第〇二四話 マリオネット
目覚めるとフリーダはいなくなっていて、リリアナがいた。
「ルシャ様、お身体の調子はいかがですか?」
「リリアナ、おはよう」
体を起こしてみると、動くようだ。
「大丈夫みたいだな」
「良かったです。魔力も落ち着いてきたようなので安心しました」
「今は落ち着いているのか?」
「少し前に比べればという意味です。それでも、この屋敷にはまだ誰も近寄れないでしょう」
「そうか……フリーダはどうした?」
「疲れて別室で眠っています。ルシャ様、食事は召し上がれそうですか? また少し瘦せてしまいましたね」
「そうだな、お腹は空いていないが、何か軽い物を頼む」
「畏まりました。今お持ちします」
リリアナは食事を取りに部屋を出ていった。
◆ ◆ ◆
おかゆとスープを食べたあと、研究室に行こうとしたが、リリアナに止められてしまったので、今日もベッドの上決定だな。
特にすることもないので、もらった魔石に魔力を浸透させてみようと思い、近くにあった革の巾着袋を持ってきて中を見る。
「……」
「ルシャ様、どうされました?」
「魔力を浸透させようと思ったのだが……」
巾着に入った魔石を全て出す。
「すべての魔石の色が虹色に――!」
そう、中には無色の物だけでなく色付きの魔石もたくさんあったのに、すべての魔石が虹色に変化していた。
「これは俺のせいだよな?」
「ルシャ様の傍にあったので影響を受けたのでしょうね」
リリアナは思い出したように、ベッドの下に入れておいたゴーレム用の石を取り出す。
「やはりこれもそうですね」
黒かった石はすべて真っ白に変化していた。
「リリアナ、例えばいつも寝ているこのベッドは魔力が浸透していると思うのだが、これを使ってゴーレムを作ったりできると思うか?」
「ルシャ様のベッドは最高級のマホガニーの木でできているので作ることは可能です。しかし、木材はもともと魔力との親和性が高く、魔法の杖や道具などに使用されていることから、ベッドをわざわざ使わなくても指定の木材で作らせた方が早いと思います」
そうか、確かにマリオネット人形はすぐに魔力が浸透していた。重さによって浸透するスピードが変わると思っていたが、もともと素材が持つ魔力との親和性も関係があるのかもしれないな。
「なるほど、そういうことなら作る方向で行くことにしよう。ところで、マリオネット人形というのは、いろいろ種類があるものなのか?」
「そうですね。使用目的がゴーレムの実験だったため、購入してきたのは戦闘用に使う雑な作りのタイプですね」
「それなりにできていると思ったが、あれで雑なのだな」
「壊れることを想定しているので、パーツを安く交換できるそうです。マリオネットのスキルを持った人の大半は劇場での人形劇を目指すので、そちらの人形は凝った作りになっています」
「人形劇があるのか?」
「帝都ではさまざまな舞台が行われており、人形を使った舞台もかなり人気があるそうです。最高峰の人形劇は等身大の人形を操るそうで、人がやる舞台より動きが多彩で見応えがあるそうです」
「スキルで操るからアクロバティックな動きができるということだな」
「そうですね。モンスターなども人形で再現できるので、冒険劇や英雄譚などが特に人気みたいですね」
「ん? モンスターの形の人形もあるのか?」
「もちろんです。等身大では難しいですが、小さなサイズの人形劇では、ドラゴンなどの大きなサイズのモンスターも出てくるそうです」
「なるほど、小さな人形劇ならではの表現もあるのだな。一度見てみたいが、まだ帝都は難しそうだからな」
「そうですね。レティシア殿下がいらっしゃったことで、魔力を体に貯めなければ体調が良くなると証明されましたので、魔力を消費するゴーレムの研究を頑張りましょう」
ゴーレムの研究に対してりリリアナが協力的になったのは、そういうことか。
「そうだな。木製ゴーレムの動きが良かったことから、そっちの研究も進めて見ることにしよう。もしかしたら、ゴーレム使いによる新たな劇を、なんて可能性もあるかもしれないしな」
「ゴーレムのスキルを持った人が劇をですか? 糸を必要としない分、さらに面白い動きが見られそうですね」
「とりあえず、さまざまなタイプの人形を購入してもらえるか? モンスターの形というのも見てみたいな」
「畏まりました。ただ、人形劇で使うようなタイプは帝都でしか購入できないため時間がかかります」
「帝都にしか劇場がないからか。ゴーレムの実験で使ったマリオネット人形はどこで購入したのだ?」
「魔道具店ですね」
「ただの人形に見えたが、魔道具なのか?」
「ルシャ様が早々に切ってしまった糸が魔道具ですね。マリオネットのスキルの者は糸に魔力を流して人形を操作しますので」
「あの糸がそうだったのか……」
糸が魔道具ということは、魔力を流しやすくする加工が施されているということか。
「切った糸ってどうしたっけ?」
「研究室に置いてあるはずです」
「そうか、魔道具になっているという糸にも興味が湧いてきた」
「後で持ってきますね」
「頼んだ。ところで、特注で人形を頼むとしたら帝都になってしまうのか?」
「ルシャ様の場合は魔道具である必要がないので、玩具店でドールとして発注するのが早いですね。近隣で腕利きがいないか一度調べてみます」
「ドールというのもあるのだな。やはり貴族の女の子が持っていたりするのか?」
「そうですね。着せ替え人形が圧倒的に多いでしょうか。高価な物は磁器で作られているそうです」
「磁器は割れそうだな。とりあえず研究は明日から再開することにして、発注する人形について考えることにしよう」
「今日は無理なさらないようお願いします」
「そうするつもりだ。早く魔法が使えるようになると良いのだが、どうしようもないからな」
「そうですね。ヴェルナー先生と頑張ってみましたが、まだ無理なようでした」
二人はいったい何を頑張ったのだろうか……。
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