第28話 殺人部屋検証

ミミと弁天に連行されて、俺はミミのベンツに乗りギルドに戻った。


俺の心情をひと言でいうと、こうなる。




どうしてこうなった?




俺という犯人を連行する警察官であるミミと弁天は非常に上機嫌である。俺には、困惑しかない。あと、


オンナ コワイ


すげぇ……変態スキルの変態性が負けてるぜ。全然、えっちな気持ちにならねえ。


あー、びっくりした。こういう驚きは生まれて初めてだ。新鮮だな、いいぞいいぞ! まるで、モテ男の修羅場だな!


………………


…………


……


ところで、





なにがいいんだ?




さー、働け俺の脳みそ。


なぞなぞの時間だぞ。







ギルドに到着すると、弁天はミミに連れられていずこかへと去った。


食堂で待っていると、ほどなくしてミミが戻ってきた。


「美鈴さんを研究員たちに紹介してきたわ~」


「どんな様子だった?」


「熱烈大歓迎~。世界の終末に現れた救世主のような扱いを受けてたわ~」


「そこまでか」


詳しい事情はわからんが、きっと研究がどん詰まっていたんだろう。


この話はそこで終わらせて、俺たちは今日のダンジョン探索の打ち合わせをした。


打ち合わせと言っても、俺がどんなダンジョン探索をしたいかという具体的な話をして、ミミがそれに対して首を縦に振るだけだ。


「俺の要望ばっかり通してすまないな」


「問題ないわよ~。私の仕事は、あなたの観察だもの~」


そう、ミミの仕事は俺というイレギュラーの観察結果を報告書にまとめて上に報告することだ。


だから、俺がダンジョンで何をしようと、それを関知しない。というか、俺があるがままの姿を見せることがミミにとって都合がいいということになる。ゆえに、俺たちは俺の要望でダンジョンを探索するのがベストなのだ。もっとも、だからと言って相談もなしというわけには行かないが。


