第〇〇三話 能力
結局、主治医のフリーダは、一週間も俺の身体や記憶を調べ、異常なしと判断して帰っていった。
ようやく自由に動けるようになったのだが、初めて鏡で自分の顔を見て驚いた。鏡に映ったルーシャスは、病弱で体はやせ細っているものの、黒髪にタンザナイトのような紫色の瞳を持つ、かなりの美少年だった。
帝国一の大罪人の姿がこれだとは……もう少し厳つい感じを想像していたのだが、レティシアの婚約者だったことを考えれば、ありなのかもしれない。
ルーシャスの体になってから寝ることしかできなかったので、いろいろ考えていたところ、いくつか問題が出てきた。
まず、二十メートルのゴーレムをどうやって作るか考えなくてはならない。ゲーム上は一文で処理されていたが、実際に自分が作らないといけなくなったわけだ。
そして、最大の問題はレティシアに惚れられないといけないということだ。ゲームの中で彼女の日記を見た結果、ルーシャスを愛していたことが判明した。レティシアと対峙したときのルーシャスの気持ちは分からないが、彼女は少なくとも、その後の人生で誰も愛することがなかったわけだ。
レティシアが全ての人間に冷たい理由が分かったが、そこまで愛したルーシャスをどうして殺さなければならなかったのかも謎だ。まあ、邪神を倒すにはレティシアの回復魔法が必須なので、仮にルーシャスと逃げたとしても、数年後、世界は邪神に滅ぼされるだろう。
いろいろなプランを考えてみたが、大前提として邪神を倒すにはレティシアが必要である。そして、そのレティシアの回復魔法はルーシャスの命を奪うことで開花する。つまり、俺が殺されなければ世界は滅びる。
リリアナについては一度しか仲間にできたことがないため、しばらく様子を見るつもりだ。ルーシャスの記憶を探っても、物心がついたときには侍女だったので、今のところ彼女の目的は分からない。
まあ、殺されてレティシアの能力が開花するのも謎で、はっきり言って分からないことだらけだが、二年後の十二歳でレティシアと婚約させられることは分かっている。つまり、それまでにゴーレムをある程度使えるようになる必要がある。
レティシアと出会うまで、まだ二年もあるのはじれったい。しかし、好かれるため、出会いを最高にする必要があることを考えると、二年はとても短い。何か思いつかなければ最悪、レティシアが回復魔法を使えないまま世界が終わる可能性もあるのだ。
責任重大だが、レティシアの日記は書いてあることの半分くらいは分からない。書いてあることが抽象的すぎる。無口で無表情な絶世の美女というイメージからかけ離れすぎているが、自分でなんとかするしかないな。
かなりのプレッシャーではあるが、まずはゴーレムをなんとかすることから始めよう。
◆ ◆ ◆
リリアナに頼んで小型のモンスターの魔石を手に入れてもらった。高さ二センチ、直径一センチほどの濃い紫水晶の結晶といったところだ。このサイズの魔石は一般的によく魔道具の動力として使われる。簡単にいえば電池みたいなものだな。
そういえば、ゲーム内で魔石はモンスターの体内で魔力が結晶化したものという設定があったはずだ。魔力過剰症候群の俺の身体は多くの魔力で溢れているわけだが、モンスター化して暴走する可能性もあるのだろうか? それなら婚約者のレティシアが殺す理由ができるわけだが、自分がモンスター化して殺されるのは嫌だ。
ゲーム内で人間がモンスター化するなんてイベントは無かったが、そのあたりも調べていく必要があるだろう。
さて、魔石自体はゲームでお馴染みだが、これをさらに細かく砕けるかはゲームではできないことなので、とても楽しみだったりする。
用意してもらったトンカチで魔石を叩いてみると、小さな魔石は意外と簡単に砕け、さまざまな大きさになった。
魔石で思い出したが、二メートルほどのゴーレム製作に必要な魔石のサイズは高さ七センチ以上だ。そのサイズの魔石は大型に近いクラスのモンスターから得られる。手に入れるのも困難であるため、ゴーレムのスキルが外れスキルと言われる理由の一つだ。
次に、ゴーレムを製作するための詠唱だ。一般的なストーンゴーレムを素材とした場合、次のような感じになる。
クリエイトゴーレム。
石の塊よ、我が手によって生まれし者。
汝の名は○○、我が意志の下にあれ。
汝に仮初めの命を与えし対価として我が魔力を汝に分け与えん。
汝は我が命令を忠実に従え。
我が敵は汝の敵、我が友は汝の友。
汝は我が盾となり、我が剣となれ。
今、汝の目を開け、汝の心を燃やせ。
○○よ、汝、我の呼びかけに応じ起動せよ。
魔石を素材の上に置き魔力を流しながら詠唱するのだが、○○にはゴーレムに付ける名前を入れる。一度作れば、次回からは魔力を流し込み動きを指示すると動かせる。
この方法で作ると魔石がゴーレムの額に埋め込まれるが、魔石を破壊されるとゴーレムは機能しなくなる。弱点剥き出しのゴーレムが戦闘に使えるわけもなく、土木作業用にしか使えないハズレスキルとされる最大の原因がこれだ。
しかし、ルーシャスが作った二十メートルのゴーレムは七日間動き続けていたため、弱点が剥き出しになっていなかったと考えられる。つまり、ゴーレムの製作方法はアレンジ可能だと証明されているのだった。
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