第〇四二話 リリアナ不在
スヴェルは騎士団の訓練に参加したり、剣を振って鍛錬したりするようになった。アイギスはリリアナの指導で別の訓練しているようだ。
まさか創造主であるマスターを放ったらかしにするとは思わなかったが、リリアナによれば、不足している能力を学習している最中だということなので、しばらくは任せておくことにした。
しかし、そんな二体も今日は俺に張り付いている。
父とリリアナが不在なのだ。最近、俺の体調が安定していることもあり、父はリリアナを連れて帝都に行ってしまった。ちなみに母は宝石関係で忙しいらしく、今回はお留守番だそうだ。
以前から数か月ごとに帝都へ行っていたが、前回はルーシャスが体調を崩して残っていたところ、木から落ちる事件が起こったのだとか。
リリアナがいないので、シャドウブレイズ家の敷地からできるだけ出ないようにと言われている。
「ルーシャス様、アルカリオ殿がいらっしゃいました」
「ここに連れてきてくれ」
「畏まりました」
◆ ◆ ◆
メイドに連れられてアルカリオが入って来る。
「ルーシャス様、ご無沙汰しております」
「そこまで……二体のゴーレムを納入して以来か?」
「そうですな。二体のゴーレムは雰囲気が変わりましたな」
さすがアルカリオ。微妙な変化に気づいたか。
「父やリリアナが面白がっていろいろ教えているからな。以前よりかなり強くなったぞ」
「まさか、ゴーレムがこのような雰囲気を纏うとは思いませんでした」
「予想以上の仕上がりになってきたのは認めるが、今日はリリアナは不在だぞ? まだ帝都へ向かっている最中だろう」
「存じております。グリムノートからルーシャス様一人のときに渡すよう言われていた物を持って参りました」
「グリムノートから?」
そう言って俺の前に出した物は、三十センチ四方ぐらいの包みだった。
「開けてよいのか?」
「もちろんでございます」
包みを開くと、中から出てきた物は鳥の翼のような物がついた金属の箱だった。
「この翼のついた箱はいったい……」
「グリムノートからは、とっておきのサンプルを作ったと聞いています」
「これがグリムノートのとっておきか! 話を聞いてイメージしていたものとかなり違うから分からなかったぞ」
「ルーシャス様のゴーレムに合わせて形を変えたと申していました」
「わざわざ俺のために作ってくれたのか?」
「私も驚きましたが、そのようです。ルーシャス様のことを相当気に入ったようですな」
「それはありがたい話だ。アルカリオも届けてくれてありがとう」
「いえ、私もちょうど用事があったので」
「俺にか?」
「もちろんでございます。人形でひとつ思い出した物がございまして、ルーシャス様なら気に入りそうだと思い仕入れてきました」
アルカリオはさっきの包みと同じぐらいの包みと、さらに小さな包みを出した。
小さな包みを開けると、綺麗な彫刻と細工が施された、ティッシュボックスぐらいの木箱が入っている。続いてもう一つの包みを開けると、二羽の鳥の模型が入った鳥籠だった。
鳥の模型はかなり精巧に作られており、今にも動き出しそうだ。
「よくできた模型だが……ん?」
鳥籠の横に小さな取っ手があるので回してみると、カチカチとゼンマイを巻く音がした。
手を離すと、中の鳥一羽は翼を羽ばたかせて鳥籠の中を飛び、もう一羽は可愛く
「これはよく出来ているな! もしかして、この小さな箱も?」
「シンギングバードというオートマタで、最近人気のある二つを取り寄せてみました」
「かなりリアルに作られて囀りも心地よいのだな」
小さな箱に付いているゼンマイを回すと、上面がパカッと開いて中から小さな鳥が出てきて囀った。
「それにしてもよく出来ているな。この飛んでいるのは本物の羽に見えるような作りだ」
「ええ、本物の鳥の羽を使っているそうです」
「そうなんだな……なるほど、これをゴーレムに利用できないかということか」
「そのとおりでございます」
アルカリオ、おぬしも悪よのうとは言わないが、かなり助かるな。ゴーレムを生成することはできても、パーツを作ることができないので、アイディアはあっても実現できないのがほとんどだ。こういう珍しい物を持ってきてくれるのは非常に役立つ。
「取りあえず、鳥籠の方で試してみるか」
「私がいてもよろしいので?」
「前回、ゴーレムを生成しているし、今さらだ。それに、せっかく探してくれたのだ気になるだろう?」
「ありがとうございます」
鳥籠から飛び立つ方の鳥を分解してみると、バラバラになってしまったが問題ないだろう。
名前をパラにして視覚聴覚も眼鏡にリンクさせて生成した。
「パラ、起動!」
小鳥はちょこんと立った……可愛いな。
「パラ、飛べ!」
パラは翼を羽ばたかせ部屋の中をぐるくると飛び回る。
「本物の鳥にしか見えませんな」
「少し、外を飛ばせてみるか……」
眼鏡を装着し視覚と聴覚を同調させる。
「これはすごいな。パラ、窓から外に飛べ」
パラは窓辺で小さく羽ばたき、一気に空へと飛び立った。
俺はそっと目を閉じ、意識をパラへと重ねてみる。その瞬間、視界が切り替わり、パラの目を通した世界が広がった。庭の木々の緑が風に揺れる。まるで地上の俺とは別の存在になったような感覚だ。
耳に伝わってくるのは風を切る羽音。そのリズムが心地よく、地上の重力から解放された感覚に、心が躍る。
しばらく空を舞ったあと、部屋に戻ってきた。ゆっくりと意識を引き戻し、瞼を開ける。けれど、風を切る音や、空を漂うような感覚はまだ耳と体に残っている。部屋の中にいるというのに、心はまだ、空を飛んでいる気がした。
「アルカリオ、これはやばい物を手に入れたようだ」
「私も見ていて分かりました。我々商人たちにとって最も重要な情報が自由に手に入るということですな」
「そうだ。ただ、一つ懸念があるとすれば、小鳥では長距離の移動が難しいということだ」
「確かにそうですね。小鳥ではモンスターの餌になってしまう可能性もありますし、色もカラフルなので目立ちますな」
アルカリオの言う通り、偵察用なのに目立っては意味がない。この鳥は普通に観賞用にも飼われているらしいので、敵が多すぎるな。
「「――剥製!」」
「ルーシャス様とは気が合いますな」
「剥製は簡単に手に入るのか?」
「通常は珍しいモンスターなどを剥製にするため、かなり大変ですが、ルーシャス様の場合はその辺にいるような鳥でよいので手に入れるのは楽ですな」
「剥製の中というのはどうなっているのだ?」
「通常は簡単な骨格の周りに綿や藁などを入れて形を整えますが、ルーシャス様の場合、できるだけ元の状態に近い骨格が必要なのですよね?」
「その通りだ。いや、もしかして元の骨があればいけるかもしれない」
「それでしたら、まず皮と骨だけにして試してみましょう!」
「それで大丈夫だ。頼めるか?」
「お任せください!」
アルカリオの持ってきてくれたシンギングバードから新たな発想が生まれたのだった。
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