第〇四四話 情報収集
この世界に関する書物を読みながらルクスに学習させたり、ゲームで思い出したことを記憶させたりしているが、さすがに数日で飽きた。
やはり、俺だけでゴーレムを生成できないというのはもどかしいな。
何か作れないかと考えていたら、机の上にあったマリオネット人形用の糸に目がいく。
そういえば、糸のみで蛇のゴーレムは作れた。つまり、この糸を使って情報収集用のゴーレムを作ることができれば量産可能というわけだ。
糸だけで作る情報収集ゴーレム……蛇でもいいような気がしてきたが、もう少し考えよう。
……蜘蛛ならいけるか? 小さく目立たず壁など自由に移動できる。ダメ元でやってみよう。
足になる八本の短い糸を用意して、それらを結ぶ。
……短すぎて結べなかった。結んでから切るべきだったようだ。とりあえず八本の糸を並べ、魔石を置いて詠唱する。
詠唱に引っ張られたのか分からないが、魔石が蜘蛛の胴体のようになり、体長五ミリの蜘蛛のゴーレムが生成された。
「ゼプト、起動!」
ゼプトは蜘蛛のように足を動かし歩く。蛇の時もそうだったが、詠唱に生物の種類を盛り込むと、しっかりその生物として動いてくれるようだな。
学習機能をつけられるようになったので、リリアナが言っていた馬を作ることも可能になった。問題は馬の形をどうやって作るかだけど、図面を引いてアルカリオに丸投げしてみるのも手段だな。大きなサイズのゴーレムになるので一度父に相談してからにしよう。
それでは量産する前に性能を試してみるか。
眼鏡をかけてゼプトの視界を共有する。うまく生成出来ているな。
ゼプトが壁を登れるか試してみると、蜘蛛のように登っていく。さすがに糸は出せないが情報収集用としては十分だろう。
一通りの機能を試してあることに気づく。
量産したあと、どうやってばら撒こうか?
小鳥よりも隠密性は優れているが機動性が悪すぎる。情報収集だから各地の貴族の拠点に潜伏させないと意味がない。
ゲームでは転移魔法や飛行魔法などはなかった。今思えばアナログな移動手段ばかりだったな。
現状としては鳥のゴーレムに乗せて運ぶか、誰か人にくっつけて運ばせるしかない。
父やリリアナの隊にくっつければ帝都まで運べたのは惜しいが、リリアナには内緒にしなければならないのが難しいところだ。
取りあえず、輸送手段はあとで考えるとして蜘蛛のゴーレムだけは量産しておこう。
◆ ◆ ◆
「……ん?」
目覚めるとベッドの上だ。というか、俺はいつ寝たんだ?
「ルーちゃん、大丈夫!?」
母が泣きながら俺を抱きしめる。いったい何が?
「母様、どうしました? 俺は確か研究所にいたはずなんですが」
「シアが研究所で倒れているのを見つけてベッドに運んだのよ」
シアは専属メイドの一人で、ブロンド髪のシニヨンヘアに青い瞳の母性高めのセクシー系のお姉さんだ。
「シアは僕に接触して大丈夫でしたか?」
「私は大丈夫というか、ルーシャス様にどれだけ触れても問題なかったので、奥様に知らせたのです」
どれだけ触れてもとはいったい……。
「そうよ、ルーちゃんから魔力を感じなくて驚いたわ。いったい何をしていたの!?」
もしかして、ゴーレムを作りすぎて魔力がなくなったのか! 自分でも初めての経験なので気絶したのも分からなかったぞ。
「いろいろな実験をしていたら魔力を使いすぎたようですね。心配をかけてすみません」
「魔力の使いすぎ……ルーちゃんが?」
「多分間違いないと思います」
「それなら大丈夫かしら? でもヴェルナー先生に使いを出しちゃったし、本当に使いすぎなのか分からないからしばらく安静にしているのよ?」
フリーダが来るのか……リリアナ不在で大丈夫か?
「分かりました。ところで、今の俺の魔力って少ないんですか?」
俺が質問すると母はベッドに入って来て、なぜか俺を抱きしめる。
「そうね、ほとんど感じないわ」
「そうですか、俺の魔力にも底があったのですね」
母の抱きしめ攻撃から逃れようとするが、体に力が入らない。レティシアはこんな状態で生活しているのだろうか?
「ルーちゃんはもっと体を大事にしなさい」
「これでも健康には人一倍気を使っているつもりなんですが」
「そうじゃなくて、なんて言うかな。ルーちゃんは自分の体もゴーレムみたいに考えているところがあるわ。ゴーレムと違って体の代わりはないの分かっているかしら?」
驚いたな。確かに自分の体ではないという思いはどこかにある。中身がルーシャスでないということに本当に気づいていないのだろうか?
「そんなつもりはないのですが、気をつけます」
「まあ、いいわ。今夜はこのまま寝ましょう」
「えっ!? 母様もですか?」
「もちろんよ! こんなチャンス初めてだから拒否は許さないわ」
「初めて?」
「あら、ルーちゃんに話してなかったかしら? ルーちゃんはお腹の中にいる時から魔力が強くて、生まれてすぐ離されてお乳をあげる時以外は一緒にいられなかったのよ?」
「そうだったんですね」
「それじゃあ、シア。あとはお願いね」
「畏まりました」
メイドのシアが明かりを消すと、母は俺を抱きしめたまま寝てしまう。
最近、ルーシャスの母であって俺の母でないと自分に言い聞かせている。それでも、この温もりに触れるたび、まるで本物の家族のように感じてしまう。
ゲームの中のキャラクターにすぎないはずなのに、どうしてこんなにも心が揺れるのだろう。
ルーシャスが死ななければレティシアは救えない。レティシアを救わなければ世界が終わる。シャドウブレイズ領も、そして家族も守れない。
頭では分かっている。ルーシャスを犠牲にすることが、この世界を救う唯一の道だと。
答えの出ない迷いを抱えたまま、母の優しい匂いに包まれ、静かに目を閉じる。まるでこの瞬間だけは、すべての葛藤から解き放たれたかのように。
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