「それで今日のダンジョン探索だが、モンスターハウスの検証をしたいと思っている」


「また、あそこに入るの~?」


「他の人間にとっては殺人部屋であっても、俺たちはあそこを無傷でクリアした。その実績があるゆえに、俺たちにとってあそこは宝の山だ」


そう、俺にはモンスターハウスという高収入の当てができたのだ。


最も、思惑通り上手くいけばの話だが。


だが、思惑通り上手くいくかどうかは、検証してみないことには始まらない。


だから今日は、モンスターハウスの検証に1日を費やそうと思っている。


ああ、夕食前には帰るぞ。なんせ今日は弁天や不動や弥勒たちとの楽しい居酒屋ディナーが待ってるからな。


俺は、大人数で食べるのが大好きなんだ。


飯って、一緒に食べる人数が多ければ多いほど美味しくなると思う。異論は認める。







早速、俺たちはダンジョンに入り、問題のモンスター部屋のある場所にまで来た。


そこには、注意喚起の看板が立っていた。


壁には、むき出しになった鈍色のレバーに例の虹色のリボンが結ばれてある。


「作動させるぞ、用意はいいか?」


「おっけ~よ~」


ミミの承諾の返事を受けて、俺は若干の緊張を持ってレバーを引いた。


瞬時に、あのスライムが津波のように押し寄せてくるモンスター部屋へと転送される。


ん? 前より若干、勢いに迫力がないな。数も少なくなってる気がする。それでも圧倒的な数だが。前回が異常だったのだ。


圧倒的恐怖が迫る。膝を屈してうずくまりそうだ。


「ミミ!」


「絶対障壁!」


事前の打ち合わせ通り俺は前に出て、ミミは自分自身を結界で守った。


「変態! ハリセンボンサウザンドニードル!」


押し寄せてくるスライム津波の前で、俺は変態スキルを発動させた。


1000本の針に貫かれて、スライムが次々と光の粒子に変わっていく。


ほんの数分の間に部屋の中からスライムが消えてしまった。


部屋の全貌が明らかになる。


部屋の規模は明らかに縮小されていた。それでも体育館以上の大きさはあるが。


「おおっ!」


俺は驚きに声を上げた。


目の前に、宝箱が出現したのだ。


「罠はないみたいですよ~」


小躍りする俺の横で、宝箱を鑑定で調べたミミが言った。


早速、宝箱を開けてみると、宝箱の大きさとは全く釣り合わない小さな巾着袋が出てきた。片手の手のひらに乗るような大きさだ。


中身がいっぱい詰まったそれを開けてみると、中から植物の種が出てきた。


「なんだこれ?」


「クタクタ草の種ですね~」


種を鑑定したミミが言った。


「クタクタ草って何だ?」


「すり潰して患部に塗ったり飲んだりすると、怪我や病気を治す効果を持った草ですね~。通称『薬草』。 学術名は~……何でしたっけ、思い出せません~。比較的浅い階層のダンジョンのフィールドで採取できるダンジョン資源です~。 ポーションほど劇的な効果がないので高価ではありませんが、薬品や化粧品、健康食品の原材料として需要があり、これの採取だけで生計を立ててらっしゃる方もいらっしゃいますよ~」


「その種ってことは、つまり薬草を農業で栽培できるようになるってことか」


「できないことはないんですけど、ダンジョンの近くに畑を作る必要がありますし、その上、薬効がダンジョン産の10%程度の貧弱なものしか育たないんですよね~」


「『薬草農家で一儲け』は夢になったわけか」


俺がそう呟いた。その時、


ジャン♪


と、弦楽器の音がした。


音があった方を振り向くと、そこにニコニコ笑顔の夢エルフが立っていた。夜エルフもいる。なんか夢エルフの保護者みたいな顔してる。かなり過保護っぽい。


「夢エルフ、ついてきてたのか!」


「びっくりです~」


全然びっくりしてないように聞こえる口調でミミも驚いた。


おもむろに、夢エルフはアイテムボックスから紙を取り出し、そこに何か絵のようなものを書き始めた。


古代遺跡の壁画のようなそれを順追って眺めてみると……、


「クタクタ草の栽培方法?」


クタクタ草の種を指さして、その芽が出る仕草を手のひらですると、夢エルフが勢いよく何度も頷いた。


「これは革命が起きますね~」


「この情報を、ギルドに提出する義務はあるか?」


「いいえ~。発見者の私有財産です~」


どうするべきかとミミと一緒に顔を突き合わせて考えて、とりあえず一旦保留ということで、アイテムボックスの中で、しばらく保管することにした。


「夢エルフ、ありがとう! すっげえ嬉しい」


夢エルフは両手を腰に当ててのけぞり、自慢げな顔でムフーっと勢い良く鼻息を出したのだった。







モンスターハウスの検証を進める。モンスターハウスは2時間に1度入れるようになるらしい。


「おっ、また宝箱が出た」


2回目に入った時は中級魔法薬ポーションが出た。 今回で3回目だが、宝石が出た。


小粒だが、斜陽のように黄色く輝くダイヤモンドだ。


「トワイライト・ゴールドですね~。ダンジョンでしか産出されない魔法の宝石です~。どれだけ小さくても 、買取価格が100万を切ることはないと言われていますよ~」


宝石のように目をキラキラと輝かせたミミが言った。瞳の中にドルマークが見える。


あ、あげないぞ?


今にも宝石に飛びつきそうなミミに、警戒心が煽られる。


スライムのドロップアイテムも、部屋を出るたびにギルドで査定してもらって、1回につきだいたい30万前後の儲けが出ている。


あれ? アイテムボックスの容量増えた?


ステータスを見ると、アイテムボックスのレベルが3に増えていた。容量は驚きの4000リットルだ。牛乳パックに換算すると、4000本入る計算になる。すげーっ!


