第〇三三話 魔道具士

 二体の木製ゴーレムの図面を食い入るように見る白髪のお爺さんが目に入った。


 よく見るとこのお爺さん、小さすぎないか? 座っていて正確には分からないが、身長が一メートルぐらいしかないように見える。


 人間なのか? ドワーフとは外見が違うし、ゲームの中にそんな種族はいなかったはずだが……。


「……もしかして、ノームか?」


「「「――!」」」


 俺の呟きに三人が驚く。


「ルシャ様、真でございますか?」


「いや、どこかの書物に載っていた程度なので確証はない」


「ルーシャス様はノームをご存じでしたか」


「アルカリオがそういうのなら、やはりそうなのか?」


「はい、ノームのグリムノートでございます」


「グリムノートだ。この設計図は見事だな。このような繊細な図面を引ける人間は初めてだ」


「ありがとう。もしかして魔通信が手に入ったのはグリムノートに関係しているのか?」


「さすがとしか言いようがありませんな。仰る通り、その魔通信を作ったのがグリムノートでございます」


「「――!」」


 アルカリオめ、凄い人物を連れて来たようだな。


「二つに分かれた受話器があるということは、ルーシャスは分解したのだな。どうだった?」


「凄いの一言ですね。ダイヤルの構造などは全く分かりませんでしたよ」


「つまり、今持って来た受話器の構造は分かったということか?」


「ええ、何となくですが、そのヒントを得て作ったのがこのゴーレムです」


 元受話器を見せる。


「これのどこがゴーレムなのだ?」


「まあ、見てください。ウズン、起動!」


 受話口をグリムノートに渡し、送話口をアルカリオに渡す。


「グリムノートはそれを耳に当てて、アルカリオは何かそれに向かって喋ってくれ」


 グリムノートが耳に当てるのを見て、アルカリオが喋る。


「グリムノート殿」


「――! アルカリオ、部屋の外でもう一度喋ってみてくれ!」


「分かりました」


 二人は交互に部屋の外に出てウズンの性能を試している。


「儂が作ったものより綺麗に聞こえるな。しかもよく見れば魔石が入っていない。どうなっているんだ!? いや、ルーシャスはゴーレムと言ったな?」


「そうだ、俺はゴーレムの魔石を露出しない方法を見つけたのだ。その手法で受話器はゴーレム化してある」


「ルシャ様、そんな簡単に言ってよろしかったのでしょうか?」


「構わん。魔通信を作った天才と会話しているのだ、もしかしたら、次へのヒントが得られるかもしれない」


「ルーシャスはあれだけの物を作って、まだヒントが欲しいのか?」


「もちろんだ。最終的に自律型のゴーレムを考えているからな。次は映像と記憶を考えている。おそらく、あの魔通信には番号を記憶する何かがあったのではと考えている」


「自律型のゴーレム!? それはおもしろいな! 確かにあの魔通信には記憶する魔石が入っていたが、もしものことを考えて外してあったのだ」


「なるほど、やはり記憶する魔石は生成可能なんだな」


「まあ、音を飛ばせたのなら映像はそこまで難しくないだろうな。儂が作った物はコストがかかり過ぎてまだ実用化には至ってない。記憶について一つヒントをやろう。魔石は足りなければ複数使うことも可能だ。これだけ覚えておくがいい」


「もう少し分かりやすいヒントを……」


「いや、リリアナ、今ので十分だ。ありがとうございます」


「そうだな。ルーシャスがこの二体のゴーレムを完成させたなら、儂のとっておきを教えてやろう」


「とっておきですか? ……楽しみにしています」


 この後軽く雑談をして二人は帰って行った。


「ルーシャス様、もっと詳しく聞かなくても良かったのですか?」


「もちろんだ。聞かなかったからこそ、とっておきを教えてやろうという気になったと考えれば、正解だったといえよう。しかし、ノームとは驚いた」


「私も見るのは初めてですね」


「リリアナでも見たことないとは本当にレアな種族なのかもしれないな」


「基本工房などに籠って表に出てくることのない種族ですからね」


「もしかしたら、付与魔法の本を書いた人物もノームの可能性が考えられるな」


「確かに、彼らは小道具を作ることに長けておりますので、その可能性は考えられますね」


「それじゃあ、研究室にマリオネット人形を運ぶか」


「メイドたちに運ばせますのでルシャ様は持たなくて大丈夫です」


「そうか、それでは頼んだぞ」


 今すぐ試したくなった俺は研究室に急ぐのだった。

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