第〇二六話 詠唱
俺の体調も良くなってきたのでフリーダは帰って行ったが、回復するのにずいぶん時間がかかってしまったな。
研究室で早速詠唱の研究を始めよう。
「リリアナ、魔法で詠唱を変えるという研究は行われていたりするのか?」
「詠唱でございますか? もちろん、たくさんの学者が研究しておりますが、大した成果は出ていませんね」
「やはり研究され尽くされているのか……」
「研究が進まない原因として、詠唱を変更すると暴走する問題があります」
「暴走するのか?」
「はい、暴走した結果研究者に帰って来て亡くなる事例が……もしかして、ルシャ様は詠唱の研究をなさるつもりですか? 危険ですのでおやめください」
「研究者たちが研究していた魔法というのはどれも攻撃魔法なんだろ? 俺のゴーレムは魔法でなくスキルだ。仮に暴走しても大丈夫な素材で作るのはどうだ?」
「確かに攻撃魔法の研究でしたし、ルシャ様のはスキルですが……」
「この小さなぬいぐるみなら、暴走してもリリアナで何とかならないか?」
リリアナに買って来てもらい、魔力を浸透させたぬいぐるみを見せる。人型のぬいぐるみということは分かるが可愛くないな。
「これなら暴走しても問題ないですね。ただし、危険と判断しましたらすぐに中止なさってください」
「了解だ」
早速考えるか。今回はぬいぐるみのゴーレムを作るので、通常の詠唱ならこうなる。
布の塊よ、我が手によって生まれし者。
汝の名は○○、我が意志の下にあれ。
汝に仮初めの命を与えし対価として我が魔力を汝に分け与えん。
汝は我が命令を忠実に従え。
我が敵は汝の敵、我が友は汝の友。
汝は我が盾となり、我が剣となれ。
今、汝の目を開け、汝の心を燃やせ。
○○よ、汝我の呼びかけに応じ起動せよ。
うーん、パッと見た感じ改良できそうな部分は少ないな。変更出来そうな部分は六行目の『汝は我が盾となり、我が剣となれ』ぐらいか?
長いと思った詠唱だが、意外と無駄がないように見える。まずは短縮して生成できるか試してみよう。
汝の名はティグ、我が意志の下にあれ。
汝に仮初めの命を与えし対価として我が魔力を汝に分け与えん。
汝は我が命令を忠実に従え。
我が敵は汝の敵、我が友は汝の友。
汝は我が盾となり、我が剣となれ。
今、汝の目を開け、汝の心を燃やせ。
ティグよ、汝我の呼びかけに応じ起動せよ。
一行目を省いてみるが何も起きなかったので、順番に一行省いて詠唱を続ける。
「全く反応しないな」
「詠唱を省略するのはダメなようですね。詠唱の省略は研究し尽くされているので、難しいのではないでしょうか?」
「そのようだな……ん? 研究し尽くされている?」
「魔法における戦闘で詠唱の短さは生死に直結します。研究者は一文字短縮しただけでも表彰され、歴史に名を刻むでしょう」
「つまり、現在使われている詠唱は散々削られたものということになるのか?」
「そういうことになりますね」
つまり詠唱を削るのではなく、加えなければならないのか?
ゴーレム生成において性能的な詠唱は六行目の『汝は我が盾となり、我が剣となれ』だけだ。詠唱自体は王が騎士を任命する儀式に近いか?
しかし、いざ加えろと言われても『汝は我が盾となり、我が剣となれ』でゴーレムができるのに何と加えてよいのかさっぱり分からないな。
「削る前の詠唱が出ている本とかないのかな?」
「長い詠唱が出ている本は誰も買いませんからね。あるとしたら帝都にある図書館ぐらいでしょうか」
「そうか……」
やはり、自分で何とかするしかないようだな。ゴーレムの弱点を消す方向で考えてみるか。
一番の弱点は剥き出しになった魔石だな。しかし、暴走した時に魔石が見えていないと止めるためには徹底的に破壊するしかなくなる。
どこかの天空の城みたいに滅びの呪文を設定するか? 滅びとまではいかなくても強制停止のワードを設定するのはありだな。
……不思議な感覚だ、深く考えだした途端、頭の中に
魔石をぬいぐるみの上に置いて唱える。
布の塊よ、我が手によって生まれし者。
汝の名はティグ、我が意志の下にあれ。
汝に仮初めの命を与えし対価として我が魔力を汝に分け与えん。
汝は我が命令を忠実に従え。
我が敵は汝の敵、我が友は汝の友。
秘められし力、今解き放たん。魔石の脈動、その身に巡り力と成れ。
束の間の命、定められたり。ティグオトムの囁き、静寂を呼び眠りを与えん。
今、汝の目を開け、汝の心を燃やせ。
ティグよ、汝我の呼びかけに応じ起動せよ。
呪文を詠唱するといつもとは違い、魔石は全て光に変化しゴーレム全体を包み込み、しばらくすると光が収束した。
「完成したのか? ティグ、起動!」
ぬいぐるみがゆっくりと起き上がったので、いつもの命令確認をする。
「どうやら成功したようだな」
「ルシャ様すごいですっ!」
突然抱きしめられた。かなり苦しいが、リリアナのテンションがいつもと違うので、それだけすごいことを成し遂げたのだと実感したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます