第〇三五話 映像
分家についてはムーンブレイズ家以外の記憶がないので、会ったことがないのだろう。
ルーシャスが生まれたことで、分家は二分したそうだ。当家を入れて三対四で不利に見えるが、上位三家に下位四家が反抗している形なので、今のところ問題はない。ただし、ダスクブレイズ家には注意したほうがよいとのことだった。
その辺りは両親に任せて、今は研究の続きだな。
白色と黄色の魔石を取り出す……そういえばゴーレムに使う素材をどうするか考えていなかったな。
レンズ的なものはないから、ガラス的なもので代用するべきなのだろうが、今は何も用意していない。
レイラに水晶球を用意してもらえばよかったが、今あるのはさまざまな大きさの魔石球だけだ。
魔石球をそのまま使えたら楽なのだが、とりあえずやってみるか。
取りあえずブルーの魔石を取り出し、その横に白色と黄色の魔石を並べる。
グリムノートは「音ができるのなら映像は難しくない」と言っていた。つまり詠唱の『二つで一つの星が織りなす旋律、汝の魂に響き、力を宿せ』の部分にヒントがあるということだ。
『二つで一つ』は送話口と受話口の繋がりを表しているわけだが、今回は瞳に使う青い魔石と……そういえば受信側を用意していなかったな。
「リリアナ、眼鏡なんてないよな?」
「度なしでよろしければ用意できます」
「それで頼む」
「畏まりました。少々お待ちください」
リリアナが眼鏡を取ってきてくれる。持って来た眼鏡は黒縁メガネだった。
「よくこんな眼鏡を持っていたな」
「変装用ですね」
変装……何のために? まあ、その辺りは深堀しないでおこう。
VR眼鏡のように、眼鏡のレンズの中に映れば使いやすいはず。
これで道具はそろったので詠唱を考えるだけだ。映像を飛ばすゴーレム……よし。
我が手によって生まれし者。
汝の名はアンク、我が意志の下にあれ。
汝に仮初めの命を与えし対価として我が魔力を汝に分け与えん。
汝は我が命令を忠実に従え。
我が敵は汝の敵、我が友は汝の友。
秘められし力、今解き放たん。魔石の脈動、その身に巡り力と成れ。
二つで一つ、光の粒子が織りなす幻影、汝の眼に宿り、世界を映せ。
今、汝の目を開け、汝の心を燃やせ。
アンクよ、汝我の呼びかけに応じ起動せよ。
白色と黄色の魔石は魔力に変換され、混ざり合って青色の魔石と眼鏡に吸い込まれていく。
「アンク、起動!」
起動はしたようだが見た目は変わらないので、取りあえず眼鏡をかけてみる。
「――! 成功だな。リリアナ、この青い魔石を持って廊下を歩いてみてくれるか?」
「畏まりました」
リリアナが廊下へ出ると映像も廊下に変わり、リリアナと一緒に移動しているのが分かる。目の向きを変えられるかなと考えると、映像が回転してリリアナの顔が映った。
映像は三百六十度見ることができるようだなと思った瞬間、目の前に床が迫る!
今のは驚いた! リリアナが床に落としたのだろう。映像がくるくる回転して気持ち悪い。
壁にぶつかり止まったので助かったが、映像酔いしてしまいそうだな。
リリアナが追いついたのか足が見えた……。これは運用に気をつけないと変態扱いされてしまいそうだ。
「ルシャ様、申し訳ございません。落としてしまいました」
「魔石が転がってかなり気持ち悪かったけど、大丈夫だったよ。次はゴーレムに組み込んでみよう」
「どのように組み込むのでしょうか?」
「それが問題だな。映像は眼鏡で良いとして、音も眼鏡をかけると聞こえたほうが良いんだよね」
「確かに受話口を耳に当てるのは手間ですね」
「白いゴーレムのプティに追加してみよう」
プティを取り出して眼鏡を乗せる。魔石はどうする?
眼鏡と青色の魔石はすでに繋がった状態だ。そのまま詠唱で組み込めればラッキーなので、音の分の黄色と緑色の魔石のみで試してみるか。
詠唱を考えると、頭の中に降りてくる。
リコンフィギュアプティ。
我が手によって生まれし者。
汝に新たな命令を加える。
二つで一つの星が織りなす旋律、汝の魂に響き、力を宿せ。
二つで一つ、光の粒子が織りなす幻影、汝の眼に宿り、世界を映せ。
プティよ、汝我の呼びかけに応じ再起動せよ。
魔石は魔力に変換されてゴーレムと眼鏡に吸収されると同時に、ゴーレムに長方形の青い目ができた。
「上手くいったのか? プティ、起動!」
プティがゆっくり立ち上がったので眼鏡をかけると、プティからの映像が確認できる。
プティを床に置いて歩かせてみると、映像も移動したので成功したといえるだろう。
「リリアナ、プティを持って廊下で話しかけてくれるか?」
「畏まりました」
リリアナがプティを抱えて廊下に行くが、胸しか映っていない。そういえば、これって目のついている方向しか見えないのか?
視点を移動させてみると、やはり三百六十度見ることができる。ゴーレムの表面からなら、どこからでも見ることができるな。
『ルシャ様、聞こえますか?』
リリアナの声が聞こえる。骨伝導イヤホンを使っている感覚だな。
これでゴーレムを遠隔で操作する手段を手に入れたわけだ。あとはどのくらい離れていて使えるかだな。
「ルシャ様、どうでしたか?」
「しっかり聞こえたよ」
「会話できると、ルシャ様を連れて行きにくい人混みにも連れて行けますね」
「……確かにそうだな。そのゴーレムも今度作ることにしよう」
「それがよろしいかと。そういえば、先ほど私の赤い下着は見えましたか?」
「黒じゃなかったか?」
「……やはり見えていたようですね。高さの低いゴーレムは、変な噂が立つと困りますので外に出さないようにお願いします」
「……もちろん分かっている」
やはり女の勘が鋭いというのは本当のようだ。
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