俳優中毒(はいゆうちゅうどく)
本郷りさ
【Trailer】
プロローグ 深夜にて2人
関東ローカルの本放送。
無料見逃しサービスとサブスクアプリでの配信。
今や海外配信サイトを通じてその波及力は世界規模であり、このドラマはどれだけの人に観られていくのか。
切れ目なしに放映される一本約十五秒のCM中、翔真はその果てしない数に思いを馳せた。
やがて放送局が主催するイベントのインフォメーションが流れてCMは明け、佳境で遮られた続きから物語は再開される。
導き出した答えは──わからない。
数は実体の指標。
だけどその規模を想像するのは難しい。
例えば、視聴率数パーセントのドラマに評される『爆死』『低空飛行』なんてのは、あくまでテレビマンの所感。
彼らが軽くみなす一桁パーセントは事実として何万人、何万世帯であるのだから一般人の感覚からするとすごい、になる。
誰にとっても等しい基準なら再生回数になるんだろうけど、あれも実情はどうなんだか。
いわゆる『回す』行為が行われていたなら、その作品は記録ほど視聴されていないのかもしれないし。
大台の百万回再生だって、もしかしたら一人百万回の視聴で達成されたのかもしれないし(現実的にはありえないけれど)。
でもそれらは下方に働くばかりだろうか。
視聴率
例えばもし、ドラマを観る時間を誰かと一緒に分け合っていたなら──
大型テレビの前でソファに並ぶ自分たちのように。
*
「なんで下向くの?」
問いかけられて隣を仰ぐと、幼少からエンドレス全盛期な容貌がこちらに向いていた。
テレビから発せられる光のせいで、その肌は青白く染まったり消えたりする。
からかうときに首をかしげるのは昔から変わらないこの男の癖。
「俺が演技してるところちゃんと観て」
いきなり肩に腕を回された。早く、と指先で二の腕を叩かれる。
催促されてしまっては考え事で気を紛らわせたも甲斐もない。
液晶画面に目を戻せば、黒髪が爽やかな青年が柔和な笑みを浮かべている。
横を見れば同じ表情筋の同じ動きで作られた微笑みが、立体感を持って返ってくる。
このドラマの視聴者。その実数はわからない。
機械でも正確に測定できはしない。
だけど一つだけ明らかなことはあって、それは関東圏でのオンエア、そのリアタイ民の中に主演を務める俳優が含まれているということ。
「ほら、ここ翔真が練習付き合ってくれたところ。デートシーン。手繋ぐんだよ」
観ろ観ろと肩を抱かれ、みるみるうちに顔が真っ赤になっていくのを自覚する。
そんな中、ドラマのBGMがふと止まった。
キャストも無言で広がる静寂に、飛行機のエンジンが轟き聞こえてくるのは階層が高いせいか、窓が大きいせいか。
ここは幼馴染が暮らすマンションの一室。
俳優という職業にふさわしい、モダンなデザインの広々とした造り。
間接照明のみで灯りが成り立つ空間の中、隙間なく身を寄せて観賞しているのは──BLドラマ。
同性の親友同士である自分たちがどうしてこんな事態に陥っているのか。
話は数ヶ月前にまで遡る。
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