第〇一九話 白いゴーレム

 素材に俺の魔力を浸透させることに成功したわけだが、この木製のゴーレム、スムーズに動きすぎなような……。


「リリアナ、ウッドゴーレムというのはここまでスムーズに動くのか?」


「若干動きが早いぐらいで、ほとんどストーンゴーレムと変わらないです。このようなスムーズな動きのゴーレムは初めて見ました……」


 リリアナはそう言って考え込んでしまう。それだけ凄いことだと判断し、次の実験に移る。


 今度はタイニーと同じ形状の石で試してみよう。


 クリエイトゴーレム。

 石の塊よ、我が手によって生まれし者。

 汝の名は、プティ。我が意志の下にあれ。

 汝に仮初めの命を与えし対価として我が魔力を汝に分け与えん。

 汝は我が命令を忠実に従え。

 我が敵は汝の敵、我が友は汝の友。

 汝は我が盾となり、我が剣となれ。

 今、汝の目を開け、汝の心を燃やせ。

 プティよ、汝、我の呼びかけに起動せよ。


 ところが、魔石は光を放ったあと、破裂音と共に粉々に弾け飛んでしまう。


「失敗か……石に魔力が浸透していないということだな」


「ルシャ様、確かマリオネット人形の方が後から置いたと思うのですが?」


「そうだ。おそらく、素材によって浸透のしやすさが違うのだろう。考えられる要因は重さとかかな」


「なるほど、木より石の方が重たい分、浸透しにくいということですか」


「その辺りも今後調べていく必要があり、現段階ではその可能性が高いだろう。リリアナに一つ尋ねたい。俺が魔法をまだ使えない理由は理解した。ただ、ゴーレムを起動させる際に魔力を流しているが、あの感覚で魔力を石に流して浸透させることは可能だろうか?」


「確かに詠唱後やゴーレムを操る際に流されていますね。素材に魔力を浸透させるという考え自体ないので何とも言えませんが、ゴーレムを作る際、魔石が光った後、ゴーレム全体を包む淡い光はルシャ様の魔力でした。その後、魔力がゴーレム全体に吸い込まれていることから、浸透していると言っても良いのではないでしょうか」

 

「よし、試してみるか」


 石を手に取り魔力を流してみる。俺は魔力を感じることができないので、実際に流れているのかも不明だ。しかし、五分ぐらい経ったところで変化が起きた。


 採石場で用意してもらった深成岩、さらに言えば墓石などでよく見る花崗岩と呼ばれる石で、石材としては黒御影石と呼ばれる石だ。


 黒御影石というだけあって全体的に黒いのだが、俺の魔力のせいなのか段々白っぽく……いや、真っ白になった。



 

「……リリアナ、どう思う?」


「ルシャ様の魔力を受けて色が変色したように見えましたね」


 レティシアが白くなった石を持って匂いを嗅いでいる。

 

「ルー君の匂い!」


 臭い匂いではないとポジティブに考えよう。


 気を取り直して、改めてゴーレムを作ってみよう。


 クリエイトゴーレム。

 石の塊よ、我が手によって生まれし者。

 汝の名は、プティ。我が意志の下にあれ。

 汝に仮初めの命を与えし対価として我が魔力を汝に分け与えん。

 汝は我が命令を忠実に従え。

 我が敵は汝の敵、我が友は汝の友。

 汝は我が盾となり、我が剣となれ。

 今、汝の目を開け、汝の心を燃やせ。

 プティよ、汝、我の呼びかけに起動せよ。


 呪文を詠唱すると魔石は光り、今度は割れることなくゴーレム全体に淡い光が行き渡る。しばらくして光が収束し、魔石は頭部に埋まり、真っ白なゴーレムが出来上がる。


「プティ、起動!」


 起動すると、プティは起き上がる。一瞬某ロボットアニメを思い浮かべてしまった。そのうち似たようなゴーレムが作れないか試してみるのもありだろう。


「プティ、右――!」


「――!」


 プティは右手を上げるという指示を出す前に、右手を挙げたのだ!


 もしかして、声に出さなくても指示を出せるのではと思い、心の中で動きを念じる。


「――! ルシャ様、もしかして、口に出さなくても指示を出せるのでしょうか?」


「どうやら、そのようだ。心の中で指示を出すだけで指示通りに動く、これは凄い発見ではないか?」


「仰る通り、ゴーレムの三大弱点である、魔石が剥き出し、膨大な魔力が必要、声に出すので動きがバレバレのうちルシャ様は二つを克服したことになります」


 膨大な魔力が必要というのは克服したとは言いにくいが、魔石が剥き出しをなんとかできれば、一歩前進といえるな。


「動きもタイニーよりスムーズに動いていることから、素材に魔力を浸透させるというのがいかに重要なことであるのか分かるな」


「そうですね。ここまで顕著に表れるとは驚きです。ただ、ルシャ様以外できないでしょうね」


「そうだな、そこは今後の課題だな」


 役に立たないと言われているゴーレムのスキルに未来が見え、二十メートルのゴーレム製作にも一歩近づいたことになるのだった。

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