第〇二一話 別れ

 母の機嫌が直ったところで、話を魔石に戻そう。


「魔道具士と入れ方が違うから、こうなったのだろうか?」


「それはないっス! ルーシャス様だからじゃないっスか?」


「俺だから?」


「その方が、なんかカッコいいスから」


 根拠はゼロのようだ。


「ルー君、これ欲しい!」


「いいよ」


 しまった! レティシアに言われて条件反射で返事してしまった!


「レティシア殿下、その石は一人の時に見ていただけますでしょうか?」


「分かってる」


 レティシアは天然なのか、賢いのか分からなくなってきた。


「ルーシャス様、これで試してみてほしいッス」


 ティファが渡したのは三センチの透明の魔石。中型サイズのモンスターから取れるサイズだな。


 魔石に魔力を浸透させると、先程と同じように虹色に輝く。


「レイラ様、取りあえず帰って加工するッス」


「……そうね。宝石にしたらどんな感じか見たいわね。姉さん、帰るわ」


「分かったわ。できたら報告するのよ?」


「もちろんよ」


 そう言って二人は急いで帰って行った。


「リリアナは今のどう思うかしら?」


「そうですね……ルシャ様が魔力を浸透させた石は、黒から白に変化しました。本来濃い紫色になる魔石も、何か特別な変化が起きたと考えるしかありませんね」


「ゴーレム用の黒い石が白に? レクスと相談した方がいいわね」


「それが良いと思います」


「リリアナ、例えばシアが傍にいるからとかはどうだろう?」


「レティシア殿下がですか? どう関係があると?」


 しまった! レティシアが聖女として覚醒するのは、俺が二度目の命を捧げた後だった! レティシアがいるから浄化したとかいう仮説は言えないな。


「シアが傍にいると、体調がとても良いのだ。それで特別な変化が起きたとは考えられないだろうか?」


「なるほど、確かにレティシア殿下が傍にいると魔力が抑えられて調子が良さそうですが……」


 誤魔化せたのだろうか?

 

「リリアナ? ルーちゃんの体調は、レティシア殿下がいるとそんなに違うのかしら?」


「最近で言いますと、数日起きに寝込んでおられましたが、レティシア殿下がいらしてから、一度も体調を崩されておりません」


「そんなに違うのね……結婚を急いだ方が良いのかしら……」


 母が呟く。嬉しい話だが、レティシアを聖女に覚醒させるためには、俺の命が必要だ。日記で俺のことは婚約者と書いてあり、記憶している幾つかの日記と内容が変わった結果、レティシアが聖女に覚醒しないまま世界が終わっては意味がない。結婚を急ぐようなら、そうならないようにレティシアが帰ってから動くしかないだろう。


「ルシャ様、レティシア殿下は明日帰られますので、今日の実験はここまでにして、ゆっくりされてはいかがでしょうか?」


「何!? シアは明日帰るのか?」


「お聞きにならなかったので?」


「来たのが突然すぎて、帰る日が来るということをすっかり忘れていた」


「ルーちゃん、ペンダントが間に合ったのは良かったけど、それは減点よ。最後までしっかり楽しませてあげなさい」


「分かりました。それでは」



 ◆ ◆ ◆



 取りあえず部屋に帰ろうとすると、レティシアは研究室に行きたいというので、研究室に向かう。


「あった!」


 レティシアはゴーレム初号機であるタイニーを取りに来たかったようだ。


「シア、どうせならシアの言うことも聞くようにやってみるか?」


「そんなことできるの?」


「所有者を増やすことができたはずだが、どうする?」


「やる!」


 さて、できるとは言ったが、成功するかは別だ。使うと思っていなかったので、呪文がうろ覚えなんだよな。


 リコンフィギュアタイニー

 我が手によって生まれし者

 汝に新たな命令を加える

 ここにいるレティシア・セレスティアルを命令者として加える

 タイニーよ、汝我の呼びかけに応じ再起動せよ


「タイニー起動!」


 タイニーは再び起き上がる。成功したか?


「シア、タイニーに何か命令してみて」


「タイニー、右手を上げて!」


 レティシアがそう言うと、タイニーは右手を上げた。


「おお! 成功した!」


 レティシアは楽しそうにタイニーを動かしている。


「ところでシア、こっちのプティの方が素早く動くが、どうする?」


「可愛くないから、いらない」


 色が違うだけじゃないのか!? 俺に女の子の可愛いを理解するには勉強が足らないようだ。



 ◆ ◆ ◆



 この後は部屋に戻り、のんびり二人で過ごし、翌朝レティシアは帝都へ帰って行ったのだった。


 別れ際、みんなの前で俺の唇にキスしていったのは問題ないのかは若干気になるところだ。


 おそらく、次に会うときはシアのために命を懸けなければならないので、それまでに覚悟を決めておこう。

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