「今のところ、100%宝箱が出てますね~」


「今日は、時間的にもう1回だけ検証ができるかな?」


「ですね~」


「最後の検証は、孔雀たちを交えて行いたいんだがいいだろうか?」


「問題ないですよ~」


ジャンと、弦楽器の音がする。


振り返って、ついてくる気満々の夢エルフたちを見て思った。そういや夢エルフたちずっとついてきてるな。見てないうちは忘れるから、 一緒に行動していることを忘れちゃうんだよな。


ギルドで3回目の査定をしてもらって門の前に戻ってくると、そこでは荷運びの子供たちが集まって何かをしていた。


「あっ、ヒロのおっさん!」


子供達の中心にいた孔雀、ラウ、シロー、歌恋、撫子が、俺を見つけて駆け寄ってくる。このメンバーは、モンスターハウスに最初に行った初期メンバーだ。


「よう、孔雀。今日も一緒に遊ぼうぜ!」


俺が、友達のように孔雀に話しかけると孔雀は言った。


「今日は、荷運びの子供たち全員を連れて行って欲しいんだ」


孔雀の言葉に、俺は子供たちの顔を全員見回した。


全員が覚悟を決めた顔をしている。


子供達の決意は固そうだが、俺は念のために確認を取った。


「モンスターハウスに行くのは怖いぞ? それでも行くのか?」


結界で守られてて大丈夫だって分かってても、あれ、むっちゃ怖いねん。


子供達全員が神妙な顔をして頷いた。


「あたしたち、どんだけ怖くたって頑張るよ! だって、立派な探索者になって、家族のみんなを助けたいんだもん!」


撫子が言った言葉に全員が力強く頷いた。いい度胸だ。


「いいだろう、ついてこい。そのご褒美に、日曜日のお昼からはまた宴だ。家族も友達も知り合いも全員呼んでこい!」


子供達全員が大きな歓声をあげた。そう、ここにいる子供たちは前回の宴の参加者だ。全員が参加者だ。


「いいのですか?」


歌恋がおずおずと聞いてくる。俺は、歌恋の頭に手を置いて、優しく撫でながら言った。


「いいんだよ。1週間分の怖い思いを、日曜日の午後の宴の楽しい思いで上書きしようぜ。その代わり、また月曜日から1週間、荷運びを頼むな。手伝ってくれると嬉しいよ」


そう言ってウインクしてみせると、歌恋は少しだけ頬を朱色に染めて、笑顔で瞳を輝かせて、「はい!」と元気よく答えた。


子供は笑顔が一番だ。嬉しいねえ。


早速、荷物を運ぶリュックを背負って、子供達がダンジョンに入ろうとするところを俺は引き止めた。


「孔雀、子供たち────『石投げ隊』のまとめ役をやってくれ。お前ら、孔雀の言うことに従うんだぞ」


「「「「「はーい」」」」」


「俺が、まとめ役?!」


子供達に不満はないようだが、孔雀は大きな声を上げて驚いた。


「なんで俺なんだ?!」


戸惑う孔雀に俺は言った。諭すように。


「お前は、自分の意思で、自分以外の誰かのために生きている男だ。目を見ればわかる」


「それがどうしたって言うんだよ」


「自分で決めて誰かのために生きる人間ってのはな、私情を挟まないんだ。客観的に物事を見ることができて、公正な判断を下すことができる。孔雀、お前はまとめ役に向いてるんだよ」


「でも、俺、まとめ役とかやったことなくて、どうすればいいかわかんねえよ」


俺は、孔雀の目をまっすぐ見て、力強く言った。


「お前だったら絶対に大丈夫だ。お前がお前のままなら、苦労はあるだろうが、全てがうまくいく。ほまれ、お前は、孔雀明王だ」


俺の声に孔雀は引き締まった顔をした。


やるべきことをまっすぐに見て、『自分がやる』そういう覚悟を決めた男の顔だ。


ちょっと大人っぽい顔つきになったじゃないか。


俺はその顔を見れて、ちょっと嬉しかった。


──────────

【あとがき】

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