間が少し長くなると聞いています」
「動かせる時間が?」
「私たちの間では、魔物から出た魔力が石に染み込んだためじゃないかと言われております。まあ、魔力が見えるわけではないので。言い伝え程度ですが、通常の石より強度も増すという話も聞いたことがあります。帝都の皇城から依頼があった場合、できるだけ魔物がいた場所の石を納めるようにしております」
「ルーシャス様、シャドウブレイズ領の石が帝都で人気なのは、そういった細かな努力が関係しているのではないでしょうか?」
「真相はともかく、厳選した石を納めているのは間違いないからね」
「ありがとうございます」
「ところで、小石程度の大きさでよいのだが、魔物がいた場所の石は残ってたりしないか? 色々と試してみたいことがあるのだ」
「もちろん、ございます。ルーシャス様のゴーレムが破損した時のスペアとして保管してありますので、その中からお持ちください」
ゴーレムのスキルは外れのはずなのに、用意がいいのは不思議だが、あるのならありがたくもらっておこう。
「……」
爺さんに案内されてきた保管場所には、大きめのコンテナ二つ分ぐらいの石が置かれている。
「これ全てがそうなのか?」
「公爵様の命令で、大昔ダンジョンだったボス部屋の石を運んで来ております。長時間石の傍にいると体調を崩しますので、注意なさってください」
「体調を崩すのか? まるで俺の体質と似たような感じだな」
「ルーシャス様と同じで、大量の魔力を保有している証拠ですね。私はかなりの魔力を感じますが、ルーシャス様は感じませんか?」
リリアナは魔力を感じるのか……。
「……全く感じないな」
「そうですか。ルーシャス様の魔力が大き過ぎるのかもしれないですね」
「リリアナにはその石より俺の魔力が大きいのと分かるのか?」
「もちろん、分かりますが、ルーシャス様の侍女をするようになってからは、感じ取りにくくなっていました。なのにこれだけの魔力を感じるということは、相当強いボスだったのでしょう」
「言い伝えによれば、古龍がいたとの話です」
「古龍が?」
「古い言い伝えなので定かではありませんが、そう言われております」
古龍か……邪神の配下に一匹いたけど流石に時代が違い過ぎるか。
石をたくさん貰い、採石場をあとにするのだった。
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