第19話 恋とは①
巨大なもふもふだらけの空間から命からがら脱出し、駅までの道を歩いていると営業中の移動式コーヒースタンドに出くわした。
「翔真はどれにする?」
「じゃあ……これで」
「俺も同じの」
「すみません──」
ドッグカフェに付き合ってくれたからと暁がおごってくれるというが、注文は翔真がした。声で宇部暁とバレたらいけない。並ぶ列では二人とも静かになったが、長年の付き合いなので無言は苦でない。
アイスコーヒーを受け取って、店が設営したテーブルと椅子だけの簡易的な席に座ると、
「今日はありがとう」
なだらかに暁が切り出す。
「ワンちゃん可愛くて癒されたなぁ……」
「それは何より」
「あと、おもしろかった」
ふわふわとした口調に九十度隣を見れば、思った通りに楽しそうな暁がいる。
「翔真の意外な一面が見られて」
醜態を持ち出した満面の笑みを軽く睨んでやった。
しかし翔真は本気で怒っているんじゃないし、単なるじゃれあいであると暁も心得ているのでそのいじりは長引かずに終わる。
「気分転換になったならよかったわ」
「勉強にもなったしね」
「勉強?」
「うん、デートの」
「ごほっ」
むせた。
「顔赤いね」
「……うるさい」
「大学からは初心キャラにキャラ変?」
「お前なぁ……」
深いため息を吐いたのは、翔真が大型犬恐怖症を発症する原因となった知り合いの家の犬が幼子の自分にとってどれだけ恐ろしかったか、について臨場感をもって説明するためだった。
だけどいきなり、
「デート」
と言って、手の甲をするりと撫でられ、吐いたあとは吸うという呼吸の原則を忘れる。
軽いグーの形で無造作にテーブルに置いていた翔真の手に、暁が自分のを重ねてきた。
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