第〇〇一話 転生
「……助かったのか?」
目を開けると天蓋付きのベッドに寝かされていた。
天蓋付きのベッドで眠ったことなど一度もないはずなのに、初めてではないような不思議な感じがする。
それにしても、頭がズキズキと痛む。あれだけの事故だったので確実に死んだと思ったが、無事だったようで安心した。
頭は痛むけど、体は動くようなのでゲームの続きをしたいところだが、いったいここはどこだ? まるで貴族の部屋のような造りだな。
「ルシャ様! お目覚めになられたのですね、良かったです!」
突然、ホワイトブロンドの長い髪にペリドットのようなグリーンの瞳をしたメイドが抱きついてきた! とてもいい匂いで柔らかく、結構いい物をお持ちのようだ。メイド服を着ていなければ、ゲームに出てきたキャラそっくりの美しさなのだが。
「……誰?」
「ルシャ様、リリーが分からないのですか!? 頭を打ったのですから、起き上がってはダメです!」
驚いて離れた彼女の耳はゲームで見たエルフのように長く、名前もゲームのキャラに近い……っていうか俺の手ってこんなに小さかったか? 完全に子供の手じゃん! そもそもルシャ様ってなんだ?
心配そうに俺をベッドに寝かせるリリーの姿を見て、この身体がルシャと呼ばれる子供の体だということが分かったので質問することにする。
「リリー? 俺……僕って誰?」
「……ルシャ様! ご自分の名前も思い出せないのですか!?
視線が気になるが、何とか誤魔化せたようだ。
「シャドウブレイズ公爵家、嫡男ルーシャス? ……ルーシャス・シャドウブレイズだって!?」
驚いて起き上がるが、リリーに寝かされてしまう。
「やっぱり、木登りなんてさせるんじゃなかったです! 奥様は旦那様と帝都に向かわれていますし、どうしましょう……」
木登りして落ちたのか? ルーシャス君はいったい何をしたかったんだ……。
「リリー、頭がまだ痛いから、もう少し寝るよ」
「お医者様が到着するまで、絶対安静にしていてくださいね!」
頷くと、リリーは部屋から出て行った。部屋の扉が開けっ放しなんですけど?
まあ、少し整理しようか。
リリーは俺のことをルーシャス・シャドウブレイズと呼んだ、つまり俺はゲームの世界に転生した? というのは都合がよすぎるか……せいぜい、現在、俺の体は生死を彷徨っているとかで、夢の中というのがオチだろう。
まあ、いい。夢なら夢で楽しませてもらおうか。
俺がルーシャスということは、オープンワールド・アクションRPG セブン・レリックス~失われた世界の秘宝を求めて~、通称、セブレリの中にいるということだ。
総出荷本数四億本超えの超大作で、世界シンクロリアの住人の一人となり、その生涯を疑似体験するゲーム。プレイヤー以外の全てのキャラクターはAIで動いていて、同じエンディングにたどり着くのは不可能と言われるぐらい、無限にエンディングが存在する。
とにかく、やり込み要素が多い。最初は主人公の勇者が死ぬまでの生涯を体験する内容で、邪神を倒し、ヒロインの誰かと結ばれるのが通常の流れだ。
面白いのは、条件を解放してクリアすると、物語に登場する別のキャラクターの生涯を体験できるようになるところだろう。
ヒロインはもちろん、宿屋の主人や盗賊など、全てのキャラクターを操作できるようになるのだが、その解放条件は謎に包まれている。レティシアの日記を見たことが、ルーシャスの解放条件だったのかもしれないな。
レティシアの日記によると、ルーシャスは大きなゴーレムを操り、帝都まで町を破壊し続けて進軍したそうだ。その日記からはレティシアの悲痛な思いを感じ取ることができた。
ゴーレムを使ったということは、ルーシャスのスキルはゴーレムなんだろう。ゲーム開始時、一つのスキルと一系統の魔法が与えられ、そのスキルや魔法を育てて攻略していく。ゴーレムのスキルは残念ながらこの世界ではハズレスキルだ。主に土木工事としてしか使用されていない。とにかく燃費の悪いスキルで、普通のゴーレム使いは二メートルサイズのゴーレムを動かすのに十分間ぐらいしか魔力が持たないのだ。
二十メートルもある巨大ゴーレムを七日間動かし続けたという、ルーシャスの保有魔力はいったいどのくらいあるのだろうか?
この体の持ち主、ルーシャス君はどうなったんだろうか? 記憶がないとさすがに本人じゃないとバレる。現在、両親は帝都に行っているらしいので、記憶が戻らないようなら、リリーに聞くしかないな。
目を瞑って考えていると、一定間隔でメイドが様子を見に来ている。このために扉を開けっ放しにしたのか……自分の問題を解決しないと、自由に動くこともできないな。頭を打ったからなのか、子供の体なのかは分からないが、眠くなってきた。
そういえば、レティシアの日記に書いてあった興味深い内容として、ルーシャスとレティシアの婚約は無能同士の政略結婚だったと書いてあり、意外にもレティシアは婚約当時、回復魔法が発動しない欠陥品だったようだ。邪神との戦いで見せた驚異的な回復魔法どころか、普通の回復魔法さえ使えなかったとは驚きだが、欠陥品同士だから婚約が決まったと考えると、今は感謝しかないな。普通に過ごしていれば、いずれ会えるはずだ。本当は今すぐにでも会ってみたいが、ここは我慢するしかないだろう。
もう一つ興味深い内容として、どうやら俺は
ただし、一回目の時期を間違えると、レティシアは回復魔法を使えないことになるため、失敗しないようにしなければと思いながら、眠りに落ちたのだった。
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