第〇二九話 糸

 マリオネットのスキルで操る糸について調べたところ、モンスターの出す糸で作った紐や聖銀など魔力伝導物質が使われるそうだ。


 手に入れたマリオネット人形に付いていた糸は、イモムシ系モンスターの糸を使っているらしい。


 モンスターの形をしたマリオネット人形が存在し、ぬいぐるみでもゴーレムが作れ、魔石を埋め込むことも考えなくて良くなったことから、糸そのものをゴーレムにできるのか試してみたくなったのだ。


「ルシャ様、マリオネットの糸をどうするおつもりですか?」


「糸のような細い物をゴーレムにできないかと考えたのだ」


「糸をゴーレムにですか? 作る意味があるのでしょうか?」


「できるかどうかの実験だから、今作る物に意味はないな。ゴーレムのスキルの限界を調べているだけだ」


「なるほど、自分の限界を把握するのはとても良いことです」


 早速、魔石が魔力に変換される詠唱でゴーレムを作ると、問題なく作ることができた。


「意外とあっさりできたな」


「ルシャ様、このゴーレムはどのような動きをするのでしょうか?」


「確かにどう動くのか気になるな。ハイト、起動!」


「何も起こりませんね」


「ハイト、右手を挙げて! ハイト、前進!」


「やはり、ダメなようですね」


 触ってみると糸は硬くなっている。


「ゴーレムは作られているが、手足といったパーツがないので動かないのかな? それならこれはどうだ」


 糸を結び、頭と手足らしきものをつけた形にして、もう一度ゴーレムを作る。


「ハイト、起動!」


 今度は糸が立ち上がったので、手足の確認や歩行などを試してみた。問題なく動くことから、人型になっていればゴーレムとして認識されるようだ。


「これはこれでありだが、もっと面白い動きを期待していたのだが」


「面白いとは?」


「例えば、蛇の動きやイモムシの動きだな」


「そのあたりは、詠唱でなんとかなるのではないでしょうか?」


「詠唱か、試してみよう」


 とは言ったが、どうする? 詠唱の量の関係で大きな魔石をこの実験で使うのはもったいない。強制停止は糸だから不要だろう。


 蛇の動きのゴーレムを思い浮かべると詠唱が降りてきたので、唱える。


 糸の塊よ、我が手によって生まれし者。

 汝の名はシー、我が意志の下にあれ。

 汝に仮初めの命を与えし対価として我が魔力を汝に分け与えん。

 汝は我が命令を忠実に従え。

 我が敵は汝の敵、我が友は汝の友。

 秘められし力、今解き放たん。魔石の脈動、その身に巡り力と成れ。

 深き大地の底より這いずる者よ、蛇のごとく蠢きて進まん。

 今、汝の目を開け、汝の心を燃やせ。

 シーよ、汝我の呼びかけに応じ起動せよ。


「シー、起動!」


 シーは起動するととぐろを巻き、糸の片方が頭のように持ち上がった。


「成功だ!」


「とぐろを巻いて、確かに蛇に見えますが、気持ち悪いですね」


 気持ち悪いのか……。


「シー、机の端まで移動!」


 シーは蛇のような動きで机の端に行くと、またとぐろを巻いた。


「モンスターの動きを真似たゴーレムを作ることができるということだな」


「そのようですね。馬の形をしたゴーレムを作れば、ルシャ様でも乗れる馬ができますね」


「馬か! 確かに俺の魔力のせいで馬も体調が悪くなるから良い案だな」


「ルシャ様の魔力を浸透させた真っ白な石で作りましょう! 間違いなく素敵です!」


 リリアナがいつになく興奮しているな。白より黒のほうが好きとは言いづらい。


「まあ、馬についてはもう少し研究をしてからだな」


「どうしてでしょうか?」


「いちいちゴーレムに動作を命令するのが面倒だからだ。ある程度自動で動く研究もしてみたい」


「……なるほど、想像してみましたが、確かにいくら白馬に乗っても、大声で動きを指示するのは今ひとつです。普通のゴーレムもそうですが、動きを声で指示すると、敵に動きが丸分かりですしね」


「確かにその問題も残っていたな」


 まだまだ問題は山積みだが、一歩ずつ先に進むのを実感したのだった。

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